選挙と初代大統領とポテトの話

公開日 : 2009年10月08日
最終更新 :

 ギリシャでは10月4日に総選挙が実施され、日本と同じように政権交代が実現しました。中道左派の野党・全ギリシャ社会主義運動( パソック)が圧勝。予想はされていましたが、国会議席の絶対過半数を上回りました。与党だった新民主主義党(ネア・ディモクラティア)を率いるカラマンリス首相は敗北を認め、党首を辞任。パソックの党首ヨルゴス・パパンドレウ氏が新首相となり、昨夜全ての閣僚が決まりました。経済・財務相など数名の女性閣僚が誕生しています。昨年末の暴動以来、社会不安が募るギリシャですが、新政権は経済再建に全力を尽くす姿勢をアピールしています。 

 選挙に因み(?)ちょっと政治家のお話を...。前回、ナフプリオの際に少しご紹介しましたが、ギリシャの初代統治者(大統領)となったイオアニス・カポディストリアス(写真下の肖像)。彼の生涯とポテトにまつわるエピソードです。

 今となってはタヴェルナでもフレンチ・フライ(フライドポテト)は定番メニュー。カラッと揚げたてのポテトは本当に美味しく、ギリシャの人々はずいぶんとジャガイモを消費しておりますが、根付いたのはなんと19世紀に入ってから...。

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 ジャガイモをギリシャに根付かせたイオアニス・カポディストリアス(1776−1831)はケルキラ(コルフ)島の名門の生まれ。イタリアで医学や哲学を学び、故郷に戻ってからは、若い頃よりイオニア諸島の統治において重要な地位に就任し、様々な教育改革などに着手しました。

 その後、ロシア外務省の招聘を受け、アレクサンドル1世のもとで外交官として働き始めます。外交官として優れた手腕を発揮した彼は、ヨーロッパ列強国のどの政府にも一目置かれ、強豪国の勢力の均衡を保つために尽力しました。1815年のウィーン会議でも活躍。スイスが永世中立国として承認されたのも彼の功績が大きかったと言われています。これらの外交手腕を評価され、アレクサンドル1世からロシアの外務大臣に任命されました。

 ロシアの外相として活躍しながらも、ギリシャ人として祖国ギリシャの情勢を見守っていたカポディストリアス。1821年に独立戦争が始まり、内戦状態をも引き起こしていたギリシャですが、27年に国民会議を開き、どの一派にも属さず列強諸国との太いパイプを持つカポディストリアスを大統領に選出しました。

 彼はギリシャ独立のため、近代国家形成のため尽力することを決意。祖国に帰り、ヨーロッパ列強国にも助力を要請しました。そしてナフプリオにて、近代国家の骨組みをつくるために様々な政策を実行していきます。

 新貨幣を導入し、国立銀行を設立。軍隊、学校、病院を整備し、外国からの投資をもとに、貿易を中心とした経済の振興にも力を入れました。普通だったら数十年かかるような国家建設を、暗殺されるまでの4年間、まるで神業のように迅速に成し遂げました。

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 またトルコとの戦争や内戦で貧しかった国民の食生活を改善するため、繁殖力の強いジャガイモの栽培を奨励。まずはどんなに美味しいものか知ってもらおうと外国から大量に輸入し無償で分け与えましたが、国民は見向きもしませんでした...。

 そこで作戦を変更した彼は、ナフプリオの港にジャガイモの入った袋を山積みにし、その周囲を昼も夜も複数の兵士で固めました。人々はそれを見て想像を膨らませます。「ジャガイモとはそんなに大事なものなのか...きっと美味しいに違いない...」。実はカポディストリアスは兵士に「ジャガイモを盗もうとする者がいても気がつかないフリをするように」と言い含めてありました。人々は次々とジャガイモを盗んでいき、最後には1袋もなくなってしまったそうです。その後、全土で栽培されるようになり、庶民の食卓には欠かせない食物として、すっかりギリシャにも浸透したのです。

 反抗心も強いけれど、好奇心も強いギリシャ人の心理を利用したカポディストリアスの作戦勝ちだったと言えましょう。

 大統領に就任してから、たった4年の後にナフプリオで暗殺されてしまったカポディストリアス。もし彼が長く生きていたらギリシャはもっと早く近代化しただろうと言われています。現代のギリシャでも大きな尊敬を集めており、旧ドラクマ紙幣には彼の肖像が印刷されていました。今でも20レプタ(ユーロセント)には彼の肖像が刻まれています。

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