フランス リヨンで、ヨーロッパ有数の所蔵作品を誇る美術館を訪れ、芸術鑑賞の優雅なひとときを過ごす

公開日 : 2020年03月01日
最終更新 :

【フランス リヨン便り n°12】

旅の魅力のひとつである美術館巡り。

今日、世界各地に5万5000軒の美術館や博物館が存在していますが、世界を代表する美術館であるルーヴル美術館や、エルミタージュ美術館、プラド美術館、メトロポリタン美術館などは、一生に一度は訪れたいと夢見る憧れの場所です。美術史に刻まれる著名な画家の作品を目の前にする感動と興奮は、一度味わったら病みつきに。世界各地から「よくもここまで蒐集したなあ」と感心するほどの所蔵品の数々、それらが一堂に会して展示されるさまは、一種の畏怖の念を覚えるほど。人間はいつからモノを蒐集し、展示し、鑑賞するという、モノを「見せる」あるいは「見る」という行為を楽しむようになったのでしょうか。

美術館とは、その名が語るように、美術品を収集・保存・展示する施設ですが、英語でアートミュージアム(Art museum)、フランス語でミュゼダール(Musée d'Arts)と呼ばれるように、博物館(つまりミュージアム)の一種に位置づけられています。

「ミュージアム」という言葉は、ギリシャ文化とオリエント文化が融合するヘレニズム時代(紀元前300年から紀元前30年頃まで)に建立が始まった、古代ギリシャ神話に登場する学術・学芸の女神「ムーサイ」を祀る神殿「ムセイオン(Musaeum)」に由来するといわれています。

世界史を学んだ方でしたら記憶にあろうかと思いますが、なかでも、プトレマイオス朝エジプトのアレクサンドリアに建設されたムセイオンは有名で、王の財力を投じて、図書館・実験室・解剖室・天文台などのあらゆる研究施設を備えた王立研究所となり、ヘレニズム文化の「知の殿堂」として世界に名を広めました。古代ローマ帝国の衰退とともに、ムセイオンは姿を消していきますが、ルネサンス期に、芸術品や世界の珍品を所蔵する施設の名として復活します。ルネサンス(14世紀から16世紀)は、日本では文芸復興と訳されることもありますが、古典古代(ギリシャ、ローマ)の文化を復興しようという、イタリアから発祥した文化運動です。古代ギリシャの「知のアーカイブ」の役割を担っていた「ムセイオン」が、時を経て、王侯貴族や教会などの富裕層が世界各地から集めた名画や珍品の収集・展示の場を示す言葉として引用され、現在のミュージアムになるのですから、言葉の歴史を辿ってみるのも、なかなかおもしろいものがあります。

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リヨンには地方美術館としては規模が大きく、ヨーロッパ有数の所蔵品を誇る美術館があります。

17世紀にアヴィニヨン出身のふたりの建築家、ロワイエ・ド・ラ・ヴァルフェニエール兄弟フランソワとポール(François et Paul Royers de la Valfenière)が設計したベネディクト会派のサン・ピエール女子王立大修道院(abbaye royal des Dames de Sant-Pierre)の建物が、美術館としてリニューアルされ、1803年に一般公開されたのが始まりです。

リヨン美術館のコレクションの歴史は古く、フランス革命直後の1791年、画家フィリップ=オーギュスト・エンヌカン(Philippe-Auguste Hennequin)とジョセフ・ジャナン神父(Père Joseph Janin)がフランス革命で没収された絵画の目録作成を任命され、およそ300作品が登録されました。そして、1795年5月16日のアレテ(政令)で、リヨン美術館と付設施設として美術学校の設立が定められ、フランス革命後に国有化されたサン・ピエール女子王立大修道院の建物のなかに設置することが決定されたのです。

1801年、内務大臣だったジャン=アントワンヌ・シャプタル(Jean Antoine Chaptal)がフランスの地方15都市に絵画コレクションを設けるとし、リヨンがリストのトップに挙げられました。こうして、ルーヴル美術館から1803年に29作品、1805年に14作品、1811年にフランス、イタリア、スペイン、フランドル、オランダの画家による50作品が寄贈され、そのなかには、リヨン美術館の主要作品となる、ル・ブラン(Le Brun)、シャンペーニュ(Champaigne)、ティントレット(Tintoret)、ヴェロネーズ(Véronèse)、コルトーナ(Cortone)、ルーベンス(Rubens)、ヨルダーンス(Jordaens)、ヘーム(Heem)などが含まれていました。

19世紀後半、ギロティエール市長だったジャック・ベルナールがリヨン市に絵画300作品を寄贈し、1876年、東の翼館にジャック・ベルナール美術館(Musée Jacques Bernard)をオープン。

リヨン美術館をルーヴル美術館に次ぐ、フランス第二の美術館にするという政策のもとで、所蔵作品はさらに発展し、それに伴い、美術館の建物は大規模な改装工事が施されました。南の翼館にパリのパンテオンの内装を担当したシュナヴァール(P. Chenavard)のデッサン画が展示され、大階段は、リヨン出身の画家ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(Pierre Puvis de Chavannes)の手によって、壁画『芸術とミューズにとって愛しい聖なる森(Le Bois sacré cher aux arts et aux muses)』が描かれました。

一方、20世紀に入り、1914年に自然史博物館が、1935年には併設されていた美術学校(リヨン国立高等美術学校)がリヨン美術館から分離され、1921年には、リヨンの歴史に関する作品は新設されたガダーニュ博物館(Musée Gadagne)に移されました。

平行して、リヨン美術館は印象派の作品や、ピカソ(Picasso)やマティス(Matisse)とった近代絵画の巨匠の作品、オーギュスト・ロダンの彫刻作品を購入していきます。

1997年にドリュバック夫人(Madame Delubac)による近代ならびに印象派絵画のコレクションの寄贈によって近代絵画部門が充実しました。

2007年、ルーヴル美術館と17のメセナの協賛により、古典派主義の画家ニコラ・プッサン(Nicolas Poussin)の名画『エジプト逃避(La Fuite en Egypte)』が絵画コレクションに加わり、話題を呼んだことは記憶に新しいです。

リヨン美術館を支えるメセナが設立されたこともあり、リヨン美術館は、ピエール・スーラージュ(Pierre Soulages)、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル(Jean-Auguste-Dominique Ingres)、ジャン・オノレ・フラゴナール(Jean Honoré Fragonard)などの作品を次々に購入し、作品ジャンルとコレクションを広げています。

現在、広さ7000m²の敷地に70の展示室が配置され、ルーヴル美術館に次ぐ規模を誇っています。

古代エジプト・ギリシャの美術品、新古典主義やロマン主義の彫刻、中世から19世紀にいたる、イタリア、フランス、オランダ、フランドルの作品、リヨン派の作品、絹織物デザイナーのための「花のサロン」出展作品など、充実した作品を通じて、美術の歴史をコンパクトに学ぶことができます。

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何度も何度も入館している美術館ですが、いつも新しい発見があります。

先日、訪問したときに、館内から美しい音楽が流れてきました。

美術館の絵画作品からインスピレーションを得て作曲した作品を発表するというイベントがリヨン美術館で企画され、リヨン大学の学生さんがその作品発表のためのリハーサルをしていたところに遭遇したのです。

作曲を担当したのはバイオリンを弾いているサハン君で、ビオラは日本人の翻訳家の順子さん、チェロはナオミさん、コントラバスはアントワン君です。「絵画と音楽の競演」というすばらしい出会いに、芸術の奥深さを覚え、心満たされるひとときを過ごすことができました。

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【リヨン美術館(Musée des Beaux-Arts)】

・所在地: 20 place des Terreaux - 69001 Lyon France

・開館時間: 10時~18時(金曜日10時30分~18時)、最終入館時間17時30分

・休館日: 火曜日、フランスの祝日、12月24日、12月31日

・入館料: 常設展8ユーロ、企画展12ユーロ、オーディオガイド1ユーロ

・公式サイト: https://www.mba-lyon.fr

・最寄り駅: 地下鉄A線 オテルドヴィル(HOTEL DE VILLE)

筆者

フランス特派員

マダムユキ

リヨン在住20年以上。フランス各地の魅力を文化・芸術・建築・食を中心にお届けしたい。

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