「Labyrinth」伝統の味に物語と景色を詰め込んだシンガポール料理

公開日 : 2015年11月10日
最終更新 :

シンガポールの食のシーンで、今最も革新的なアプローチでシンガポールのローカルフードを表現しているレストランではないか、と思えるレストラン「Labyrinth(ラビリンス)」

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ライトダウンされたスタイリッシュな店内に入ると、迷宮、という名前の通り、日常からかけ離れた異空間にいざなわれます。

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「Neo-Sin」、全く新しいシンガポール料理を自称する、そのコンセプトは、シンガポール人の24時間。最も使われるあいさつの言葉が、「マカン・オーレディ(ご飯食べた)?」というくらい、食べることが大好きなシンガポール人。

そんなシンガポール人の食の24時間をコース仕立てで再現しています。

ただ、ローカルフードを再現するのではなく、斬新なテクニックを使い、「見た目と味が異なる」口に入れた瞬間の見た目とのギャップを楽しめる、一風変わった料理が提供されています。

このコースに合わせた、オリジナルのカクテルも提供され、より幅の広い食の体験ができるようになっています。

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テ・タリ(マレー風ミルクティ)をアレンジしたカクテルは、紅茶とほのかなスパイスの香りが、これから始まる刺激的な食の旅を予感させてくれます。

ディナーは2種類のお任せコースがあり、今回はExperience Menu(168シンガポールドル)をいただきました。

お任せコースという名の「食いしん坊なシンガポール人の一日」は、もちろん、朝食の定番、カヤトーストからスタート。昔から、食事のテイクアウト用に使われていた器に入れられた一口サイズの前菜。大根餅(Radish cake)、カヤトースト、ロジャック、チークエと呼ばれる餅(Nasi lemak chwee kueh)の順で食べてください、と言われます。

KAYA BUTTER ROJAK

NASI LEMAK RADISH CAKE

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米粉、タピオカ粉、小麦粉を使い、干し貝柱と干しエビで作った大根餅は、「子どもの頃行ったキャンプファイヤーで焼いたマシュマロをイメージした姿」なのだそう。周りを焼いたマシュマロを思わせる中身は、大根餅、というのはギャップがありそうですが、どちらもシンガポール人にとっては、「懐かしい味」という意味で、重なる部分があるようです。

カヤトーストは、水分を取り除いたカヤジャムで作ったマカロンの間に、塩味の効いたバタークリームが挟まれています。さっくりとしたマカロンの繊細な食感は、カヤトーストのパンとどこかイメージが重なり、上品に再解釈されています。

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まるで、チョコレート入りシリアル菓子のような見た目ですが、実際は、ロジャックの材料の一つの中華揚げパン「油条」をミニサイズに手作りし、自家製のロジャックソースを詰めたもの。サクサクした外側から、エビ味噌と唐辛子が効いたロジャックのソースがあふれ出します。たった一口で、ロジャックを食べられるなんて。

チークエも、シンガポールの伝統的な軽食。蒸した蕪を使った餅で、上には高菜のような漬物を乗せて食べますが、このチークエは、味にひとひねり。マレー風のシンガポールの朝食、ナシ・レマ風味なのです。つまり、「チー・クエの姿をしたナシ・レマ」というわけ。シンガポール料理を生まれた時から食べつくしているシンガポールの人たちも、口に入れると気づくこのギャップに魅了されているそう。これは、米粉やトウモロコシの粉、小麦粉を、パンダンリーフや生姜、レモングラスなどに漬け込んだココナッツミルクをあわせて、作っているのだとか。

朝食の次は、午前のスナック。

KEROPOK BASKET

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中華風のエビせんべい、クルプック(Keropok)が。黒いものは、イカとイカスミ、ピンクはエビをたっぷり使って、タピオカ粉と混ぜ、脱水してから揚げたというその味は、とても軽やか、シンガポール人の大好きなガーリックチリマヨネーズをつけて。天然のイカやエビの味が濃厚で、街中で買うスナック菓子のようなエビせんべいとは違う、レストランの味。

「朝食またはランチ」という位置づけの一皿は、軽食の「ミーポック(魚団子入りの唐辛子の効いた麺)」が。

HOKKAIDO SCALLOPS, SQUID, DRIED ANCHOVIES "SEAFOOD SAMBAL"

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「すべてシーフードでできているんだ」と、シェフに言われて食べてみると、実際の麺の代わりに使われているのは、サフランで香りをつけたイカを、ごく薄くスライスし、麺状にしたもの。魚のすり身の団子の代わりに、北海道産のホタテの貝柱の表面だけを軽く火を通したもの。ひき肉の代わりには、アンチョビが使われています。ホタテの甘みとイカの程よい歯ごたえ、確かにとっても高級にしたミーポックの味。

ランチは、OTORO 2 WAYS, DASHI SHOYU "ROAST MEAT RICE"

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2種類に調理した「マグロの大トロ」。

まず一種類目は、「ローストミートライス」風。チャーシューやローストポークは、シンガポールで愛されているホーカーご飯。大トロをロースト??と思っていたら、鮨状のものは、「チャーシューを再構築したんだ」とシェフ。酢飯に、チャーシューの甘辛いソースをイメージした調味料につけた大トロを乗せた寿司でした。調味料の材料を聞いてみると、出汁醤油とみりん、五香粉、とのこと。五香粉以外は日本の材料。仕上げに、チャーシューの焦がした風味を出すために、ほんの少し焦がしバターを乗せたそう。「日本人に寿司を出すって緊張するんだけど・・・どう?」と、シェフに聞かれましたが、大トロ自体も、なめらかで香りのいい極上のクオリティ。少し中華のアクセントの効いた鮨として美味しくいただきました。

もう一つは、ローストポークのような外見。こちらは、キューブ状の大トロの外側に少し火を入れて、ローストポークの皮だけを乗せた一品、カリカリの皮、そして大トロの香り。大トロの脂身が、上質なローストポークの肉よりも、さらにとろけるような食感を実現していました。

ランチは、海南(ハイナン)風カレー。

QUINOA, CHICKEN MOUSSELINE, CLAY POTATOES "HAINANESE CURRY RICE"

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もともと祖父がハイナン出身ということもあり、Hanシェフにとっては故郷の味でもある味です。

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料理の名前は、ハイナン風カレーライス「森」謎かけのようなタイトルですが、Hanシェフの持ち味は、まるでジオラマのように、違った風景をお皿の上に表現すること。先日スペインのサン・セバスチャンでシンガポールを代表するシェフとして招聘されてデモンストレーションを行ったHanシェフ。サン・セバスチャンのミシュラン星付き店、「ムガリッツ(Mugaritz)」にインスパイアされた一皿だとか。

スペインから輸入したという、「食べられる粘土(Clay)」を使って、小さなジャガイモをコーティングし、森の小石を表現。もう片方の黒い石は、「チキンカレー」のチキンとして、イカスミの衣をつけたチキンのムース。カレー「ライス」の部分は、森の土に見立てられた、プチプチ感の楽しいキヌアのカレーリゾット。白いブナピーがキノコ、コリアンダーのスポンジが苔をイメージしています。お皿の上に箱庭のように見立てられた意匠を凝らした小さな風景に驚きます。

そして、ここで夕飯。

シンガポール料理と聞いて、誰もが思い浮かべるチリクラブですが、もちろん普通のチリクラブではありません。

SOFT SHELL CRAB, CHILLI ICE CREAM "LABYRINTH CHILLI CRAB"

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そう、海辺の景色をフィーチャーしたチリクラブなのです。ソフトシェルクラブを丸ごとからりと揚げ、その周りにちりばめられているのは、チリクラブには欠かせないマントウ(揚げ饅頭)を砕いて作った「砂」、フラワークラブという種類のカニのスープでできた「泡」、キャビアでできた黒真珠。チリクラブの味の決め手のソースは、貝を模した形のアイスクリーム仕立て。テクスチャーを添えるための海藻(とさかのり)があしらわれています。ひんやりとしたアイスクリームと、揚げたてのチリクラブとの温度の対比、そしてほのかな味わいのカニのスープの「泡」が、海水浴に行って波しぶきを浴びた時の、どこか懐かしい味を思い起こさせます。

そして、ディナーは続きます。

AMA EBI, OATMEAL, MILK CRISP "CEREAL PRAWN"

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チリクラブのサイドディッシュとしてよくオーダーされる、「シリアルプラウン」。

コーンフレークをまぶして揚げたエビですが、メニュー名は「CEREAL BAR」シリアルバーといえば、軽食として小腹が空いた時に食べるお菓子で、手作りする家庭もあります。シェフが子どものころに大好きだった味を、なんと甘海老を使って再現したそうです。ちょうど、シリアルバーを作るときのように、砂糖を熱して、シリアルを入れ、脱水した甘海老を細かく砕いたもの、カレーリーフや唐辛子などのスパイスを加えて、温めたミルクの上に浮かぶオブラート状のもので包んだそう。甘いお菓子とエビ??と思いましたが、ミルキーなスパイシーな甘さと、エビの香ばしさがベストマッチ。お菓子のような、スナックのような、甘辛味が後をひきます。

カレーライスと森、チリクラブと海、シリアルプラウンと、子どものころを思い起こさせるシリアルバーなど、複数のイメージが重なり合う感覚を楽しむ、まるでアートのような食体験。

そして、以下の2皿はチョイスメニュー、牛肉かロブスターのチョイス。一緒にお邪魔した方と半分ずつシェアしていただきました。

A4 KAGOSHIMA RIBEYE, RADISH, PICKLED CHILLIS "BEEF HOR FUN"

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牛肉ときしめんのような米の麺をあわせた、ビーフホーフンは、日本のA4グレードの鹿児島和牛のリブアイの部位を使用し、素材の良さを生かすために、シンプルに焼き上げました。黒豆のピュレと、ホーカーでよく食べられている酢漬けの唐辛子を添えたもの。ホーフンのソースは、この最上級の鹿児島和牛を使って取った出汁で、伝統的な製法で作られています。もちろん、材料を高級なものに置き換えただけではありません。ホーフンの麺の代わりに使われているのは、麺のように薄く細く切られた蕪と大根。麺よりはやや歯ごたえがありますが、上質な和牛の出汁を吸い込み、うまみがたっぷりです。

BOSTON LOBSTER, EGG YOLK NOODLE, SMOKED BACON "HOKKIEN MEE"

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そして、ディナーの最後を飾るのは、エビ入りの焼きそばのような、「ホッケンミー」。

皿にかぶせられた蓋を開けた瞬間立ち上るのは、リンゴの木のスモーク。その中から、エビではなく、軽く火を通したボストンロブスターが。通常はそのまま殻ごと炒めて、自然に出てくるエビ味噌の味を溶け込ませますが、こちらはちゃんとロブスターの頭や卵からしっかりとうまみを抽出しています。黄色い麺は、なんと卵黄をシリコンチューブに入れて作った、100%卵黄の麺、そして白い麺は、強火で痛めた時の「Wok」と呼ばれるスモーキーな香りを出すために、ラードにスモークの香りをつけたもの。麺という重たさはなく、うまみとコクを抽出して食べているような印象。

そして、ここからは夜食の時間。

シンガポールの人たちは、全員がこういった食生活をしているわけではありませんが、本当にこんな感じでよく食べます!

CHINESE SPICES & HERBS, PU ER TEA, PEARLS "BAK KUT TEH"

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次の食事は、「クラブで踊った後の定番」だという、バクテー(肉骨茶)。もともとは労働者の朝食だったバクテーは、ポークリブを中国漢方で煮出したスープ。でも、見た目はエスプレッソカップに入ったタピオカミルクティー。本来は温かいバクテーですが、冷やして提供されます。ブラックタピオカに見えるのは、醤油を寒天で固めたもの。エスプレッソに見える表面の泡は、カクテルシェーカーでシェイクして生み出したというこだわりが。口に入れると、バクテーの中国漢方の味が漂い、「タピオカ」の豚肉の出汁が効いた醤油の味は、まさに醤油ベースのバクテーの味。どんぶりのような器でいただくバクテーも、エスプレッソカップでいただくと、一服の清涼剤のように、口の中をリフレッシュしてくれます。

実はこれが、実際のコースの中では料理からデザートへ移り変わるタイミング。

メニュー上は、夜食が続きます。

SOYA BEAN, GRASS JELLY, GLUTINOUS RICE BALLS "SG SUPPER"

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ピータンのおかゆ「Century Egg Porridge」は、アジアならではの温かいデザート、「豆花」(甘い豆腐)、「湯円」(甘いスープに団子が入ったもの)、仙草ゼリー(中国漢方のゼリー)にインスパイアされたものだとか。おかゆや湯円にクルトンのように浮かべる、油条はオリジナルですが、「おかゆ」の部分は甘い豆腐、おかゆの具の卵に見えるものは、卵黄のカスタード、ピータンに見える部分は仙草ゼリー、調味料も、醤油に見えるのはグラメラカのシロップ、胡椒は白と黒のごまで表現されています。

そして、ここで、食べるのが大好きなシンガポール人の24時間が経過、再び朝食の時間がやってきます。

シンガポールの朝食、半熟卵と、マレー風ミルクティーのテ・タリ。

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お皿の上には、殻付きの卵がひとつ。「割りますね」と、サービススタッフが割ってくれます。

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中からは半熟卵。醤油差しに入った醤油をかけて、胡椒を振ってから一口食べてみると、なんと白身はパンナコッタ、マンゴーで作った黄身。醤油はバルサミコ酢、胡椒はアーモンドパウダーでした。

HALF AND HALF, THAI MANGOES, BALSAMICO "SG BREAKFAST"

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卵に小さな穴をあけてから、パンナコッタを入れているそうですが、普通に割った卵からまさか

パンナコッタが登場するとは思わず、とってもびっくりしました。

アーモンドの香りが効いたパンナコッタは、コクと酸味のバランスの良いバルサミコ酢がアクセントになっていました。マンゴーのフレッシュさが生きたすっきりとしたデザートでした。

もうひとつは、濃厚なミルクティー風味のクレームブリュレ。

たくさんの物語と景色、そして手間が詰まったコースを堪能しました。

そして、もう一つ注目したいのが、店内に飾られている絵。

アーティストとして活躍している、Hanシェフのパートナー、Kelly Serさんが描いた絵は、昔懐かしい食のシーンを描いたものに見えて、チャーシューライスの屋台の店主が手に持っているのが、分子料理学で使われるエスプーマだったり、かごを担いだ女性の物売りに一見見える絵で、女性が担いでいるのが、液体窒素のボトルだったりと、ラビリンスが提案している食のコンセプトを表しているのです。

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今のシンガポールを店全体で感じてもらいたいというHanシェフの思いから、店内にはシンガポールのアーティストによる絵が飾られたギャラリーのようになっていて、作品は買うこともできるそうですよ。

美味しいものがたくさんあるシンガポール。でも、すべてを食べるわけにはいかないもの。一食でシンガポールの味がぎゅっと詰まった欲張りなコース。時間がないけれど、一食だけでもシンガポールらしい食べ物が食べたい、という方、また、純粋に新しい切り口のシンガポール料理を楽しんでみたいという方、ぜひ試してみてください!

3コースのランチや、観劇の前に楽しむプレシアターメニューもあり、気軽に利用もできますよ!

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営業時間:ランチ 12:00~14:30(火~金曜、祝日はなし)、

       プレ・シアターメニュー 18:00~19:00(木~土曜)

       ディナー 18:30~23:00(火~金曜)、18:00~(土・日曜)

       バー 18:00~深夜(月~土曜)

住所:Esplanade Mall 8 Raffles Avenue #02-23 Singapore 039802

電話: +65 6223 4098

アクセス:MRTエスプラネード駅から徒歩10分ほど

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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