悲しくも美しいスコットランドの山と谷
なだらかな丘の風景に代表されるイギリスの田舎ですが、スコットランド西北部に位置する山岳地帯ハイランド(Highlands)へいくと、イギリスの他の地域では見られない切りたった山々の風景を目にすることができます。ですが、その山々は、日本の山々とはいささか景観を異にしています。今日は、そのハイランドの山々がどんなふうに日本の山々と違っているかをごらんいただければと思います。
山岳地帯ハイランドの玄関口は、スコットランドの首都エディンバラとスコットランド最大の都市グラスゴーの中間点からわずかに北よりに位置する都市スターリング(Stirling)からさらに北西へ入った小さな町カレンダー(Callander)。そのカレンダーあたりから田舎道の両側には氷河でけずられて形成された山々と湖の風景が広がりはじめます。
ビューポイントのにわか仕立てのお土産物屋さんの店先ではためいている水色に白ばってんの旗は、スコットランドの国旗「セント・アンドリュー・クロス(Saint Andrew's Cross)」(イギリス国旗「ユニオンジャック」のデザインの一部にもなってます)。黄色地にオレンジのライオンの旗はスコットランドの王家スチュアート家のロイヤルフラッグ(王家の旗)。
ところで、スコットランドを訪れたこともないのにこの山岳地帯の山々、たしかにどこかで目にしたことがあるようなと思われる方は、映画「ハリー・ポッター」をごらんになったことのある方なのではないでしょうか。ハリーやその仲間たちがホグワーツ特急の車窓からながめる風景や、箒に乗って空を飛んでいる背景って、このスコットランドのハイランドで撮影されたものなのです。
そのハイランドの中でも1番美しい自然の景観を見せるのが、スコットランドの古語ゲール語で「嘆きの谷」を意味するグレンコー(Glencoe)。
グレンコーの山々、1000メートル前後とそう高くはないのですが、風景のスケールは広大です。
山の一部が植林された木々でおおわれている山はあるのですが、全山木々でおおわれた山というのは見あたりません。ほとんどの山は緑の草におおわれているか、岩肌を露出しているかのどちらか。
ところで、グレンコーが「嘆きの谷」と呼ばれるのは、この谷間には悲しい歴史が刻印されているからなのです。古来、スコットランドのクラン(Clan氏族)のあいだには、村を訪れた旅人にはあたたかい宿を提供し、食べ物と酒でもてなすという習わしがあったのでした。
そこで、グレンコーのマクドナルド一族は、日ごろから仲のよくない別の氏族キャンベルの氏族長率いる一行が村にやってきたときも、あたたかく迎えいれて手厚くもてなしたのでしたが、実は、そのキャンベル一行は、イングランドに反逆するマクドナルド一族を皆殺しにせよという命をうけ、イングランド王によって派遣された殺戮者(さつりくしゃ)たちだったのでした。
1692年2月13日。真冬の未明、前夜の宴席のあと、まだ深い眠りについていた村で女子供をふくむ村人たちの虐殺(ぎゃくさつ)が開始されました。村人たちは刃(やいば)にかけられ、家々は焼き討ちにされました。命からがら逃げのびることはできたものの、真冬の原野で凍え死んだ村人もあったのでした。きっと、その冬の朝、グレンコーの山々は雪をいただき、その白い雪が村人たちの血で赤くそまったことでしょう。
雄々しく美しい姿にそんな悲惨な歴史が刻みつけられている嘆きの谷グレンコー、実は、これまでの画像で見ていただいたような快晴の姿を見せてくれるのは稀なのです。ふだんのグレンコーの姿は、こちら……。
大西洋からやってくる湿った空気がハイランドの山々にあたって雨を降らせるので、このあたりのお天気は年がら年中ぐずつきがちなのです。ですが、今回、稀に見ることのできた快晴のグレンコーも美しいですが、靄(もや)のヴェールをまとい、森厳な威容を誇って迫ってくる雨の日のグレンコーもまた、それに負けず劣らず美しいと思うのです。
そして、それがわたしたち一家のように雨にたたられ、また、たたられても、グレンコーに足をむける人々が絶えない理由なのだと思います。スコットランドを訪れられるときには、ぜひハイランドまで足をのばして、わたしが目にしたイギリスの田舎の中では1番美しいと思うグレンコーの姿をご自身の目でごらんになってみてください。
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