「Meta」和久田哲也シェフの弟子がオープンしたモダンアジア料理の店

公開日 : 2016年11月07日
最終更新 :

韓国料理、と聞いて、焼き肉や参鶏湯、ビビンバ...いろいろなものが浮かんでも、なかなか「モダンな」韓国料理、というものは浮かばないもの。韓国・ソウルのフレンチレストランで働いていた時に出会った世界のベストレストランの常連、Tetsuya'sの和久田哲也シェフの料理の本に感銘を受け、オーストラリアの和久田シェフの下で4年半働いたというキャリアの持ち主、Sun Kimシェフが去年オープンした店、Meta(メタ)。グルメな友人の絶賛を受けて、お邪魔してきました。

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元々母が伝統的な韓国料理店をソウルで営んでいて、その料理を食べて育ったというSunシェフ。

小さいころから店を手伝っていて、シェフになるのは子供のころからの夢だったのだそう。料理学校を卒業して、ソウルのフレンチレストランで働いていた際に、和久田哲也シェフが世界4位のレストランになったというニュースを見て、アジア人で世界と戦っている人がいると感銘を受けたSumシェフ。すぐに書店に行って、和久田シェフの本を買って、直観的にこれだと感じて連絡を取り、オーストラリアに渡って和久田シェフの下で働くことになったそう。Tetsuya's(テツヤズ) で2年半、そしてWaku Ghin(ワクギン)のオープンの為にシンガポールにやってきて、2年間。

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Tetsuya'sでは、ファンクションシェフとして働き、コラボレーションイベントなどで常に和久田シェフに同行して、和久田シェフが様々な料理を生み出す様子をすぐそばで見てきたのだとか。「その時のインスピレーションがすごい。チャンジャを作ったり、豆板醤を使って料理を作ったりなどもしていた」のだそう。Sumシェフはその後Waku Ghinにやってきて、シグネチャーのボタンエビとウニを使っていたのだとか。「料理学校やフレンチレストランでフランス料理をやっていたけれど、和久田シェフの下で料理を学びなおした」と語ります。習った料理に大切な三つのこと、「テクスチャー、バランスのとれたフレーバー、旨味」。それが今も自分の柱になっている、現在の自分の料理も、和久田シェフの味がベースになっていて、それにオリジナルの韓国風のひねりを加えているだけ、と語ります。

去年独立し、オープンしたMeta。

ディナーコースは5コースでS$98~、今回は7皿のコース(S$128)に、追加の二皿を足して頂きました。

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まずはアミューズ。

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タピオカのチップにクリームチーズ、タコとイクラ。イクラとクリームチーズの分量のバランスもちょうどよく、繊細な味に仕上がっていました。

サワードゥブレッドで作った自家製クルトンの上には、繊細なラディッシュと牛肉のタルタル。チョレギのドレッシングで仕上げています。チョレギドレッシングが主張しすぎないバランスで、牛肉の味を感じられます。また、繊細に切られたラディッシュが食感のアクセントになっていました。

その横には、カヤトーストの再構築。パフの中にはカヤジャムと、和久田哲也シェフが作っているオリジナルブランドのトリュフ塩を使ったトリュフバター。周りにはパルメザンチーズがちりばめてあります。

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カクテルは、何と自家製のキムチを利かせたもの、その名も、The Rise of Kim(S$25)。ウォッカベースにキムチの漬け汁の部分と梨のジュースが入っていて、乳酸の香りがふんわり。ガーリックの香りがするカクテルは始めていただきましたが、乳酸発酵のキムチと乳酸飲料のような優しい甘味のバランスが面白かったです。下には生のチェリートマトがアクセントになった、ライムの効いたネギと白菜のキムチが入っています。

そして、ここからが7皿のコースのスタート。

まずは追加の一皿から。Oyster Ginger/Lemon with Pomelo(+S$9)

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綺麗な箱庭のような器に表現された海に、クリーミーな生ガキ。

アイルランド産の大ぶりの牡蠣で、こちらは、日本の米酢に昆布を3日間浸して作った、和久田シェフ直伝の寿司酢がベースになっているそう。酸をしっかり利かせた味は、まさに和久田シェフの味のバランス、牡蠣の雑味のないクリーミーさをうまく引き立てています。ポメロの粒を乗せて、プチプチした歯ごたえとフレッシュ感を加えたのが、Sunシェフならではのオリジナルのアクセント。

SASHIMI OF HOKKAIDO SCALLOP

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ホタテの刺身にオーブンでローストして味を凝縮したブドウを乗せて、海の香りたっぷりの刻んだ塩昆布を散らし、リンゴのピクルスをのせた一皿。シャキシャキ感と潮の香りのする「トサカノリ」を飾って仕上げます。ほのかに紫蘇の味がする?と感じたソースは、柚子のジュースにレモンと生姜をグレープシードオイルを加えたものだそうですが、実は隠し味に韓国の梅のジュースをブレンドしているのだそう。塩昆布の使い方や、クリーンでピュアな、バランスのとれた味わいは、和久田シェフの味の構成ととても似ていると思ったのですが、このひねりがとても新鮮でした。

BIBIMBAP

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そして、韓国料理のビビンバは、韓国の米を使っているそう。ほんのりとしたゴマ油の香りがすると思ったら、キムチは少し炒めて辛さを抑えているのだとか。キムチを米と合わせてあるので、アジア人としてはほっとする。韓国の酢漬けのわかめを間に挟んでいます。ビビンバの上に乗せる卵黄の代わりに、北海道産のウニがたっぷりと乗り、サイドには卵黄を低温調理してねっとりとしたコクのある球状にしたものが添えられています。

GUKSU

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続いては、柚子胡椒を利かせたカッペリーニ。名前のGuksu(ククス)とは、本来麺の意味で、朝鮮半島の北東部、咸鏡道の料理で、極細の麺を使った冷麺の一種だとか。

スパナクラブの漁業権を持つ和久田シェフから届いたスパナクラブは、柚子胡椒と和えて。上にはグリルにしたズッキーニ。パスタは丁寧に一口大に巻かれて層になって盛り付けられていて、食べやすいように配慮が行き届いたきめ細かさもさすが。シーアスパラガスは食感だけでなく、海水のような味が全体にみずみずしさを与えています。韓国のりとワカメなど、韓国のアイデンティティを持つ海の香りとの組み合わせ。ここまでは酸味を利かせた料理が多かったですが、今回は酸味なし。細いネギを散らすこのあたりも、和久田シェフの影響を感じます。上にグリルしたズッキーニが載せられていて、グリルして自然な甘みを引き出されたズッキーニが、辛みを抑える役割も果たしています。

そして、Seafood Korean Pancake (+S$25)は、シーフードたっぷりの韓国チヂミ。

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母だけではなく、実は祖母も、韓国料理店を経営していたというSunシェフならでは、チヂミのソースは酢やにんにく、唐辛子、醤油、ネギなどを使った祖母直伝のレシピ。チヂミは周りがクリスピーで中はふわふわの食感で、ここまでふわふわなのはなかなかないかも。イカやクラムなどのシーフードがたっぷり入ったチヂミは、漁港でもあるプサン生まれのSunシェフらしい味。

自家製寿司酢につけた大根が載せられていて、ちょっとモダンなアクセントになっていました。

JASMINE SMOKED QUAIL WITH TEA

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ジャスミンティーでスモークしたウズラは、きちんと火が通っていながらも、しっとり、を通り越し、どこかねっとりした感じもある滑らかな食感です。サイドに添えられているのは、エルサレムアーティーチョークとマッシュルームのラグー、アクセントに山椒を利かせているのは、和久田シェフから教わったものだとか。さらに、根セロリのピュレ。大ぶりのポルトベーロマッシュルームは、醤油とみりん、鰹出汁で煮てあり、魚の香りと相まって、アジアのアイデンティティーをしっかりと感じる味。エルサレムアーティーチョークの苦みを根セロリで薫り高く、また、焦がしたネギの甘味で苦みをカバー。バターのまろやかさで全体を包むイメージでした。

RACK OF LAMB

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続いてのラムは、まだミルクの香りがするような柔らかいラム。

韓国の甘い豆のペースト、Doenjang(テンジャン)味噌に梨とかんきつ類を合わせたソースに漬け込んでから焼き上げたラムは、表面に甘いグレーズのような薄い層があり、その甘みもいい。シャドーイングのように、重層的に似た味わい、香りでより奥行を加えるのが、梨のような香りのパースニップに西京味噌を合わせた甘めのピュレを添えて。焦がしたケールには、コリアンBBQのような、焼き肉のたれのような甘いソースがかかっています。

この、甘さとフルーティーさのバランスが、韓国のシェフらしく、全体の構成を壊さずにオリジナリティーのある味わいがとても印象的。上の豆苗も、味噌の豆の香りとリンクします。バターと醤油でキャラメリゼした紫人参が、独特のエイジングしたような香りがあり、味噌の香りに複雑さをあたえています。

そして、本来はチョイスのもう一つのメニュー、牛頬肉もいただきました。

SLOW COOKED BEEF CHEEKS

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真空低温調理で柔らかく煮込んだ牛頬肉に、サイドに添えた根セロリのピュレの上の、甘くてとてもカリカリな味噌のクランブルがアクセントに。胡椒と一緒に煮こんだオーストラリアのグラスフェッドのビーフチークは、グラスフェッドならではの香りがあり、ナスターチウムの青臭さ、スパイシーさも合うコンビネーションでした。上にはしめじのソース、サイドにはこんがり焼いて香ばしいキャラメリゼ感を出した、ナスと人参のミルフィーユ仕立て。

ここからがデザート。

SILVER PEARL

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そして、大粒の真珠のような、見た目もとても印象的なデザートは、ワイルドライスなどのマルチグレインのとてもカリカリしたクランブルの上に、ドライアプリコット、りんご、梨のフィリングが入ったホワイトチョコレートのボールに、上から真珠色のグレーズをかけたもの。

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甘酸っぱい味とホワイトチョコレートが、重たすぎない組み合わせ。ほんのり胡椒をアクセントに利かせています。

もう一つのデザートは、

FIG TART

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イチジクのタルト。下には、表面をクレームブリュレの表面のように、スモーキーな香りがするまで焦がしたサブレ。生のイチジクに、蜂蜜のアイスの上にはザクロとヨーグルトのパウダー。中央のラズベリーには、中にしっかりクリームが詰められていて丁寧な仕事が感じられます。どこか中東を思わせる食材の組み合わせで、イチジクの味を要素分解して再構築したような印象もある一品。

最後はコーヒーと紅茶。

そして、メニューは3ヶ月ごとに変わりますが、これだけはずっと変わらない定番の、どこか黒糖のような香りのするデザート。

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どんなことが起きるのかは、食べてのお楽しみ。

ここまできっちりと感性度高く作ってきて、まじめなだけで終わらず、最後に遊び心で思い切り楽しませてくれるのは、とっても印象的でした。

お料理全体の印象として、はっきりと表に出るほどではないものの、みりんや鰹出汁、昆布を隠し味に使っていたり、キムチにしても、米と合わせて出されると、同じ米文化で育った日本人としては、どこかほっとする味です。

また、忙しい時にはキッチンでは時に駆け足になるSunシェフですが、どんなに忙しくても、一つ一つの仕事や仕草がとても丁寧で粗さがないのも素晴らしいです。

長幼の序が厳しい韓国ならではなのか、和久田シェフの教えなのか、どこか、昔の日本人のような丁寧さと謙虚さがあり、見ていて心地よいです。

オープンから一年がたって、チームが揃い、自分らしさが出せるようになってきた、と同じ韓国出身のSeok Hyun Han Louisスーシェフは、心強いパートナー、と肩を組みます。

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ご紹介した現在のメニューは11月30日まで、12月1日から冬のメニューに変わるのだとか。

季節ごとに訪れたい、そんなレストランです。

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■Meta(メタ)

営業時間:ランチ 12:00~14:30(平日)、ディナー 18:00~22:00(月曜~木曜)~23:00(金曜・土曜)、日曜休

住所:9 Keong Saik Road, Singapore 089117

電話:+65 6513 0898

アクセス:MRTアウトラム・パーク駅徒歩7分

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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