ギリシャ財政危機雑考

公開日 : 2010年04月30日
最終更新 :

 この数ヶ月、ギリシャ危機⇒支援固まりそう⇒市場楽観論⇒また急落というニュースの繰り返しを何度、聞かされたのか覚えていないほど。やっとのことでEU、IMFからの具体的な金額が打ち出され、3年間の緊急融資が決定。遠い国の出来事として、支援してもらっていいな〜などという意見をいう人もいるのだけれど、それは全く逆です。借りたものは返さなければならないのだから、ますます大変になったわけです。

 EUからの支援の合意は絶対に必要だったけれど、それを保証にするだけで、要請はせずに自立再建というのが最も賢明な道でした。もちろんギリシャはそれを目指していたのですが、曖昧な支援の内容では、市場の暴走はおさえきれず、支援要請まで追い込まれてしまいました。

 そしてIMFが来るからには今後はものすごい緊縮財政措置が待っているのだから、ギリシャにとってこれは最もイバラの道。過去にIMFの緊急融資を受けた国、調べたらけっこうあるんだなと驚きましたが、どこもものすごい緊縮財政と高利子で景気や失業率が悪化しまくっています。

 数日前、ギリシャ国債がウクライナ国債より格下にというニュースを読んだ際は絶句。ギリシャにはウクライナのような周辺の貧しい国からの出稼ぎ労働者が多いのですが、それらの国より低いってどういうこと!?とすごいショックを感じました。が......一昨日にはベネズエラ以下のジャンク債並みという格付け。もう脱力してきました。ポルトガル、スペインの格下げまで一気にやってくれましたね。そこまでやられてやっとのことで具体的なギリシャ支援合意。ついに本格的になった火消し作業開始で、支援金額は大幅に引き上げられたので、NY市場はユーロが一気に上昇と言うけれど......。

 サブプライム証券に加担したも同然のこの格付け会社たち。もう市場はこれらを信用していないという意見も多いものの、一国の運命を左右するようなことをAAだのBBだのと、まるで遊び感覚でやっているようで本当に腹立たしい限り。いま世界を動かしているのはジョージ・ソロスのような約10人程度の投機家たちだというのはまんざらウソでもなさそうな話。政治はほぼ崩壊し、経済主導、市場原理主義の現実をまざまざと見せ付けられた気がします。

 それにしても......以前にコメント欄にも書いたけれど、ここまで大混乱になったのはここ3ヶ月のEUの対応の遅さにあるでしょう。最初の欧州中銀(ECB)の発言もびっくりだったけれど、結局、財政的には機動的に対応できず、ドイツの支援が遅れ、EUのシステムの欠陥が露呈しまくりました.。ドバイ危機がアブダビの保証発言でさっとおさまったように、最初に具体的支援の決定意思だけでもはっきりと示せるシステムがあったら、こんなことにはならなかったのにとつくづく思います。

 ドイツなどではギリシャ支援を巡り、労働者層を中心に「なぜあんなキリギリスどもに我々の血税を」とのバッシングはすごいのだけれど、東西ドイツ統一時の経済危機の際、ギリシャはドイツにずいぶんと支援をしたのだそう。「それを思うとギリシャは単なるキリギリスではないんだけれどな」と私の友人のドイツ人は冷静に言います。

 ギリシャの良いところ、大好きな面はたくさんあげることができるけれど、暮らしていれば普段からギリシャの悪い面も見ている分、無理にかばう気はありません。でもこの数ヶ月、ギリシャへの集中砲火はすごかったと感じました。でも本当にPIIGSの財政状況はどこもかなり危ない状況。たまたまギリシャが最初の槍玉にあがったのは所詮、EU全体のGDP比から見れば小規模な国だから。実経済での立て直し実験には好都合なのだという声も。ということはPIIGSのうち、ギリシャより経済規模の大きな国で同じことがおきれば、もっと大問題になるのは明白ですよね...。

 ギリシャ危機のきっかけになった政権交代での「数値ごまかし」の発覚。しかし知人のアテネ在住イギリス人エコノミストによれば、「いまどの国だって財政赤字はギリシャと似たようなもの。いかに隠しているかだ」と言います。実際、2月にギリシャがデリバティブ取引を利用して財政赤字を圧縮していたことが明らかになった際、その後イタリア、ポーランド、ベルギー、ドイツに至るまで財政収支の管理上、デリバティブ取引を利用していたことが発覚。

 ここまで同じ穴のムジナなら、合理的に具体的な支援策をさっさと決めてしまえばよかったのに。国民の承認を得られない、選挙に負ける、などいろいろなお国事情はあるんだろうけど、EU全体に及ぶのが明らかな危機に対してあまりに後手後手な対応。LAの金融機関で働くアメリカングリークの友人にしても「ありえない対応」だそう。既に飛び火している国に対しても延々とこれを繰り返すのでしょうか。何か変で、まるで最初から儲ける人のための茶番劇のシナリオがあったかのようにも思えてきます。

 ギリシャの政治がめちゃめちゃなのは百も承知だし、日頃からギリシャ人に振り回されている身としては「だから考えが甘いんだって」と叫びたくなる部分もあります。緊縮政策のスタートとしてまず公務員の賞与カット、昇給凍結、社会保障や年金まで抑制されます。消費税はどんどんあがってますが、現行の21%より更にアップするそう。今でも市役所に行くと、禁煙法が施行されたにも関わらず、タバコをプカプカ。机の上は書類が散乱、PCに打ち込む情報もこっちが自分で確認しないと間違えだらけのデータにされそうないい加減な働きぶりの公務員もいっぱい。こういうどうしようもない職員は公務員でもクビにできるようになったのはいいことでしょう。

 しかしIMFが乗り出してきたからには民間会社でさえ、賃金カット、賞与カットなどが起こる可能性もあるとのこと。加えて現在全ての物価は更に急上昇。毎月毎月、今月のガソリン代は間違いじゃないかと思うほど、どんどん高くなっていきます。しかし今後は反対に日本のようなひどいデフレが待っているといいます。もう日本はデフレスパイラルの中で20年以上も苦しんでいますよね。

 しょうもない公務員もいっぱいいるのだろうけど、少なくとも私の周りのギリシャ人は公務員も含めて、日々、一生懸命忙しく働いているわけで、何の落ち度もありません。でも政治がアマチュアだとある日突然、国が崩壊の危機にさらされ、市民生活はひどく揺さぶられるのだということを実感しました。

 この財政赤字は前政権ネア・ディモクラティアの置き土産といいつつも、その前は現政権のパソックが政権政党でした。この2つの政党は2世、3世の政治家をトップに据えて、何十年もやりたい放題でした。いまのギリシャの混迷ぶりは官僚や政治家たちが国から長年、お金を盗み続けた結果の破綻だと言われています。消えたお金の所在はうやむや...誰も責任をとらない...。大半のギリシャ人は、この2つの政党しかほぼ選択肢がないけど、どっちにも投票したくないと以前から言い続けてきました。あれ、でもそれって......どこかの国に似ていませんか?

 いつも冷静より情熱が勝る国だの、ユーロの問題児だのとギリシャを笑うのは簡単ですが、私がこのギリシャにいて心配になるのは......日本。IMFの推計によると、日本の借金総額はGDPの2.27倍。14年には2.45倍に膨れ上がるそう。いま財政赤字を非難されまくっているオバマ政権でも14年に1.08倍ですし、いまのギリシャだって1.24倍です。日本の借金はギリシャよりひどいわけで、こちらのニュースでもよく比較されるくらい。まあ日本国債が国内で買われているからとか、日本には産業があるからとか楽観論はたくさんあるのですが、本当に大丈夫なのかなんて誰にもわからないのではないでしょうか。

 現に今日、日本の国債は中国国債より信用出来ないと市場がみなし始めたと報道されています。欧米のヘッジファンドの一部が、将来の日本国債の暴落を予想しているとか。 日本もいよいよヘッジファンドや格付け会社に狙われる市場になってしまったと記事は結んでいます。

 最近、アテネではどの銀行に行っても大混雑、預金を引き出す人やら、海外に送る人やら。前述のエコノミストの知人曰く、ギリシャの政治家や大金持ちはとっくに預金を海外に送金してしまったとか。国民不在の政治、そんな政治家を選んだ国民の責任じゃないかとあっさり言うのは、あまりにも酷な気がします。日本の鳩山さんの混迷ぶりだって海外から見ていると、国内から見ているより不安感を覚えますが、日本の総理大臣に選ばれた人なんですよね。

 週明けの発表では何がおこるのか、償還日、そして今後......ギリシャ騒ぎが収まっても、他の国の動きも含めてまだまだ波乱は続きそうです。

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