日本人の名字を贈られたアルゼンチン人、セニョーラ・アライとの出会い

公開日 : 2010年08月24日
最終更新 :
筆者 : bonita
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▲南米にたくさんの日本人移民を運んだ笠戸丸/wikipediaより転載

移民の国アルゼンチンには、日系人のコミュニティーもあります。

彼らの多くは、戦前・戦後に日本から移民してきた人々やその子弟ですが

実は、初めて日本人がこの国の地を踏んだのは、16世紀のことでした。

史実によれば、1596年、

日本人と見られる者が「奴隷」としてコルドバに売られた記録があります。

その人の名は、フランシスコ・ハポン。(ハポンとは「日本人」の意味)

戦利品(捕虜)として、奴隷商に800ペソで売られた彼は、

「私には奴隷として売買される理由はない。自由を要求する」

として裁判に勝訴、売買された2年後に自由の身になったと言われています。

その後のアルゼンチンにおける移民史には、

長い長い物語があるのでここで触れることが出来ません。

でも、アルゼンチンに住んでいると、この国と遠い母国ニッポンとの

たしかなつながりを感じさせる出来事に遭遇することがあります。

☆アルゼンチンにおける移民の歴史を詳細を知りたい方は、

 在亜日系団体連合会(FANA)のアルゼンチン移民史をご覧ください。

先日、いつも散歩に行く公園で、60代くらいのセニョーラに話しかけられました。

どこから見ても、欧州系の白人である婦人ですが、

彼女の名字は「ARAI(荒井?新井?)」さんだと言うのです。

1910年頃、ペルーやボリビアに移住していた日本人のうち

アルゼンチンの将来性に期待した人々が転地するためにやって来ました。

当時、国境を結ぶ汽車が不通だったため、

彼らの多くは徒歩でアンデス山脈を越えなければなりませんでした。

険しい雪山の道を、互いに励まし合いながら歩いた、と

在亜日系団体連合会(FANA)のアルゼンチン移民史には

写真とともに記載されています。

セニョーラ・アライのファミリーは、

その時代にはアンデス山脈の麓、メンドサに住んでいました。

彼女自身もまだ誕生していなかったその頃、

セニョーラ・アライの祖父母は

徒歩でアンデスを越えアルゼンチンにやって来た「アライ」という日本人の家族に出会います。

アライ一家には、十分な食料や衣服がなかったため、

彼女の祖父母はアライ一家のために宿を提供し、彼らが必要とする物を分けてあげました。

しかしこの日本人の家族には、謝礼として残していけるお金も物も何もなかったため、

「『アライ』という名字をどうか受け取って欲しい」、そう言ったそうです。

それからセニョーラ・アライのファミリーは、アライという名字を名乗るようになったのです。

この話を聞いて、私はとても感動しました。

この話を私に聞かせてくれているセニョーラ・アライが、

その手に、日本で買ったという和傘を持っていることにも感動しました。

彼女の体には、日本人の血は一滴も流れてはいないけれど、

日本は外国という気がしない、日本人は他人という気がしない

だから数年前に日本を訪れたのよ、と言う彼女の言葉に、さらに感動しました。

アルゼンチンだけでなく、南米大陸の日本人移民の歴史には、数多くの苦労があります。

けれどそればかりでなく、人種の違いを越えて助けてもらいながら

日系人コミュニティーはつくり上げられたのだろうと思うのです。

話してみると偶然にも、セニョーラ・アライと私は同じアパートの住人でした。

これをきっかけに、私とセニョーラ・アライの間にもつながりが出来ました。

今度、ふたつの家族で食事でもしようと計画中です。

人と人、国と国とのつながりを、私も大切にしていきたいー

改めてそう感じた、貴重な出会いでした。

 ☆「南米のパリ」ブエノスアイレスで暮らす私の日常、時々、ビーグル。

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