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【フランス リヨン便り n°33】
残暑お見舞い申し上げます。
暦のうえでは秋になりましたが、暑い日が続いております。
皆さま、お元気でいらっしゃいますか。
先日、半年ぶりにローヌワインを産するワイナリーを訪問しました。
本当に久しぶりのワイナリー訪問で、ぶどうの実が確実に熟している姿をみて、心が和みました。
昨今、日本でもシラーやグルナッシュから造られるローヌワインが人気だとか。
リヨンから南のローヌ川流域に、ボルドーやブルゴーニュとともにフランスを代表する「ローヌワイン」の産地が広がっています。
フランスの銘醸ワインの産地のひとつに挙げられる「ローヌ川流域」
スイスを源泉にリヨンを抜けて地中海へと注ぐローヌ川の流域に沿って、南北200km、東西100kmの範囲でぶどう畑が広がっています。このローヌ川流域から産出されるワインのおよそ80%が「AOCコート・デュ・ローヌ(AOC Côtes-du-rhône)」と呼ばれています。
AOCとは「Appellation d'Origine Contrôlée(アペラシオン・ドリジーヌ・コントローレ)」の略で「原産地統制呼称」を指しますが、ワインの場合、生産地域、品種、最低アルコール度数、最大収穫量、栽培法、剪定法、醸造法、熟成法、試飲検査に関する規定を満たしたもののみに与えられる品質保証といえます。
ちなみに、AOCワインの生産量では、コート・デュ・ローヌはボルドーに次ぐ生産量を誇ります。
ローヌ川流域に南北に大きく広がるローヌ地方は、北と南ではテロワール(terroir)と表現される、気象条件、土壌、地形などの作物に影響を与える自然環境が異なります。
北部は「セプタントリオナル(Septentrionale)」と呼ばれ、リヨンの南のヴィエンヌからヴァランスまでを指し、南部は「メリディオナル(Méridionale)」とも言い、モンテリマールからアヴィニヨン周辺の地域を指します。
夏休みを利用して、ローヌ南部にあるシャトーヌフ・デュ・パプ村へ行ってきました!
実は、リヨンからローヌ南部のワイナリーは日帰りでは少し遠すぎるため、なかなか行く機会がなく、「AOCシャトーヌフ・デュ・パプ(AOC Châteauneuf-du-pape)」を生産するワイナリーを訪問するのは本当に久しぶりでした。
ローヌ北部のワインについては次回に譲り、ローヌ南部のワインについて少し説明しますね。
ローヌ南部の特徴
ローヌ南部は、雨量が少なく、乾燥していて日射量の多い地中海性気候の地域です。ローヌ渓谷を吹き抜けるミストラル(寒冷の北風)がぶどうの成長にたいへんよい影響を与えています。土壌は粘土質や砂、石灰岩質、砂礫層など、多岐にわたっていて、畑に見られる小石も丸くて小さいものから大きめのものまで、さまざまな形相を呈しています。
北部がシラーやヴィオニエと呼ばれるぶどう品種を主体に造られるのに対して、南部では、数種類の品種をブレンドして造ります。フランス語で「アッサンブラージュ」といいます。
おもなぶどう品種は黒ぶどうでは、グルナッシュ(Grenache)、シラー(Syrah)、ムールヴェードル(Mourvèdre)、サンソー(Cinsault)、カベルネ・ソーヴィニョン(Cabernet Sauvignon)、カリニャン(Carignan)、テレ・ノワール(Terret Noir)、白ぶどうでは、ルーサンヌ(Roussanne)、マルサンヌ(Marsanne)、クレレット(Clairette)、ブールブラン(Bourboulenc)、グルナッシュ・ブラン(Grenache blanc)、ピクプール(Picpoul)、ミュスカ(Muscat)、ピカルダン(Picardan)です。
AOCですが、ボルドーの「シャトー」単位やブルゴーニュの「畑」単位での格付けは存在しません。
北部に7つのAOCワイン、南部には、「コート・デュ・ローヌ(Côtes du Rhône)」「シャトーヌフ・デュ・パプ(Châteauneuf-du-pape)」「ジゴンダス(Gigondas)」「タヴェル(Tavel)」「ヴァケラス(Vacqueyras)」「リラック(Lirac)」をはじめとする14のAOCワインがあります。
シャトーヌフ・デュ・パプ(Châteauneuf-du-pape)
今回、久しぶりにシャトーヌフ・デュ・パプを本場で味わいたいという思いから、シャトーヌフ・デュ・パプ村を訪れました。AOCシャトーヌフ・デュ・パプは、オランジュとアヴィニヨンの間に位置した、栽培面積およそ3200haの畑から造られています。14世紀に教皇庁がローマからアヴィニヨンに移された際、ローマ教皇のためのワインが造られ、「教皇の新しい城(シャトーヌフ・デュ・パプ)」と呼ばれるようになったのが名称の由来です。
土壌は、小石が多い赤い粘土質の畑から、砂地、粘土質に石灰岩の小石、赤い砂岩など、タイプはそれぞれ。AOCシャトーヌフ・デュ・パプは、グルナッシュ、シラー、ムールヴェードルをはじめに13種のぶどうの使用が認められており、土壌の違いに合わせてぶどうが栽培されています。13種をすべてブレンドする生産者から、数種のブレンド、グルナッシュの単一品種のみという生産者もいます。
使用するぶどう品種やブレンドの割合によって、フルーティなテイスト、スパイシーでストラクチャーがしっかりしたもの、薫り高いエレガントなものなど、造り手のアイデンティティとなる個性が多彩に表現されるAOCシャトーヌフ・デュ・パプ。かつて教皇に捧げたワインだけあって、ローヌ南部の最高峰ワインとして君臨しています。
ヴィニョーブル・マヤール(VIGNOBLES MAYARD)を訪問しました
マヤールファミリーによって6世代続く家族経営のドメーヌです。43haを所有し、4年前から有機栽培に移行しています。2020年のミレジム(ヴィンテージ)からBIOマークが貼付されるとのこと。
栽培しているぶどう品種は、黒ぶどうではグルナッシュ、シラー、ムールヴェードル、サンソーの4種類、白ぶどうではグルナッシュ・ブラン、ルサンヌ、クレレット、ブールブラン、ピクプールの5種類です。
畑を見ると、ぶどうの品種によって枝の伸ばし方などの栽培方法が異なり、木の植え方も違っているのがよくわかります。
赤ワインの醸造方法
ぶどうはすべて手摘みで収穫しています。収穫時とコンベア選果台で傷んでいるぶどうの粒を排除する選果作業、続いて、ぶどうの房からを果梗を取り除く除梗を行ってから、発酵庫にぶどうを入れます。
発酵庫の上部に蓋があり、ぶどうを発酵庫の上から下へと、重力に従って落下させます。落下によってぶどうは破砕して、果汁が果皮を破って飛び出します。そのまま、果皮・果肉・種子などを果汁に漬け込みますが、「マセラシオン(Macération、日本語で「醸し」)」と呼ばれ、色鮮やかな赤い色合いが生まれます。マセラシオンの時間は醸造者によって異なり、その時間によって色合いや味わいが変わってきます。
温度管理がしやすいセメント製の発酵庫でアルコール発酵させています。アルコール発酵によって、糖分がエタノールと二酸化炭素に分解され、果皮からアントシアニンの色素とタンニンが果汁に移ります。発酵を促す酵母を加えるドメーヌもありますが、マヤールでは酵母を添加せず、ぶどうに付着している自然(野生)酵母のみで発酵させています。
発酵が終わると、ワインを発酵庫の下部から抜き取ります(フリーラン果汁と呼ばれ、とてもピュアでジューシーな味わいをもった果汁です)。発酵庫に残った固形残物を圧搾機にかけて圧搾します(プレス果汁と呼ばれ、色もタンニンも濃厚な果汁です)。マヤールでは、フリーラン果汁にプレス果汁をブレンドさせて色合いや味わいを調整します。
発酵を終えたワインを木樽やセメントあるいはステンレスタンクに移し替えて、熟成させます。その際、酵母や果肉片が底に沈殿するため、上澄みを移し替えます。滓引き(おりびき)と呼ばれる作業です。
樽で熟成させると、木の香りやタンニンがワインに移ります。マヤールは、フレンチオークの大樽を使用しています。よ~くみると、大樽の形が微妙に違います。ボルドー産の樽とブルゴーニュ産の樽では樽の形が異なるのです。
熟成期間はワインの種類によって異なり、マヤールのAOCシャトーヌフ・デュ・パプは12ヵ月から20ヵ月熟成させています。
熟成期間が終わると、濾過して不純物を取り除き、ワインを清澄化します。
マヤールは瓶詰めやラベル貼りも社屋で行っています。
醸造所の見学を終えて、待ちに待った試飲!
玄関口から黒塗りのお洒落な廊下を抜けて、石造りの趣きのあるセラーへ。
まずは白ワインから。
マヤールの白ワイン「シャトーヌフ・デュ・パプ・ブラン」はグルナッシュ・ブラン、ルーサンヌ、クレレット、ブールブラン、ピクプールの5種類がブレンドされています。輝きのある黄金色で、白い花とエキゾチックフルーツの繊細な芳香が口全体に広がり、「驚きのおいしさ」でした。
ドメーヌの担当者(エマさん)に「驚きの?」と言い返され、「ごめんなさい。悪い意味ではなくて。赤が主流のシャトーヌフ・デュ・パプの土壌で、グルナッシュ・ブランの爽やかなアロマとブールブランのフレッシュな芳香、ルーサンヌのまるみというかふくよかさなど、ぶどうのそれぞれの特徴が生かされていて、フルーティでありながらも少しオイリー感もあって、バランスのとれたワインです。つまり、想像以上においしくて驚きました」と、あわてて言い直しました。
続いて、赤ワインを4種類。
マヤールの赤ワイン「シャトーヌフ・デュ・パプ・ルージュ」は、グルナッシュ、シラー、ムールヴェードル、サンソーの4種類のぶどうをブレンドして造られています。
ワインの違いは、畑の位置や土壌、ぶどうの木の樹齢、熟成方法や期間などの違いです。
例えば、「小石で覆われた砂と粘土質の畑で平均樹齢45年の木からなるぶどうを使用し、20~30日間かけて発酵させてから、フレンチオークの大樽とセメントタンクで12~18ヵ月熟成させたワイン」、「小石で覆われた砂地の土壌の畑で平均樹齢40年の木からなるぶどうを使用し、18~28日間かけて発酵させてから、セメントあるいはステンレスタンクで12ヵ月熟成させたワイン」、「小石で覆われた粘土・石灰質の畑で、樹齢平均100年のグルナッシュ、樹齢平均20~30年のシラーとムールヴェードルを使用し、20~30日間かけて発酵させてから、フレンチオークの大樽で18ヵ月熟成させたワイン」。
このような違いがワインの個性に大きく影響し、素人の私にも芳香と味わいがそれぞれのワインではっきりと異なることがわかります。同じ造り手のワインを飲み比べることができるのがワイナリー試飲の醍醐味ですね。
総じて、マヤールの赤ワインはブラックベリー、スパイス、アニマルノートの芳香が漂い、熟した果実のアロマが口の中にふんわりとなが~く広がり、ブロードのように優しくコーティングされたタンニンが特徴的でした。どれもエレガントに仕上がっています。
ワイナリー訪問は宝物さがしみたいに、いつもわくわくします。
新しい出会いと発見、あるいは、再発見。ワインの奥の深さをしみじみと感じます。
リヨン発着でワイナリーツアーをオーガナイズしていますが、リヨンから日帰りツアーでシャトーヌフ・デュ・パプを組み入れるのは時間的に厳しい……。それでも、フランスを代表する歴史あるアペラシオンの「シャトーヌフ・デュ・パプ」をなんとかレギュラーツアーに組み入れたい……。なぜなら、おいしすぎる……。さらにいえば、ローヌ北部とローヌ南部のワインの違いを飲み比べてみるのはたいへん興味深い……。コストを抑えてツアー造成するには……。悩みはつきませんが、久しぶりにおいしいワインに出合えて、小さな幸福感に浸りました。
マヤールの担当者が、「2020年はフランス人の訪問が増えたけど、早く日本人の方に来てほしい」と、おしゃっていました。本当ですね。日本の皆さまが本場フランスでおいしいワインを味わえる日が戻ってくることを願うばかりです。
【ヴィニョーブル・マヤール(VIGNOBLES MAYARD)】
・住所: 24 avenue Baron Le Roy – 84230 Châteauneuf-du-pape France
・電話: +33 4 90 83 70 16
・営業時間: 4~10月 月曜~土曜 10:00〜12:00、14:00〜18:00/11月~3月 火曜~金曜 10:00〜17:00、土曜は予約制
・定休日: 日曜日
・ワイナリー訪問・試飲料: €大人15