こんなところにポツンと豆腐屋さん!?「山豆苑(やまずえん)」の名水豆腐は素朴なおいしさ

公開日 : 2019年06月28日
最終更新 :
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大分自動車道速見I.Cから車で約5分。大分県日出町と杵築市の境の山中にある「水の口湧水」は、豊の国名水15選に選ばれている県内屈指の湧き水スポットです。

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湧水量は日に3,000〜5,000トンにも及び、湧水池の周囲には水汲み場と親水公園「水の口湧水公園」が併設されています。

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山と農地に囲まれ、民家もまばらなこの場所に、ポツンと一軒の豆腐屋が営業しています。

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豆腐屋の名前は「山豆苑」(やまずえん)。便利がいいとはいえない立地にもかかわらず、お客さんが絶えない人気の豆腐店です。

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山豆苑は創業約20年。現在は店主の髙村典伯(のりひろ)さんと奥様の典子さんの二人で営業しています。豆腐作りと接客は主に典伯さんの担当。典子さんは配達を受け持ち、お客さんの多い土日に限り典子さんも店頭に立ちます。

髙村さん夫妻はもとは大分の人ではありません。典伯さんは大阪生まれ、典子さんは東京生まれです。

「僕の父は熊本県の小国町の出身で、大阪に出て働いていました。でも父が70歳を過ぎて、田舎でゆっくりしたいと故郷の小国町に帰ることにしたんです。」

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「しかし、小国町ではなかなか気に入る物件がなくて、とりあえず知人の紹介で大分県の内陸部に位置する「山香(やまが)」に移住することになりました。僕は引っ越しの手伝いのために付いて来ただけだったのですが、両親に「行かんでくれ〜」と泣きつかれて。結局、僕も一緒に大分に残ることになりました。」

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最初にこの場所で豆腐屋を始めたのは、典伯さんのお父様だったそうです。

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「この店をオープンする以前、水の口は湧水地としてまだ整備されていませんでした。それでも、湧き水の存在を知る人が数多く訪れていたので、ここで何か商売ができないかという話をしていたんです。すると父が突然、『水の口で豆腐屋をやろうと思う』と言い出して。」

典伯さんのお父様は、その時すでに70代でした。当然、家族は大反対です。典伯さんも会社に勤めていたので、「後で手伝えって言っても無理やで?」と言って止めました。しかし、お父様は「誰がお前らに手伝え言うたんかい!ワシの楽しみでするんじゃ〜!」と言いはり、豆腐屋を開業。

そんなお父様も93歳と高齢になり、最近はほとんどお店には出ていません。しかし今でも、真夜中に「何か食べさせてくれ」など、わがままを言うことも少なくないんだとか。豆腐屋さんというと朝が早いイメージがありますが、夜中に起こされるのは相当辛いのでは?

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「朝早いというより、夜中から作業しないと間に合いません。豆腐って、食品衛生法で冷やしてからじゃないと売ってはいけない決まりになってるんですよ。だから、夜のうちに作って冷やしておかないと、翌朝に間に合わないんです。」

夜のうちに仕込んだ豆腐は、水にさらして10度以下に冷まします。

「水の口湧水の水は自然に湧き出したものですが、うちのはボーリングで掘って自噴しています。水の口湧水と少し水の味が違う、というお客さんもいますね。」

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これは豆腐をパック詰めする機械です。手動で一つずつパックする機械は、もう今ではめずらしくなりました。

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思わぬきっかけで豆腐屋をやることになった典伯さんですが、お父様から受け継いだ手作りの味わいが話題を呼び、今では遠方からわざわざ買いに来るお客様も少なくありません。

「うちの父が育った家庭では、家族で食べる豆腐を自宅で作っていました。祖母が豆乳ににがりを入れて豆腐を作っていたのを思い出して、父は豆腐屋を始めようと思ったそうです。」

現在、山豆苑で販売されている商品は、木綿豆腐・おぼろ豆腐・こんにゃく・納豆・油揚げ・豆乳・おからなど。

スーパーなどには基本的には卸していませんが、わずかながら他店でも取り扱いがあるそうです。

「金曜日だけは、「トマ王」さん(大分県日出町にあるトマト農園)の販売所に豆腐を配達しています。でも、7月中旬でトマトが終わってしまうので、トマ王さんでうちの豆腐が買えるのもそれぐらいの時期までです。あと、唯一卸しているスーパーが、杵築にある「スーパーコマツ」さん。ここには日曜日だけ出しています。あとは杵築にある家内の実家です。常時置いているわけではないんですが、のぼりが出ているときは販売しています。」

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「納豆は週一ぐらいで仕込みます。納豆って作るのに3日かかるんですよ。」

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「こんにゃくは柚子・青のり・唐辛子の3種類です。かたまりを一個ずつビニール袋に入れて販売しています。」

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今回は特別に、こんにゃくと豆腐をお店で試食させていただきました。

柚子こんにゃくは、乾燥させて砕いた柚子の皮を混ぜ込んでいるので、自然な柚子の香りが口いっぱいに広がります。大きな皮に当たると、ちょっと得した気分。

とうがらしこんにゃくは刺身でもおいしいですが、余ったらサイコロ状に切ってごま油と醤油で炒め、一味をかけると酒のつまみにピッタリ。

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「こんにゃくはポン酢で食べてもいいですし、柚子胡椒をお好みで付けてもおいしいです。梅肉も合うんですよ!シンプルにお醤油だけというのもオススメです。」

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豆腐は冷や奴でいただきました。昔ながらの素朴な木綿豆腐でありながら、しっとりときめ細かくホロホロと崩れるような優しい口当たりが特徴です。国産大豆を100%使用し、大豆の味がしっかりと感じられます。付け合わせは、豆腐を卸している「トマ王」のトマトです。

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油揚げは一般的なものよりも肉厚なので、煮物にしても食べごたえバツグン。おからはマヨネーズと和えて、ポテトサラダのようにしても美味しいそうです。

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典伯さんと一緒に山豆苑を切り盛りする、奥様の典子さん(右)。典子さんはご両親が大分出身で、東京で生まれ育ちました。お父様の定年退職をきっかけに、お父様の故郷である杵築に家族で戻ってきたそうです。典伯さんと典子さんの出会いは、このお店でした。

「山豆苑を知ったきっかけは、地元の機関誌に掲載されていた記事だった」という典子さん。昔から豆腐が大好きだったこともあり、さっそく山豆苑を探しはじめました。

「何度か探しに行って3回目ぐらいのときに、地元の人に場所を教えてもらい、ようやたどり着くことができました。でも到着したのが午後3時過ぎだったので、お義父さんに『豆腐はもう無いんじゃわ、店も終わってるんじゃわ』って言われて。その時、豆腐の代わりにと、典伯さんがこれをくれたんです。」

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「これはおからを3回絞って最終的に出たキメの細かいおからです。一度に細かい布で絞ると目詰まりするので、荒いの→中くらいの→細かいの、という順番で3行程に分けて作ります。30丁分の豆腐からこれだけの量しか採れないんですよ!わたしはこのおからの玉を『玉コロコロ』と呼んでいます(笑)」と典子さん。

「典伯さんから手渡された玉コロコロを持って車で帰っているときに、ふと『わたしあの人と結婚するみたい』って、すごく感じたんです。それ以来、お義父さんから「お豆腐が売れません、買いに来て下さい...」と、毎週のように電話がかかってくるようになって。求めに応じて、わたしも毎週この店に買いに来るようになりました。」

その当時、典伯さんは典子さんに対して感じることはありましたか?

「な〜〜〜んにも感じてません(笑)。あの頃は本当に大変で、恋愛どころじゃなかったです。夜10時頃起きて、ここに出てきて準備して、そこから日中もずっと働いて。だから夕方になると、魂が抜けたみたいな状態です。彼女が欲しいなんて考える余裕はありません。考えていたことといったら、『早く帰って寝たい...』ということばかりでした。」

そんな典伯さんの状態を見て、典子さんは「わたしがいないとこの人は死ぬ」と思うようになりました。

「私は38歳でこの店に嫁にきました。当時は豆腐とおあげしか作っていなかったのですが、私が嫁に来たことでお義父さんが『こんにゃくも作りたい』と言い出して。でもしばらくやって辞めてしまい、典伯さんがこんにゃく作りも引き継ぎました。で、こんにゃく作りを放棄したら、次は『納豆がやりたい』と。納豆も適当にやり始めて、飽きたらこの人に丸投げ(笑)。そんな感じで、店の商品が増えていきました。」

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高校生の頃、中国針の鍼灸師になるのが夢だったという典伯さん。典子さんも配達の合間に、杵築でリンパセラピーの店を経営しています。

「いずれは使っていない川沿いの小屋を改装して、湧水を沸かしたお風呂を作って宿をやりたいですね。リンパセラピーのお店もこの場所で開きたいと考えています。やりたいことはたくさんあるんですが、今は親の介護もあるので商品の対面販売がやっと、という状態です。」

と、お二人は将来の展望を語って下さいました。

自由人のお父様に振り回されながらも、昔ながらの豆腐を作り続ける髙村さんご夫婦。国産大豆を贅沢に使い、手間を惜しまず作られた豆腐は、まさに豆腐好きのための豆腐といった味わいです。皆さまもぜひ、日出町の山中にある豆腐屋「山豆苑」にお立ち寄り下さい。

【山豆苑・基本情報】

住所:〒879-1509 大分県速見郡日出町南畑3950−1

電話:0977-72-8102

営業時間:9時00分〜15時30分(売り切れ次第終了)

定休日:水曜日・木曜日

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