ブブリーナ博物館@スペツェス島

公開日 : 2009年08月22日
最終更新 :

 ギリシャの独立戦争でめざましい活躍をとげた女性ラスカリーナ・ブブリーナ。ギリシャでこの名前を知らない人はいません。スペツェス島で海運業を営んでいたディミトゥリオス・ブブリス氏の妻だったことから、通称ブブリーナと呼ばれました。彼女の邸宅がスペツェス島に残っていて、91年より博物館として公開しています。最初にガイドの女性が彼女の生涯について詳しく語ってくれ、その後、彼女や家族の縁の品々が展示される屋敷の内部を見学させてくれます。(入館料5ユーロ)。

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 父親は1770年のギリシャ独立運動でトルコに捕えられ、コンスタンティノープルに投獄されていました。父親が死に瀕していると聞き、身重の母親は刑務所に駆けつけ、その際にブブリーナを出産したといいます。生涯を通して波乱万丈な彼女の人生ですが、出生からして劇的な女性です。

 幼少時は母とイドラ島に住み、その後スペツェス島に移住。17歳で海運業を営む裕福な男性と結婚しますが、数年後、夫は海賊に殺されてしまいます。30歳の時に再婚したのが、ブブリス氏。トルコに統治されながらも海運業で財を成した貿易商は多くいて、彼もまた大変な資産家でした。しかし再び同じ悲劇が訪れ、2番目の夫も航海の際に海賊に殺されてしまいます。

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 最初の夫との間に3人、2番目の夫との間に4人の子がいたブブリーナは、40歳で再び未亡人となります。そして30万タタラ(スペインの黄金金貨)とも言われる莫大な資産とたくさんの船舶を引き継ぐこととなるのです。

 そしてついに1821年に独立戦争が勃発。彼女は自分の私財を全て投じて、ギリシャの独立のために戦うことを決意します。多くの船を率いて戦いに参戦しましたが、それだけではなく、7万5千タタラをかけてギリシャ国内はもちろん、当時の地中海全海域で最大最速の船「アガメムノン」を製作。18の大砲を備えたアガメムノンに乗船し、女提督として海の戦いの全指揮をとりました。

 ギリシャの独立戦争の英雄と言えば、前回も少し紹介したコロコトロニスですが、彼がナフプリオの要塞で激しい戦いを繰り広げていた際、艦隊を率いて出陣し、海から多大な援護をしたのがブブリーナ。コロコトロニスは彼女にはほとほと感服していたといいます。

 博物館となっている邸宅の内部はフラッシュなしの撮影が許可されています。暗いのであまりいい写真が撮れませんでしたが、下の写真の部屋は独立戦争の際、ブブリーナやコロコトロニス、数々の軍人たちが秘密会議を開いた部屋。また天井はかなり痛んでいるものの、フィレンツェの職人による見事な寄木細工の作品だそうです。

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 左下の写の部屋は、当時の見事なイコンや中国製の素晴らしい陶器などが飾られていました。右下の写真の見事な装飾の衣装ケースは、ブブリーナが結婚の際に、プリーカと呼ばれる持参金の一部になる贅を凝らした衣服などを入れてきたものだということです。彼女の直筆の書類なども残されているのですが、とても美しく整った文字で書かれており、教養の深さを物語っています。また大変な読書家でもあったいうことです。アガメムノンの模型もみることができます。 

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 左下の写真の白いクローゼット部分は今はドアになっていますが、当時は隠し扉になっていました。上部はトルコ軍が来た際に女性や子供たちをかくまう場所として使われていたそうです。右下の写真はブブリーナが身につけていたスカーフです。

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 ギリシャのために必死で戦いながらも、平和を願う心や弱い者を守ろうとする心も忘れませんでした。トゥリポリで捕えられていたトルコの要人がたくさんの妻や子供を持っていたのですが、全員死刑にしようとしていたギリシャ軍の本部に単身、馬で駆けつけ、女性と子供を全員解放するようにコロコトロニスに迫り、了承させたこともありました。

 戦争が終わり、ギリシャが独立を勝ち取った後、ブブリーナは私財を全て使い果たし、残ったのは子供たちとこの邸宅だったといいます。後にコロコトロニスの息子、パノスはブブリーナの娘、エレーニと結婚したそうです。

 しかしブブリーナの死は彼女が54歳の時に、突然にやってきます。最初の夫との間にもうけた息子が資産家の娘と恋に落ちたのですが、その一家はブブリーナの家との縁談をよく思いませんでした。おそらく戦争後、一文無しに近い状態だったからではないかとガイドは説明していました。反対されたブブリーナの息子とその一家の娘は駆け落ちをします。その後、彼らが隠れていた家で、ブブリーナとその一家の者が衝突。ブブリーナは激昂した一家の親戚のひとりに撃たれて亡くなってしまいました。

 これだけギリシャのために貢献した女性なのに、彼女の最期は悲劇的です。小説や映画の中だけでなく、史実でも神業ともいえる活躍をした人物は大きな業績を残した後、ささいなことで命を落としたりしますが、彼女の人生はまさに劇のよう。天命ともいえる偉業を果たした後、あっけなく逝ってしまいました。

 しかし今後もブブリーナはギリシャ人の心の中に住み続け、次世代へ語り継がれていくことは間違いないでしょう。

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