蟻のバカンス

公開日 : 2013年06月21日
最終更新 :

あるところに、蟻の夫婦がいました。夫婦は夏、バカンスにでかけることにしました。どこがいいだろう。暑いものね、涼しいところがいいわ。二匹はじっくり相談し、冷蔵庫を休暇先に決めました。冷蔵庫でバカンスというのは、人間にとって北極か南極に行くようなものですね。それでは寒すぎるので、二匹はあまり冷たすぎない冷蔵庫、つまりときどき調子が悪くなってぬるくなるような冷蔵庫に出かけることにしました。

二匹はいろんな冷蔵庫を視察し、あるアパートの冷蔵庫を選びました。そして二匹は荷物をまとめると、いそいそと出かけていきました。大好きなチーズもハムもイチゴもあるし、居心地がいい。二匹は大満足でした。2,3日たったある日、のっしのっしと音がしたかと思うと突然扉が開きました。住人が扉を開けたのです。イチゴを食べませんように、と二匹は願いました。ちょうどイチゴのパックの中でくつろいでいるところだったのです。しかし「そういえばイチゴがあったな」という声がしたかと思うと、さっとイチゴのパックがつかみ出されました。二匹はイチゴの影に隠れました。見つかるのではないかと気が気ではありません。その人はパックをテーブルに置くと、再び冷蔵庫に向き直りました。生クリームを取り出すらしい。その隙に二匹はパックから飛び出し、テーブルから逃げようとしました。

ところが。その人物はすばやく振り向くと、二匹をじっと見つめたのです。「そこにいるのはわかってたよ。僕は君たちに来てほしくて、わざと冷蔵庫を壊れたままにしておいたんだ」といいました。二匹はびっくり。おそるおそるその人の手にのり、腕をよじ登り、耳まで這っていくと大きな声でいいました。「ありがとう。だから居心地が良かったんだ」。蟻の大声といっても、やっと耳のそばで聞こえるくらいのもの。小さな小さな声です。「ずっとうちに住んでいいんだよ」とその人物はいい、ハンスと名乗りました。「それはありがとう」と二匹は居つくことにしました。

生活は快適でした。ハンスはとても親切で、いろいろと世話を焼いてくれました。小さなメガホンを作って声が大きく聞こえるようにしてくれたので、一緒にごはんを食べながら語らうのが日課となりました。

そのうち、蟻のメディアが二匹の生活ぶりを取材に来ました。二匹はすっかり有名になり、ハンスとともに蟻のテレビに出演するようになりました。二匹がハンスとのいきさつを本に書くと、またたくまにベストセラーになりました。そして蟻サーカス団を設立し、ハンスとともに世界中を巡回するようになりました。どこに行っても引っ張りだこで、大人気となりました。

ある日、ハンスは二匹にいいました。「ありがとう。君たちのおかげでぼくは世界一幸せな人間だ」。二匹はいいました。「いえいえ、あなたのおかげで私たちこそ世界一幸せな蟻になりました」と。こうして二匹と一人は、ずっと幸せに暮らしました。

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・・・というお話を、ハノーファー在住の作家トミー・バーケ(Thommi Baake)さんがしてくれました。19日のリンデンの図書館改装オープンのさい、読み聞かせをしたものです。お話のあいだ子どもたちは、真剣な表情で聞きながら、扉がきしむ音、ハンスの足音、びっくして走る音などを出して物語に参加しました。トミーさんが自作の歌をギターで演奏すると、アドリブと愉快なセリフで、子どもも大人も大爆笑でした。

トミーさんは児童書二冊とCD一枚をすでに出版。ハノーファーでは少し有名です。いろんな学校で読み聞かせをしたり、テレビのセサミストリートにも出演したそう。蟻の話、ドイツ語のオリジナルはもっといろいろ細かい描写があって、すごくよいのですよ。日本で翻訳出版できないかしら。

トミーさんの公式サイト http://www.thommiskinderkiste.de/bücher-und-lesungen/presse-und-impressionen/

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