No 18. You must visit Athens! - NHK『ニュースウオッチ9』難民急増 "欧州の玄関口"は今(2016年1月5日放送)撮影裏話

公開日 : 2016年01月15日
最終更新 :

Καλή Χρονιά!

皆様、遅ればせながら明けましておめでとうございます。

本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

さて昨年末、ロケも含めて2週間程NHK『ニュースウオッチ9』というニュース番組の新年特番用番組取材・ロケコーディネーションのお仕事に携わりました。

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テーマはヨーロッパで今最も懸念されている『難民問題』。

ヨーロッパの玄関口であるギリシャからヨーロッパに渡って来る移民、難民の数は

近年激増。昨年だけでもその数は100万人を越えたと言われています。

今後も中東での戦争が止まない限り難民の数は増え続けると予想される為、

その受け入れ態勢に頭を抱えるE.U. ではありますが、一部のE.U.加盟国の間ではテロを懸念し自国と自国民の安全を確保するという理由で難民、移民排斥の風潮も芽生えています。

現在進行中の問題だけに世界中がE.U.の動向に注目しているのです。

毎日中東諸国からの数千人以上の難民達がドイツ等を目指して、トルコの沿岸から東エーゲ海にあるギリシャのレスボス島やヒオス島へボートで渡って来るのですが、この膨大な数の難民の対応に迫られるギリシャ政府と難民達を支えるボランティア団体や地元の人々、危険を冒して海から渡ってくる難民達を約10日間に渡って取材しました。

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テレビ番組のコーディネーションとはどういう仕事かというと、

取材対象の詳細を新聞、インターネット等の記事で調べたり、メールや電話等で取材先機関や担当者との取材交渉やインタビュー等の日取りを決めたり、インタビュー時の通訳、取材場所での撮影許可の申請及び取得、現地でのスタッフの滞在先や交通手段の手配等、要するに現地でのロケがスムーズに遂行される為の事前準備をすることです。

今回私がコーディネートした番組のギリシャでのロケはクリスマスそして年末の間の10日間、国中がクリスマスホリデーモードにも関わらず限られた時間の中で取材の為の様々な準備、手配が出来るかどうかハラハラ、ドキドキしながら緊張感の漂う毎日を過ごしておりました。

電話で担当部署や担当者を尋ねてからこちらの趣旨をメールで伝えてもなかなか返事が無い上、結果、管轄機関や担当者が違っていた等で最後の最後迄苦労したのが、アテネとレスボス島にある幾つかの難民一時保護施設へのカメラ取材許可の取得と難民・移民問題を担当するギリシャ内務副大臣、ヤニス・ムザラス副大臣へのインタビューのアポ取りでした。

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頑張ったかいがあり、というよりも単に運が良かっただけですが、

最終的には上記のどちらとも撮影予定日前日に承認承諾の返事をもらう事ができました。

ロケはギリシャとマケドニアの国境に位置するイドメニ、アテネ市内、レスボス島の3箇所で行われましたが、主な取材はレスボス島で行われました。

シナリオではレスボス島のとある海岸で難民ボートが島へ渡って来る場面を押さえ、ボートに乗って来た多くの難民の中からシリア人の家族連れを見つけ出し密着取材するというものでした。

事前にレスボス島へ赴いて現地のNPOやボランティア団体等に難民のボートが漂着する海岸や時間帯等をリサーチしてはありましたが、シナリオにある様にうまい具合に物事が進行するかどうかは半信半疑でした。

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レスボス島でのロケが始まって翌日の早朝に難民ボートがよく漂着すると言われるレスボス島の空港近辺の海岸に行ってみたところ、現地並びに世界各地からのボランティア団体、NPOのスタッフ達の人々や現地の人々が海岸で双眼鏡を片手にトルコの沿岸の方にしきりに目を凝らしていました。

海岸で待機をすること約30分。

ボランティア団体の人達が慌ただしく車を発進させ、数十メートル先にある隣の海岸に向かって走り出しました。

どうやら難民ボートがこちら側にやって来るのを発見したようです。

隣の海岸に行ってみると、先に到着していた人々が難民ボート救助の為の準備をしたり、

ボートの進行方向を誘導したりしていました。

初めは黒い点のようにしか見えなかった難民ボートが時間が経つにつれ、オレンジ色のライフジャケットを身にまとった人々が40-50人位がボートに乗っているのがはっきりと見えて来ました。

テレビや写真で良く目にする光景を目の当たりにし、緊張が走りました。

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難民のボートがいよいよあと5-6メートル程で海岸に漂着というところで、突然ボートに乗っていた難民男性の数人が次々と歓喜のあまり興奮し海に飛び込み始めました。

ボランティア団体、NPOのスタッフ達の人々がしきりに『飛び込まないで!』『やめなさい!』と叫んでいましたが、言葉が通じないからでしょうか。彼らの指示は難民達に伝わりません。

ボートが岸に寄せられるとボランティアのレスキュー隊員が小さい子供や女性を抱きかかえ避難させます。

その後すぐにボランティアの人々によって替えの衣類や温かい食べ物や飲み物等が配られました。

目前のカオスも静まった頃、海岸沿いの道端で待機していたシリア人と思われる男性に

同じくシリア出身のスタッフのアラビア語通訳を通し話を聞いてみることにしました。

男性は空爆が激しくなった自国からトルコへ避難し、ドイツで新しい人生を切り開くためトルコの沿岸で密航業者に大金を払い、

幼い息子とともにギリシャのレスボス島へ渡ってきました。

奥さんは事情があって一人シリアに残ったそうですが、そのことについてはあまり話そうとはしませんでした。

トルコ沿岸からレスボス島沿岸迄の海路はどうだったかの質問に対し、

トルコ沿岸で密航業者から約45分程で向かいの沿岸に到着すると伝えられたが、

トルコを出発して間もなくゴムボートのエンジンが故障、海も荒れたので実際には2時間程ゴムボートの上にいることを余儀なくされたと教えてくれました。

彼の4歳になる息子さんは父親に寄り添い、ボランティアから与えられたビスケットを口にしていましたが、その悲しそうな表情に胸が締め付けられる思いがしました。

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スタッフのアラビア語通訳者も8年前に彼らと同様にトルコ沿岸からドデカニサ諸島のサモス島に渡りギリシャへ入国しました。

同じシリア人が苦しんでいる様子を目の当たりにし、複雑な思いだと後で胸の内を明かしてくれました。

この日は難民ボートがレスボス島の沿岸に漂着する様子は撮影する事ができましたが、残念ながら撮影に協力してくれそうなシリア人一家に巡り会う事ができませんでした。

ということで、その翌日も難民ボートを待機する羽目になりました。

12月27日。この日から日本で今年最後の放送を終えた番組のキャスター、河野憲司さんがロケに合流。

河野さんとともに昨日と同じ時間、同じ場所で難民ボートを待つ事にしました。

海岸で待つ事...30分、一時間が経過しましたが一向に難民ボートがやってくる気配がありません。

昨日と同様、NPOやボランティア団体の人々も辛抱強く遠くの海を見つめています。

と、その時です。

双眼鏡を覗いていた人が難民ボートらしきものをを発見したと言っています。

まだかなり距離が離れているのでどの辺りに辿り着くかわかりません。

その20分後、ようやくボランティア団体の人達が車の方へ向かったので私達も車に乗り込み後について行く事にしました。

数十メートル先の海岸沿いで車を降り、ボランティアの人々の後を追うようにして砂浜に入りましたが、数分後、またボランティア団体の人達が車に乗り込み、今来た方角の方に戻って行ったのでまたその後を追いかけました。

そのボランティア団体の車についていくと、しばらくして別の団体の車や国連のバスが駐車してある沿岸沿いで車が止まりました。

いよいよ難民ボートが近づいてくるというので5メートル程したに位置する浜迄歩いて降りて行きました。

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オレンジ色の救命道具を装着した難民達が不安げにこちらを見ています。

昨日と同様の手順で次々と難民が救助されていきました。

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シリア人家族を捜して廻りましたが、今回ボートに乗っていたのはアフガン人が殆どだった為、またもや次のボートを待つ事になってしまいましたが、ラッキーなことにその時にはもう既に別の難民ボートがこちらに向かってやってくるのが発見されていたのです!

3度目の正直で放映された番組にも出演していたシリア人フーダさん一家の密着取材に成功したのです。

フーダさん一家のレポートはこちらのリンク先からご覧頂く事ができます。

http://cgi2.nhk.or.jp/nw9/pickup/?date=160105_2

番組でも紹介されていますが、レスボス島やヒオス島、サモス島の入国管理局でギリシャ国内への一時滞在許可を得た難民達はヨーロッパへの旅を続けるためフェリーでアテネのピレウス島へ渡ります。

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経済的な事情等ですぐに旅を続けることの出来ない難民はアテネの中心部から少し離れた市内の難民・移民保護施設で仮住まいしたり、市内中心部で考古学博物館の手前にあるヴィクトリア広場で野宿したりしています。

難民・移民保護施設は現状アテネ市内では一件だけですが、一時的とはいえ島からアテネ市内に流れて来る難民を保護するため2004年のオリンピックのスポーツ施設を難民達の仮の受け入れ施設として解放していますが、もともと人が寝泊まりできるような目的で建造されたわけではないので受け入れ施設として使用するのであれば改善しなくてはならないところが多々ありますが、緊縮財政を強いられ限られた予算でしかないギリシャ政府はなかなかそこまで対応する事ができません。

しかしながら、ボランティア団体やNPOの努力もあり手は足りてはいないし、連係プレーをしているというわけでもありませんがギリシャは他のヨーロッパ諸国に比べ難民の受け入れに対し寛容的だという印象を受けます。

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もちろん、全員の意見が難民受け入れ賛成というわけではありませんが、

困っている人を助けようとする優しさがギリシャ人の根本にあるのではないかと私は思います。

中東から一刻も早く戦争の炎が消え、難民の人々がそれぞれの故郷で平和な生活ができることを祈って止みません。

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