<インタビュー>研究というキャリアの道 ノルウェーで就活!⑦

公開日 : 2012年04月20日
最終更新 :
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 また、途中で学びたい学問が変わり、転部をすることもあるので、「20代後半まで学生」は、ノルウェーでは普通という傾向が見られます。

マスターを取得してから(院卒)、さらにPh.D.(ドクター)の学位を取る人もいます。

この場合、給料が支払われるので、博士号などの道も立派な「社会人」。

奨学金や給料をもらいながら、大学でPh.D.をとっている人たちの話を聞く機会が、

オスロ大学のキャリア・ウィーク中に設けられました。

メモした内容を簡単にご紹介していきます。

オスロ大学でPh.D.を取る場合、ケースは様々ですが、

奨学金をもらいながら、1~3年間研究をします。

奨学金をもらうためには?

成績+研究内容が大事

「これは、あなたのプロジェクトです」とPh.D.生は

研究内容が「新しい」ものであること、独自性があることの重要性を強調。

・海外での滞在経験や、学歴、人脈(幅広いネットワーク)も大事

「奨学生であることはどのような感じですか?」という学生からの質問に、

「色々な意味で、きついよ」と苦笑いするPh.D.生。

「個人作業が多くて、孤独で寂しくなる時がある」

「たまに数少ないほかの同僚と議論するだけで、ほとんどの時間を研究室で過ごさなければいけない」

また、

「Ph.D.生の半分は、将来ちゃんとした職が得られないと思っている人もいる。

だから、ほかにやれることも見つけなければいけない」

ただ、いいことを挙げるとすると、

「ノルウェーでPh.D.をとっていると、他の国より給料はいい」

「研究で海外にいる時に、他国のPh.D.生は安いホステルで寝泊りするけれど、自分たちはホテルに泊まっている」

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 現在、オスロ大学で研究者をしている日本人の中川 剛志さんにインタビューをしてみました。

 新しい超伝導体を作る研究をしている中川さんは、10才の頃からずっとイギリスで生活をしており、ノルウェーのオスロ大学では2011年の7月から研究をしています。

 イギリスで大学生活を終えた中川さんには、キャリアの道として、以下の3つの選択肢があったそうです。

・企業で研究

・大学に残って、教授のもとで研究

・国の研究機関で研究

中川さんが選んだのは「大学に残って、教授のもとで研究」。

イギリス生活が長い日本人研究者の中川さんにとって、オスロでの研究生活はどのようなものなのでしょうか?

簡単に自己紹介をお願いします

 10歳の時に両親と共に渡英して、オスロに来るまでずっとイギリスで過ごしてきました。中学・高校はロンドンで、大学・大学院はイングランド南部のサセックス大学で、博士課程はイングランド北部のダラム大学で、そして最初のポストドクターをスコットランドのエディンバラ大学でやっていました。在籍していた大学の位置だけ見れば順調に北上し続けています。そしてついに海を跨ぎつつ北上してオスロ大学まで来てしまいました。

何を研究されているのですか?

 化学者なので基本的には新しい物質を作るのが仕事です。今メインでは新しい超伝導体を見つけるために様々なものを混ぜ合わせて、いろいろな機材を使ってその物性を調べることをやっています。

どうしてノルウェーのオスロ大学を研究先として選んだのですか?

 もともとはエディンバラ大学にいた教授の研究に惹かれて、その研究グループにいたんですが、2年たったころに、その教授が「来期からオスロ大学に移ることにしたから一緒に来る?」と突然言われまして、5秒くらい悩んだんですけど、まだプロジェクトも途中だったので、「行きます」って感じで決めました。

なぜ企業への就職というかたちではなく、大学で研究という道を選んだのですか?

 企業での研究だと、まぁ自分のイメージだけど、やっぱりテーマが限られてるんじゃないかなって思ったからです。大学なら、企業と提携してるグループもあれば、基礎研究をメインにやってるグループもあったり、平行して違う研究をしてみたりとテーマや内容に幅があると思ったからですね。

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 大学での研究は、基本的には自分のペースでやってるので国や大学が変わっても大きく変化はないんですけど、ノルウェー人の研究生活を見てると、ふと「毎日こんな遅くまで頑張らなくてもいいんかな?週末も仕事してるのはやっぱりアホなんかな?」と時々悪魔のささやきが聞こえてきますね。すぐさま「いやいやいや、流されたらあかん!」って戒めますけど。でも、あまり忙しくない時はさっさと帰ることに罪悪感を覚えなくなりました。

物価の高いノルウェーで研究員をされていますが、生活費などは高いと思いますか?

 生活費はもちろん高いんですけど、ノルウェー人の平均並みの給料をもらってるので特に問題なく過ごしてます。ただ、外食する回数がぐっと減った気がします。ノルウェーに来てびっくりしたのが「イギリスよりも食文化が貧相な国があるんだ!しかも高い!」っていうことろ。「腹に入ればなんでも一緒」って言う考えが染み付いてる感じですかね?

大学から研究費や機材の提供は十分にもらえていますか?

 ノルウェーは石油のおかげでヨーロッパでも数少ない経済の安定している国ってこともあってか、研究分野にわけられてる予算が多いので、研究費はたくさんあるみたいです。なので学部内にはいろいろな機材がそろってますし、新しい機材の購入計画もよく耳にします。研究する上で今のところ不便を感じたことはないです。

給料から税金はノルウェーはたくさんとられますか?

 いやぁ、最初に所得税が50%って聞いてびっくりしました。でもいろいろと書類手続きを済ませると36%になってほっとしました。あ、あと12月は「クリスマスだから」ってことで所得税が18%になるって言うのにも驚きました。最近、期間限定の外国人労働者は払った税金の10%分くらい戻ってくるって聞いたので真相を究明中です。

ノルウェーで研究するにあたり、語学力はどの程度必要とされますか?

 所属してるグループにノルウェー人がいないからですけど、ノルウェー語はまったく必要ないです。でも実際、ほとんどのノルウェー人は英語が完璧なので仕事でも生活するうえでもほとんど必要だった場面がないです。時々、ずっとイギリスにいた自分よりもうまいんじゃないかってへこまされるほどです。もちろんそうじゃない人もいるんで、最低限のノルウェー語会話ができれば言うことないんでしょうけど、難しすぎて諦めました、早々に。

ほかの国とノルウェーでは研究員であるうえで違いはありますか?

 オスロでも夏至前後はほとんど日が沈まないし、湿度も低いから過ごしやすかったし、冬は逆に日は短いけども空気が乾燥してるからかマイナス20℃でもあまり寒いと感じなかったのにびっくりしました。さらに室内はいつも暖かいから快適な研究生活ですね。ただ、日曜日にはすべてのお店が閉まってしまうのが不便で仕方がなかったです。

ノルウェー人のボスは日本人とはどのように違いますか?

 これはほんと人によると思うのでなんとも言えないけど、一番の違いは「休みが取りやすい」。むしろ、休暇をとらないと驚かれるところ。日本だと「有給は病気のときにしか使えない」とか、「有給を使おうものなら首になるかも」と言う不安があると思うけど、そんな空気はないのがいいです。ただ逆に、産休が1年あったり、ばんばん有給使うスタッフがいるから、手続きやらなんやらがまったく進まないのが玉に瑕ですかね。

これからノルウェーで研究をしたいと思っている日本人の方々に、メッセージをお願いします!

 ノルウェーを含む北欧って日本ではよく「幸福度」の高い国って言うイメージがあると思うんですけど、たぶんみなさんの想像する幸福さとは違うんじゃないかな。最初は戸惑うと思うんですけど、こちらの生活パターンに慣れてくるとほのぼのしてる感じで、リラックスして日々過ごせるのがいいです。なので、2年くらい半分休暇気分で研究するにはもってこいの環境かな、と。お勧めです。

中川さん、ありがとうございました!

就職活動の地図を日本から世界に広げて、海外で研究という道も選択肢にいれてみると世界がさらに広がるかもしれませんね。

☆中川さんの所属している研究グループのサイト(英語)はこちら

中川さんのイギリスでの生活が綴られた「日々楽しく賢く 」が河野総合研究所より発売中です!

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