メヴレヴィー教団、驚異の旋舞

公開日 : 2010年05月07日
最終更新 :

 財政危機だ、暴動だと日々めまぐるしく、あっという間に数週間前のことになってしまいましたが、トルコのメヴレヴィー教団がメガロ・ムシキ(アテネ・コンサートホール)にやってきました。イスラム教のイスラム神秘主義の教団のひとつで、13世紀にジャラール・ウッディーン・ルーミーによって開基。

 旋舞教団といわれ、長いスカート状の衣をまとった信者が音楽に合わせて信じられないほど長い時間、クルクルと回転する舞踊で知られています。ユネスコの世界無形遺産にも登録されています。

WORK 822.jpg

 彼らにとってこの舞踊は祈りの手段で、とめどない回転は宇宙の運行を表し、神と一体化するという儀式の舞踊。教団の中心地はルーミーが最期を迎えたトルコのコンヤで、そこには墓廟があるそうです。ルーミーが十数年の歳月を費やして精神世界をつづった著書は膨大な量のもので「ペルシャ語のコーラン」と呼ばれ、後世に伝えられています。

 メヴレヴィー教団は15世紀頃にはオスマン帝国の庇護を受け大いに栄え、セリム3世のようにスルタンでさえ信仰をよせたこともありました。しかし1923年のトルコ革命の脱イスラム政策で、数年後には霊廟は破壊され教団は解散させられるなど、受難の時代を迎えます。現在は歴史的文化価値などから復興、霊廟は博物館として一般に開放されているということですが、現地でもこの旋舞はなかなか見られる機会はないらしいので、この機会にぜひと思い、出かけました。

WORK 820.jpg

 彼らが舞台に登場すると、少し拍手がおこりましたが、これは普通のコンサートとは違って祈りの儀式なので、「静かに」「シィーッ」という声があがり、観客席は静まり返りました。そしてひとりひとり次々と回転を開始していきます。皆、目を閉じ、右手は天へ左手は地に向けています。自らは回りつつ円形を描き、神との一体感を感じ、恍惚となっていくそう。普通の人間なら、10回くらいまわっただけでグラグラ目がまわりますが、信じられないほど長時間、一度踊り始めると30分くらいは回り続けていたと思います。

 全然、フィールドは違いますが、数年前、日本のテレビ番組の「トリビアの泉」でフィギュアスケートの安藤美姫選手を特殊な機械に乗せて何十分も回転させ続けても、その後平気でまっすぐに走ってポーズをとっていたことを思い出しました。壮絶な訓練で人間の肉体はここまで適応するのかと驚きましたが、この旋舞も驚異的でした。色とりどりのスカート部分は観客席の上の階から見ていると、まるでゆらめく花でも見ているような錯覚にとらわれます。不思議な、まさにスーフィズム(神秘主義)の世界。

 音楽は祈りのメロディーなのでどちらかというと単調ですが、なんだかすごく安らかな耳触り。舞踊もひたすら回り続けているだけなのですが、心地良くなってきて全く見飽きることがありません。ここ数日のギリシャの暴動、欧州危機の中で、この夜のことを思い出すと、なんだか別世界でした。

WORK 821.jpg

 5日の暴動では何の落ち度もなく銀行で働いていた人たちが放火により亡くなりました。皆、30代の若い行員たち。亡くなった女性のひとりは第2子を妊娠していたそう。当時、他の銀行をはじめとしてホテルや商店など周囲の建物は固く扉を閉ざし避難していたところが大半だったのに、なぜ営業していたのか。殺人犯探しは……国会に集まった政治家は何をしていたのか。皆、やり場のない怒りと哀しみを感じています。6日もデモがありましたが、行員が亡くなった現場には花を手向ける人々が大勢訪れています。

 デモやストは自分たちの首を絞めるだけではと感じる人も多いでしょうし、一般の人が巻き込まれて亡くなるのは私の中でも絶対に受け入れることはできません。しかし大半のデモは平和的で、生活が圧迫され、本当に困っている人々が窮状を訴えているだけです。ある日突然、収入が激減し、家庭崩壊の危機にさらされている人々にすれば、莫大な国のお金を盗んでおきながら、のうのうと国会に居座り続ける汚職政治家が野放しでは叫びたくもなるでしょう。ただそういったデモを利用するアナーキストらが、混乱に乗じてデモ隊に紛れ込み、覆面をかぶり放火や破壊活動をするのです。

 現政権のパソックや前政権のネア・ディモクラティアの政治家で汚職疑惑のある政治家の名前は数名あがっており、バッシングも激しいのに辞職しない、法律で罰せられない…。どの国も同じですね。そして2大政党の党首は彼らを除名さえもしていません。パパンドレウ首相もこの件にあくまでふれません。この後に及んでも国会では罪のなすりつけ合い。ニュース番組では盗っ人政治家の実名を出して、所業を暴露する企業家も。完全にカオスです。

 前政権下で外務大臣だったドーラ・バコヤンニが緊縮策の採決を巡ってネア・ディモクラティアの党方針に造反し離党するなど、政界にも動きは出ています。政界再編、また選挙だと予想するジャーナリストまで。とにかく政治の混迷と国民の怒りは頂点に達しています。

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。