シンガポール特派員 新着記事
マカオの大型複合リゾート施設、City of Dreams Macau、その中にあるミシュラン二つ星のフランス料理のファインダイニングが、The Tasting Room です。
去年の春から、キッチンの指揮をとるのは、これまで香港のCapriceで厨房を率いていた、Fabrice Vulinシェフ。
フランスの料理マスターズ協会、Maîtres Cuisiniers de Franceのアジア地域の代表でもあります。
多くのキッチンスタッフが働くキッチンを眺められる特等席、シェフズテーブルでいただきました。
最初は、Dom Perignon 2009で。ナッティーなボディのある味わいです。
続いて、アミューズ。
カダイフをボール状にしたフライに、スモークサーモンの角切りとイクラを乗せたもの。
フォワグラのクリームが詰まったシューに、アクセントにパッションフルーツの種を乗せたパッションフルーツのゼリー。
特にこのフォワグラの滑らかなクリームがとても印象的でした。
「カニの天ぷら」と出してくれた、しっかりイースト香のあるふんわりとした生地に包まれたフリッター。
Poached Gillardeau Oyster, Shellfish Tartare Sea Water Jelly, Ginger Cream, Lemon Confit
「牡蠣のロールスロイス」と呼ばれることもあるフランスのブランド牡蠣、Gillardeauは、低温でほんのりと火を入れて味を更に凝縮させて。独特の、青海苔のような濃厚な味わいは、この牡蠣ならでは。殻を開けた時出る牡蠣のエキスをアガーで固めた海水のゼリーで、殻を開けてそのまま牡蠣を食べているかのようなみずみずしさを表現しています。牡蠣の海のクリーミーさに更に軽やかな乳製品のコクを加える生姜のクリームとレモンのコンフィ。ハマグリやマテ貝などの貝類を刻んだものが下に敷かれ、みずみずしい甘みとサクサクとした噛み心地が楽しめます。
殻の外には、クロロフィルとクリームのドット。
ワインはミュスカデのシュールリー。軽やかな青リンゴや洋梨の香り、すっきりとした酸味とほのかな甘みが、牡蠣によく合います。
次は、同じ白でもボリューム感をあげて、オーストリアのワイン。動物性の、ウールのような香りとしっかりとした味わいがあります。
Brittany Lobster, Watermelon and Yuzu Vinaigrette
Fabriceシェフのシグネチャーの一つ。ブルターニュ産のブルーロブスターを使った前菜。
薄く切ったスイカをベースに、茹でたロブスターを刻んで柚子のビネグレットで和えたもの、薄いロブスターテリーヌの層、ロブスターコンソメのゼリー、ロブスターのカルパッチョが乗っています。クリスタルキャビア、ボリジ、ソレル、そして青リンゴ、スイカ、フェンネル、アボカドのクリーム、ホイップした甘くない生クリームなどがたっぷりと乗っています。
テリーヌはニンニクの味の効いた、オーセンティックな味。コンソメゼリーも、ロブスターの旨味とともに、ローストした野菜類の甘みが感じられるしっかりとした味わい。それらが、たっぷりとしたロブスターの身と共に、美しいレイヤーを作り、一つのお皿に盛り付けられている贅沢さ。
サイドにはスイカの小さな角切りを散らした、酸味の効いたアボカドのクリーム。
スイカのほのかな甘みと水気が、全体を軽やかに仕上げます。
そして、Fabrice シェフの友人でもある、著名な牧場主、Alexandre Polmard の牛肉を使ったタルタル。
Surprise of Beef Tartar
牧草育ちの牛肉は、とてもスムースなテクスチャで、フェンネルやセルフィーユのような植物性の、濃厚な甘みがあります。
部位は、ステーキに使われるランプ、程よい噛み心地があります。それと香りを重ねるように、タルタル全体をセルフィーユとニンニクをほのかに効かせた生クリームのドットで囲んであります。
その上には、スコットランドのウィスキー、Laphroaigの25年もので贅沢にスモーキーな香りをつけたビーフコンソメゼリー、上には塩味のチュイル、その上にごく細かい玉ねぎを刻んだものが乗った生クリーム、卵黄がわりのクリスタルキャビア、セルフィーユ。
中のタルタル自体にも、このコンソメゼリーが角切りになって混ぜ込まれています。
続いては、Double Beef Consomme, Cabbage Ravioli and Foie Gras
トリムした牛肉に、玉ねぎ、人参、シャロット、長ネギなどを入れて煮出したスープを24時間寝かせ、さらに別の牛肉や野菜を加えてダブルボイルし、4日間かけて清澄したというダブルボイルドコンソメスープ。
(フランスの産地訪問の様子を拝見しながらいただきました)
ちりめんキャベツの上には黒トリュフとフォワグラのクリーム、間にはフォワグラ、細かく切ったズッキーニやニンジンなどの野菜、そして温かいダブルボイルドコンソメを注ぎます。ダブルボイルドコンソメの強いうまみからくる苦味がフォワグラの甘みをひきたてます。
クラッシックなちりめんキャベツのミルフィーユの再構築のような作り。
ワインはジュヴレ・シャンベルタン。
まだ若いけれども、後味のスミレの香りのボリュームが高く、これからますます楽しめそうなワイン。牛肉のコンソメに合わせて。この後、魚料理に合わせて白ワインに戻ったのですが、そんな意味でもちょうど良かったです。
ワインは後味にナッティな余韻が残り、それが、コンソメの苦味と綺麗に重なり合います。
続いては、魚、スズキの一種、シーバスの一皿。Hot Stones Steamed Seabass Sauce Vierge and Cauliflower
合わせたのは、重めの乳製品の香りなどを感じる、マロラクティック発酵したムルソー。
ストウブの両手鍋の中に400〜500℃になるという火山石を敷き詰め、その上に、オレンジの皮やセルフィーユ、シナモンなどを乗せ、フォイルごとスズキを乗せます。
最後に、魚の出汁に粒胡椒やローズマリー、レモンとオレンジの皮、ベルモットのノイリープラットを混ぜたものを注ぎ、蓋をして蒸し焼きにするというスタイル。
鳥の手羽と魚の骨をリダクションして作った茶色のソース、そしてオリーブオイル、
オリーブ、トマトコンフィ、レモンコンフィ、バジルオイルなどを混ぜたソースを乗せて仕上げます。
サイドにはなめらかで重すぎない、カリフラワーのピュレを添えて。
柑橘と甘いハーブの香りをまとい、ふんわりと仕上がったシーバス、酸味のあるレモンとトマトのコンフィ、オリーブやバジルなどで地中海風に仕上げてあり、コース後半に差し掛かり、お腹が重くなってきた頃に、この軽やかな魚がちょうど良かったです。上にはネギの香りよりも、緑の香りが特徴的なチャイブの仲間の花を添えて。
Fabriceシェフは、南フランス、Hautes-Alpes出身ということで、このあたりの軽やかな味わいは故郷の味でもあるのでしょう。
Beef Tenderloin by Alexandre Polmard, Vintage 2005, Artichokes, Potatoes Souffles
そして、今回一番気になっていた、ヴィンテージ・ビーフをいただきました。2005年から13年間寝かせたテンダーロイン。
Beef Tenderloin by Alexandre Polmard, Vintage 2005, Artichokes, Potatoes Souffles
フライパンで丁寧に焼き上げてあります。
フランス北東部、ロレーヌ地方で、著名な牧場主、Alexandre Polmardが育てる、脂肪分の少ないアキテーヌブロンド種の2歳の牛、通常の牛肉と同じように、3週間エイジングした後、冬眠(hibernation.)というプロセスを経ています。具体的には、真空パックに入れて、−43度の環境下で、時速120キロメートルの冷風を当てて急速に冷凍することで、品質の劣化なく長期に保存ができるというもの。
ヴィンテージビーフになる牛は、週に2頭程度で、手間もコストもかかるため、ごく限られた分量しか手に入らず、扱っているのは、アジアではこのThe Tasting Roomだけ、フランスでも、Guy SavoieやArnaud Lallementなど、ごく限られた、三つ星レストランが使っているという貴重なもの。
一口食べると、テンダーロインならではのきめ細かい舌触り、生のようなジューシーな肉質。そしてタルタルと同じように、みずみずしい甘いハーブの印象。
ソースは牛肉のジュのソース、肉の下には細かく刻んだ黒トリュフが忍ばせてあり、旨味を後押し。こんな見えないところでの贅沢が、味の印象を大きく変えるもの。
ボルドーの Chateau Cos d’Estournel のセカンドワイン、しっかりとした骨格のある味わいは、「ヴィンテージ」と名付けた牛肉に引けを取らないもの。青草の味わいに、カベルネ・ソーヴィニヨン特有のビーマンの香りが合います。
アーティーチョークを様々にアレンジしたサイド。
円形のものは茹でて、チップはドライに、もっちりしたピュレのようなニョッキ、そして下には、発酵バターと混ぜたピュレ。
綺麗にふんわりと膨らんだ、ポム・スフレ。
デザートは、Rum Baba,Tahitian Vanilla Mascarpone, Raisins and Rum Ice Cream
ババに、タヒチ産ヴァニラのマスカルポーネクリームをたっぷりと乗せ、ラムに漬けた3種類のレーズンを敷き詰めた、同じヴァニラのアイスクリーム。
バニラビーンズの食感が感じられるほどたっぷりと贅沢に使ったクリームを、温度差の違いで楽しむという趣向。
シロップにはレモンピールの苦味が効いていて、甘すぎずすっきりといただけます。バカルディの8年もののラムを、好きなだけかけて。
レーズンと重なる、ドイツの遅摘みのリースリングのワインと共にいただきました。
訪れたのは、一週間に渡っての食べ歩きの最終日、それにも関わらずとても印象的だったのが、食べれば食べるほど、お腹はいっぱいのはずなのに、もっと食べたくなり、次の皿はどんなものが出てくるのだろうと期待させてくれる料理ばかりだったということ。
13年前の牛肉の味をそのまま今に伝えるヴィンテージ・ビーフと同じように、クラッシックな味わいを保ちつつ、繊細な仕事を重ねて、軽やかに現代風に表現する。一つ一つのディテールの質の高さ、完成度、どれをとってもとても満足できます。正統派フランス料理の美しさを感じられる、レストランです。
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■The Tasting Room(ザ・テイスティング・ルーム)
営業時間:ランチ 12:00~14:30、ディナー 18:00~22:30(無休)
住所:Level 3, NÜWA, City of Dreams, Estrada do Istmo, Cotai,Macau
電話: +853 8868 6681
http://www.cityofdreamsmacau.com/en/dining/detail/tasting-room
香港島の高台に建つIsland Shangri-la Hotel、その中でも、地上56階からの素晴らしい眺望が楽しめるのが、Ricardo Chaneton シェフが率いる、Petrusです。
もともと、ベネズエラ出身のRicardoシェフ、2008年に、ベネズエラ・カラカスのIntercontinental Hotelのフランス料理、Le Gourmet、スペインの Quique Dacosta をへて、南仏・マントンのミシュラン二つ星、World’s 50 Best Restaurants 2017で世界第4位に輝く、Mirazurで7年間働き、料理長を勤めたというキャリアの持ち主です。
トンカ豆で香りをつけた、フォワグラのブリュレ。ポワレでキャラメリゼの層を作る代わりに、表面に砂糖をかけてから焦がし、まさにブリュレのように仕上げたフォワグラ、その甘さにトンカ豆の甘い香りがよく合います。
ワインのセレクションも印象的。温暖化の影響で、イギリスでシャンパン、ならぬスパークリングワインが作られるようになった、と聞くようになって久しいですが、こちらはそんな作り手の一つ、Coates & Seely のもの。9gのドサージュ、はちみつのような香りで、さほど酸もきつく感じません。
Langoustine tartare
コリアンダーの花や若い実、芽をあしらったラングスティーヌのカルパッチョ。
とろりとしたラングスティーヌの身の甘みを、ラズベリーのジュレと、シェリービネガーとアップルサイダーのビネガーを使い、ほんの少し酸味のある、甘くない生クリームと共に、いただきます。
Ricardo シェフの料理は、どこか明るく、南仏の太陽を思わせる温かさと、フレッシュさを感じます。
ペトロールやトンカ豆のような香りのサンセールの白とともに。
パンは、小麦のスターターで作ったサワードゥをいただきました。
一緒に提供されるのは、マルドンの塩とボルディエのバター。
Frog legs ragout
フランスでは高級食材のカエルの足、ジャガイモの泡に隠れているので、鶏肉だと思って食べる人もいそうです。中にはニンニクで下味をつけた卵黄のコンフィ、カレー味のポテトのムースが入っています。上にはオシェトラキャビアとポムフリット。
ミネラルが豊富なロワールのシュナンブランですっきりと。
Chickpeas ragout
料理名はひよこ豆ですが、上には、周りをカリッと香ばしく焼き上げた柔らかいタコ、同じくカリッとしたテクスチャの香ばしい乾燥チョリソーの小さな粒、ひよこ豆のラグー、その下にはブールブランのようなバターがたっぷりのソースを絡ませたイカで作ったタリオリーニのような見た目の「麺」が隠れています。
オキザリスの酸味でさっぱりと。ひよこ豆やチョリソー、タコなどの地中海的な組み合わせも、南仏・Mirazur で過ごしたRichardoシェフらしい感じがします。
ボディのしっかりした、豊かな動物性の香りのあるナパのシャルドネ。
チョリソーの脂やバターの香りにぴったりです。後味に少し残る苦味が、油分を切って口の中をすっきりさせてくれます。
そして、とても印象的だったのが、魚介から肉のコースに移行するタイミングならではの一皿。
Grilled monkfish
アンコウとリードヴォーを合わせて一つの肉のように提供しています。3日間寝かせたという、白身の肉のような肉質のアンコウ、そして白子のような印象のあるリードヴォー。
それぞれ、肉でもあり、魚でもあるような印象があるもの同士の組み合わせがとても面白かったです。
一つの肉か魚のように成形してから真空パックに入れ、62度で20分加熱した後、180度のオーブンで「Nacre(ナクレ)」と呼ばれる美しい真珠色が現れるように、丁寧に焼き上げます。
リードヴォーは特に好きな食材で、フォワグラほど重くなく、程よいコクがあるのが好きなのだそう。アンコウは3日ほどドライエイジングをかけて水分を飛ばし、旨味を凝縮させてあります。通常はハマグリやロブスター、エクルヴィスなどと合わせるそうですが、「エイジングをしたアンコウと、ミルキーな味わいのリードヴォーのテクスチャが似ているから、合わせようと思いついたんだ」とRicardoシェフ。
ヴェネズエラ出身ですが、心のふるさとは南仏・マントンだと言います。マントンと言えばレモン。塩と砂糖、レモン、レモンジュースで作ったという、このレモンコンフィのソースも、ミラズールの思い出と深く結びついているよ、と語ります。レモンソースの上のカリカリしたものはアンコウの トリムして残った部分で作ったクランブル。
子牛の胸線のリードヴォーだけに、子牛のジュと合わせて、魚料理と肉料理のソース、二種類のソースで楽しみます。
そんな繊細な一皿に合わせるのはエレガントなジュヴレ・シャンベルタン。
続いて出てきたのは、枯葉や、ピーマンのようなニュアンスのあるボルドー、マルゴーの1990年ヴィンテージ。
フランス・アヴェロン産の子羊の骨つきのロースに、春らしく中国・雲南省で穫れるモリーユ茸と、アスパラガスを合わせて。
Aveyron lamb rack
子羊は、表面をフライパンで強火で10分ほど焼き付けてから、85度と低温のオーブンに入れて1時間40分、じっくりと焼き上げたというもので、きめ細かい肉質を生かし、しっとりとジューシーに焼きあがっています。
ソースは、骨と、切り落とし部分の肉などで作り、塩を加えずに作っているのだとか。
モリーユの中には、刻んだネギとアスパラガス、さらにモリーユを詰めて。
モリーユ、アスパラガス、子羊。3種類の構成要素だけで出来上がったこの皿は、驚くほどシンプル。まだ若いシェフなのに、この潔い盛り付けに少し驚きます。とはいえ、シンプルすぎて寂しい訳ではなく、アスパラガスの皮をストライプのように剥いたり、薄くスライスしたアスパラガスの曲線と重なる、リボンのような美しいソースのプレーティングもエレガントでした。
デザートは、しっかりとしたミネラル感を感じる、オーストリアのグリューナー・ヴェルトリーナーを使ったアイスワインと共に。
Thin white chocolate layers
薄いホワイトチョコレートに挟まれた、キャラメルの層とマスカルポーネとヘーゼルナッツプラリネのムース。ふんわりとキャラメルの香りがしますが重すぎません。
サイドには、マスカルポーネとホワイトチョコレートのアイスクリーム、飴を纏わせたヘーゼルナッツを添えて。
(ちょうどシェフがいらしたタイミングで、写真を撮る前にお話を伺っていたらアイスクリームが溶けてしまいましたが、本来は綺麗にプレーティングされていました。あとで新しいアイスクリームを持ってきてくださいました)
ブルーベリーのタルトと、ラズベリーのフィリングが入ったチョコレート、そしてラズベリーの果実とソルベ。
「フランス人でないからこそ、縛られずに自由に表現ができる」としながらも、自らのテロワールは「南仏・マントン」と語るRicardoシェフ。「素材を素材らしく表現する料理がミラズールのスタイル。それはそのまま、自分のスタイルでもある」
その言葉通り、皿の上は、必要最小限の要素で構成され、とてもシンプル。その潔さは、素材への敬意と信頼から生まれているような気がします。コースの流れもとてもスムーズだったのが印象的でした。
エレガントなアールヌーボー調のインテリアと、56階からの開放的な景色、その両方が楽しめるのが魅力のPetrus。それは、クラッシックな手法を大切にしながらも、軽やかにシンプルにそれを表現しているRicardoシェフのスタイルにも通じる気がしました。
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■Petrus(ペトリュス)
営業時間:ランチ 12:00~15:00、ディナー 18:30~23:00(無休)
住所:Island shangri-la Hong Kong, Pacific Place, Supreme Ct Rd, Admiralty, Hong Kong
電話: +852 2820 8590
アクセス: 香港駅から徒歩10分
http://www.shangri-la.com/hongkong/islandshangrila/dining/restaurants/restaurant-petrus/
フォーシーズンズホテル香港のフレンチのメインダイニング、Caprice。美しいハーバービューを望む開放的なレストランです。
去年、2017年の4月からキッチンの指揮をとるのが、Guillaume Galliotシェフ。ミシュラン二つ星に続いて、2018年のAsia’s 50 Best Restaurants でも46位を獲得しています。
Guillaume シェフは、目をつぶっていても、食材の味がはっきりと感じられる料理を作っていくと語ります。フランス・ロワール出身。若くしてシンガポールのラッフルズホテルの料理長、そして北京のラッフルズホテル、マカオのThe Tasiting Room と、アジア各地で料理をして来たシェフですが、香港は日本からのアクセスが良く、自由港のため、ヨーロッパの食材も日本を中心とするアジアの食材も手に入りやすいと語ります。
しっかりとした骨格の、Pierre Paillard のロゼのシャンパンでスタート。
フランス料理といえば、高いだけでほんの少しの分量しか出てこない、というのではなく、しっかりと食べ応えのあるポーションで出して行きたいと語ります。
前菜も、いわゆる一口サイズの手でつまむアミューズ類はなし。
パンは、いろいろある中から、栗の入ったサワードゥをいただきました。
優しい栗の自然な甘い香りと、心地よい発酵の香り。スターターはなんと、カリフラワー。
レストランができた時に作って以来、12年大切に育てて来たスターターなのだとか。
日本のうなぎを、うなぎのタレのような甘いソースで仕上げ、スモークをかけた冷製、そして人参やチャイブなどをごく細かく刻んだサラダ。そして、ナッティさのある、たっぷりのキャビア。
そして、驚いたのが、ペアリング。ピート香のある、秩父のウィスキーと合わせて。
しっかりしたアルコールのボリュームが、甘みと脂があるうなぎの濃厚さを程よく切るようなペアリング。芳醇で複雑なスモーク香が、うなぎのスモークの香りに、近いトーンの香りならではの奥行きを与えます。
オーストラリアビーフのタルタルは、卵黄とパセリを周りにドット状にあしらって。卵黄の代わりにたっぷりのキャビア。
タルタルには、濃厚な旨味のGillardeauの生牡蠣を混ぜ込んだ、海と山の旨味を加えた一皿。少し甘めの味付け、そして牡蠣の自然な甘みが生きています。
そして、シンガポール時代に、「これなくしてはシンガポールで過ごせなかった」というくらいお気に入りのラクサを、フレンチに仕立てあげました。(ちなみに、シンガポールのお気に入りのラクサは、Katong Laksaなのだそう)
ガラスの蓋をあけると、ふんわりと清々しいすだちと、懐かしい、でも少しマイルドになったラクサの香り。ほのかな甘い香りはサフランから。
そのほかにも、ラクサのエスプーマには、ココナッツミルクだけではなく、乳製品のクリームを半々に混ぜて、ココナッツミルクに親しみがない人にも食べやすくしたり、香ばしさとコクを加えるヘーゼルナッツでアレンジをしてありますが、味は妥協のない本格派。ラクサエスプーマにはなんと、シンガポールから輸入したキャンドルナッツも使っているのだとか。
「ラクサ」にしても、マカオに来て、初めて作った試作は、シンガポール人の奥様に「これ一体何?」と、全くラクサだと認識されなかったとか。それから毎日、一ヶ月間試作を続けて、やっとお墨付きがもらえたのが、現在提供しているものの原型になっているのだそう。
たっぷりとしたクラブケーキのような、アラスカ産のキングクラブは、ほんのりと塩味が効いていて、少し甘めのラクサエスプーマと好対照です。小さなコリアンダーの芽を散らし、果実味の強いカラマンシーの代わりに、すっきりとした日本のすだちを使っているあたりも、シンガポールよりも北で、かつ日本に近いロケーションの香港らしいアレンジのように感じました。
魚は、オヒョウ(Halibut) 。
季節のモリーユ、グリーンアスパラガス、ソレル、海老のストックを煮詰めたものを添えて。この海老のストック、「旨味や香り成分がなくなってしまうから」と卵白による清澄をしない代わりに、ブルーシュリンプというエビを使い、殻だけでなく、背わたを抜いた海老の身も贅沢に使って作っているのだとか。脂の乗ったオヒョウの身自体に、カニや海老の甲殻類のニュアンスがあり、このソースとぴったりと合っていました。
そして、しっかり動物性の油分を使った濃厚なモリーユのソースと、茹でずにごく少量の、野菜のストックを使い、アスパラから調理中に出る水分を含め、野菜のエキスで煮詰めたようなしっかりとしたアスパラ。この組み合わせも、春を感じる一皿です。ほんの少しイエローワインを使ったソースが、コルトン・シャルルマーニュと合っていました。
そして、肉はロワール産のエトフェの鳩。
表面にフライパンで焼き目をつけてからカカオニブやローズマリーなどのスパイスをまぶし、ベトナム・Marouのカカオ農園から手に入れたという丸のままの生のカカオ豆の中身を取り出し、殻だけを乾燥させたものを器がわりに、中にローズマリーなどを敷き詰めた上に置き、オーブンで、まるでパン生地や塩釜で焼く時のように間接的な火入れで焼き上げます。
カカオニブを噛むたびに、ふんわりと香ばしいカカオの甘い香りが広がり、横に添えたキャラメリゼした玉ねぎのピュレが甘みを加えます。ソースはしっかりと古典的なジュのソース。フォンドボーや赤ワインを入れず、鳩のジュに酢を加えて作っているそうですが、とても濃厚な味わい。
同じく、野性味と、大地のニュアンス、土の香りのある、シェフのふるさと、ロワール産トリュフのスライスをたっぷりと添えて。
サイドは、刻んだタラゴンと合わせた西洋ごぼう、サルシファイ。
トリュフやカカオの大地の香りに合わせて、ジュヴレ・シャンベルタンを。
2018年のAsia’s 50 Best Restaurants でBest pastry chef にも選ばれた、Nicolas Lambertシェフによるデザートは、カカオつながりで3種類のチョコレート。
盛り付けの綺麗なドットの細かい仕事にも、ガストロノミーとしての美意識を感じます。そして、一口ごとに、ホワイトチョコ、薄いベージュがグアナラ、濃い茶色がマンジャリと、味わいを変えてあります。
下から順に、ココアサブレ、カリカリに仕上げたヘーゼルナッツ、ピーカンナッツ入りのホワイトチョコレートのブラウニー、ホワイトチョコレートのグレーズで仕上げたムース、髪の毛ほどの細さに絞り出したパリパリのチョコレートと3種のチョコレートのクリーム、海塩を加えてキャラメリゼしてカカオニブ、そして全部のテクスチャを、一口ごとに味わえるよう工夫されています。
Guillaumeシェフ、前出のラクサの他にも、そのほかにも、シンガポールでもブアクルアの実を使ったりと、「見た目はフランス人かもしれないけれど、15年アジアに住んでいるから、アジアの味覚もよく理解しているよ」とのことでした。
大切なのは、理解しているものを作るかどうか、ということなのだと感じる今日この頃。面白いからやってみた、ではなくて、本当に本物の味を食べて、さらにそれを何度も繰り返して作って初めて、うわべだけではない本物になる。
何度も繰り返し、もっとよくなる方法はないか、を考えていく。きっと、どんな種類の「ものづくり」にも当てはまる気がしますし、それが、作っている料理に、ある意味魂が宿り、生きたものになるということであり、洗練ということであるようにと思います。
また、アジアだからこそのフランス料理についても考えることの多い今日この頃。アジアならではのアイデンティティとはなんなのか。多くのシェフにインタビューさせていただいて感じるのは、それは、食材のバラエティや使い方にしても、そこで感じる自然さ、であり、そこで生き、地元の人が食べるものも食べて暮らし、毎日の季節感を含めた感性であるような気がします。その感性を研ぎ澄まして、毎日アップデートされる自分の味覚で、どんな風に提供していくか。
それが、アイデンティティある料理、ということなのかもしれない、と思ったひと時でした。
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■Caprice(カプリス)
営業時間:ランチ 12:00~14:30、ディナー 18:30~22:30(無休)
住所:Four Seasons Hotel Hong Kong, 8 Finance Street, Central, Hong Kong
電話: +852 3196 8860
アクセス: 香港駅から徒歩10分
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