タイ北部チェンマイで山岳民族の手工芸品に魅せられた日本人女性28歳の挑戦

公開日 : 2021年12月28日
最終更新 :
筆者 : 日向みく

タイ北部チェンマイで、山岳民族が生み出す手工芸品販売のサポートに奮闘する日本人女性ユイさん(28)。コロナ禍で売り上げが激減し危機的な状況にあったフェアトレード団体を救い、現地に新しい風を吹き込んでいます。

彼女が現在の活動を始めるまでの経緯や、チェンマイ暮らしの様子、山岳民族の技術と文化の継承を見据えた展望について伺いました。 

北タイの民族雑貨の魅力を届けたい

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アカ族の民族衣装を纏ったユイさん

――それではユイさん、まずは簡単な自己紹介をお願いします。

神戸出身のユイです。2021年1月に夫婦でチェンマイ移住して、現在はチェンマイ大学の学生としてタイ語を学びつつ、「Thai Tribal Crafts」(以下、TTC)というフェアトレード団体で山岳民族の暮らしを支えるサポートをしています。

山岳民族たちが生み出す手工芸品の魅力を伝えたくて、写真をインスタに載せたり、現地生活の様子をYouTubeで発信したりしています。

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――ユイさんのチェンマイ暮らし、現地民との交流が盛んでとっても楽しそうです!

チェンマイにきて1年が経ちますが、ありがたいことに優しい人たちに恵まれて、毎日笑って過ごしています。もう、チェンマイにゾッコンです(笑)。

――タイ北部の山にはどんな山岳民族が住んでいるのでしょうか?

カレン族、ラフ族、アカ族、モン族、リス族、ヤオ族、ラワ族など、いろんな少数民族の村が点在しています。それぞれのルーツはバラバラで、たとえばカレン族はミャンマー、ラフ族はチベットや中国の雲南省から移り住んできたとされています。

――山岳民族の手工芸品にはどういったものがあるのでしょうか?

民族ごとに特徴は全く違っていて、たとえばカレン族は機織りと刺繍、モン族はクロススティッチの刺繍やろうけつ染め、アカ族は細かい刺繍が得意です。リス族は色鮮やかな重ね縫いがかわいいですし、ラワ族のシルバーアクセサリーもすごくきれいです。

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アカ族の刺繍鍋敷き
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ラフ族の手織布

――かわいいものばかりで眼福です。 気にいったものがあればTTCを経由して購入することができるのでしょうか?

はい。TTCが運営している InstagramFacebookにDMをいただければ、タイ在住の方はもちろん、日本在住の方にも商品をお届けできます。

コロナ禍で退職を決め、夫婦でチェンマイ移住

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――そもそも、なぜご夫婦でチェンマイ移住をされたのでしょうか?

私たちは同じ会社で、ふたりとも駐在でバンコクに派遣されていたんです。2018年から2年3ヶ月のあいだ、私はプーケットのリゾート施設開発などに携わっていました。

ところがコロナ禍で経営状況が悪化して、バンコクのオフィスが閉鎖に追い込まれてしまって。タイにはもっと長くいる予定だったし、想定外の事態に戸惑いましたね。「日本に戻って働かないか?」と会社から申し出をいただいたものの、自分のやりたい業務内容ではなくなってしまうので悩みどころでした。

そこで夫と話し合って浮上した案が、チェンマイ移住だったんです。移住を決めてからは早くて、2人そろって退職して準備を進め、3カ月後にはチェンマイにいました。学生ビザを取得してチェンマイ大学の外国人向け語学コースに申し込み、翌月から学生生活が始まりました。

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――なぜチェンマイだったのでしょうか?

なんとなくです(笑)。「バンコクにいる必要はないし、せっかくなら新しい場所に住みたい!」ということで、都会より田舎が好きな私たちは、ノリでチェンマイに決めました。

――チェンマイでは大学に通われていたんですよね。

はい。タイ語を習得したかったのと、経歴にもちょっと箔がつくかなと思いまして(笑) 。とはいえ、大学の授業は週6時間のみで、それ以外は自由なんです。

空いた時間に夫は資格の勉強に励んで、私はフェアトレード団体でボランティア活動をしています。

北タイの山岳民族を支援するフェアトレード団体「Thai Tribal Crafts」

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「Thai Tribal Crafts」のメンバー全員で記念撮影

――ユイさんが所属するフェアトレード団体TTCとは?

TTCはタイ北部に暮らす山岳民族の生活水準の向上や伝統技術の保護を目的として、1973年にアメリカ出身のキリスト教宣教師たち数名によって設立されました。2002年には、世界フェアトレード機構(WFTO)の認証も受けています。

タイ北部の山岳地帯はインフラが整いにくく、今なお多くの人々が貧しい生活を送っています。彼らの独自の文化や技術を取り入れた手工芸品の販売方法を模索することで、経済的な自立へと導くことができると考えたんです。

TTCの本部とショップはチェンマイにあって、数十年にわたり生産者と消費者を繋ぎ、タイ国内外に向けて手工芸品を販売してきました。

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――団体ではどんな方々が働いているのでしょうか?

ミャンマー出身の男性マネージャーが1人、カレン族とラフ族出身の常駐女性スタッフが3人、そしてボランティアの私を合わせて、計5人です。年齢層は30代、40代、50代と幅広いです。

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――TTCはどのような仕組みで運営されているのでしょうか?

商品のオーダーを受けたら、まず山の上に暮らす山岳民族たちに「注文が入ったよ~」と発注をかけます。彼らには、機織りや刺繍、染めなど、伝統技術が必要になる肝のパートだけお願いします。できあがったものが山から届いたら、今度はチェンマイの街中で暮らす山岳民族出身者の自宅に配って、各家庭で仕上げをしてもらいます。

たとえば刺繍入りバッグなら、山の上の山岳民族が刺繍を担当し、街の山岳民族が縫製などをして仕上げる、といった感じです。

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――工場ではなく、各家庭で作業されているんですね。

はい、山の上でも街でも、各家庭で作業しています。作り手のほとんどは女性で、彼女たちは農作業の合間や子育てをしながら、いわば副業のような形で働いていますね。

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刺繍も織物も気が遠くなるほど根気がいる作業で、失礼ながらも「ずっと同じ作業してて飽きないの?」と尋ねたことがありました。そしたらみんな、「飽きないよ。だって楽しいじゃん!」って。尊敬の眼差しです。

フェアトレード団体の危機的な状況を目の当たりに

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――ユイさんはどういった経緯でTTCでの活動を始められたのでしょうか?

昔から民族や雑貨が大好きで、海外旅行のたびに雑貨を集めたり、伝統衣装のコスプレをしたりしていました。チェンマイ移住を決めた当初、山岳民族と関わりたくて、TTCのオフィスに飛び込みで訪問して「ボランティアをさせてもらえませんか?」とお願いしたんです。

すると、「私たちの団体はコロナ禍で大打撃を受けてしまって、いつまで存続できるか分からないの。それでもよければいいわよ」と、想定外の言葉が返ってきました。

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――なんと... 団体は当時、どういった状況だったのでしょうか?

団体の運営資金である手工芸品の売り上げが、壊滅的なダメージを受けていたんです。コロナ前は、チェンマイ各地に路面店を設置すれば、大勢の外国人観光客が商品を購入してくれました。でもコロナ禍で観光客は消え、路面店での売上はほぼゼロになってしまって。タイ人は山岳民族の商品をあまり買わないですし。

幸いにも路面店の売り上げがすべてではなく、数十年にわたって付き合いがある日本やフランス、ニュージーランドなどのフェアトレード団体から定期的に商品のオーダーがあったので、なんとか持ちこたえていたようです。でも、「キャッシュが足りないから発注を前倒してもらったけど、そのキャッシュも無くなったらどうしよう?」といった感じで、まさに自転車操業でした。

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リス族の刺繍入りバッグ

――外国人観光客が激減して、団体の経営が立ちゆかなくなってしまったんですね。

そうなんです。ただコロナの影響だけじゃなくて、団体の経営体質にも根深い問題があると感じていました。実はTTCは、数年前に法人化しているんです。「ファウンデーション」じゃなくて「カンパニー」。だから本当は自分たちで積極的に営業をかけて、運営していかなければいけないのですが......。

団体が設立された当初の「寄付金でまわす」「だれかに保護してもらう」みたいな体質が、いまだに残っていました。組織としての基盤の脆さがコロナ禍で露呈してしまっただけで、いずれは存続が危ない組織だったと思います。

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――団体のスタッフさんたちも、以前から経営体質の問題を認識されていたのでしょうか?

いえ、あまり (笑)。経営を知らない素人目線でみても危機的な状況だと感じたので、「自分たちでも営業をかけていく必要があるんじゃない?」とたびたび提案してみたものの、「誰かが助けてくれるよね」という他力本願な空気をかなり感じていました。

でもコロナ禍で存続危機に陥ってからは、さすがに「やばい」と焦り始めたようです。

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――TTCは長い歴史をお持ちですが、今はどういったフェーズなのでしょうか?

コロナ前からピークの時代は過ぎ、団体としてはすでに盛り下がっていたようです。

TTCが設立されたときはアジア雑貨屋やモン族市場もまだない時代で、競合もいませんでした。注文があったら「うちしかない」という状態だったので営業ゼロでも売れたし、実際に世界各国からめちゃくちゃオーダーがきたそうです。

でも今は競合が爆発的に増え、手工芸品業界全体としては上向きでも、他企業にパイをとられて以前ほど売り上げがあがらなくなりました。昔はたくさんいた従業員の数も今は激減してしまったそう。そんな矢先のコロナだったので、もともと抱えていた問題に向き合うきっかけができて、ある意味「良かったのでは?」とすら思っています。

SNS発信に注力してオンライン販売を実現

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――TTCの危機的状況を打破するために、どんなことを行ったのでしょうか?

フェアトレードについて無知な私なりにも、「このままでは団体が潰れてしまう。どうにかしなくては!」という想いでオンライン販売の実現を目指しました。

1人でも多くの人に山岳民族や民族雑貨について知ってもらいたくて、アカウントのみ存在していたTTCのInstagram運用を任せてもらうことになったんです。

「どうすれば商品の魅力を最大限に伝えられるだろうか」と日々頭を悩ませながら、愛してやまない手工芸品の写真を定期的に投稿し続けました。

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――商品のオンライン注文は増えてきていますか?

はい。最近ではありがたいことに注文の数が少しずつ増えてきています。コロナ禍で旅行客が消えてしまった今、オンライン注文は山岳民族の暮らしを支える生命線になっています。

一方、オンライン注文の課題にも直面しています。ハンドメイドの雑貨って唯一無二のデザインなので在庫ができず、基本的にネット販売には向かないんですよね。

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そんな思いもあり、2021年8月にbase(ベイス)で日本人向けのネットショップ「bon-doi」(ボンドイ)を立ち上げました。

bon-doiでは販売する商品の種類を絞り、在庫を用意しています。商品はTTC経由か、現地でお世話になった山岳民族から直接仕入れています。

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―― "bon-doi" にはどのような意味があるのでしょうか?

"bon-doi" とは、山岳民族が「お山の」「村」「実家」というニュアンスでよく使っている言葉です。北タイのお山のモノを、私が山岳民族と過ごした感じた空気や、作り手さんの笑顔と共にお届けしたい。そんな思いを込めました。

「良いモノを作る喜び」が村人の意識を変えた

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――発信活動をされるなかで、大変なことや難しいと感じることはありますか?

山岳民族のことは心からリスペクトしているし、こういうことを言うのは上から目線な気がして複雑なんですが、村人の多くは一般企業で働いた経験がなく、世間や競争社会をあまり知りません。ゆえに「自分になにができるか」といった発想が乏しく、なにか思いついても「じゃあどうやって?」と考えるのが苦手で、すぐに諦めてしまうんです。

せっかく素晴らしい商品なのに、「汚れがあっても気にしない」「縫い目が曲がっていても気にしない」ということが多く、すごくもったいないと感じていました。でもそれを伝えると、よく嫌そうな顔をされましたね。

でも現実として、細やかな配慮なくしては生き残れないので、「どうすれば彼らが本気で向き合ってくれるんだろうか」と悩みました。

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色鮮やかで繊細なアカ族の刺繍バッグ

――そこから村人たちの意識になにか変化はあったのでしょうか?

少しずつ変わってきていると感じます。彼らは一度成功体験を積むと、すっごく吸収するんです。だから私も、できるだけ彼らが「良いモノを作る喜び」を感じてもらえるよう意識するようになりました。

たとえばお客さんの嬉しい感想を共有したり、「あなたが撮った写真が素敵だから売れたんだよ」と伝えたり。「工夫すれば売れるんだ」と肌感覚で理解したとき、彼らの意識が変わり始めました。

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商品撮影にこだわるようになったり、「これ作ってみたんだけど、インスタに投稿してみて?」と商品を自ら持ってきてくれたり。「こういうデザインは日本人受けするかな?」と聞いてくれたり。彼らは「気に入ると、ずっとやる」という傾向もあります。

みんな安いスマホしか持っていないので、私のスマホやカメラを貸しているんですが、「ユイが帰国したらカメラがなくなっちゃうから、団体の経費で新しいカメラを買った方がいいんじゃない?」という話し合いを見たときは、なんだか感動しちゃいました。

TTCの歴史上初、バンコク開催の単独ポップアップイベントも実現

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バンコク初開催! 単独ポップアップイベントの様子

――先日、TTC史上初となるバンコクでの単独ポップアップイベントが実現しました。どういった経緯での開催だったのでしょうか?

私の友達経由で、バンコクの飲食店さんが「うちでイベントをやりませんか?」とお声かけくださったんです。それまでにもバンコク開催のフェアに出展したことはあったのですが、単独でのポップアップは初めてでした。

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――当日は大盛況だったみたいですね。

はい。ご来場いただいたみなさんのおかげで、なんと売り上げは11万バーツ超え。スタッフ全員がひっくり返って驚きました。売上はすべて、山岳民族の作り手さんへの支払いや団体の活動の継続のために、大切に使わせてもらっています。

山岳民族たちにもイベントの写真や動画を見せたら大喜びで、さらに「やる気スイッチ」が入ったようです。感謝しかありません。

――日本人受けする商品にはどういったものがあるのでしょうか?

普段使いがしやすくて、お洒落にかわいくアレンジされたものが好まれますね。ポーチやお部屋に飾るものなども人気です。

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日本人に人気。チロリアンテープとのコラボがかわいいモン族のポーチ

一方で、欧米人だと「ザ・山岳民族!」みたいな民族らしさ満載なものが好きな方が多いです。フェアトレードに対する意識が高い人が多くて、その言葉だけで買ってくれる人もけっこういらっしゃいます。

国によって好みに違いがあるのはおもしろいですよね。

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欧米人に人気なカレン族のクッションカバー

私がよく「これは日本人好みのデザインだね」「これは欧米人が好きそうだよ」とか話すので、山岳民族たちも「日本人向けのデザインを考案してみたよ」と提案してくれるようになりました。

おおらかな山岳民族の優しさに癒されるチェンマイ暮らし

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ラフ族ファミリーの自宅にて食事をご馳走になった

――ユイさんはどうやって山岳民族と交流を深めているのでしょうか?

TTCの常駐スタッフの家族、その娘さん、娘さんの彼氏、作り手さんなど、TTC経由で繋がることが多いです。彼らの自宅に訪問して食事をご馳走になったり、機織りの様子を見学させてもらったり、お祝い行事に参加させてもらったりと、いろいろな場に呼んでくれてありがたいですね。

――山岳民族と話をするときは、タイ語ですか?

はい、タイ語です。彼らは普段の生活で、カレン族ならカレン語、ラフ族ならラフ語と民族独自の言葉を話しますが、私たちがいるときは気を遣ってゆっくりとタイ語で話しかけてくれます。異なる民族間の交流でも、公用語としてタイ語が使われているようです。

ただ高齢の方だとタイ語が話せない人も多いですね。当初はそれぞれの民族語を覚えようと試みたんですが、キャパオーバーで早々に諦めました(笑)。

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カレン族の友達と

――山岳民族の食文化って、タイ料理とは違うんでしょうか?

けっこう違いますね。民族によっても特色はバラバラで、たとえばラフ族のルーツは中国なので中華料理っぽい料理が多く、日本人の口にも合いやすいです。

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ラフ族の食事

カレン族の料理は独特で、どんな料理にもレモングラスをぶち込んで、どろどろになるまで煮込むんです。だから、どの料理もレモングラスの味がします(笑)。彼らはカエルやネズミも食べますし、「山を愛し山で生きる」「あるものをおいしくいただく」という文化を大切にしているんですよね。

この前はラフ族の子が「カレン族のご飯はまずいから私は食べない」と言ってて、おもろいな~と思いました(笑)。

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カレン族の食事

――「チェンマイ暮らし」のどんなところが好きですか?

自然豊かなチェンマイにいると心が洗われますし、やっぱり人が最高です。

山岳民族たちは家族や友達をとても大切にする人が多いです。私たち外国人に対しても、「友達の友達は大切」と言って初対面でも受け入れてくれます。彼らと一緒に笑い合う時間が尊いです。

山岳地域が抱える継承問題のジレンマ

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――山岳地域の生活水準は向上してきているのでしょうか?

昔よりは良くなってきているみたいです。ただ、いまだにインフラ整備が不十分だったり、教育や医療が行き届いていなかったりと、「貧しさから抜け出せていない人も多い」という印象です。特に今はコロナ禍で、医療がすぐに受けられない山岳地域にとっては死活問題。チェンマイの街に暮らす山岳民族たちは、「山に帰ってくるな」と言われて帰省できない人がたくさんいます。

あと、こっちにきて気付いたことなんですが、山岳民族出身であることをコンプレックスに感じている人が多いですね。タイ北部の山岳民族は、ピュアなタイ族でないと差別されることがあるんです。彼らのなかには少なからず「タイに住まわせてもらっている」という感覚があると思います。

――えっ。「タイ国民」ではあるけど「タイ族」ではないことに、引け目を感じているということでしょうか?

はい。たとえばラフ族の女の子が、ピュアなタイ族の男の子と付き合っていたら、「向こうの親は知ってるの? 反対されるんじゃないの?」と周囲から心配されることがあります。日本人の自分にはない感覚だったので、けっこう衝撃でした。

カレン族の友達に「タイ語教えて?」とお願いすると、「私はタイ語うまくないから教えられない」と断られることも。「そんな卑屈になることないのに……。」と複雑な気持ちでした。

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――山岳民族は街に出る人も多いのでしょうか?

そうですね。お金を稼ぐために村をでて、チェンマイの街中で働く山岳地域出身の若者がどんどん増えているようです。若い子が街に出ると村の人口が減って、伝統技術の継承が難しくなります。

最近だと、山岳民族出身であっても「手工芸品には興味がない」とか「よく分からない」といった子どもたちも増えいるようです。アカ族ではすでに、「この刺繍をできる人はほとんど残っていない」という話も聞きます。

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私たちの活動のゴールは「山岳民族が自助努力でより良い生活を実現できること」です。しかし私たちが発注をかけないと彼らの仕事がなくなってしまうし、若者は村から出ていってしまうし、そうなると村の伝統継承は危うくなる。ジレンマなんですよね。

現実として、民族の言葉も風習も伝統技術も、少しずつ廃れてきています。

――時代も変わっていくし、難しい問題ですね。

そうなんです。「なにかいい打開策はないのか?」と、常に考えています。私たちの活動を通じ、少しでも多くの人に、山岳民族たちが抱える問題もひっくるめて「知ってほしい」と強く思います。

見据えるのは数年後のチェンマイ本移住

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――ユイさんは年明け1月に本帰国されると伺いました。

そうなんです。チェンマイが好きすぎて帰りたくないですが...... 。現地のみんなと離れるのは悲しすぎて、お別れのときは絶対に泣く自信があります (笑)。

先日はTTCのメンバーが私たち夫婦のために「大人の遠足」を計画してくれて、最高に楽しい時間を過ごしてきました。もうほんと、心から感謝の気持ちでいっぱいです。

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――ユイさんの活動を引き継ぐ後任の方などはいらっしゃるのでしょうか?

完全に個人で飛び込みで始めたボランティアなので、引き継ぎ予定の人はいないんです。でも帰国後も団体の活動には関わっていきたいと思ってますし、ネットショップ「bon-doi」のコンテンツをもっと充実させて、日本から山岳民族の生活を少しでも支えたいです。

もしTTCの活動に興味があるという方がいらしたら大歓迎ですので、ぜひご連絡ください!笑

――帰国後のご予定は?

日本に帰ったら、とりあえず生きるために働かねばです(笑)。あわよくばタイに関わる仕事がしたいですね。でも今回の帰国は、チェンマイ本移住に向けた準備期間にするつもりでいます。

10年以内にチェンマイに戻って、なにか大きな挑戦がしたいですね。チェンマイでリモートワークできるような環境も整えておきたいと思います。

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モン族が暮らすモンチェムの花畑で、モン族のワンピースを着て撮影

――最後にメッセージをお願いします。

私にとってフェアトレードの活動を始める原点は、「民族や雑貨が好き、かわいい」という想いです。彼らが作る手工芸品が心から素晴らしいと思うから、より多くの人にその魅力を届けたい。自分の発信を通じて山岳民族や民族雑貨に興味をもっていただけることが、すごくすごく嬉しいのです。

機会があれば、ぜひ自然豊かな美しいチェンマイにお越しください。TTCでは機織り体験などのアクティビティをご用意できますし、モン族のドイプイ村なども推しスポットです。これからも愛する山岳民族のサポートに邁進していきますので、応援をよろしくお願いします!

■ユイさんの発信活動はこちらからチェック
・YouTubeチャンネル「さわでぃーチェンマイ
Instagram
・日本人向けのネットショップ「bon-doi

◇インタビューを終えて

快活でキュートな笑顔が印象的なユイさん。その圧倒的な行動力と発信力で、コロナ禍で危機的な状況にあったフェアトレード団体を救い、山岳地域に新風を吹かせていく姿に感銘を受けました。日本と北タイの架け橋として、新たな可能性を切り拓き続けるユイさんの今後も楽しみでなりません。

筆者

タイ特派員

日向みく

バンコク在住ライター。中南米やアフリカ、中東を含む世界43ヵ国を訪れた旅好きです。

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