ビートルズゆかりのリバプール芸術大学で日本女性が演劇をプロデュース

公開日 : 2010年08月28日
最終更新 :

リバプールと言えば、ビートルズ。そのリバプールに、ビートルズのメンバーだったポール・マッカートニーさんが創設者の一人に名前を連ねる芸術大学があることはあまり知られていないかもしれません。しかも、演劇やダンス、ミュージックなどのコースを持つこのリバプール芸術大学(The Liverpool Institute for Performing Arts)の校舎は、ポール・マッカートニーさんが通っていた高校の母校の校舎なのです。

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リバプール芸術大学の創設は1996年ととても若い大学ですが、現在、イギリス国内のみならず海外からやってきた熱心な学生たちが演劇や音楽を学んでいます。そんな留学生たちの中に、日本からやって来て演劇公演を企画、プロデュースし、演出も行っている日本女性がいます。今回は、その日本人女性、鈴木智子さんの精力的な活動ぶりを、智子さん自身のレポートでご紹介します。

はじめまして。イギリスに来て3年。それは、「演劇をイギリスで勉強したい」。ただ、そんな単純な理由だった。「演劇」というものにどんな広がりをイギリスは持ってるのか、それを知りたかった。そしてそれが、Community Drama(社会演劇)という分野だった。

リバプール芸術大学、通称リパ(LIPA)のCommunity Drama (コミュニティードラマコース)に通って3年目の卒業公演、New Year at the Yamamura's(二ューイヤーズ・アット・ザ・ヤマムラ)が、2010年4月22日と24日に、私、鈴木智子(すずきともこ)が企画運営、そして演出で、ザ・ブラッキー(The Black-E)とLIPAにて公演され、結果100名の集客を得ることが出来た。

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このお話は、樋口一葉の「おおつごもり」をもとにして作られた話で、対象は客・役者とも、一般のリバプール市民。ウェブサイトを通じて一般公募した4人の役者と、そして私の協力者であるロクサン、舞台芸術を担当してくれたリチャード、メイクを担当してくれたレイチェル、そして、日本から交換留学で来ていた日本人3人のミュージシャンを含めた計12人で、この企画ははじまった。

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シナリオは、最初、「おおつごもり」のあらすじを5つのシーンにわけて、3~5行づつくらいに書いたものを役者に渡し、そこから、自分たちで各シーンごとに即興で演じてもらい、そのプロセスをすべて録音し、役者が使ったせりふをそのまま台本に載せていくというスタイルをとった。

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このやり方は、非常にめずらしいものだが、「役者とともに作り上げる芝居」にこだわりがあった私は、このプロセスをあえて使ったとも言える。そうして出来た台本は、協力者であるロクサンが手直しを加え、よりちゃんとした60分の台本になった。

日本人の3人のミュージシャンたちは、当日舞台の上で直接演奏してもらうことになっていたため、稽古にも一緒に参加してもらい、結果彼らの手で5つの曲を編曲・作曲してもらって、それらは本当にすばらしいものだった。

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このお話、「おおつごもり」の、翻訳本を手にすることがすぐに出来なかった私は、日英翻訳家志望の日本語学部を卒業したての学生に翻訳を頼み、彼の貢献も非常に大きい。

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この芝居でおもしろいところは、イギリス人が着物を着て演じていても、せりふ自体は英語だし、彼らの振る舞いも日本人らしくしているということはない点だ。たとえば誰かと会うときは抱き合ったり(ハグ)、お辞儀をしない、などだ。ただ、着物を着ている以上、食べる時、歩く時などは日本人「ぽく」ならざるを得ない場合もあり、基本役者には、自分の普段の振る舞いを意識して着物になじんでほしい、と演出した。 

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たとえば想像してみてほしい。日本人が西洋の服を着てあちらの物語を演じている舞台だと、必ず「ハグ;抱き合い」が生じる。それは明らかに日本人の日常では起こりえない行為だ。 私はそんな演出にいつも「違和感」を感じていた。なぜ、日本人が演じているのに、西洋人「ぽく」振舞っているのだろう、と。日本人が普段行う振る舞いで、イギリスや海外の話をもとにした舞台はないのだろうか?そうすれば、私が感じるような「違和感」は消えてくれるのに。

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この考えが私の最初のアイデアだった。

結果、この公演で、その「違和感」がどれだけ解消されたかは観た観客それぞれが感じるべきところなので、私にはわからない。が、この物語が持つ「おもしろさ」というのを、ストレートにお客さんに伝えることが出来たのではないか、そして、ひとりひとりのキャラクターにお客さんたちが自分を素直に投影出来たのは、間違いないのではないかと、そう思える。

そして、また、私の大好きな「樋口一葉」の物語を、ここリバプールの人たちに紹介できたことは、この上ない幸せだ。今、わたし・ロクサン、そして、リチャードが、Roxoko Theatre(Roxoko劇団)のコアメンバーとして次なるプロジェクトへ準備を進めている。次の公演は、3月か4月頃と見込んでいる・・・。

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私たちRoxoko Theatreは、「コミュニティーのための演劇」をコンセプトとしているので、誰もが参加できる、でもそこで何かを学べ、また自分の才能を試し、成長させることが出来る団体として、運営している。まだできたてほやほやの劇団で、どこへ行けばよいのか右往左往だが、それでも前に進む、それが私たちだ。

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留学前、イギリスで「劇団」を作って、それを日本に持ち帰りたい!!!

なんという無謀な夢を描いて飛立ったことか・・・ただ、案外それも、夢ではなくなりそうな予感もする。 どうなることやら、でも、誰もが参加できる演劇、誰もが楽しめる演劇、誰もが試せる演劇・・・これが私の目指す、「演劇」だ。

智子さんの取り組みや今後の進展、毎日の生活の様子などをもっと詳しく知りたいと思われる方は、ぜひ智子さんのブログを訪れてみてください。また、リバプール芸術大学(Liverpool Institute for Performing Arts)やコースの詳細について興味のある方は、下記の大学のサイトをご覧ください。

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