【夏の思い出】フランスのリヨンを離れて、フレンチアルプスの麓、アヌシー湖へ

公開日 : 2020年09月29日
最終更新 :

【フランス リヨン便り n°40】

皆さま、こんにちは。

リヨン在住のマダムユキです。

新型コロナウイルスがまだまだ活発に活動を続けていますが、それでも旅を楽しみたい私は、混みあった町を離れ、開放感のある土地にでかけるのが一番と思い、リヨンから車で2時間30分の場所にあるアヌシーへ(実は、何度も訪れている場所なのですが)日帰り旅行を楽しんできました。

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アヌシー湖畔の町アヌシーは、「フレンチアルプスのベニス」「フレンチアルプスの真珠」とも呼ばれ、自然水に恵まれた水の都です。

歴史を紐解けば、アヌシーはスイス、イタリアとの国境に近く、古代ローマ時代にイタリアのトリノとスイスのジュネーブを結ぶ街道筋の宿場町だったそうです。アヌシーが町として大きく形成されていくのは、ジュネーブ伯爵の支配下で、11世紀に入ってからのことです。13世紀に入って、ジュネーブ家が8世紀に建造されたアヌシー城を改装して移り住んでから、伯爵領として発展していきます。1401年、後継ぎに恵まれなかったジュネーヴ家に代わって、今度はサヴォワ家(イタリアのピエモンテを中心とする貴族なので、サヴォイア家とも呼ばれます)の支配下に置かれ、アヌシーはサヴォワ公国の主要都市として発展を続けていきます。フランス革命が勃発した18世紀、サヴォワ家の統治権が奪われ、アヌシーはフランス領に編入されたジュネーブを県庁所在地とするモン・ブラン県の一部となりましたが、1815年、今度はピエモンテのトリノを首都とするサルデーニャ王国に属することになります。しかし、イタリア統一が行われ、1861年にイタリア王国の建国にともない、アヌシーは再びフランス領に編入され、オート・サヴォワ県の町として現在にいたっています。このように、ジュネーブから、サヴォワ、そしてフランス領へと統治権が移行したアヌシーの町ですが、アヌシーの町を歩いていると、サヴォワ公国の国旗をよく目にします。アヌシーのサヴォワへの愛着が強く感じられます。

さて、アヌシーの町ですが、12世紀の古い町並みが残る旧市街は車の侵入が禁じられた歩行者専用地区となっています。パステルカラーの家、色とりどりの花で飾られた窓辺やティウー運河沿いは、とってもロマンチックな雰囲気で、おとぎの国のような美しさ。郷土料理を提供するレストランやおしゃれなブティックがたくさんあるので、何度来ても決して飽きることなく、食事やショッピングを満喫できるのもアヌシーの魅力。また、イタリアを彷彿とさせるアーケードが多く、雨が降ったときに助かるなあ、と思いながら歩きましたが、そういえばこれまでいつ来てもアヌシーは晴れていました。出かける前夜の「てるてる坊主」の効果かな。

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アヌシーの観光スポットといえば、ティウー運河に浮かぶ軍艦のような建物で知られる「パレ・ド・リル(Palais de l'Ile)」。12世紀に建てられ、裁判所や牢獄として使われてきました。建物が湖に向かってとがっているのは、湖から流れてくる水の圧力を分散させるため。1900年にフランスの歴史的建造物に指定されました。現在は、内部が改装されて見学が可能です。牢獄として利用された当時の様子が復元されています。

厚い壁にはめ込まれた鉄格子が牢獄であったこと彷彿とさせます。廊下に2枚の重厚な鉄格子の扉が1m離れて設置され、その鉄格子の扉を介して面会が行われたそうです。囚人と面会者は1m離れて会話をするので、ヒソヒソ話ができず、またこっそりモノを渡すこともできなかったということです。

厨房に設置された大きな暖炉は料理に使われましたが、冬は暖房の機能も兼ねていました。アヌシーの冬はけっこう厳しそうです。

監房は3~4人部屋で、部屋の大半を傾斜した木板が占めています。それがベッドだと聞いて驚きました。なぜベッドが傾いているのでしょうか。小窓から囚人全員の寝顔が監視できるように、とのことではないかと思われます。

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【パレ・ド・リル(LE PALAIS DE L'ILE)】

・住所: 3 Passage de l'Ile - 74000 Annecy France

・電話: +33 4 56 49 40 37

・開館日: 火曜日を除く毎日

・閉館日: 火曜日、11月1日、11月11日、12月24日、12月25日、1月1日

・開館時間: 10月~5月 10:00〜12:00、14:00〜17:00/6月~9月 10:30〜13:00、14:00〜18:00

・感染対策: 入館者数の制限あり

・入館料: 大人€3.80

旧市街から石畳の坂道を登って、ジュネーブ家そしてサヴォワ家が住居として使用したアヌシー城へ。

重厚感のある角塔が、12世紀に城塞として建てられたことを物語っています。

門を抜けて中庭に入ると、ルネサンス様式の領主の館があり、よ~くみると使用されている石の色が異なり、時代ごとに増改築された様子がうかがわれます。現在は、博物館として使用されていますが、訪問したときは火曜日だったため残念ながら休館。博物館の見学はできませんでしたが、小高い丘の上に建つアヌシー城から、赤い屋根で覆われたアヌシーの町を一望する美しい景色を楽しませていただきました!

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【アヌシー城博物館(MUSEE-CHATEAU D'ANNECY)】

・住所: 3 Place du Château - 74000 Annecy France

・電話: +33 4 50 33 87 30 / +33 4 50 33 87 34

・開館日: 火曜日を除く毎日

・閉館日: 火曜日、11月1日、11月11日、12月24日、12月25日、1月1日

・開館時間: 10月~5月 10:00~12:00、14:00~17:00/6月~9月 10:30~13:00、14:00~18:00

・感染対策: 入館者数の制限あり

・入館料: 大人€5.50

教会芸術に関心がある方におすすめなのが、サン・モーリス教会(Eglise Saint Maurice)。1422年にドミニコ会派修道院の礼拝堂として建立。当時はサン・ドミニク教会と呼ばれていました。実は、サン・モーリス教会はアヌシー城の横に建てられていたのですが、崩壊してしまったため、サン・ドミニク教会をサン・モーリス教会に改名したのです。というのも、聖モーリスはアヌシーとサヴォワの守護聖人なので、聖モーリスに捧げる教会が必要だったからです。

かつて修道院の礼拝堂であったこともあって、彫刻装飾のない、とてもシンプルな正面ファサードです。教会内に入って内陣まで進むと、向かって左側の壁に、サヴォワ公爵とブルゴーニュ公の顧問を務めたフィリベール・ド・モントゥ―(Philibert de Monthoux)の墓が描かれた葬祭壁画があります。15世紀半ばの作品ですが、この壁画には遠近法が用いられ、だまし絵の手法で描かれています。ルネサンス初期の作品で、奥行きを出そうと頑張っている作者の姿が目に浮かぶようです。

また、身廊と側廊を区切るアーチに、「祈りの捧げる聖人ふたりと、天使に囲まれた栄光の聖母」を表した見事な壁画があります。16世紀初頭の作品です。こちらも床の模様に遠近法が使われています。

壁画マニアの私は、このふたつの作品を初めてみたとき、ぎこちのない遠近法がとても微笑ましく、作品との出合いに喜びを覚えたものです。アヌシーに来るたびに、この教会に立ち寄ってはこれらの壁画を眺め、中世からルネサンス初期にかけての素朴ながらも魅力あふれる作風を楽しんでいます。

なお、聖職者席は18世紀後半の作品で、「巨人に支えられる説教壇」は1715年の作品です。説教壇を支える巨人は1本の木で彫られています。すばらしい木製オブジェですよ。

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【サン・モーリス教会(EGLISE SAINT MAURICE)】

・住所: Rue Saint-Maurice - 74000 Annecy France

・電話: +33 4 50 65 00 45

・開館日: 毎日

アヌシーは哲学者ジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques ROUSSEAU、1712-1778年)が青年期(16歳~27歳)を過ごした町としても知られています。ルソーといえば、「社会契約と一般意志なる意志」による政治社会の理想を論じた『社会契約論』の提唱者として知られていますが、ジュネーブで生まれたルソーは16歳のときアヌシーにやってきて、そのときにルソーの保護者となった年上の美しいヴァラン男爵夫人(Madame de Warens)と恋に落ちるのです。そのふたりが出会った司教館はいまは音楽学校となっていますが、中庭にルソーの胸像が置かれています。そういえば、ルソーは若かりし頃、音楽家として生きる道を志したこともあったそうですよ。

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中世の面影をいまに残すアヌシーの旧市街を後に湖へと向かい、湖畔の散歩道を進んで、ヨーロッパ公園(Jardin de l'Europe)とル・パキエ公園(Le Pâquier)へ。雄大な山々を背景に、ヨーロッパ屈指の透明度を誇るエメラルドグリーンに輝くアヌシー湖を眺めながら、広々とした公園でひと休み。しばしウイルスの存在を忘れて、開放感に浸ったひとときを過ごしました。

ヨーロッパ公園とル・パキエ公園は小さな橋で結ばれています。その名も「恋人たちの橋(Pont des Amours)」。恋人たちが橋の上で抱擁を交わし、愛を誓いあうデートスポットとして大人気。「若いっていいわね~」と、おばさん根性を丸出しで若者カップルを横目に、橋の名が描かれたボードをカシャっと写真撮影。橋から湖への眺めがとってもすてきなのですが、あまり長居をするとお邪魔虫になりますよ。

湖畔にはクルーズ船や小型ボートが停泊しています。天気がいい日は、アヌシー湖クルーズも楽しめます。対岸のタロワール村まで船で渡ることもできます。ただし、冬季(12月~2月)は休業となりますので要注意。

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食事処には困らないのがアヌシーの町。選択肢がたくさんあり、どこに入っても当たり外れが少ないのでご安心を。今回のアヌシー散策では、ティウー運河沿いにあるレストラン「ル・ボー・ソレイユ(Le Beau Soleil)」で、サヴォワワインと一緒に郷土料理のタルティフレットを味わいました。タルティフレット(Tartiflette)は、炒めた玉ねぎとベーコン、にんにく、ゆでたジャガイモを生クリームで和えて器に入れ、サヴォワ特産のルブロション(Reblochon)チーズをのせてオーブンで焼いた料理です。胃が破裂しそうなほどのボリュームでした。

サヴォワの郷土菓子といえば「ブルーベリータルト」なのですが、残念ながらお腹いっぱいでデザートは断念し、カフェグルマンで胃を落ちつかせました(それでも、プチケーキつきでした)。

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【ル・ボー・ソレイユ(LE BEAU SOLEIL)】

・住所: 6 Quai de l'Ile - 74000 Annecy France

・電話: +33 4 50 51 68 18

・営業日: 火曜日を除く毎日

・営業時間: 12:00〜21:30

・感染対策: 入館者数の制限あり

・セットメニュ: €19.80~

最後に、アヌシーの町のあちらこちらに自転車が停められていました。あまりに絵になる光景でしたので、写真に収めました。

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安全・安心してフランスにお越しいただける日を心待ちにしております。

皆さま、引き続き、お身体をご自愛ください。

筆者

フランス特派員

マダムユキ

リヨン在住20年以上。フランス各地の魅力を文化・芸術・建築・食を中心にお届けしたい。

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