これは顔なのか?魚か花か大砲か??? ~アルチンボルドの不思議な絵~

公開日 : 2010年12月07日
最終更新 :
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ラファエロやブリューゲルにクリムト、エジプト展にオランダの特別展示なども含め、隈なく見学することができて大変満足だったのですが、強いて不満を言えば、ジュゼッペ・アルチンボルドの絵画が貸し出し中で見られなかったこと!

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ジュゼッペ・アルチンボルドは16世紀に生きた、ミラノ出身のマニエリスム(※)の画家。

16-17世紀には彼の存在は世間から忘れ去られていたものの、19世紀後半にまた日の目を見るところとなり、その一風変わった手法はシュールレアリズムの先駆者として称えられるようになりました。

アルチンボルドは絵画の他に、タペストリーやステンドグラスもデザインも手掛け、それぞれコモ大聖堂とミラノのドゥオーモに作品が残っています。また、皇帝マクシミリアン2世の庇護のもと、建築家、舞台装置家、エンジニア、水利工事技師、そして芸術のスペシャリストとして多方面に活躍し、その多才ぶりは皇帝に大きな影響を与えると同時に、マクシミリアン2世も常にアルチンボルドの見解に耳を傾けたと言われています。(Werner Kriegeskorte著、"ARCIMBOLDO"より)

(※マニエリスム: 後期ルネッサンス。盛期ルネッサンスとバロックの間に当たる時代で、他にジョルジョ・ヴァザーリやエル・グレコ等が代表的。)

でも何と言っても彼の名を世間に轟かせたのはこの作品でしょう!

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左から、「夏」(Der Sommer/1563)、「冬」(Der Winter/1563)というテーマで、何れもウィーンの美術史博物館所蔵の作品。(「春」はマドリッドの"Real Academia de Bellas Artes de San Fernando所蔵、「秋」は行方不明)

「あぁ、これか!」

と思われたことでしょう。

そう、読者の皆さんも、彼の作品には美術の教科書で必ずお目に掛っているはず。

この日常品を駆使して築き上げた肖像画の数々、特に「春・夏・秋・冬」は皇帝のお気に入りのテーマだったこともあり、アルチンボルドの絵画作品に繰り返し登場しています。

今日はその中でもウィーン・美術史博物館にあるものを中心に、人気作品を少し紹介しますね。

「空気」(Die Luft/作成年月不明) バーゼル、個人所蔵

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「空気」は胸元の孔雀を筆頭に、多種類の鳥から構成されているプロファイル。暖かく湿った「空気」は彼のお馴染のテーマ、「春」をも示しているそうです。

良く見てみると、顎が雄鶏、鼻が七面鳥、長く伸びた顎髭がキジで描かれており、瞼の部分は何とカモの嘴!孔雀は鷲と並んでハプスブルク家のシンボルだったことから描かれたのだとか。

「火」(Das Feuer/1566) ウィーン美術史博物館所蔵

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一方「空気」と対になって描かれている「火」は、熱く乾いた「夏」がテーマ。(日本の夏は乾いていませんが・・・笑)

髪は燃え盛る焚火、肩と胸元は大砲と銃の砲身、目は飛び出た小さな蝋燭、顎はオイルランプ、、口ひげは硫黄の木材等、燃える様々なものが組み合されています。またここでもハプスブルク家を称えて胸元に双頭鷲の紋章が描かれています。

「大地」(Die Erde/1570) ウィーン、個人所蔵

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頭、首、胸元全てが動物で埋め尽くされている横顔。

著者が数えてみたところ、干支の中でいないのは、辰、巳、酉の3種類だけでいた。でもトカゲが下唇を支えているので、それを辰に数えると、実質巳と酉のみが欠けているようです(笑)

瞼は口を開いたオオカミの顎、口の中には眼球部分としてネズミ(ちょっと見にくいですが)、眉毛は狐の尻尾、そして耳は何とそのまま象の耳が流用されています!

また、首にへばり付いている牛の様な動物は、「アルプスアイベックス}(野生のヤギ)と呼ばれ、チロル地方に住む特有の動物なのだとか。

頭の周りをぐるりと王冠のように囲む、数々の角にも注目!

◆「水」(Das Wasser/1566) ウィーン美術史博物館所蔵

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寒くて湿った「冬」を表す「水」。ここでは水に関する生物が精密に描きこまれています。真珠のネックレスをしていらっしゃったり、唇部分の鮫の口が微妙に赤みを帯びている辺りから、この人物は女性だったと想像されます。

耳は美しい貝殻を用いており、そこから真珠の耳飾りがぶら下がっているさまも、実によく考案されています。また頭の珊瑚とその横に2本吹き出ているクジラの潮が、王冠を形作っています。

アルチンボルドさんはミラノ生まれ且つ、海のない国・オーストリアで出仕していた割には、海の生物のことを大変熟知していらっしゃったようで、脱帽です!

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残念ながらウィーン美術史博物館所蔵ではないのですが、その他、このような面白い逆さ絵も!

逆さ絵2左-a.jpg

アルチンボルドの絵は何れも繊細な描写と遊び心、謎めいた雰囲気に満ちており、絵画に明るくない人でも芸術を思いっきり愉しむことができます。

あまりに奇抜なアイディアで、一部からは「精神面で病んでいたのでは」と囁かれることもあったようですが、それでも後世の人間をこれだけ楽しませてくれるのですから、彼の残した功績は偉大と言って間違いないでしょう。

現在アルチンボルドの絵は貸し出し中のため、ウィーン美術史博物館には展示されていません。

いつ戻ってくるのかわからないのですが、また返還された際にはぜひ本物を観賞しに赴きたいと思います!

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筆者

オーストリア特派員

ライジンガー真樹

オーストリアっておもしろそうな国だな、ウィーンって見どころのある街だな、と読者の皆さまに思っていただけるような記事を配信していければと思います!

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