ハーレム入門編

公開日 : 2005年05月16日
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(1) 今どきのハーレム  こんなミーハーチックなタイトルをつけたらD女史に怒られそうだ。  D女史とはハーレムの住人にして、ある時はブラックカルチャーのライター、ある時はハーレムYMCAでキッズにコンピュータを教える先生、そしてある時はハーレムの水先案内人と七変化する私の友人である。私の知る限りで、ハーレム/ブラックカルチャーを語らせたら彼女の右に出る者はいない。「ねえ、なぜバスケには黒人の選手がいっぱいいるのに、テニスプレーヤーにはいないの」なんて幾分まぬけな質問をしても「それはですね、」とテレビ解説者さながらのやわらかな口調で淡々と説明してくれる。  ただ、このD女史に「ハーレムって危なくないんですか」といったステレオタイプの質問をしてはいけない。何千回この質問に応えたかを想像することは容易だ。どうも、こちらにいる在米日本人でさへまだハーレムは貧困と犯罪が多発する危険なエリア、と信じている人も多いのが現状のようだ。  「よく日本から『YMCAでボランティアをさせてください』っていうメールを受け取るの。『ハーレムの貧しい子供たちのために何かしたいんです』って。でも現実を見たらちょっとがっかりするかもね」つまり、最近のハーレムの子供は貧しいというイメージにはほど遠いのだ。流行の髪型に、GAPのジャンパー着て、何やらピカピカ光るナイキのシューズなんかをはいている。(「コンウェイ」で買った7ドルのブラウスを着てる私よりよっぽどリッチだ)またクリントン元大統領がオフィスを構えたことにも起因しているのか、最近のハーレムは賃貸料も上昇し、白人の流入、ほんとうに貧困な人はハーレムに住めなくなりつつあるらしい。 退社後、ハーレムのスタバでD女史と待ち合わせ、一緒にディナーを取ったことはあるがいつも連れて行かれるだけでまだハーレムを自分の足で歩いたことはない。そうだ今度はこっそり一人で行ってみようーーー。(別にこっそり行かなくてもいいのだが)(2)そしてハーレム探索へ  というわけで去る土曜日、私は地下鉄5番線に乗り125丁目の東側に降り立った。ハーレムの目抜き通りともいえるこの通りは、人権擁護、公民権問題など黒人の社会運動に貢献した最も著名な人物、「ドクター・マーチン・ルーサー・キング・ジュニア・ブルーバード」という名でも知られている。後々目に付いたのだが広場やシニアシチズンセンターなど彼の名前を冠にした場所がやたらと目に付く。そういえば以前住んでいたシカゴの図書館も彼の名前がついていたっけ。どれだけキング牧師が黒人社会に多大なる影響をもたらし、彼らの心に刻まれているのか、私たち日本人には図りしえないものがある。 さて、最初に目に付いたのは大型スーパーマーケット「パス マーク」。まだ午前中なのに大勢の買い物客で賑わっている。見渡す限り黒人ばかりに見えるが店内には南米やカリビアン、メキシカンなどラティーノの食材をベースにしたGOYAの商品が多いのでその方面の移民も増えているのだろうか。パスタの種類も多くしかも1箱68セント~と安い。食料品以外に黒人用の強力ストレートパーマ液が何種類も売られている。近頃のトレンディーはストレートヘアのようで、女性がファッションに敏感になってきていることが伺える。ちなみにこのスーパーマーケットにセルフチェックアウト、つまり無人のレジ最新システムが備わっているのにびっくりした。つまりバーコードで自分の支払う金額を割り出し、合計金額をクレジットカードか現金で銀行のキャッシュマシーンのように支払う仕組みだ。もしバーコードを通さなくてズルでもしたらどうなるのだろうという疑問が頭をかすめる。     そのまま歩くと、こぎれいなカフェが目に付いた。名前は「ウィンプズ」。ハーレムに多い南部スタイルのベーカリーで、ここでちょっと3ドルのスイートポテトパイ(といってもタルト地)を味見。思ったほど甘くなくマロミのある舌触り。日本のスイートポテトを思い出させてくれる。店員さんの話だと夜5時からは2階席も開放して南部料理のデイナータイムが始まるそうだ。 125丁目と交差するもっとも大きな通りはレノックスアベニュー、ここも「マルコムXブルーバード」と著名人の名で呼ばれている。この界隈を360度見渡すとスターバックスあり、ブランドディスカウント店「TJ マークス」があり(かわいいサンダルがいっぱい、この春の3足目を買ってしまった)、老舗のジャズクラブ「レノックス ラウンジ」あり、観光客に一押し人気のソウルフードレストラン「シルビアズ」あり(確かにこのレストランを出入りしているほとんどが白人)と見るもの、聞くもの、買うものに、食べるものにこと欠かない。おすすめのレストランはスタバに隣接するビルの2階の「ベイヨウ」。初めてD女史に連れられていったお店だが、なかなかおいしく見た目も上品な感じ。地元の人でもそれなりにきちんとした格好でやって来る。   さらに東へ歩くと黒人現代アート美術館「THE STUDIO MUSEUM IN HARLEM」。規模はあまり大きくなく、ソーホーのギャラリーのようなロフト的なつくり。入館料は7ドルだがラッキーなことにその日はちょうど第一土曜日無料の日だった。あまり現代アートは好きではないが、1930-40年代のハーレムに住む人々の表情をとったモノクロ写真になにやらノスタルジックな気分を感じた。ここではアートにちなんだ、絵画集、黒人文学、歴史などの書物、児童書に加え、マルコムXの有名な言葉「BLACK IS BEAUTIFUL」を記したマグカップ、Tシャツ、絵葉書も売られている。  ハーレムと言えば誰もが思い出す「アポロ シアター」は看板もちょっと古びていて荒廃したイメージしかなかった。まあ、ここが活気を帯びるのは夜なのだから昼間の感想を言ってもしょうがないのだがーー。(3)ハーレムはどうなる ?  それにしても思ったほど観光客らしき人や、白人、アジア人は見かけなかった。D女史が否定しても私の印象では黒人ばかり。だからここはやっぱりハーレムなのねと言いたいところだ。ただ、十数年前に見た(正確にはミッドタウンへ向かうバスの中から見た)、壁の落書きや浮浪者のたむろしたような場所はどこかへ消えてしまったかのようだ。かわりに「オールドネイビー」や「H&M」など全米展開の衣料チェーン店が建ち並ぶ。そして道行く若い人々はファッショナブルな装いに身を包み、スタイルも抜群にいい。みな流行を意識している様子が感じ取れる。  あと数年もしたらもっと観光地化されてチャイナタウンのようなみやげ物店ができ、ブラック以外の人々であふれるのだろうか。治安がよくなり、人々の生活水準が上がっても、黒人の歴史・文化の象徴として存在してきたハーレムというエリアが、その個性を失ってしまうのはいささか残念な気がしてならない。  最後にレノックスアベニューをちょっとダウンタウン方面に下がった120丁目の「セッテ パニ」はハーレムでお茶するベストスポット。ショーウインドーの明るいインテリアに白いチェア・テーブル。みずみずしいストロベリータルトにカプチーノをオーダーした私の横で、一人お茶しにきたおじいさんがフランス語で注文していたのがなんとも印象的だった(ついでに私にもフランス語で話しかけないで!)。(4)D女史とはー   なお、私の初心者向けハーレムの紹介に物足りない、もっとハーレムの真髄を知りたいと言う人はぜひD女史のホームページを覗いて見よう。黒人文学、日々のエッセイ、ハーレムツアーなどわかりやすい項目がいっぱい。アクセスはこちらから。http://www.nybct.com/  余談だがD女史とのディナーの後で「さあ、マンハッタンに帰らなくっちゃ」と地下鉄の階段をおりようとしたら背後から「失礼ね!ここもマンハッタンよ。」と非難の声が。ハーレムもいちおう(?)マンハッタン区域に属することをお忘れなく。

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スタバもある125丁目とレノックスアベニュー交差点は朝から夜まで賑わっている■CONWAY 衣料、日用品の格安ショップ。安いといっても品質のいい、デパートの払い下げ品もあったりする。くまのプーさんのタオルが$1.99などお買い得な商品がいっぱい。代表的な場所はメイシーズのとなりのブロードウェイ沿い■PATH MARK地下鉄4、5、6番の125丁目でおりたレキシントンアベニューの角■WIMP'S -----29W 125th Street TEL:212-410-2243125丁目、5thアべニューとレノックスアベニューの間■SYLVIA'S ----328 Lenox Ave TEL: 212-996-0660レノックスアベニュー、126と127丁目の間■THE STUDIO MUSEUM IN HARLEM --144W.125th St. TEL: 212-864-4500125丁目、レノックスアベニューと7thアベニューの間■SETTE PANI---196 Lenox Ave. TEL: 917-492-4806レノックスアベニューを120丁目まで歩く

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