イタリア人と日本人の価値観の違い

公開日 : 2013年06月10日
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 今夜はワーグナーガラコンサートでした。二日間にわたって行われたこのコンサートは、ワーグナーの陶酔するような音楽を客席と演奏者が一体となって堪能し、大盛況のうちに幕を閉じました。

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 鳴り止まない拍手に応えてアンコールでオーケストラが演奏したワルキューレは、完成度が高く、近くで聴いていて大興奮でした。

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 でも、舞台裏は実は大変だったのです...。長く続くイタリアの不景気。真っ先に影響を受けるのは芸術家。イタリアの各歌劇場では予算削減を強いられ、生活に不安を感じる団員たちはキリキリしています。

 コンサートの二日前。稽古の時間だと思って部屋に入ってみると、稽古はなくなり、合唱とオーケストラとバレリーニが集まってデモに参加するための話し合いをするとのこと。イタリア人はとにかく感情を表に出すので、声を荒げたりしながら激しい話し合いがおこなわれるのです。この話し合いは香港公演に行く前にも出張手当の値上げを求めるために行われ、その激しさに驚きました。そのすぐ後には肩を抱き合ってコーヒーを飲んでたりするのですが。

 とにかくそんな空気の中でのゲネプロでは、オーケストラのメンバーと指揮者が険悪なムードになったり、マエストロは抗議をした人に指揮棒を渡そうとしたり。さらにオルガンの調子が悪くてプローヴァは中断。団員同士でののしり合う場面も見られたり。その場にいるだけでハラハラして、なんだか生きた心地がしませんでした。

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 夜のコンサートまで時間があったので、私はいったん家に帰ったのですが、なんだか大人げない態度や音楽を尊重しない言い争いに失望してしまい、夜の本番が不安でした。そんな中迎えたコンサート。あまりに偉大なワーグナーの壮大な音楽を前に、私たちはただ単に演奏者でしかなく、日頃のデモや喧嘩はここに入る隙がないんだなーと感じた瞬間でした。

 日本で演奏していた頃は、時間通りにきっちりと稽古が始まり、リハーサルは本番さながらに行われ、ののしり合うことはもちろん私語もなく、礼儀とリスペクトがまず第一に大切にされていたような気がします。

 世界でもっとも美しいと言われるサンカルロ歌劇場の中がこんなめちゃくちゃだなんて、私はがっかりしていましたが、本番のコンサートで歌いながらこうゆうやり方もあるんだなと実感しました。

 きちんとしたプローヴァもできないままに本番を迎えるなんて、チケットを購入して、着飾って、時間を割いて来てくださるお客様に失礼だ!と思っていたのだけれど、コンサートが終わってみると、お客様は立ち上がって拍手をして大喜び。

 日本人の私の価値観だけが全てじゃないんだな、と改めて思った瞬間でした。音楽の作り方もいろんなやり方があるのですね。

 ここではみんな、思ったことはなんでもはっきり言い、その場の空気が険悪になってもきちんと挽回できるあっけらかんとした力があります。その価値観の違いに戸惑ったり、嫌な思いをすることも度々あるけれど、音楽に向かうエネルギーは同じなんだなと嬉しくなりました。

 劇場に足を運び、仕事から離れ、家事を忘れ、テレビもパソコンも携帯も忘れて、数時間の間約3千人の人が同時にワーグナーの音楽に酔いしれる。なんだか奇跡的なことのような気がします。

 どうしてクラシックコンサートに行くの?忙しいのに、高いのに、遠いのに、いろんな煩わしい理由を遮ってまでどうしてクラシックコンサートに行くの?

 私にとっての理由はただ一つ。好きだから。どうしようもなくこの瞬間が好きなんです。

 裏で泣いても、舞台に立つとやっぱりやめられないなと思います。音楽がつないでくれるもの。それを実感しに来ませんか?

「人間の本性の最も奥深い深淵を再現すること」(オーケストラの役割に対して語ったワーグナーの言葉)

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