「Kitchen at Bacchanalia」先入観を覆す、自由なヨーロッパ料理

公開日 : 2016年05月12日
最終更新 :

シンガポールリバー沿いのクラークキーエリアからほど近い、ホンコンストリートにたたずむレストラン、The Kitchen at Bacchanalia(ザ・キッチン・アット・バカナリアは、ブラジル・サンパウロ出身で、スペインのミシュラン二つ星レストラン、Mugaritz(ムガリッツ)やロンドンの三ツ星The Fat Duck(ザ・ファット・ダック)などで修業したIvan Brehm(イヴァン・ブレム)シェフによるレストランです。そんなIvanシェフの料理は、表現するなら「Cuisine without Border」国境、境目のない料理。

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間口の小さなお店ですが、ガラス張りの入り口から少しのぞけば、店内の活気に気づくはず。京都の町屋のように、奥行きが深く、そして、キッチンと客席の間には、何も遮るものはありません。オープンキッチンでも、カウンターを隔てて会話をするのが通常ですが、こちらはアイランドキッチンのようになっているカウンターのまわりで、Ivanシェフをはじめとしたチームが料理しているので、シェフのすぐ後ろにも客席があり、まさになんの隔たりもありません。

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そして、料理自体にも、境界線はありません。新しいヨーロッパ料理「New European」とIvanシェフは表現しますが、世界中の調理のテクニックと素材を使う、自由な料理。「すべての先入観なく、味の層を組み合わせていく」というIvanシェフの料理は、自由な発想で、ひとつ一つの味の層に細かい仕事がされているにも関わらず、口に入れると一体感のある料理に仕上がり、奥行きのあるおいしさとして印象に残る、不思議な料理。

この日は、ウェルカムドリンクとして、Signature Gin & Tonic(22シンガポールドル)が登場。とはいえ、ただのジントニックで

はなく、凍らせたグレープフルーツから落ちる雫を集めて作ったエッセンスと、エルダーフラワーのリキュールを合わせて作った氷が入っています。こうすることで、氷が溶けても水っぽくならず、フレッシュなグレープフルーツのすがすがしさと、グラスの中で変わっていく味わいを楽しむことができます。

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この日は、ディナーの7コースメニュー(165シンガポールドル)をいただきました。

まずは、パセリオイルの入った野菜のコンソメと、バジルのエッセンスに滑らかなポレンタ、そして中心に松の実のピュレとパルメザンチーズが飾られたもの。こちらを混ぜながら、パンにつけていただきます。バジルやパセリの鮮烈な緑の味わいと、松の実やパルメザンチーズなどのコクのある旨みが重なり、ポレンタがそれを優しく包みます。野菜のコンソメが、口の中のバランスをリセットしてくれます。

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続いては、World Gourmet Summitでも、寿司の名店「はし田」の橋田建二郎シェフと共に、発酵と旨みについてレクチャーを行ったIvanシェフ、その時にも紹介されていたのが韓国の伝統的な発酵食「キムチ」。かぼちゃの一種で、ほのかに苦みのあるズッキーニのような印象のSquashを使い、2ヶ月ほど漬け込んだというオリジナルキムチは、なんとサフランのジェルやボッタルガと組み合わせ、旨みをプラス。一口サイズながら、野菜そのままの力を感じるものに仕上がっていました。

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日本の麹にも興味があるということで、干し貝柱を麹の上に置いて、新しい味を生み出すことを考えているそう。

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そして、面白い食材は世界中から仕入れるけれども、ローカルな東南アジアの食材もどんどん生かしていきたい、というIvanシェフ。

野菜の半分ほどは、マレーシアのキャメロンハイランドにある契約農家や、レストランの屋上に作ったという、オーガニックのハーブガーデンで仕入れたものだとか。

そんな、東南アジアの食材の魅力を引き出す一皿が、バナナの花のアミューズ。「バナナの花はアーティーチョークに似ている。だから、アーティーチョークと似たような方法で料理した」とIvanシェフ。ピュレにした後、バージンオリーブオイルを加え、軽く焼いた一切れを添えています。甘さの中に、バナナの花特有の渋みがある印象的な一皿。

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そして、元々は超定番の料理で、メニューから外す度に再度載せてほしいとリクエストが来ることから、アミューズになったというカリフラワーのムース。バジルのエッセンス、白トリュフと熟成したチェダーチーズという、王道の組み合わせです。カリッとした揚げパンがアクセント。

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ここからが、7コースのスタートです。

まずは、Hamachi"On Toast"。

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ライスパフで作ったクラッカーの上に、寿司飯、そしてライムで軽くマリネしたハマチ。シンガポールで親しまれている

大粒のかんきつ類、ポメロの粒、そしてその上にはオシェトラキャビアが載っています。

その横には、乾燥したナスターチウムの花。

「料理の見た目ばかりもてはやされる風潮には疑問を持っている。見た目をよくする為だけに加えているものはない。究極的には、料理の美の知覚というのは口の中で起きると思うから、私たちの料理のスタイルが、料理の味そのものを味わう、ということを来た人に思い起こさせるものであってほしい」というIvanシェフ。もちろん、このナスターチウムも例外ではありません。やや加熱して乾燥しているのか、醤油のような香ばしさと、ほのかにピリッとした感覚があります。

日本人でないシェフが寿司飯をアレンジすると、全体のバランスの中でどうしてもその味の印象に引っ張られて一体感が楽しめないことが多いもの。でもこちらは、他の要素と完全に溶け込み、新しいIvanシェフの料理に生まれ変わっていました。素材を先入観なく料理する、というのがIvanシェフの持ち味。その風味や香り、テクスチャーが必要だから、そこにある。クリスピーなライスクラッカーと、ごく薄い寿司飯のレイヤーの上に置かれた、ライムでマリネしたハマチは、完全に東南アジアの香りをまとっていて、二種類のはじける粒、ポメロの粒のすっきりとしたみずみずしさと酸味、オシェトラキャビアのコクが後押しします。

続いては、Beetroot Tartare。

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コンフィしたビートルートと、脱水したビートルート、二種類を混ぜ合わせて、ビーフタルタルのような噛み心地を生み出します。刻んだ玉ねぎと混ぜ合わせ、中央にはコンフィした卵黄、上には乾燥した生姜とコリアンダーシードなどをちりばめています。横にはホースラディッシュの効いたピュレ、サイドには香ばしいビートルートのパンケーキ。

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すっきりとしたホースラディッシュの味わい、タルタル部分のビートルートの濃厚な甘みと食感、そして肉の表面を焦がした時のような香ばしさを感じられるパンケーキのコンビネーションが楽しめる一皿でした。

そして三皿目はUni Pasta。

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もはや、シンガポールでは"Sea Urchin"ではなく、"Uni"で通用するほど人気のある食材。Uniのパスタはいろいろなレストランで見かけますが、Ivanシェフのものは一味違います。チョコレートを練りこんだ蕎麦のパスタに、ホワイトチョコレートとホワイトビーンズのエマルジョン、そして卵黄という組み合わせ。お皿の外に散らしてあるのは、しっかりとした苦みのあるココアパウダー。

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材料だけ聞くと、奇をてらった料理のように聞こえるかもしれませんが、カカオの苦みと大地の香り、カカオバターのコクを感じるパスタに卵黄がコクをプラス。全体のバランスを重くしすぎないように、軽やかなエマルジョンで、ホワイトチョコレートがカカオバターのコクを後押し、ホワイトビーンズが濃厚すぎないバランスにウニと卵黄が加わるという、海の幸と山の幸、様々なタイプのコクの競演です。

続いては、このBacchanaliaのシグネチャーでもある、Coconut Risottoです。

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リゾットによく使われる、イタリア産のCarnaroli種の米をエイジングさせてから、発酵させたココナッツと共に提供しています。タイ料理のTom Kha(トム・カー、ココナッツスープ)にインスピレーションを受けたという料理。アルデンテに料理された米は、中心に米の香りを残しています。そこに、ココナッツクリームのコクが寄り添い、発酵させたココナッツチップがほのかな酸味とサクサクとした食感を与えています。ちりばめられたチリソースが、良いアクセントになっています。

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そして、ここで日本酒の九郎座衛門の大吟醸(24シンガポールドル/グラス)が。日本酒もそろっているBacchanaliaですが、この熟したメロンのような香りがあるお皿の外のソースのような役割を果たし、米の味わいが更にこのリゾットをグレードアップしていました。

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メインディッシュは、Wagyu au Poivre Vert(和牛の緑の胡椒仕立て)。Malaysian Wild Pepper(ハイゴショウ、Piper sarmentosum)

と呼ばれる胡椒を使った一皿です。

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ブラジル出身のIvanシェフ。首都サンパウロで育ったため、アマゾン地域は身近なものではなかったそうですが、アマゾンで独自の文化を持つ、Baniwa(バニワ族)が育てたアマゾンの唐辛子やチャヨーテと呼ばれるかぼちゃの仲間など、アマゾンの食材を使うこともあるそうで、屋上のオーガニック菜園では、アマゾン原産のSzechuan flowers(Acmella Oleracea、ヒマワリの仲間)を育てたりもしているそう。

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この一皿も、どこか熱帯の森林の香りが漂います。Marble Scoreと呼ばれる、霜降り度が9以上の、オーストラリア和牛のストリップロインに、Wild Pepperの辛みが効いています。少し山椒のような独特の香りは、どこか中華のような、アジア風のアクセントになっていて、ペアリングで提供されていた、スパイシーさや、バニラ、シナモンのような香りのあるイタリアのネッビオーロ種のワイン、Renato Ratti Ochetti(20シンガポールドル/グラス)と絶妙にマッチ。

飲み物とのマリアージュが考えられている料理ばかりなので、ぜひWine Pairing(85シンガポールドル)などで楽しまれることをお勧めします。

ここで、メニュー外のプレデザート。

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パセリと桃のソルベは、炭酸水にハーブを使ったリキュール、Green Chartreuse(グリーン・シャルトリューズ)、そこにBurma tonic(ビルマ・トニック)と呼ばれるトニックウォーター、桃のシロップで作られたソースがかかっています。さらに、パイナップルのマシュマロ、そして凍らせたマンゴーに唐辛子とペッパーミントでピリッとした刺激を加えたものに、25年もののバルサミコ酢をひとたらししたもの。

一皿目のデザートは、Soubois。

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洋梨のコンポートにレンズ豆とデーツ(ナツメヤシの実)のソルベ、薔薇の香りのフロマージュブラン。

フェンネルがすっきりとした香りを与えています。シャキシャキ感の残る洋梨に、レンズマメと、黒砂糖のようなコクのあるデーツの甘みが重なります。とはいえ、ソルベなので、重すぎません。シナモンなどのスパイスと、ほんの少し塩の効かせたクランブルがアクセント。そして、中東料理との相性の良い、ヨーグルトを思わせるような香りのフロマージュブラン。薔薇の香りも、エキゾティックな印象です。こちらには、ハーブの香るドライベルモットを合わせて。

続いて、二皿目のデザートは、Chocolate Tart。

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上に乗ったアッサムティーのソルベは、Ivanシェフが、シンガポールの紅茶、Teh Tarik(テ・タリ、コンデンスミルク入りの紅茶)からインスピレーションを得たもの。凍らせたピンクグレープフルーツの粒、そしてチョコレートのタルト生地の中には、グレープフルーツの果汁や内側の白い皮の部分を何度も煮て野生のはちみつ水で何時間も煮込んでできたという、特製のフィリングが。このフィリング、キャラメルのような、はちみつの香るバタースコッチのような、濃厚ながらどこかすっきりとした味に仕上がっていました。

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こちらには、自家製のSignature Cuba Libre(22シンガポールドル)が。ラム酒に、「コーラは様々なスパイスが味付けに使われている。それを自分たちのやり方でアレンジしたんだ」とIvanシェフ。自家製のナツメグワインを加えたというこちらは、スパイスの生産地で、フレッシュなナツメグが手に入るこの地域ならではのドリンクに仕上がっていて、どれも、スイーツとお酒がお互いの個性を引き立てる組み合わせとなっていました。

「大切なのは、素材と先入観なく向き合うこと」思いもかけないような材料の組み合わせで、調和のとれた一皿を生み出すIvanシェフの味、ぜひ試してみてくださいね!

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営業時間:ランチ 12:00~14:30(火曜~金曜)、ディナー 18:00~22:30(月曜~土曜)、日曜休

住所:39 Hong Kong Street, Singapore 059678

電話: +65 9179 4552

アクセス:MRTクラークキー駅から徒歩2分ほど

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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