【歴史的瞬間】(旧ユーゴ内戦)クロアチア、セルビアの戦争責任問題に一幕降りる

公開日 : 2015年02月03日
最終更新 :

今日、朝からクロアチアではあるTV中継に多くの人の目が釘付けでした。

それはオランダ、ハーグの国際司法裁判所(ICJ)で行われたクロアチアとセルビア両国が争う裁判。

1991年から始まった旧ユーゴスラビア内戦。

クロアチアは旧ユーゴスラビア内戦のひとつであるクロアチア紛争(91~95年)で、セルビア人によるクロアチア人のジェノサイド(民族大量虐殺)が行われたと主張し、1999年にセルビアをICJに提訴。

2008年にICJが裁判を始めたのを受け、2010年にセルビアは「クロアチアの軍事作戦で多くのセルビア人犠牲になった」と応訴。

このようにクロアチア、セルビアが互いに主張、損害賠償や罪の所在を巡ってICJで長年争ってきました。

いつものようにテレビの前にへばりついている家族の側を通り過ぎようとした時「まみ~、これは見なきゃだめだよ。今日はクロアチアにとって歴史的な瞬間が起こる日。15年以上も待ってようやく決着か・・・。」と言う家族。クロアチアに住んでいながら、今日このような重大な裁判があるのだということをすっかり忘れていた私は一瞬何のことかわかりませんでしたが、しばらくしてようやく理解ができました。

同時通訳の音声と共に流れる中継。

それを見ながら「もしこの裁判でクロアチアが勝ってセルビアが負ければ、僕の父さんは"戦犯国の人間"ってレッテルを更に貼られることになるのかなぁ・・・。」とぼそりと呟く彼。

結果は気になるものの「こんな裁判、どんな結果になろうと・・・。」と言葉を濁すママ(彼の母)。

以前このブログでもちらっと書きましたが、私がザグレブで一緒に暮らすこの家族はバックグラウンドがちょっと複雑。(とは言っても、旧ユーゴスラビアの国では珍しいことではないのですけれどね・・・。)彼のお父さんはセルビア人、母はクロアチア人、彼も含め家族全員生まれはボスニア・ヘルツェゴヴィナなのです。なので、いつもこのようなニュースがあると、うちの家族はみんな複雑な気持ちの様子。

もちろん今でもクロアチアでは「セルビア人なんて大嫌い」「セルビア=悪」というクロアチア人もいますが、家族だけでなく、友達も含め私の周りのクロアチア人にはそう言う人はほとんどいないように感じます。

クロアチアに住むようになって、クロアチア人、ボスニア人、セルビア人などたくさんの人から戦争や民族について話を聞かせてもらい思うこと。それはこの世の中存在する真実はひとつだけではないということです。「クロアチア人が悪い」という人もいれば、「セルビア人が悪い」という人もいる。「どちらが悪いとかではなく、一般市民にはどうすることもできなかった。家族を守るためには戦うしかなかったんだ」という人も。

メディアで報道されるニュースにしても、人が話す内容にしても、それはひとつの事実(ですが、それが偽りのない内容ではないこともあります)、彼らにとっては真実。身の回りにある様々な事実ををどう受け止めるのかによって、人それぞれの真実が生まれるんだなぁ・・・この世の中、多くの事が白、黒とはっきりと分けることなんてできないんだなぁ・・・と考えさせられます。

結局今日の裁判は、ICJはクロアチア、セルビア両国の請求をいずれも棄却する形で幕が下りました。

裁判所長は「紛争中、セルビア、クロアチア共に両国の兵士により多くの犯罪行為が行われたのは事実である」と述べたものの、ジェノサイドについては「全住民、あるいはその一部を抹殺する意図があったとの証拠はない」と、両国の訴えを棄却しました。

結果を見て、ママは判決については特に何も言いませんでしたが、以前に個人ブログでも書いた女性の言葉と同じようなことを言っていました。

「わたしたちが戦争を望まなくても政治家やお偉いさんたち、権力やお金のある人たちの

 欲望に絡んだ駆け引きに巻き込まれるのはいつも無力な一般市民たち。 

 まっ先に死んでいくのはそんな私たち。昨日まで友だちだった、ご近所さんだったセルビア人、クロアチア人、ボスニャク人が殺し合いをするなんて想像できるはずがなかった。」

もちろんICJのような場所は必要だと信じていますが、戦争が終わり誰が悪い、彼が悪いと罪を裁いたとしても人々の心に残った傷は残り失ったものは返ってきません。

いろんな考えの人間が住む複雑なこの世界。残念ながら理想論だけでは平和なんて実現できないのだとつくづく感じますが、いろんな人の話を聞いて、周りに流されることなく、扇動されることなく、自分自身の頭でしっかりと考えて真実を見極める力が必要なのではないかと思います。

戦争で涙を流す人たちの数がひとりでも多く、1日でも早く少なくなりますように・・・。

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