アッペンツェルでマダニに噛まれたら

公開日 : 2020年07月23日
最終更新 :

マダニがスイス全土で増えたため、スイス連邦政府が予防接種をすすめるようになったのが去年2019年のこと。

2017年から2018年にかけて、マダニ媒介性脳炎が100件から400件近くに増えたというから恐ろしいですね。

マダニが媒介するダニ媒介性脳炎の予報接種の費用は、保険会社が負担してくれるのはありがたいといえばありがたいですが......。

でも、私はどこかで安心していました。

「草の生い茂るところに行かなければいい」「行ったとしても、長ズボンの裾を靴の中に入れたり長袖を手袋の中に入れるなどしてマダニが入って来ないようにすればいい」と思っていたのです。

それが......長いゴムブーツに長ズボンの裾をしっかり入れ、手袋の長袖シャツの袖をしっかりして、首には長いタオルを巻いて庭仕事をしていたときのこと。

たった3時間の庭仕事でしたが、すっかり汗だくになったのですぐにシャワーを浴びました。

すると、足の付け根のところにニキビのようなものがあります。

私はニキビのようなものができやすい体質なので、ニキビか皮脂の塊かと思って、シャワー中に取ろうとしましたが、なかなか取れません。

数回引っ掻いて取れたのですが、何か違和感が......

シャワーから出たあと、体をタオルで拭いて電気の下で見たとき、むしった跡が直径3mmほどの穴になっていて、奥には黒い影が......

これはマダニだ!と思って、ニキビを出すように両手の親指で何度も押して、血が流れてもその作業を続けていたら、少し黒いものが取れたのですが、まだ奥の奥に残っています......

やばい......もう夜の9時を回っているし、救急で行くしかない......

マダニは頭部を人間や動物の皮膚の中に突き刺し、押し込み、血を吸います。その頭部が36時間以上残っていた場合にそこから病原体が体内に入り、病気になるというのです。

その代表格が、ライム病。

すぐに抗生物質での治療をした場合、半数以上はよくなるのですが、治療が遅れると死にいたってもおかしくないという恐ろしいものです。

ネットで調べたら、マダニの半数はウイルスもバクテリアも持っていないので、そんなに心配することはない、とのこと。

でも、半数は持っているので、そのマダニに噛まれ、それを36時間以上放置すると危険度が増す、ということですよね。

実際、知人がマダニに噛まれて熱を出し、抗生物質が効いてようやく治ったという話を聞いたばかりでしたから不安が倍増しました。

夜10時を回っていたので、州立病院に電話をかけ、事情を説明し、今から行きたい旨を伝えたら、「来なくていいです。明日、近くの診療所に行ってください」と少し笑いながら言われました。

明らかに、「あんた、大袈裟ね」って感じでした。

そこで、翌朝、近くの診療所に行ったところ、先生が「これはマダニだ! なんてしぶといんだ!」と言いながら、ピンセットで頭部をグリグリして取ってくれたそうです。

「そうです」と書いたのは、まだ黒いものが残っている......

先生に何度も確認したけれど、先生は胸を張って「取れたよ」と。

でも、この診療所では誤診を二回されて死にかけているので、まだ信用できません。

私が「塗り薬をください」というと「は? 塗り薬? なんのために? まあ、あげましょう」とニコニコしながらくれました。

続けて私が「予防接種をしてくださいますか?」と頼むと、「は? たいして効かないですよ。ま、したいならしてあげますよ」と快くしてくれました。

実は、今年こそは予防接種をしようと大きな駅前の薬局で何度か予約を取ろうとしたのですが、仕事との折り合いがつかず、延び延びになっていた矢先のマダニ事件。

1回目を注射して、1ヵ月後に2回目をしたら90%くらいは抗体ができ、さらにその半年後に3回目をするのだそうです。

ハラハラしながら寝て、翌日目覚めたら熱がありました。

なかにはウイルスだかバクテリアだか忘れましたが、2日後に症状が出ることもある、とネットで読んだので、もう一度診療所に行ったところ、「ただの夏風邪ですよ、ビフィズス菌をあげましょう。たくさん食べて、たくさん飲んで、ゆっくり休んでください」と笑われる始末。

そうなのか......

で、1週間後に予約をもらったので、この1週間は微熱とだるさ、ちょっとした吐き気で変な時間になりました。

1週間後の血液検査ではウイルスは入っていないとのこと。さらに1ヵ月後にバクテリアのための血液検査もするとのことですが、まあ大丈夫でしょうとの診断です。

これまで通院3回、塗り薬、予防接種、血液検査の合計で約2万円とのこと。

この費用は、スイスでは個人が「健康保険」と「事故保険」に入ることになっていて、そのうちの「事故保険」が全額負担してくれることになっています。

あれだけ完全防備をして、しかも背の高い草をかき分けるわけでも山登りするわけでもなく庭仕事をしただけなのにマダニに噛まれた私、そして救急病院の電話口でも診療所でも鼻で笑われた私......

とにかく、感染していなくてよかったのですが、自分の身は自分で守らねばと改めて強く思った夏の午後です。

筆者

スイス特派員

ヘス 順子

スイス東部のアッペンツェルに住んでいます。日本とスイスの橋渡しになるような仕事をし、それを深めていきたいです。

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