ピーターラビットと仲間たちの家「ヒルトップ」
ここしばらくスコットランドの山岳地帯ハイランドをめぐっていましたが、今回から数回にわたって、スコットランドと国境を接する北イングランドのカンブリア州にある湖水地方(レイクディストリクトLake District)のもようをお届けします。まず初回の今日は、湖水地方を愛し、その美しい景観の保護運動に大きく貢献した絵本作家、「ピーターラビットのおはなし(The Tale of Peter Rabbit)」シリーズで世界に名を知られるビアトリクス・ポター(Beatrix Potter)の自宅ヒルトップ農場(Hill Top)から。
湖水地方最大の湖ウィンダミア湖の西岸からそう遠くないエスウェイト湖(Esthwaite Water)の南端ニアソーリー村(Near Sawrey)にビアトリクス・ポターが後半生をすごしたヒルトップ農場があります。ロンドンの裕福な家庭に育ったビアトリクス・ポターは、子供時代から夏のあいだの避暑にたびたび湖水地方を訪れ、湖水地方の美しさに魅せられていました。そこで、絵本「ピーターラビットのおはなし」が大成功をおさめるとその収益でヒルトップ農場を購入して湖水地方に移り住み、「ピーターラビットのおはなし」シリーズを書きついだのでした。
ビアトリクス・ポター(1866−1943)は、自分の死後も湖水地方をそのままの姿で未来に残したいと考え、ヒルトップを含む14の農場と所有していた土地のほとんどすべてをイギリスの史跡自然保護団体であるナショナルトラスト(National Trust)に寄付しました。ナショナルトラストは、ビアトリクス・ポターの遺言にしたがってヒルトップの内部を彼女が生前暮らしていたままに保存し、一般に公開しています。
イギリス国内のみならず、ヒルトップ農場は世界各地から多くの観光客を集めているのですが、もしかすると日本からの来訪者が一番多いのかもしれません。チケットオフィスの看板には、カタカナ表記も……。
右の画像は、湖水地方で産出するスレート(粘板岩)を積んでつくられている納屋を利用したチケットオフィスの入り口。内部には、納屋のようすが再現されていて、その手前のカウンターでチケットを購入します。チケットを購入すると、ヒルトップのパンフレットにチケットをホッチキスでとめて手わたしてくれるのですが、そのときに、チケットの後ろに数字が書きこまれます。
チケットに書き込まれている数字、「11」と「20」は、「11時20分」になったらヒルトップの内部に入ることができますよという意味。ヒルトップ内部の大きさに比べて来訪者の数が多いので、時間をくぎって内部の見学者の数を制限しているのです。入館時間は決められますが、何時になったら出なければならないという制限はないので好きなだけいられます。
ところで、ビアトリクス・ポターの若き日の悲恋を描いた映画「ミス・ポッター」(レニー・ ゼルウェガー主演)をご存じでしょうか。イギリスでは2006年に公開になったのですが、この8月にイギリス国営放送BBCでテレビで放送されると、それまででも多かったヒルトップへの見学者が急増し、入館制限時間をつけたチケットが午後2時には売り切れ、チケットを購入しても入館までには2時間待ちというヒルトップはじまって以来の事態が生じてしまったのでした。
今ではその現象も沈静化したようですが、ふだんでもにぎわっているヒルトップ内部の見学は10時半の開館時間をめどに朝一で出かけられるのが得策かと。わたしたちが到着したのは10時半すぎだったのですが、すでにヒルトップの駐車場はいっぱいでスタッフの誘導で近くのホテルの前に駐車し、チケットに書き込まれたわたしたちの入館時間「11時20分」まで時間をつぶさねばなりませんでした。
ですが、ヒルトップ内部は見てまわらなくても外からながめるだけでいいという場合は、チケットを購入する必要も、時間待ちをする必要もありません。ギフトショップとガーデンの入場は無料。しかもヒルトップ農場内部の開館時間より早めにオープンし、農場の閉館日でも開いていることもあります。ヒルトップ、および、ギフトショップやガーデンの公開時期と時間については変更されることがあるので、お出かけのさいに、この記事の最後にご紹介するヒルトップのサイトでご確認ください。
「ヒルトップ(Hill Top)」と看板のあがっているギフトショップ。
ガーデンとヒルトップ農場への通路ともなっているうなぎの寝床のようなギフトショップには、「ピーターラビットのおななし」シリーズをモチーフとたグッズや本、ビアトリクス・ポター関連の書籍がところ狭しとならんでいて目移りしてしまうくらいよりどりみどり。
ギフトショップを通りぬけた先にヒルトップ農場があります。
農場の建物、一枚の画像におさまり切らず、やむなく、左(↑)から右(↓)へ移動。
農場の内部は、外の明るさとうって変わって穴倉にもぐりこんだような薄暗さに包まれています。それは、夏でも暖炉の火がほしい日のある北イングランドで暮らす工夫として、暖めた屋内の空気が外へ逃げていかないように窓の数は少なく小さめにしてあるためです。ビアトリクス・ポターの仕事部屋は二階にあるのですが、絵本を描いた机は窓辺に寄せられています。にもかからず、よくこんな暗い手もとで小さくて細かい絵が描けたものだと驚かされます。後年、視力が落ちて絵本の創作を断念せざるをえなくなったのもうなずけます。
ギイギイときしむ古い床板を踏んで農場の部屋やローカに足を進めると、行く先々でビアトリクス・ポターが絵本に描いたシーンの実物の家具調度、ドールハウスなどに出くわします。また、部屋の窓から外の景色をながめれば、そこにも絵本の中でおなじみの背景が繰り広げられているのです。まるで、ふと自分が登場人物になってビアトリクス・ポターの絵本の世界へ迷いこんでしまったかのような錯覚をおぼえます。
菜園は実際に営まれて、各種の野菜やくだものが栽培されています。
画像の一番手前で、丸い緑色の果実をつけているのはグーズベリー。
菜園のこんな風景の中にいると、どこかの草の陰やこわれた塀のあいだから、いたずらっ子ピーターやベンジャミンバニーがお尻を跳ねあげてその愛らしい姿をあらわしそうな気がしてしまうのです。
農場見学のあと、菜園を散策し、ギフトショップでお土産を買い込んで車道に出たあとも、まだまだピーターラビットと仲間たちの世界は終わったわけではありません。
絵本の中に登場する建物が、ひょっこりと目の前にあらわれたり、
絵本の中の登場人物に出会ったりすることもあるのです。
ねっ。B&B(民宿)の前のベンチで、誰と記念撮影なのかなあと思ってのぞいてみると、ピーターラビットとピーターのお父さんを捕まえてパイにして食べちゃったマグレガーさんだったのでした。
幾世代にわたって世界中の子供たちやおとなたちにも親しまれているピーターと仲間たちのおとぎの世界を創りあげた絵本作家ビアトリクス・ポターのお墓はありません。火葬された遺灰はこのニアソーリーの野にまかれ、今、ビアトリクス・ポターは、彼女がこよなく愛した湖水地方と一体となって安らかに永眠しています。
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