イギリス最大のリゾート地ブラックプール
北イングランドの西側、湖水地方とリバプール(Liverpool)のちょうど中間の大西洋岸に、イギリス最大のリゾート地ブラックプール(Blackpool)があります。今回は、湖水地方から足をのばして訪れたブラックプールをご紹介します。ブラックプールの駐車場に車を乗り入れたところ、あいにくの雨にもかかわらず駐車場は、ほぼ満杯。何とか駐車スペースを見つけて車をおりた目の前に、ブラックプールのシンボル、ブラックプールタワー(Blackpool Tower)がそびえ建っていました。
19世紀の中ごろ、ブラックプールは地元ランカシャー(Lancashire)周辺の綿産業の興隆によりリバプールやマンチェスターからのホリデーメーカーをはじめ、北はスコットランド、グラスゴー方面からも多くの観光客を集めるイギリス国内最大のリゾート地として発展していったのでした。そのブラックプールのシンボル、ブラックプールタワーが完成したのは1894年のことでした。
158メートルの高さを誇るブラックプールタワーは、お天気のいい日には、リバプールやマンチェスター(Manchester)からも望めるのだそうです。ということは、ブラックプールタワーの展望台からも北イングランドの街や田舎の風景が一望できるということ。だからなのでしょうね。そぼ降る雨にもかかわらず、ブラックプールタワーの前には、入場を待つ人々の長蛇の列ができていました。
このブラックプールタワーの建物を行列に沿って進んでいって右手に折れると、ウィンターガーデンズ(Winter Gardens)があります。ウィンターガーデンズは、毎年、初夏に開催される社交ダンスの国際競技大会ブラックプール・ダンスフェスティバル(Blackpool Dance Festival)の会場です。周防正行監督、役所広司主演の映画「Shall we ダンス?」や、そのリメイク、リチャード・ギア主演の「Shall We Dance?」にも登場するので、ご存じの方も多いかと……。
「Shall we ダンス?」を見たのはもう何年も前のことなので、はっきりと覚えていないのですが、映画に出ていたのは、こんな感じの入り口だったのではと思って撮ってみました。ウィンターガーデンズの正面は、左手奥のアーチ型になっている部分。ちなみに、「Shall we ダンス?」の中で、社交ダンスの競技会のシーンが撮影されたのは、ウィンターガーデンズ内のボールルームではなくて、ブラックプールタワーの中にあるボールルームなのだそうです。
雨あしが弱まる気配を見せたので、ブラックプールタワーの正面の海岸通りを歩いてみることにしました。ブラックプールタワーが見おろす海岸通りには、今も、昔懐かしい路面電車が運行し、画像左手の道路沿いには11キロメートルにわたって、夜の海岸通りを彩(いろど)るイルミネーションが続いています。ブラックプールは、あでやかなイルミネーションでも知られていて、毎年、秋には、イルミネーションのフェスティバルが開催されるのです。
上がりそうだった雨は降りやまないままなのですが、海岸から海に向かって突き出しているピアの遊園地へ向かいました。
乗り物も、ゲームセンターも、軒を連ねる小さな店々も濡れそぼって人影は少ないながら、お天気のいい日には、にぎわいを見せるのだろうなあと思いながら、ピアの先端まで歩きました。そして、南に目を転じると、雨に白く煙る風景の中に、このピアのものよりさらに大きな遊園地が……。
この遊園地「プレジャービーチ・ブラックプール(Pleasure Beach Blackpool)」は、年間6百万人が訪れるイギリス最大の遊園地なのです。中央に見えているジェットコースターは、1994年完成当時、世界一の高さとスピードを誇っていたペプシマックス・ビッグワン(Pepsi Max Big One)。今でも、海抜からの高さではイギリス一の記録を保持しているのだそうです。この日は、運行しているようには見えませんでしたが、お天気のいい日には、甲高い歓声が響き渡っているにちがいありません。雨あしが強くなってきたので、最後にもう1枚だけピアの先端から望めるブラックプールタワーをカメラにおさめて駐車場へ引き返すことにしました。
1960年代以降、国内のリゾート地よりも安価で、お天気のいい地中海周辺への海外ホリデーがイギリスの人々のあいだで人気を博するにつれて、ブラックプールの活気にも翳(かげ)りが見えはじめました。そして、現在では、往時の活況はすっかりなりをひそめています。たしかに、目に映る何もかもが古めかしく、ひと時代昔の風景をながめているような感じがします。それでも、ブラックプールがすたれてしまわないのは、イギリスの人々のあいだに受け継がれている懐古趣味の故(ゆえ)なのではないでしょうか。イギリスの古き良き時代のリゾート地として、このブラックプール、これからも生き延びていくにちがいありません。
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