響灘をめぐる!~エネルギー・バスツアー(エネルギー編)

公開日 : 2020年02月07日
最終更新 :
筆者 : Duke

こんにちは、「地球の歩き方」福岡特派員のDukeです。今日は、前回の記事「響灘をめぐる!~エネルギー・バスツアー(エコタウンセンター編)」の続きで、2007年(平成19年)に経済産業省(現在は経産省と環境省のダブル認可)から第1号認定を受け、2009年(平成21年)7月27日にオープンした北九州市次世代エネルギーパークに関する話題です。2週続きで堅い話になってしまいますが、ツアーで訪ねたバイオマス発電や太陽光・風力など自然発電システム、石油備蓄基地などを紹介したいと思います。(写真は白島国家石油備蓄基地の概要・機能を理解できる白島展示館。入口に停まっているのが、私たちのツアーバスです)

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若松区響灘地区の次世代エネルギーパークには、多種多様なエネルギー施設が集積していますが、まず最初に案内されたのはバイオマス発電施設である(株)響灘火力発電所です。こちらの会社では、粉砕し微粉炭化した石炭およびバイオマス(木質ペレット)を燃料として発生させた蒸気により、タービンを高速回転させ発電しています。その電力(112MW)を地元企業や団体に供給(売電を含む)するほか、原材料である石炭や燃焼の結果排出される灰・石膏等は、同じエコタウン内の日本コークス工業や吉野石膏などとの間で相互活用を図ることで、響灘地区における効率的・経済的な事業展開に寄与しています。

タービンおよび発電機を収納する箱型の建屋。その後ろで水蒸気を発生(左側)しているのがボイラー。その右の注射器を逆さにしたような部分は、石炭バンカおよびバイオマスバンカといい、微粉炭機に送る前の石炭・木質ペレットを一時的に貯めておく装置です。

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貯蔵庫からベルトコンベアで運ばれた石炭とバイオマスは、さまざまな処理を経て微粉炭機に送られボイラーを稼働させます。

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響灘火力発電所は、石炭と再生可能エネルギーを組み合わせたバイオマス混焼発電。石炭のみの火力プラントと比較すると最大で年間30%程度のCO2削減効果があり、これは約18,000本の杉の植樹に相当するそうです。また燃焼ガスに含まれる有害物質は、窒素酸化物を90%以上、煤塵および硫黄酸化物を99%除去するなど北九州市公害防止協定に基づき排気のクリーン化にも努めています。

一方で地球温暖化を抑制するため化石燃料から自然エネルギーへの転換が求められている昨今、最新の発電所で石炭を使用していることについては違和感を感ずるところもあります。ツアーの質疑応答ではこの点にかなり時間が割かれましたが、老朽化した石炭火力プラントの代替的位置づけであり、瀝青炭(れきせいたん)という高品質・高効率の石炭を使用しているためCO2の排出は限定的との説明を受けました。また原子力(仏)や自然力発電(独)など異なるシステムが有機的に結ばれ、相互に融通可能な欧州と違って強固なグリッド環境を持たないわが国においては、ある程度過渡的なアプローチを採用せざるを得ないとのことでした。

こちらは響灘エネルギーパーク合同会社。響灘火力発電所と同じく、石炭と再生可能エネルギー(木質ペレット)を組み合わせた混焼発電(112MW)です。

次世代エネルギーパークには、このほかにもバイオマスエネルギー事業者(九州・山口油脂事業協同組合)があり、家庭などから回収された食用油からバイオディーゼル燃料(軽油代替燃料)を製造しています。

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次世代エネルギーパークがある響灘地区には、私たちの暮らしを支えるエネルギー供給基地、日本コークス工業(石炭)、白島国家石油備蓄基地(石油)、ひびきLNG基地(天然ガス)があります。ツアーでは、白島国家石油備蓄基地の設備と機能を紹介する白島展示館を訪れました。

新潟などでごく少量の石油を生産するものの、消費量の99%を輸入に依存するわが国にとっては石油備蓄を含めたエネルギー安全保障は非常に重要な国の政策のひとつです。(オレンジの円で囲んだのが、国家石油備蓄基地のある白島)

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白島備蓄基地には、浮遊式の貯蔵タンクが8基あり、合計560万klの石油(日本全体の10日分の消費量に相当)を備蓄しています。国家石油備蓄基地は白島を含めて全国に10ヵ所ありますが、洋上備蓄基地は白島と長崎県の上五島備蓄基地のふたつだけです。

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グラフィックや模型やマルチメディアを通じて、白島国家石油備蓄基地の全体像や仕組み、石油と人との関わりなどについて楽しみながら理解を深められる1階展示室。石油はガソリンや灯油だけではなく、衣類やプラスチックなど日常生活のあらゆる場所で利用されている重要な資源であることが、分かりやすく説明されています。

(白島展示館については、「地球の歩き方」福岡特派員ブログ『石油の安定供給のために〜白島国家石油備蓄基地&白島展示館』で紹介していますので、詳しくはそちらをご覧ください。)

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沿岸部にずらりと並んだ風力発電の風車群。白島展示館に隣接するのは、超硬合金のリサイクルや電解金属クロムの精製などを行う光正(株)北九州工場です。

3階展望室からの眺望。

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パネル中央付近に10基並んでいるのが、展望室から見えるNSウィンドパワーの風車群。このあと、左から3つ目の3号機を実地に見に行きました。

点線の枠で囲まれているのは、これから設置される予定の洋上設置型の風力発電施設です。

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NSウインドパワーの3号機。回転するブレードの中央部分の軸をナセルといいますが、そこまでの高さが65m。1枚のブレードが35mありますから、最も高いところで100mになります。

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このシステムは1基あたり1,500kW、10基合わせると15,000kWの発電能力があります。この日はいい風に吹かれて勢いよくブレードが回っていましたので、定格どおり発電していたと思います。

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こちらは、響灘ウィンドエナジーリサーチパーク合同会社の風力発電と太陽光発電。先ほどのものよりかなり大型でナセル高84m、ブレード長55mですから最大地上高は140m近くになります。発電能力も1基あたり3,300kWと高く、つい最近まで商用としては国内で最大出力の風車だったそうです。響灘ウィンドエナジーリサーチパーク社は、このタイプの風車2基(計6,600kW)と太陽光発電(3,046kW)とのハイブリッド型で、合計約10,000kWの発電能力を誇ります。ハイブリッド化することで、風が弱い日や太陽光が得られない時間帯などの自然力発電の弱点を補っているんですね。

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その北側に設置されたメガソーラー発電所(事業者名は不明)。こんなに大規模に集積された太陽光パネルは初めて見ました。

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道路(響灘25号道路)を挟んで反対側(東側)にも、規模の大きな太陽光発電所があります。写真左側(路地よりも北側)は2013年(平成25年)、市制50周年記念事業として建設された北九州市市民太陽光発電所。市民や団体・企業から建設資金(寄付や市債など)を募り売電収入の一部を市民に還元するという、全国的にも例のない公設公営のメガソーラーです(1,500kW)。ちなみに、私が参加した今回のツアーも「市民還元」の一環で、この収入が充てられています。

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これまでに見てきた太陽光パネルはパネルの向きや水平面に対するアングルが固定されているため、太陽の位置によって発電能力が大きく左右されるという弱点がありました。これを克服するために考案された太陽追尾型の太陽電池パネルについて、運営する北九州TEK & FP合同会社の方に説明していただきました(写真の女性)。《TEK:東レエンジニアリング、FP:フジプレアム》

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これが自動で太陽を追尾するパネル(手前の5基は運用停止中)。固定式よりも発電効率が約40%向上し、これだけで45kWの発電能力があります。ちなみに、次世代エネルギーパークでは、電源開発(株)が集光追尾型(パネル前面に太陽光を集めるレンズを設置)の太陽光発電を運用しており、こちらは161kWの出力があるそうです。

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向きが反対なので太陽光パネルの台座しか見えませんが、北九州TEK & FPでは地上固定式のメガソーラー(出力 7,700kW)も運用しており、2014年に日本で初めて電気バスの営業運転を開始した北九州市営バス(電気バス2台)への充電も行っています。ソーラーシステムのフィルムや発電を阻害する雑草を抑制する防草シートなどには、親会社である東レエンジニアリングが開発した製品を使用しているそうです。

メガソーラーの奥に大型の風車が見えていますね。これはまだ未稼働の風力発電で大きさや出力などの詳しいデータはわかりませんが、稼働すれば間違いなく日本一の規模になるということでした。風車全体の大きさに対して、ブレードの占める割合が非常に大きいことがわかります。ブレードの形も単純ではなく、効率的に風を受けるような曲面で設計されていました。

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これは、TEK & FPの敷地の一角に設置された九州大学の風力発電システム。マルチレンズ風車(10kW)の実証試験を行っています。

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3つの小型ブレードを円筒形の枠で囲うことによって、集風効率を高める効果があるそうです。

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こちらは、環境に優しいといわれる天然ガスを貯蔵・供給するひびきLNG基地。北部九州における天然ガスの広域供給拠点となっています。奥に見える巨大な円筒はLNGタンク(18万kl×2基)。

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同じ敷地内にある液化プロパンのLPGタンク(950t×4基)。

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この日は運よく、ひびきLNG基地の桟橋に停泊中のLNGタンカーVESTAを見ることができました。甲板に据えられた大きな球形のタンク4基が印象的です。

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次世代エネルギーパーク全体の発電量は34万kWで、北九州市の電力需要の23%を賄う能力があります(2019.5月現在)。将来的には、需要を遥かに超える160%の発電量を目指しているとのことでした。今回のツアーはエネルギー関連施設の見学でしたが、3月にはエコに関するバスツアーを計画するそうです。情報や申し込み方法は3月の市政だより情報コーナーに掲載されることと思います。

またエコタウンセンターやエコタウン内の企業見学などは随時行っていますので、窓口となるエコタウンセンターにお気軽に問い合わせください。

環境調和型、資源循環型社会の実現にはエコやエネルギーに関する先進的研究の基盤と、それを事業化する企業の存在が不可欠です。北九州市エコタウンでは、実証研究エリアにおいて大学や企業などが廃棄物処理技術や資源リサイクル、新エネルギーなどさまざまな環境関連技術の実証実験を行っています。そのほかエコタウン内にはリサイクル・リユース関連23社、エネルギー関連で30社(北九州市を含む)が進出し(北九州エコタウンセンターHPにて集計)ビジネスとして成立しています。今後とも行政を含めた産・官・学の協力や連携をいっそう推し進めて、北九州市エコタウン事業を発展させてほしいと思います。

【北九州市エコタウンセンター】

〇場所: 北九州市若松区向洋町10番地20

〇問合せ: 093-752-2881

〇アクセス: 《JR戸畑駅》北九州市営バス「戸畑駅」⇒(約30分)⇒「エコタウンセンター」下車(徒歩約1分)

《JR若松駅》北九州市営バス「若松市民会館前」⇒(約30分)⇒「若松営業所」下車(徒歩約10分)

〔車〕北九州都市高速「若戸出入口」→新若戸道路(若戸トンネル)「北浜」出口から約10分

筆者

特派員

Duke

縁あって福岡県北九州市に落ち着いて、はや15年。県外の方はもちろん、地元の方にも楽しんでいただけるよう、福岡・北九州の旬な情報を発信していきたいと思っています。

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