小さなミュージックフェスティバル

公開日 : 2008年12月18日
最終更新 :

 前回のコメント欄でもふれましたが、警察官による少年射殺に対する抗議活動をきっかけにギリシア全土で暴動がおこっていました。10日以上が経過し、暴力行為などはほぼおさまっています。

 しかし抗議行動は続いており、16日には私の住むアギア・パラスケヴィにある国営テレビERTのスタジオを訪れた約40人の学生たちが一時制御室を占拠。数人ずつのグループに分かれ、他の数人は昼のニュース放送中のスタジオに侵入。番組を中断させ、「テレビなど見るな。みんな街に出ろ」と書かれた横断幕を映すようにカメラマンに要求しました。しかし学生たちは暴力的な様子ではなく、放送を通じて少年の射殺事件に抗議させてほしいと伝えたということで、テレビ局もしばらくそれを放映。

 この経済恐慌の中、ギリシアも多種多様な問題を抱えていますが、政治の世界ではここ数ヶ月、庶民の悲鳴もなんのその、汚職やスキャンダルばかりでした…。世界中、どこも同じなんでしょうか。抗議行動でも先週起こったような、覆面をして店舗の破壊や放火をするなどの卑怯な暴力行為は決して許されないことで、裏で過激派に操られているとの情報もありました。しかしこの日の学生たちは初めての場所に行きながら、システマティックに動き、非暴力で言論による純粋な抗議行動を行ったと概ね評価されているようです。

 ところで今日は暴動騒ぎがひどくなる前に行ったミュージックフェスティバルの様子を書こうと思います。素晴らしい演奏を聴くことができましたが、その時は街中がこんなひどいことになるとは全く予期していませんでしたが…。

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 私はけっこうジャズが好きなので、カナダのモントリオールなどのジャズフェスティバルにも足を延ばしたことがあります。ハイレベルな演奏が街の劇場や広場などで無料公演。かなり有名なアーティストでも特別に安く聴くことができるチャンスなので、毎日ワクワクして出かけたものです。アテネでは夏の野外フェスは有名ですが、冬でもこまめに探すと、小規模ながら充実したミュージックフェスがあります。

 今回の「Muse Festival」は3日間にわたってアテネのフレンチ・インスティテュート(フランス語学校)が主催。学校の中に小規模ながら充実したホールがあり、特に音大生のために値段が安く設定され、メガロ・ムシキスだったら80ユーロくらいになるハイレベルなアーティストの演奏が20ユーロで聴けました。日曜の午前中などは子供たちに聴かせるジャズなどのプログラムもありました。

 初日はニューヨークから来た「ジェレミー・ぺルト・クインテット」。トランペット奏者でリーダーのジェレミー・ぺルトは98年に大学卒業後、本格的に音楽活動を開始。その卓越した才能は多くの著名な音楽家に注目され、共演を重ねてきました。電子音楽で経験を積んだ後、クラシックジャズに回帰。アルバム「November」はアメリカのみならず世界中で高い評価を得ました。シックスティーズのジャズをメインに酔いしれるような名演奏の数々。とにかくエナジックで5人のハーモニーが素晴らしかったです。

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 2日目の目玉はギリシア人ピアニスト、ヴァシリス・チャブロプロス。ヨーロッパでは最高峰、世界でもベストピアニストのひとりです。クラシック、ジャズ、モダン音楽と垣根なく弾きこなし、多くの名オーケストラ、名指揮者と共演。2000年にECMRecordsに世界で最も優れたピアニストのひとりとして選ばれ所属。初アルバム「Achirana」は高い評価を受け、ヨーロッパのみならずアメリカはニューヨーク、ワシントン、ボストンでもセンセーショナルな公演を繰り広げました。04〜06年にかけてヨーロッパとロシアで公演。アルバム 「Chants, Hymns and Dances」は'ニューヨークのビルボードでトップ10に長い間、ランクイン。ニューヨーク・タイムズや仏ルモンド紙などでも絶賛され「キース・ジャレットに次ぐ最高のピアニスト」だと書かれたこともあります。

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 ヴァシリスさんはホントにカリスマ性のある音楽家で、歩いてくると自然と周囲が静かになるようなオーラが漂っています。この日は小さなフェスなので、アーティストが観客席の通路から直接、ステージに登り演奏を始める場合もあったのですが、前の方に座っていた私は、通路で多くの人が大声でおしゃべりをしていた中でも、彼が通った瞬間、すごいオーラを感じました。

 この日の演奏も超絶テクニックで、ピアノのソロなのにまるでオーケストラを聴いているようなダイナミックな音の洪水…。ファーストアルバムからラストアルバムまで1曲ずつ選び、軌跡を振り返るように演奏。3月にリリースされる新アルバム「プロミス」よりプロミスとインサイダーという新曲を披露してくれました。

 過去のアルバム「The Triangle 」と「Chants, Hymns and Dances」は持っていますが、特に後者は世界中でヒットしたものでおススメ。溢れ出すようなピアノのメロディーに全身が包まれます。

 アテネの冬、名演奏をお値打ちに聴くことができるのはうれしい限り。小さなホールでアーティストから至近距離で聴ける演奏はメガロ・ムシキスで聴くのとはまた違った感動があります。

 しかしこの後、コロナキにあるこの学校の付近まで暴徒が来て破壊活動をしたということですから、本当に心配でした。アメリカ系の語学学校は放火されました。なんの関係もないのに放火などの襲撃を受けた約160軒の建物には政府から見舞金が支給されるようですが、経済的には深刻な問題が山積されている状態です。

 ギリシアだけでなく、ヨーロッパはどこで暴動が起こっても不思議ではないと言われるほど根の深い経済危機ですが、都心にも安心して出かけられる治安のよいアテネに早く戻ってほしいものです。

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