フランスのリヨンを離れて、オクシタニー地方の洞窟で地底探検する

公開日 : 2020年04月15日
最終更新 :

【フランス リヨン便り n°17】

フランスは春日和のなか、外出制限は解除されることなく、自宅待機を余儀なくされています。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)COVID-19は依然としてヨーロッパに蔓延し、2020年4月14日14時現在で、フランスの感染者数は前日より5497人増の10万3573人となり、入院患者数は延べ7万1903人、退院者数2万8805人、重篤者数6730人、死亡者数1万5729人が確認されています。

世界全体では、2019年12月31日以降の感染者数は延べ187万3265人(ヨーロッパ全体では80万3175人)、犠牲者数は11万8853人(ヨーロッパ全体では7万9252人)にのぼります。

4月13日、フランスのマクロン大統領が新型コロナウイルス(COVID-19)に関する演説を行い、5月11日まで外出制限措置を期間延長するなどの発表が行われました。ここ数日、患者数減少などの希望が見えてきましたが、医療施設が引き続き飽和状況にあることから、現在と同レベルの厳しい外出制限を維持する必要があるとのことです。5月11日以降も、飲食店や映画館、劇場、美術館・博物館は引き続き閉鎖され、イベントや集会は7月中旬まで禁止となります。5月11日から学校は段階的に再開しますが、大学などの高等教育機関は夏まで遠隔授業が行われます。EU国境は新たな決定まで閉鎖が継続されます。

5月11日以降に外出制限措置が解除されるという希望がみえてきました。透き通る青空が広がり散歩日和が続いていますが、もう少しの「辛抱」です。「STAY HOME STAY SAFE SAVE LIVES」が大切です。

ワクチンや治療薬の開発を期待し、ウイルスの終息を心より願うばかりです。

昨年になりますが、フランスのリヨンを離れて、フランス南西部に位置するオクシタニー地方のロット県にあるパディラック(Padirac)村を訪れました。

トゥールーズから車で2時間(180km)、ボルドーから3時間(260km)、ドルドーニュ渓谷の小さな村に年間45万人が訪れるという洞窟があるのです。

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パディラック村周辺は、コース(Causse)と呼ばれる石灰岩台地が密集する地域にあり、浸食により深い谷が刻まれ、カルスト地形をなしています。

そのカルスト台地に、「悪魔の穴(Trou du Diable)」と呼ばれる直径35m、最深部で深さ103mという大きな穴が空いています。そこから続く洞窟は、奥行42kmにもおよび、25kmにわたって地下水脈が流れています。

洞窟の歴史は1億7千万年前のジュラ紀に遡ります。ジュラ紀は、古生代、中生代、新生代と3つに区分される地質時代の中生代にあたり、原始的な鳥類の出現や恐竜が繁栄した時代です。ジュラ紀という呼称は、フランス東部からスイス西部に広がるジュラ山脈に広範に分布する石灰岩層にちなんで名づけらました。

そんな遥か昔、現在のドルドーニュ渓谷一帯は海の底にあり、貝類やサンゴなどの海洋生物起源の石灰岩が大量に生成され、堆積されていきました。ジュラ紀変動で地層が隆起し、第4紀(200万年前から100万年前)に入って、雨水や地表水、地下水などによって、水に溶解しやすい地表の石灰岩が浸食され、地下水脈や鍾乳洞が発達するカルスト地形が形成されていきます。地下地形は、石灰岩の割れ目に沿って流れる地下水の作用で溶食が進み、洞窟空間をつくり、地下水中に溶解した石灰分が晶出して特異な沈殿物となって洞窟を装飾します。それが鍾乳洞と呼ばれるものです。

こうして発展したカルスト台地のパディラックで、数十万年前から数万年前頃と推定されていますが、地表の溶食がいっそう進み、洞窟の天井をなす岩層の一部が崩落し、大きな穴が空いたのです。それが後に「悪魔の穴」と呼ばれ、現在のパディラック洞窟の入口になりました。

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時は流れ、19世紀後半、弁護士を営んでいたエドゥアール=アルフレッド・マルテル(Edouard-Alfred MARTEL、1859年-1938年)によってパディラック洞窟の地下内部が明らかになりました。

マルテルは、1866年に両親とピレネー山脈のガルガ洞窟(Grottes de Gargas)を見学してから洞窟への関心を強め、ドイツやオーストリア、イタリア、スロベニアなどの洞窟を訪ねました。1886年にパリで弁護士になってからも、仕事のかたわらで1年のうち2ヵ月間は洞窟探検の旅に出かけ、地底探検の情熱を高めていきます。

そして、自らの探検チームを形成し、1888年にオクシタニー地方ガール県で「ブラマビオの深淵(Abîme de Bramabiau)」を、続いてロゼール県で「ピンクの洞窟」と呼ばれる「ダルジラン洞窟(Grotte de Dargilan)」を発見して、洞窟探検家としての道を歩み出すのです。

マルテルがパディラック村の「悪魔の穴」に無関心でいられるはずもなく、1889年7月9日、3人の同行者からなる探検チームを組んで、ついにパディラック村の大きな穴に侵入し、洞窟の内部調査を開始しました。はしごで54m地点まで降りて、さらに最深部の103m地点まで地底を下っていきます。そこから「クロコダイル」と名付けた舟で地下水脈を進み、数々の困難に直面しながら、1年後の1890年9月9日、洞窟の奥にエメラルドグリーンに輝く地底湖と鍾乳石で装飾されたすばらしい大空洞を発見したのです。

マルテルは、洞窟調査を開始したときから、この洞窟を一般の人に公開したいという強い思いがありました。地表・地下の所有権といったさまざまな法的問題を解決し、見学者のために洞窟内をロウソクで灯し、歩道や地下河川を渡る船着場などを整備して、1899年4月10日、パディラック洞窟が一般公開されることになりました。

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現在、奥行2.2kmにわたって日本語音声ガイドで洞窟内を見学できます。

まずは、地上から鉄骨階段あるいはエレベーターで地下75mまで降ります。そこには聖母マリア像が置かれてあり、この地がキリスト教の聖地でもあることがうかがわれます。そこからさらに、階段あるいはエレベーターで最深部103m地点まで降り、地底探検の始まりを想起させる照明演出のもと、薄暗い地下道(Galerie de la Source)を進んでいきます。船着場に到着すると、ガイド兼船頭の案内で洞窟内の地下水脈を小舟で進みます。ライトアップされた鍾乳石とエメラルドグリーンに輝く地下水面を鑑賞しながら、洞窟探検家になったような気分で地底探検を体験できます。

地下河川(Rivière Plane)を舟に揺られながら奥へ奥へと進んでいくと、「雨の湖(Lac de la Pluie)」と名付けられた地底湖に到着し、その向こうに「グランドーム(Grand Dôme)」と呼ばれる大きな空洞が広がっています。息を呑む美しさです。舟からおりて、鍾乳石で形成された神秘的な地下空間を歩きますが、最初に登る階段は1889年にマルテルが架けた場所から変わっていません。

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1億7千万年の時を経て形成されたパディラック洞窟の地底探検は興奮の連続です。

千古の神秘を体験できるおすすめの観光スポットです!

【パディラック洞窟(LE GOUFFRE DE PADIRAC)】

・住所: Le Gouffre, 46500 Padirac France

・電話番号: +33 (0)5 65 33 64 56

・営業日: イースターのバカンスからトゥーサンのバカンスまで毎日(年によって異なりますの確認が必要です)

・営業時間: 日によって異なりますのでウェブサイトから確認が必要です

・入場料: 大人 €15

・見学所要時間: およそ1時間30分

・アクセス: トゥルーズ空港から車で2時間、ボルドー空港から車で3時間

【お断り】

フランス国内における新型コロナウイルス(COVID-19)の加速度的拡大を受けて、2020年3月14日付けアレテ(省令)の発効により、飲食店やショッピングセンター、展示ホール、美術館・博物館、視聴覚・会議室・多目的ホール、ダンスホール、屋内スポーツ施設が閉鎖されています。

筆者

フランス特派員

マダムユキ

リヨン在住20年以上。フランス各地の魅力を文化・芸術・建築・食を中心にお届けしたい。

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