秘密めかした地下のバー 検索不可能 404 BAR NOT FOUND
私は今、あるバーでビールを嗜んでいる。
チョコレートの香りのつけてあるこのビールはベルギー製で、有名な『GUINNESS』同様、グラスに注いだ時に泡を細かくする為のプラスチックの球が入っている。
ビールを注ぎきってしまうと、空の缶の中の球はいよいよ用済みだ。
缶とビールと球、用済みの球とは一体何なんだ。無意味な事をぼんやり考えながら、所在なげに辺りを見回す。
色とりどりのネオンに照らされた、紫煙で多少曇った店内にはDJブ−スが設置されている。
CDJとMACを駆使したDJが、アンビエントを掛けている。
さっきは「今時フルいだろ」とツッコミを入れたくなる様な20年前に流行ったブラックミュージックが流れていた事を鑑みるに、時間毎に選曲する人が違うのだろう。
あちこちで上がる若い男女の矯正も、週末の夜に相応しく、いずれもある種の高揚感の演出に一役買っている。
さて、このバー。ここに入るには、幾つかの手続きが要る。
先ずは21歳以上である事。月齢で言えば241ヶ月以上。私は何とかクリアしている。
次にこの店を知っている人に、この店の存在を聞く事。
いや、何も紹介制という事ではないのだが、この店の事は、どのサイトにも紹介されていない為、ここに辿り着くにはそれが一番の近道というだけの事だ。
店の外観は一見すると、別のレストランとして営業している。
そのレストランに入り『この地下の秘密のバーを知っている旨』をボーイに耳打ちすると、特別な窓口に案内してもらう。
窓口でも同様、バーに入りたい旨を告げ5,000テンゲ(約1,700円)を支払う。そうすると窓口から大きな金色のコイン5枚が手渡される。地下世界では貨幣として流通する硬貨。
受け取ろうと差し出した手にスタンプが捺される。紫外線を照射すると光って見えるタイプの塗料を用いたスタンプ。これはなんとも危険な香りだ。
店内を横切り、窓口と反対側の出入り口に向かって進むと、黒い電話ボックス。
今時、電話ボックスを使う人間などいないだろうと思うが、それこそが狙いなのだ。
この黒い電話、実は地下の入り口に通じるコード(暗号)を入力する装置になっている。
そしてそのコードが発行されるのが当日のみで、発行されたその日しか使う事が出来ない。
ちなみにインスタ 404barnotfound で発行している。
横に立つ強面の警備員に気取られない様に、手早く、そして間違えない様にコードを入力する。
小さな音を立てて、重い扉が開く。
扉の先には地下への螺旋階段。降りきった先に小部屋。
無表情な警備員が、紫外線照射装置を手に歩み寄ってくる。
手の先ほど捺された辺りを掲げると確認を終え、表情を変えぬまま微かに頷く。
後ろを振り向くと、鍵付きのコインロッカーが目に入る。何かあると面倒だ。スマホ以外の荷物を仕舞う。
前室を通り抜け黒いカーテンを潜ると、ネオンの輝く地下世界が眼前に広がる。
時間が早かったせいかあまり人は多くない。
椅子や大きなテーブルの並ぶ中央を通り過ぎると、一方通行でしか入れない酒の並ぶ一画がある。
ポケットの硬貨が役に立つ時が来た。
棚に並ぶ酒はウォッカからコニャック、ワイン、冷蔵庫には多種多様のビールがある。
それぞれ数字が書いてあり、値段はどうやらテンゲで表示されているらしい。
生ビールとシャンパンを頼み、恐る恐るくだんの硬貨を出す。
硬貨は1枚1,000テンゲで通用し、端数は現金で払い、同様に釣りは現金で貰う。
「現金使えるんかい」という言葉は飲み込む。下手な事を言って何をされるかわかったものじゃない。
買った酒を手に店の中央、空いているテーブルにつく。
望めば料理を頼む事も出来る。
傍らのメニューを見るに、料理は上のレストランのものの様だ。
シャシリクを注文する。
ダーツがあったのでやってみる。
1ゲーム500テンゲ。
偶然ルールのお陰で勝てたものの、私は基本的にダーツは下手らしい。
向こうの一団が、バスケットボールのフリースローに似たゲームに興じている。
両陣営が交互に卓球大のボールを投げ、ゴールに見立てたグラスに入る度に、入れられた方が酒を飲むという、米国ではポピュラーな遊びだと教えられる。
カジノのルーレットとショットグラスが一体化した道具もある。
大人数で酒をあおるのに良さそうだ。
トイレに立つと、そこはおよそカザフスタンとは思えない光景が広がる。
日本では廃刊になった月刊の方の『PLAYBOY』誌に出てくる様な、扇情的なグラビア写真が壁一面に貼ってある。
誰かに口止めをされた訳ではないが、ここに詳しくこのバーの存在を書いてしまった以上、私の身に何が起こるかわからない。
賢明な諸兄諸姉においてはどうか、正しい道順と秘密を厳守した上でここに訪れる事をおすすめしたい。
【404 BAR NOT FOUND】
住所:カバンバイ通り13/4 カナダ大使館の左隣、レストラン『Пункт П』の地下
インスタグラム:404barnotfound
https://goo.gl/maps/M32LM1upaLK2
【記載内容について】
「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。
掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。
本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。
※情報修正・更新依頼はこちら
【リンク先の情報について】
「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。
リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。
ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。
弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。