アジアNo.1パティシエの店 2am:dessertbar
アジアのベストペストリーシェフ(パティシエ)を2013年、2014年と連続受賞している、Janice Wong(ジャニス・ウォン) さんがオーナーシェフを務めるお店。
欧米人が多く住む、ホランドビレッジにあります。
大学で経済学を学んだ後、スイーツの世界に転身、日本でもおなじみのピエール・エルメや、「エル・ブリ」育ちのトップパティシエ、オリオール・バラゲなど、世界の巨匠の下で研鑽を積んだという、異色の経歴。自らのラボ(実験室)を持ち、スイーツを使った絵画などアート作品の作成や、世界にここだけしかない新しい味の創造にも力を入れているJaniceさんは、ルイ・ヴィトン等、ハイブランドのイベントを始め、今や世界で引っ張りだこ。今月は南アフリカのヨハネスブルグに招待され、スイーツを使ったデモンストレーションを行う予定なんだとか。そんなJaniceさんのデザートを食べられるのは、世界で唯一のお店です。
(2年連続ベストペストリーシェフに選ばれた事を報じる記事。Asia's 50 Best Restaurants 2014ウェブサイトより)
そんなJaniceさんの生み出すスイーツは、斬新なプレゼンテーションと、新しい味わいを併せ持ち、シンガポールならではの食材を組み合わせる等、まさにここでしか食べられないものばかり。
また、「バー」と言うだけあって、スイーツとお酒のマリアージュが楽しめる、特別な場所です。営業時間は、店名そのままに、なんと深夜2時まで! 店内は、作っているライブ感を楽しめるカウンター席と、ゆっくりとくつろげるソファ席に分かれた、スタイリッシュな空間。
お店のあちこちには、Janiceさんの描いた絵やアート作品が飾られています。
ちなみにウェブサイトの記事右端にもある作品が、店内に展示されています。
32kgものマシュマロを使ったと言うアート作品「Shades of Green」。
確かに近くで見ると、マシュマロを使っているのがよくわかります。
そして、同じ名前のデザートがこちら。
「Shades of Green」(グリーンシェード、15シンガポールドル)
作品にあったマシュマロのふわふわした部分を表しているのは、甘さ控えめのココナッツのムース、そしてびっくりするほど軽やかな歯触りで口の中ですっととろける、メレンゲの板と、クリスピーなクッキー、ひんやりとしたアイスクリームは、シンガポールのらしいエキゾチックなパンダンリーフ(東洋のヴァニラと呼ばれる植物)とグラ・メラカ(マラッカ産のパームシュガー)の味わい。これをピスタチオの香りのふんわりとしたケーキと一緒に頂くと絶品です。
そしてその下には、コクのあるカリカリとした食感のピスタチオのクランブルが添えられ、良いアクセントになっています。敷かれたソースにはヨーグルトが入っていて、ほのかな酸味が全体を引き締めています。
実は、3歳から7歳まで東京で育ったと言うJaniceさん。メニューにも日本語が併記されています。
日本の食材はクオリティーが高く、好んでデザートに使っていて、この4月にも日本を訪れたそう。その時にも見た、大好きな桜の花を始め、日本の春をイメージして作ったと言うのがこちら。
「Cassis Plum」(梅カシス、20シンガポールドル)
登場したのは、驚きの形状。
まるで、新しい惑星のような、不思議な形は、カシスのムースとホットチョコレートを凍らせて作ったとか。
日本の春をイメージさせるシックなピンク色の惑星はひんやりしながらもムースケーキのように柔らかく、端を少し崩してみると、中からはふんわりとしたクリームが出て来ます。
「プラム」という名前の通り、梅酒が主役のデザート。ヨーグルトベースで、梅酒の香りが漂うクリームは、エルダーフラワーのさわやかな香りがアクセントに。
上に乗った酸味のあるゼリー、梅酒のアルコール感を残した甘さ控えめのソース、更に全体に酸味を加えてさっぱりと引き締める、ラズベリーパウダーが相まって、梅の酸味と甘みがそのままに表現されていて、ふわふわの食感も優しい春のイメージ。そして、驚きなのは、タケノコをみりんと醤油で煮たものがアクセントで加えられていた事。ほんのりとした醤油の香りと塩味が、日本らしさを引き立てていました。
そして、何と言ってもJaniceさんのシグネチャーメニューは、この「Purple」(むらさき、17シンガポールドル)。
せっかくなので、お勧めのPurple Punch Cocktail(19シンガポールドル)と一緒に頂きました。
使われているのは、いずれも紫色の食材。下に敷かれているのは、紫芋のピューレ、ブラックベリーのムースアイスクリーム、森のフルーツのソルベ、ラベンダーのマシュマロ。そして、上に乗っている革紐のようなものは、カシスを使って作った「レザー(革)」をイメージしたものなんだとか。
一口食べてびっくり。酸味と甘みの奥から立ち上る、「紫」の香り。これまで、「色」とは「見るもの」だと思っていましたが、まさか「色を味わう」事ができるなんて。紫の色素、アントシアニンの香りなのかも知れませんが、初めて味わう感覚でした。
そして、Purple Punch Cocktail を頂いてまたびっくり。個人的には、あまりスイーツにお酒を合わせた事はありませんでしたが、アルコールとスイーツがこんなにも相性が良い事に驚きました。
カクテルの中味は、シャンパンにクレームバイオレット、ライチリキュールを合わせたものだそうですが、まるでこのカクテルが、酸味のある一つのフルーツのような存在感を持っていて、ブラックベリーのムースを主体とした、この「Purple」のクリーミーなまろやかさと良く合います。
また、このお皿も実はオリジナル。元は彼女の描いた絵がベースになっているとか。本当に、その多才さに驚きます。
そして、「デザート」バーという名前ではあるものの、実はこちらでは軽食も楽しめます。
「2am: Sin Burger」(特製ハンバーガー、15シンガポールドル)
シンガポールを代表する食材を盛り込んだハンバーガーで、インド系の味、ターメリックに漬け込んだタンドリーチキン、グリルしたプリプリの海老、伝統的なニョニャ料理に良く使われるカフィライムの葉のペースト、中華系で縁起物として重宝されている、瓢箪(Gourda)のピクルスという組み合わせ。添えられたタピオカパールチップスは、名前通りタピオカから出来ていて、軽い歯触り。粒をそのまま生かしたような形状が可愛らしいです。
「Slow Cooked Pork Belly」(じっくり豚バラ、15シンガポールドル)
こちらは、シンガポールのローカルフードの一つ、八角の香りのする豚の角煮のようなものを、薄切りにしてから、朝食のベーコンのようにカリカリにクリスピーに焼き上げたもの。真ん中には63℃で調理した卵(温泉卵)、そしてキャビアと貝割れ大根、ミニトマト......更にはなんと角切りの沢庵が!これは、日本の沢庵に、更にビネガー等でオリジナルの味付けをしたものだとか。そして、甘めのお醤油のゼリーも添えられています。
食べてみると、オリエンタルな温泉卵のようでもあり、ベーコン&エッグに代表されるような、アメリカンブレックファーストのようでもあります。とろっと黄身がとろける温泉卵、キャビアのアクセント、さっぱりしたハツカダイコンとトマトの酸味、カリカリで中華風の味付けの豚のバラ肉が不思議に合います。
実は、日本の自治体とコラボレーションして、日本食材のPRの仕事もしているというJaniceさん。
こちらは、高知のゆずを紹介する冊子。
アーティスティックな盛りつけの美しい写真ながら、「家庭でも手軽にできるレシピを載せて、親しみをもってもらえるように工夫したの」とJaniceさん。確かに、「温泉卵の柚子マヨネーズ」や、柚子の絞り汁を使った「ピクルス」など、私でも簡単に作れそうなものが色々。
こう言ったプロジェクトが、熊本のトマト、青森の林檎、京都の抹茶等をテーマに次々と展開中とか。日本の自治体とのコラボレーション、本当に楽しみです。
実際に産地に赴いて、Janiceさんも日本食材の良さを再確認したようで、お店にも、柚子や抹茶を使ったメニューが色々とありました。
2ヶ月に1度メニューが変わる他、「本日のスペシャル」と言った形で、新メニューのお試しが登場する事もあるとか。インタビューの合間にも、「ちょっとごめんなさい」と言って、新しいメニュー(これがまた、不思議な形のものでした)のテイスティングをし、スタッフにてきぱきと指示を出していました。常に進化を続ける2am、目が離せません。
※29日まで、お店は臨時休業です。
<DATA>
■2am:dessertbar
営業時間:15:00~26:00(火曜〜金曜)、11:00〜26:00(土曜、日曜)、月曜休
住所:21A Lorong Liput, Singapore 277733
TEL:+65 6291 9727
URL: http://www.2amdessertbar.com
アクセス:MRTホランドビレッジ駅から徒歩3分
筆者
シンガポール特派員
仲山今日子
趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。
【記載内容について】
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