第9回 フランスと日本をつなぐ人びと フランス政府公認高山ガイド 齋藤和英(さいとうかずひで)さん

公開日 : 2011年07月13日
最終更新 :

今回は、モンブラン山群の麓、シャモニーChamonixでフランス政府公認の高山ガイドをされている齋藤和英(さいとうかずひで)さんにお会いし、お話を伺いました。シャモニ在住30年ということで、これまでお会いした方の中ではフランス滞在最長者です。齋藤さん宅から眼前にモンブラン山群を見上げながら齋藤さんの活動や山について伺いました。

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ご自宅から見えるモンブラン山群をバックに奥様のクリスティーヌさんと。

1996年にフランス政府公認の高山ガイドの資格を取得され、これまで数え切れないほどの登山客をガイドしてこられました。登山客の国籍は様々で、ヨーロッパ各国、ロシア、オーストラリア、アメリカなど。登山ガイド協会からガイドを依頼される場合も齋藤さんが日本人だからと言って日本人客を依頼してくることは少ないそうです。とはいえ、最近は古くから知っている日本人の登山者と登ることが多くなったとのこと。行程としては、岩登りなどの短いもので半日、長いもので2週間ほど。またヨーロッパ・アルプスの跨るオーストリア、スイス、イタリアを問わず、フランスとスペイン国境のピレネー山脈に足を伸ばされることもあります。

1971年、日本で登山用具メーカーの開発業務に勤務しながら登山をされていた齋藤さんは、当時多くの日本のアルピニストが目指していたように、ヒマラヤ登頂を目標としていました。その前段階としてヨーロッパ・アルプス最大の登山入り口であるシャモニを来訪。この時の感覚を「未知の場所を訪れる時の新鮮で清らかな感激」として「登山時報」最新号に書かれています(*1)。当時海外へ出ることは今ほど容易でなく、外貨持ち出しは600米ドルまで、日本円も2万円まで、という制限の中、一次旅券でヨーロッパへの旅を決行されました。それでも当時はヨーロッパのあちこちで日焼けした日本人のバッグ・パッカーを見かけたそうです。そうしてヨーロッパ・アルプスに挑み始めた齋藤さんですが、1年間だけの滞在では不足で、さらに長く滞在したいと思っていたところシャモニでスポーツ用品店の仕事を始め、そのままヨーロッパ・アルプスの魅力にとりつかれ現在に至っています。

ヨーロッパ・アルプス独特の魅力・特徴についてお聞きしたところ、日本の山にまず無い氷河、ということでした。日本ではなぜ氷河ができるか、といったことについて学校で教わることなどはありませんが、ヨーロッパ・アルプスの高山では氷河で覆われた部分が多く、またそれにともなってクレバスなどの危険な部分も多くなるため、きちんとした知識をもって臨む必要があります(*2)。齋藤さんが来られた当時と比較して、(温暖化の影響で)氷河の規模は小さくなってきたものの、交通手段もかなり高度まで整備されてきたため、高山部での行動範囲は広くなってきたそうです。

また、植物相・地層もかなり日本と違い、登山中に樹林帯から草原(アルパージュ)、そして鉱物の世界へと移っていきます。こういった点は日本の山ではなかなか経験することのできない世界だということです。

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齋藤さん

齋藤さんから、ヨーロッパ・アルプスへ登山に来られる方へのメッセージをいただきました。「日本百名山(1964年に出版された深田久弥作の「日本百名山」)の達成について話をする方がいますが、むしろ自分自身の百名山を発見することのほうが大切であり、真の登山の楽しみ方であると思います。同じように、ヨーロッパ・アルプスに来られ、モンブランやマッターホルンに登頂することを目的とされる方も多いですが、『時間をかけて粘る』だけでは本来の山を楽しむことにはなりません。やはり4千メートル以上の高山では、安全性の確保も必要です。高度がそれほど無くても、自分の体力にあった登山をすることで、登山の素晴らしさを発見してほしいと思います。」とのことでした。

安全性については、下山時に半分以上の体力が残っていることが必要で、「今なら下りられる」という限界を見極めることが重要とのこと。ガイドが速すぎるように感じられる時も、安全性を確保するためであり、経験に基づいた行動であることを忘れてはならない、とのことでした。また、登山に伴う危険は登山の困難さに比例しないことを強調しておられます。特に落石が起きやすい状況やクレバスの場所など、長年の経験と知識で事故の確立を下げることはできても、危険は常に隣り合わせ。遠くから見た山々の雄大な美しさだけでなく、その山に登ることを知り尽くした齋藤さんからの厳しいメッセージであるとともに、「登山」とは何かに対する問いかけでもありました。

また、登山ガイドとしてだけでなく、ここ10年ほど、ヨーロッパ屈指のビジネス・スクールでスイスのローザンヌにあるIMDにて、野外活動を通じたチーム・ビルディングを教えられています。頭と体の双方をフルに使って仕事分担し目的を達成しながら相互信頼と理解を深めるというプログラムを立案・設置されています。チーム・ワークの形成とリーダーシップの醸成を、齋藤さん達の山のプロとしての経験に基づいて行われるユニークなプログラムだそうです。その他にも日本からの登山ガイドのヨーロッパ・アルプスでの研修の交渉、連絡折衝などの仕事をされています。

さらにご自宅のシャレー1階部分を長期滞在用の施設として貸し出されていて、ガイドとして案内する登山客の宿泊施設としても利用されているとのことです。

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長期滞在用シャレーの寝室。

*1 「憧憬のアルプスの旅:シャモニから」(「登山時報」2011年5月号3-7ページ)

*2 氷河の解説やヨーロッパ・アルプスの登山・ハイキングなどについては、齋藤さんご自身のホームページ(http://www.isp.ne.jp/~saicham/)に情報が満載されています。

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齋藤さんへの連絡

Eメール・アドレス    saitocham@aol.com

電話番号 / FAX +33-450532819

携帯電話番号 +33-660102790

ウェブサイト www.isp.ne.jp/~saicham (日本語)

シャレー齋藤ウェブサイト http://saito.c.free.fr/index.htm 

最大6名のグループまで利用可能。寝室2部屋、リビング、

キッチン、バス・トイレが完備されています

(料金は時期によって異なるため、希望者は要問合せ)。

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