【熊本復興支援イベント】日本の文化を発信、クラッシックで革新的なバー「D.Bespoke」

公開日 : 2016年06月18日
最終更新 :

「クラッシックで本当に素敵なバーがある」と、かねがね噂を聞いていた、シンガポールのバーで、熊本復興支援イベントが行われるということで、お話を聞きに行ってきました!

シンガポールの美食エリアの近くにたたずむ、D.Bespoke(ディー・ビスポーク)。国内外の数々のコンクールで入賞したバーテンダー、金高大輝(かねたか・だいき)さんが2014年11月にオープンしたバーです。

神戸市出身の金高さん。阪神淡路大震災の時には中学3年生で、家族は無事だったものの、自宅は半壊し、数週間経って神戸の中心街、三宮に行った時のことは、今も忘れられないそう。ファッションが大好きな母に連れられて、買い物によく訪れた優雅なたたずまいの街の惨状と、そして、このがれきの下に、まだ見つかっていない人がいる、という切実な思い。

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そんな記憶を持つ金高さんは、東北の震災の際にも、何かしたい、と強く感じたそう。とはいえ、当時は北京で自身のバー「Glen Bar Beijing(グレン・バー・ペキン)」を経営。「新しい店をオープンしている最中で、義援金を送ることしかできなかった」と語ります。今回の熊本の震災では、「自分が実際に動くことで、他の人が『こんな風に動いてみてもいいかもしれない』と思ってもらえる、きっかけになれば」と語ります。

日本では、銀座の名店、Star Bar Ginza(スタア・バア・ギンザ)、Bar High Five ( バー ハイファイブ)で、約10年間働いたという金高さん。全国のコンクールやバーイベントで出会った仲間とのネットワークを生かし、震災後の5月には自ら日本に飛び、全国各地の数々のバーとコラボレーションし、トークイベントを開催、集まったお金は全額義援金にしているのだとか。支援は今のところ10月までは続ける予定だそう。

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そんな志ある仲間に支えられて、シンガポールでもイベントを開催。来週6月22日、23日と、有名なカクテルコンペティション、Diagio World Class (ディアジオ・ワールド・クラス) 2015のチャンピオン、バーテンダー・オブ・ザ・イヤーでもある、奈良のLAMP BAR(ランプ・バー)の金子道人(かねこ・みちと)さんがD.Bespokeにやって来ます。

金高さんも、「収益が出たから、その中からいくらか送るのではなく、自腹を切っても、必要な額を送る」と考えていて、金子さんも航空券や宿泊も自分持ち。お金ではなく、「正しいことだから、やろう」と言ってくれる仲間たちは、とても頼もしい存在だといいます。

義援金は、金高さんが先月熊本に実際に行った際に、現地のバーテンダーから聞いた「客足がなかなか戻らない」という声を受けて、熊本のバーを網羅した小型のガイドブックを印刷し、賛同してくれる全国のバーで配布するために使われるそう。「実は、日本の地方には素晴らしいバーがたくさんある。熊本もそう。少しでも多くの人が、熊本に行き、そういった魅力的なバーを訪れてほしい」と言います。

今回のイベントでは、通常のメニューに加え、Diagio World Classで優勝した際に出品したカクテルなど、金子さんのオリジナルカクテルが楽しめます。

金高さんのお店、D.Bespokeの "Bespoke"は、金高さんの趣味の一つ、服のオーダーメイド、という意味。

「お客様がその時に望まれるものを、望まれる形でお出しする」というのがモットーだとか。

現在、Asia's Best 50 Bars 2016で、13位と、世界的にも評価の高いバーです。

「日本の文化を発信するバーでありたい」というポリシーの下、オレンジペコーのギターリスト藤本一馬とバンドネオン奏者北村聡のDuo、エル・ブリ仕込みの永島健志シェフが率いる広尾のレストラン81、京都の新進気鋭のファッションブランドRainmaker(レインメーカー)などとコラボレーションして様々なイベントを開催するなど、文化の交わる場所としてのバーを提案しています。

ショップハウスの一角、インターフォンを鳴らして入ると、そこには、日本の伝統工芸を生かした作品の数々が並びます。

流れるようなランダムな流線の美しい、公長齋小菅の竹細工で出来た花器、現在15代目という京都の朝日焼きの茶器、中川木工芸比良工房の京指物の檜の小さな桶、京茶筒の開化堂の水差し、シャネルやヴィトンなどとのコラボレーションで知られる西陣織の細尾、繊細な織り目が特徴的な金網つじのランプシェード。

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あまりの完成度の高さに驚く、木村硝子の手吹きガラスのグラスのコレクションは、ヨーロッパで作られたアンティークの棚に並べられています。

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そのほかにも、イタリアで修業した日本人のクラフトマンが作るSPIGOLA(スピゴーラ)の革靴、シンガポールの著名な音響ブランドDITA AUDIO(ディタ・オーディオ)、シンガポールの有名デザイナーPatric Chia(パトリック・チア)と、前述の開化堂を金高さんが引き合わせることで生まれた一つ16万円もするイヤフォン(ちなみに、20個限定販売で、あっという間に売り切れたそう)、どれも緻密な手仕事を感じる品ばかりです。

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そして、バーエリアに一歩足を踏み入れると、重厚で洗練された雰囲気に包まれ、想像以上に広々とした空間設計に驚きます。入ってすぐの小さな樽には、ブレンドして熟成中のカクテル類。その奥には、チーク材の分厚いカウンター、そして、バーと言えばスツール、という印象を覆す包み込まれるような座り心地の、ゆったりとした革張りのソファ。ヨーロッパの豪奢な世界観をそのまま持ち込んだような、エレガントでクラッシックな雰囲気、そして、その一つ一つをよく見ると、伝統工芸の日本の職人の素晴らしい手仕事が生かされていることに気づき、二度驚かされます。ソファの革も、カウンターの手に当たる所に当たる革も、栃木の職人が手でなめしたとても優しい手触りのもので、バーで過ごす時間をゆっくり楽しんでほしい、という金高さんの思いがこもっています。壁にはハイブランドを魅了する西陣織の細尾の布、クッションカバーも同じく細尾のものです。

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グラスはすべて、木村硝子の手吹きガラス。歪みひとつなく完成された美しさは、高い技術を物語ります。

そして、来た客に一番最初に提供されるのは、京都一保堂のお茶。茶道の心得もあるという金高さんが、美しくレイアウトされた茶筅や棗、朝日焼の茶器などを使って丁寧に淹れていきます。

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「伝統というのは、それぞれの時代の人が、革新を繰り返して伝統にしてきたもの。伝統を守る、という意識だけではいずれ先細りになる。時代に合わせた革新こそ必要」というのが金高さんのポリシーです。

北京時代は、国民的な番組と呼ばれている「天天向上」に出演したり、中国版の「Vogue」などの雑誌の表紙を飾るなど、多少芸能人のような扱いを受けていたという金高さん。中国政府も協力的で、数々の国際大会の中国予選の審査員なども歴任してきたそうです。それでも、もっと自由に自分のブランドを世界に発信したい、日本人のバーテンダーを世界に出したい、という思いが募って、軸足を新天地シンガポールに移したのだそう。

大学を卒業する際に、父親に連れられて地元神戸・三宮のバー、BAR YANAGASE(バー・ヤナガセ) に訪れた記憶が素晴らしいものだったこともあり、バーテンダーになることを決意したという金高さん。

それまでも、多彩な趣味を生かし、高校時代から大学生自体にはバンドマン、モデルとしても活躍していたのだそう。年月を経て、音楽の趣味はパンクロックからジャズに変わったものの、そういった経験は、現在の仕事にも生きているといいます。

クラッシックなレコードのコレクションや、ロンドン・Savile Row(サビル・ロウ)仕立てのスーツなど、好きなものがちりばめられた店内。音楽やファッションなどの幅広い話をするのを楽しみに訪れる常連客も多いといいます。

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「好きなことをやっているからこそ、言い訳も妥協もできない」「これは『仕事』だとは思っていない」という金高さん。やらなくてはいけないこと、ではなく、やりたいこと。だからこそ、の言葉。

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「日本を出たからこそ、日本と同じ、ではなく、日本の店よりもいいものを出さないといけないと思っているんです。

海外だから、とか、コストが、とか、色々と理由をつけて妥協することは、僕はしたくない。」

ラムとシガーを知るためにキューバに、シェリー酒を知るためにスペインに。置いているお酒は、自ら現地に赴いたなどのストーリーがある物だけをセレクトしているそう。「他の店で普通に飲めるようなお酒はあまり置かず、少し長めに熟成されたものや、現地で惚れこんだ、あまり知られておらず、自分が魅力を伝えたいと思った物を揃えています。」そんな熱は、自然と来た人に伝わっていき、次にまた来たい、と思わせる動機にもなっているようです。

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Photo by Alwyn Loh

そんな金高さんの原点は、すでに内定していた就職先に頭を下げて、その門をたたいた、銀座のStar Bar。オーナーバーテンダー、岸久さんの仕事に対する真摯な姿勢は、NHKのテレビ「プロフェッショナル」など、様々なメディアで取り上げられるほど。その反面、その厳しさに、次々に同僚が辞めていき、金高さん本人も、ずっと「辞めたい」と思い続けて来た。でもある日、「岸さん自身が、誰よりも自分に厳しく、常に更なる向上を求めている」そのことに気づいたからこそ、続けられたのだとか。そして、「常に自分を振り返る」姿勢は、今の金高さんの基本になっているといいます。

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Star Barは銀座のクラッシックなスタイルのバーですが、ミクソロジーなど、新しいスタイルも次々に生まれている世界。「自分はクラッシックで育ったけれども、試してみないで批判することはしたくない」と、数百万円をかけてエバポレーターなどの分子料理学の器具を買ってみたけれども、あまり自分のスタイルに合わなかった、という金高さん。そんな試行錯誤の結果行きついたスタイルが、現在の、クラッシックをベースにした独自のスタイル。

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私はシンガポールスリングをいただきましたが、ふんわり、もっちりとした泡が心地よく、程よい甘みとフレッシュなパイナップルの味が広がります。フルーツカクテルを作る時にはプラスティック製のシェーカーを使って氷のダメージや溶けを最小限にしたり、サイドカーやクリーム系のカクテルを作る際には、大きな角氷を一つ入れて、色々な方向にシェイクすることで、氷のチップを防ぎ、空気をたくさん液体に含ませる事で口触りのよいカクテルを作ることができる、など、独自の工夫を重ねています。

(ちなみに、お腹が空いていても安心、日本の出汁巻き卵やビーフカツをアレンジしたサンドイッチなどバースナックもおいしいですよ。)

先入観なく、アグレッシブにチャレンジしていく中でも、一日の最後には常に自省し、もっと良くすることができたのではないか、と考えるそう。その細心さが、次の進化を生んでいくのだと感じました。

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美しい革靴のディスプレイの前で、「イタリアの職人が作る革靴と、イタリアで修業した日本の職人が作る革靴、何が違うのですか?」とお聞きすると、「日本の職人の方が、細部へのこだわりがあり、縫製も丁寧なんです」という答えが返ってきました。

それと同じように、もともと西洋の文化だったバー文化も、今日本人の手で、更に洗練されたものとして独自の進化をとげているということが言えるのかもしれません。

World Best 50 Restaurantでシンガポールのレストランとしては最高の32位にランクインしたRestaurant Andreの

Andre Chiang(アンドレ・チャン)シェフや、シンガポールの有名寿司店、はし田の橋田建二郎シェフとは、プライベートでも仲が良いのだとか。

「だけれども、それは、お互いにお互いの仕事を認めているから。共に向上していく、同志のような存在だから、

常に自分を磨いていないといけない、という緊張感がある」のだそう。

将来的には、「日本の伝統工芸を世界に伝えることで、それが世界でも、日本でももっと評価されるきっかけにしていきたい。」と、パリやコペンハーゲンのレストランとのコラボレーションも進行中。そして、現在、7人の日本人バーテンダーが働いているD.Bespoke。「僕のところで育った若いバーテンダーたちが、世界に日本のバー文化を発信していってほしい」と夢は広がります。

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Photo by Alwyn Loh

熊本の復興支援のためのイベントは、6月22日、23日。そんな金高さんの世界観に、ぜひ触れてみてくださいね!

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■ D.Bespoke(ディー・ビスポーク)

営業時間:18:00~25:00(月曜~木曜)、~26:00(金曜、土曜)、16:00~23:00(日曜)・無休

住所:2 Bukit Pasoh Road, Singapore 089816

電話: +65 8141 5741

アクセス:MRTアウトラムパーク駅徒歩4分

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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