大学院メモ:北欧ノルウェーのメディアシステムの特徴

公開日 : 2012年11月04日
最終更新 :

 北欧のメディアシステムにはいくつかの特徴があります。

 『Comparing Media Systems. Three Models of Media and Politics』の著者であるDaniel C.HallinとPaola Manciniは、スカンジナヴィア諸国、ドイツ、スイス、オーストリアなどの北・中央ヨーロッパの国々を、「民主的強調組合主義」モデルとして取り上げているので、ここで内容をご紹介します。

※他のモデルについては、ここでは飛ばします。

 また、下記のモデルがこれら全ての国にぴったり当てはまるわけではなく、"全体的にその傾向がある"という大まかな内容です。

 主に、「民主的強調組合主義」モデルのポイントとしては、

宗教の影響

・宗教改革や教会法の影響

「神の意思や世界観を理解できるよう、全ての人が読めるように」

・国民のリテラシー能力をアップするためのキャンペーンを推進

・プリントメディアの普及

報道の自由

・南ヨーロッパと比べると、保守的なカトリックの影響は少なめ

・アンシャン・レジーム体制も弱め

・早い段階で、リベラリズムが発展し、縛りのない報道の自由につながる

・スウェーデンは世界で始めて報道の自由について公式な文書を定めた国(1766年)

ノルウェー(1814年)、デンマーク(1848年)

高い新聞購読率

・スカンジナヴィア諸国では母国や地元に対して愛着心が色濃く、

それが高購読率につながる(都会と田舎の両方で新聞が多く読まれている)

大衆のためのメディア

・それぞれのグループやコミュニティの宗教や思想、地域性を反映した、

サブコミュニティー向けの新聞が増加

例:ノルウェーには北方少数民族のサーミ人向けの新聞やテレビ番組。

雪が多く降る北ノルウェー地方には、交通トラブルなどで新聞が配達できず、

情報が伝達されないことも昔はあったので、もともと地方紙のニーズが高い。

政党との結びつき

・スカンジナヴィアの政治ジャーナリズムは、

政党と強く結びついている傾向が強い

・20~30年代と比較するとその傾向は弱まってきているが、

ノルウェーでは1970年代、多くの新聞機関が政党との結びつきをオープンに認めた。

・その後、批判的なプロフェッショナル・ジャーナリズム文化が発展し、

70年代半ばまでにみられた特定の党のイデオロギーを反映した

新聞機関の偏向報道や政党機関紙などは減少。

補助金システム

・ノルウェーなどのいくつかの国では国からの補助金を受ける

(ちなみに、ノルウェーの新聞には消費税が適用されていない)

いつから?:60年代からのメディア合併による流れで、

メディアの数が減少&社説やディベート欄の減少

・地方の「小さい」新聞や経済的に弱い立場のメディア

(ノルウェーのサーメ人向けの新聞など)を支援する必要性

・「補助金システムは、

マスコミの番犬としての主体性を弱めるのでは」

という批判が当然ある。

しかし、著者によると「そうでもない」。

・「むしろ1950年代には控えめだった批判的な批判報道が、

補助金システム導入後の1970年代には増加している」

・「北ヨーロッパの高い新聞購読率を支えている」

(補助金システムがなければ、ノルウェーの新聞の普及率は

もっと下がっていたというリサーチ結果もあり)

「メディアはプライベートビジネスではなく、

政府が責任を持つべき社会機関」

「政治との結びつき」と、

「世論を反映した批判的なプロジャーナリズム精神」が共存

・プリントメディアにおいては、マーケット的な構造を緩和するために、

政府がある程度調停に入りながらも(ある国々では報道評議会が

広告の量や差別的な報道内容を制限)、リベラルな傾向。

・ブロードキャスティングメディアにおいては、

放送は国家の一部とする考えが根強く、

特に1980~90年代は政府による支配的コントロールの傾向が強かった。

また、民間ではなく政府が運営することで、

幅広いグループに情報を伝達できるとした。

しかし、政党との結びつきが強い傾向にあるのは、

ブロードキャスティングメディアよりも、プリントメディア。

テレビ番組では政治的・イデオロギー的な話題においては、

バランスを保とうとする傾向あり。

広告の増加

・北ヨーロッパの新聞機関は特定の党派に偏向する傾向があったものの、

次第に商業的な側面もではじめてきた。

・エンターテイメント性の強いタブロイドや、

売り上げ重視の広告欄の増加&政治的コメント欄の減少

・「民主的強調組合主義」モデルの国々では、

高い教養レベルの新聞(ノルウェーのアフテンポステン紙など)と、

タブロイド紙(ノルウェーのヴェルデンスガング"VG"紙)の

両方を読む傾向が高い。

また、タブロイドはイギリスメディアに比べるとそれほどセンセーショナルではない。

・宗教・政治色の強い報道ではなく、

受け手を楽しませ(エンターテイメント性の強い)、

大衆の考えを反映するような情報伝達へ(国民に順応型メディア)

ジャーナリスト連盟&倫理規定&ジャーナリスト教育

・スカンジナヴィア諸国では、ジャーナリスト連盟などの立ち上げが

比較的早かった(ノルウェーは1883年)。

どの機関も当初10年ほどは政党との結びつきを弱まらせるのに困難をきしたが、

1930-40年代には強い、独立した機関となった。

・このようなスウェーデンやノルウェーの連盟では、

倫理規定を守らないジャーナリストには

ペナルティーを与えるなどの規則を設けた。

ただし、デンマークにおいては、

各報道機関が独自の倫理規定を設けるなどをして

ジャーナリスト連盟に入ることを拒むなど、

スカンジナヴィア他国とは異なる道筋をたどる。

・ジャーナリスト教育は、

連盟設立や報道者の自己規制システムが、ある程度整ってから発達

(ノルウェーでジャナーリズム教育が始まったのは1951年)

・南ヨーロッパの国々に比べて、客観的な見方の報道が多い

また、リポーターとコメンテーターとしての報道を切り分けている

スカンジナヴィア諸国のその他の特徴

・整った福祉国家

・政治的に右翼的な要素が弱い

・封建制が弱かった

・農民が自立しており、農業党はリベラル、社会派との結びつきを強めた

・経済的に立場の弱かった上流階級が積極的に商業に介入

この社会的構造により、早い段階で自由主義体制へと以降し、報道の自由にもつながった。

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