国分尼寺の総本山・法華寺

公開日 : 2018年10月25日
最終更新 :
筆者 : 大向 雅
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今回は平城宮址の北東にある法華寺(ほっけじ)を紹介。よほど歴史に精通されている方でないと、一般的な奈良観光ではあまり馴染みがないお寺ですが、こちらも、お隣の海龍王寺と同様、かなり重要なお寺なのでしっかり覚えて頂きたいと思います。

法華寺創建は奈良時代の後期。第四十五代・聖武(しょうむ)天皇の勅願で全国に建てられた国分寺(こくぶんじ)の総本山である東大寺に対して、こちらは国分尼寺(こくぶんにじ=尼住職の寺)の総本山として建てられました。正式には法華滅罪之寺といいます。

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かつて天皇の住まいであった内裏(だいり)に隣接するこの地は、聖武天皇の祖父であり、皇后・光明子(こうみょうし)の父でもある(ややこしい!(;´・ω・))藤原不比等(ふじわらのふひと)の邸宅跡でありました。今の寺領は、さほど大きくないように思えますが、創建当時は不比等は絶大なる権力をもっていたこともあり、東西に塔を持ち、金堂、講堂などを回廊が取り囲むような東大寺式の伽藍配置だったことが調査で解明されています。

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このゆったりとした寄棟造り(よせむねづくり)の屋根を持つ金堂は、1601年に豊臣秀頼公と淀君の寄進により再建。この日は夏越の祓(なごしのはらえ)のための茅の輪(ちのわ)が置かれていました。

御本尊の国宝・十一面観音菩薩像は、全国に7体しかない国宝の十一面観音像の中の貴重な1体。光明皇后の顔をモデルにされていると伝わっています。言われてみると確かに、仏さまというよりは人間っぽい顔立ちをされています。このお像はカヤの木の一木造りで、当初から金箔や漆などによる彩色が施されておらず唇の紅がじつに艶っぽいです。

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奈良をこよなく愛していた歌人で、文学者の會津八一(あいづ やいち)大先生がこちらの観音さまを詠んだ歌がある。

ふぢわらの おほききさきを うつしみに あひみるごとく あかきくちびる

これは

「藤原家出身の大后(光明皇后)を、まるでこの世に生きる身として見ているような、赤く美しいくちびるだ」

という意味です。

ただし、こちらの御本尊は季節限定での御開帳のため、それ以外の時期は等身大の御分身像がお出迎え。分身とはいえかなり精巧に作られている像なので、どちらが分身なのか見分けられる人は少ないかも知れません。

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光明皇后といえば、その美貌もさることながら、夫の聖武天皇と同様に深く仏教に帰依(きえ)され、貧しい人たちを救済するための悲田院(ひでんいん)と、高価な薬を分け与える医療施設の施薬院(せやくいん)を設置するなど、慈善事業にかなり注力しておられたことでも有名です。

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この「から風呂」とよばれる浴室は、床にわらを敷き下から蒸気を出す方式の、いわゆるスチームサウナのような蒸し風呂です。そしてこのお風呂には次のようなエピソードが残されています。

光明皇后は、あらゆる衆生を救うため千人の人たちの体の垢を落とし洗い清めるという願を立てられました。そしてちょうど千人目に現れた人物が、なんと全身に膿ができた重症の「らい病」患者の老人であり、ゴシゴシ垢すりをすれば膿が潰れてたちまち激痛が起きてしまう様子に、何とも手の施しようがないと誰もが思ったその時...。

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光明皇后は、その老人の潰れた膿を一つずつ口で吸って取り除かれたのです。するとその瞬間!あたり一面に光が満ち溢れて、膿だらけの老人はたちまち如来のお姿に変身され

「光明子(こうみょうし)」よ。みあげた心がけである。そなたこそ、まこと仏の弟子にふさわしい。うれしく思うぞ」といわれたと伝わっています。

「らい病」というのは現在でいう「ハンセン病」のことで、岡山県瀬戸内市にあるハンセン病療養所である国立療養所邑久光明園(おくこうみょうえん )という名前は、光明皇后のこの伝説からきているそうです。

このように日本の歴史が語り継がれて、現代に生かされている事は本当に凄いですね。

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