素材を素材らしく楽しむ「Bacchanalia」、Luke シェフの新メニュー

公開日 : 2017年04月30日
最終更新 :

去年12月に、Bacchanalia(バカナリア)新しくヘッドシェフとして就任した、Luke Armstrong シェフ。

前回、1月の訪問から3ヶ月あまり。スーシェフも着任し、新しいメニューが完成した、ということで、お招きを受けて行ってきました!

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スタートは、洋梨のような香りのシャンパン、Chartogne Taillet と共に。

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極薄のフィロペストリーの上に、牛肉のタルタル、白胡椒のサワークリームに、自家製のケチャップ、キャビアを乗せて。牛が食べる牧草を思い起こさせる、干し草にニンニクの皮を焦がしてスモーキーな香りをつけた上で提供される、自然を模したプレゼンテーション。

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タラバガニのビスクとタピオカ粉、ベーキングパウダーで作ったという、極薄のシェルの中には、まさにチリクラブの味のクリームが詰まっています。

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こっそり中身を教えてもらうと、カニの身とトマト、卵白、ジャガイモにヨーグルト、ライム、七味唐辛子にチリオイルという組み合わせだとか。七味唐辛子が使われていることに、少しびっくり。ほんのり、クミンも効いていました。

そして、酸味を効かせた、温かいホワイトアスパラガスのスープ。香ばしいヘーゼルナッツのオイルをしっかり目に垂らして、オイル感で酸とのバランスをとっています。

水のようにサラッとしたテクスチャなのにしっかりとアスパラガスの香りがする。アスパラガスの皮を使っているのですか?とLukeシェフにお聞きすると、アスパラガスの皮に柚子とクリーム、ドライベルモットの、ノイリー・プラットを加えて煮立たせないようにして加熱し、2時間ほど漬け込んで置くことで、香りを抽出し作ったものだそう。

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フレンチのシェフとしては、素材ごとに最も適切な温度でそのエッセンスを抽出し、それをさらにブレンドするという手間のかかった方法で出汁の取り方で知られる、Yannick Allenoシェフを最も尊敬しているというLukeシェフ。小さなキッチンのため、さすがに素材ごとに違った方法で出汁をとることはできないものの、煮詰める「リダクション」ではなく、基本的には、Yannick氏に見られるような、今流行の低温で成分を抽出する「インフューズ」の方法をとっているのだとか。

ここまでが、アミューズで、ここからがコースのスタート。

北海道産のホタテの繊細な味わいを引き出したい、と、デコポンのゼリーをメインに、柚子とトリュフのジュースを使った一皿。

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全体的に酸味はあるのですが、デコポンの甘みで酸の角が立たないように工夫されています。ココナッツミルクと柚子の小さなソルベのドットに、とても細かい、カリカリとした天ぷらの衣の部分を振りかけて。

ホタテの甘みとデコポンの甘みと酸味。すっきりとしながらも、丸みのある味わいの一皿でした。

そして、静岡産のトマトを使った一皿。トマトは一度たりとも冷蔵してはダメ。こうやって常温に置いておかないと、とLukeシェフ。

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こちらには真ん中の部分のみを使いますが、残りはエキスを取り出してコンソメにしたり、ソースをつくったりと、無駄なく使い切っているのだとか。

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とてもなめらかなテクスチャなので、最初低温調理をしていると思ったのですが、そうではなく、12度で8〜10日間エイジングしたという一皿。実は、最近スーシェフのDelfo Eickmannさんが加わったことで、低温調理をするのはやめて、全ての食材は直接火入れをしているのだそう。「機械に任せるのではなく、食材は一つ一つ、毎日状態が違う。直に触れて感じて調整する。それが料理だと思うのです」とLukeシェフ。火入れはDelfoさんと2人で行っているそうで、30席あまりのレストランだからこそできる、ある意味現代では贅沢な仕事が生かされています。

皿の一番下にはキヌア、トマトの輪切り、そして大根の薄切りの上に、トマトのコンソメのゼリー、緑のトマトのエマルジョンの上には、緑の味を強調するナスターチウムのスプラウト、中心には土佐酢のゼリーが隠れています。下にはトマトのコンソメに、バジルのオイルを散らして。ブリオッシュを揚げたクランブルがコクをプラス。可愛らしい丸いソルベには、橙など様々な柑橘類から作られたポン酢がアクセントになり、コンソメよりも更に香りが良く仕上がっています。

続いては、フォワグラを詰めたモリーユ茸とホワイトアスパラガス。

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甘めの柚子のジェル、ワイルドガーリックの葉を炒めたものを乗せて。

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ホワイトアスパラガスは、シャキシャキしすぎず、ややしっとりとした食感。どうやって調理したのかお聞きすると、ポール・ボキューズのやり方に倣い、水に砂糖と塩、ベルモット、それにパンを一切れ入れて煮ているのだそう。「味の仕上げは現代風ですが、その根本にある部分はクラッシックなものを大切にしています」とLukeシェフ。

水菜のエマルジョンの上には、水菜とシーフェンネル、ミョウガ、シーアスパラガス。ヴルーテはワイルドガーリックの味を生かしたもので、しっかり濃厚な味わいですが、クリームを煮立たせず、仕上げ際にクリームを加えて、フレッシュな状態の味を楽しんでもらうと共に、もたれないように工夫しているのだとか。

続いては、Lukeシェフが一番最初に披露したメニューでもある、シグネチャーの魚の一皿。今日の魚はカリッと表面を焼き、身の程良い弾力も楽しめるTurbot。

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リゾーニパスタに、パセリと牡蠣のエマルジョン。上には牡蠣とラディッシュを乗せて。魚の上のラディッシュは生ですが、横に添えてあるものはほんのり甘く、下のエマルジョンと相まって、とってもまろやかな味。聞いてみると、寿司酢につけてあるのだそうです。

そして、上からはこだわりの魚の出汁。ほんの少しカフィライムのオイルが垂らしてあります。

魚の出汁は、必ずカレイの仲間、Turbotから取るようにしているそう。元々はアンコウを使っていましたが、よりクリーンな味の出汁が取れる、Turbotに変えたのだとか。

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細かく刻んだ Turbot の骨に、シャロットマッシュルーム、前日のサービスで残ったシャンパンや白ワインなどを加えて火を入れ、そこに、鶏の出汁、もしくは野菜の出汁を加えているのだそうです。そして、仕上げに、良質なボルティエのバターをほんの少し加えたり、ヨーグルトを加えたりして、現代的な軽やかな仕上げにするのだそう。

ちなみに、鶏の出汁は、白い出汁が欲しい時は、一度とった出汁を再度また鶏の出汁を取る際に加え、ピュアな出汁を取っているのだそう。

そして何より特筆すべきは、毎日作り置きせず、サービスの前にフレッシュな出汁を取っていること。またクリームも、煮立たせることをせず、生のフレッシュ感を重視しているのだそう。手間のかかる工程ですが、そこにこだわりたい、というLukeシェフ。

そして、今回新しく作ったというメインディッシュは仔鳩。

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抜群の火入れのブルターニュ産の小鳩は、しっとりとしていて、生のような滑らかな食感でありながら、火が通っています。特に、下の部分のささみのきめ細かさは格別でした。そして、もちろん鳩ならではの濃厚な味わい。コニャックをたっぷりと入れた鳩のジュで仕上げてあります。

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また、添えられているのは、セップ茸とバルサミコ酢のソースと、シンガポールで使っているのはLukeシェフのみだという、カベルネ・ソーヴィニヨンのぶどうを使い、9ヶ月間樽熟成したという、スペイン・ヘレス地方の酢を使ったソース。セップ茸のソースは、栗や黒糖のようなコクを感じるバルサミコと、セップ茸の香ばしさが生きた、いわゆるソースのテクスチャだったのですが、このぶどうのソースは、アイオリのような、キメの細かい粘度を感じる味。でも、卵黄を使っているわけではなく、グレープシードオイルを使い、丁寧に乳化して作っているのだそうです。このテクスチャは特に、小鳩のキメの印象と合っていました。

その横には、ビーツの一種、Crapaudine Beetroot。

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石灰質の、ミネラルが多く水はけの良い土で育つため、根をしっかりと伸ばし、味が凝縮しているのが特徴とか。そして、私がとても印象に残ったのは、その、しっとり柔らかでありつつも、ビーツらしい噛み心地のあるテクスチャと甘み。聞いて見ると、ビーツなどの根野菜は、塩釜のような、塩と小麦粉で作った衣をまとわせて、オーブンでじっくりと丸のまま焼いているのだとか。切ると、味が流れてしまう、素材の味をしっかりと閉じ込めたい、という思いから、野菜はなるべく丸のまま、そして皮のまま加熱しているのだそうです。上には、オキザリスやチコリ、マリーゴールドやディルの花を添えて。ピンクの花は、ガーリックの花だそう。ほんの少し舌先に辛みが残る味わい。最近は美しいだけでなく、こうして味わいを加えるガーリックやネギの仲間の花が使われることが増えてきていると感じます。

脚の部分は、「野原で遊ぶ小鳩のイメージ」ということで、フレッシュな季節の野菜を添えて。

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脚の形をそのまま残した仕立ては、旨味を逃さないように、という配慮から。下には黒にんにくのスープ、それにミントとグリーンピースが入っていて、つけながらいただきます。この野菜もほんのりと甘いのですが、お聞きすると、寿司酢を軽くまとわせているのだとか。甘酸っぱさが、生野菜のえぐみなどの角を取っていました。

そして、奥の丸いものは、バターたっぷりのブリオッシュの間に、細かく刻んだイタリアンパセリと共に、マディラ酒とトリュフのジュースで仕上げた小鳩のレバーを刻んだものを入れて。

そしてデザートは、ピスタチオとホワイトチョコレートのパルフェ。

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濃厚なピスタチオのアイスクリームを、ホワイトチョコレートとココナッツの油で包んで。ココナッツの油を使うのは、カリッとした食感を与えるため、だということでしたが、シンガポール人には馴染みの深い味でもあり、シンガポールらしいアクセントになっていました。アイスクリームの上には、ライムとスターアニスのソルベに、抹茶エマルジョン。そして一番奥には、濃厚なキャラメルチョコのフィリングが入ったホワイトチョコレート。手前から食べ始めると、最後にたどり着く仕組みになっています。

もう一つのデザートは、ワイルドストロベリーとルバーブ。

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上には生のルバーブのごく薄いスライスが。いちごのアイスクリームに、同じくココナッツの油とホワイトチョコレートで包んだ、濃厚なアーモンドのアイスクリーム。日本酒のクリームと、バジルとウォッカのグラニテを添えて。

いちごアイスクリームの下には、しっかりとした酸味のルバーブのピュレがあり、アイスクリームの甘さが控えめなのに、甘く感じるコンビネーションになっていました。

シンガポールに来た時が自分の理想の20%だったとすると、現在は40%。まだまだできるし、もっとこだわってやっていきたい、というLukeシェフ。

Lukeシェフの味の基本構成は、寿司酢のようなバランスの甘酸味とピュアな旨味が特徴。そこに、ヨーグルトなどのすっきりとした乳製品が加わり、雑味が非常に少なく、日本人にとって、とても親しみやすい味。

素材の味を、素材として際立たせたい、というLukeシェフのポリシー、そしてシンプルに見えるその裏には、素材を引き立たせるための多くのテクニックが隠されています。ゆっくりと、手間をかけた素材の味を楽しみたい、そんなレストランです。

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■ The Kitchen at Bacchanalia (ザ・キッチン・アット・バカナリア)

営業時間:ランチ 12:00~14:30(火曜~金曜)、ディナー 18:00~22:30(月曜~土曜)、日曜休

住所:39 Hong Kong Street, Singapore 059678

電話: +65 9179 4552

アクセス:MRTクラークキー駅から徒歩2分ほど

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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