ノルウェーのシネマシステム~映画館の自治体化とデジタル上映化~

公開日 : 2012年09月17日
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 今回ご紹介するのは、あまり知られていないノルウェーの首都オスロの映画システムについて。主な参考文献は、オスロ大学の映画専門家であるOve Solum教授の「The municipal cinema system in Norway and the digital turn(2010 Journal of Scandinavian Cinema Volume1 Number1)」より。

ポイント1

 ノルウェーの映画館は自治体ごとに管理されている。1925年をもって、オスロ市が市内の全ての民営映画館を買収。アートとエンターテイメントの両タイプの作品を提供していた。

 しかし、2012年6月、オスロ市のチェーン映画館であるオスロ・シーノ(Oslo Kino)が民営化されることが決定し、論議を呼ぶ。

 全ては「売り上げ重視」となり、文化的意義のある「小さな」国内・アート作品が上映されなくなるという懸念。

ポイント2

 「ノルウェーの全ての劇場で、フィルムからデジタル化へ移行しよう」という動きがみられる。

 しかし、上映デジタル化に伴うVPF(バーチャル・プリント・フィー/仮想のプリント経費)で発生するコストと条件は、ハリウッド側にとっては有利だが、ノルウェー国内の映画関係者にとっては不利とし、ノルウェーの配給会社側が契約にサインすることを拒んでいる。

Ove Solum氏によると、ノルウェーのシネマシステムは大きく4段階に分けられる。

ノルウェーのシネマシステム第1期

1913~1950年代後半 映画館の自治体化

・1913年の条例シネマ・アクト(Cinema Act)

新しいメディアである「映画」が、荒廃したモラルを若い世代に広めるのではないかという懸念

 ノルウェーの政治家たちは、全ての映写映像は上映前に自治体による検閲と許可が必要と定める。

・右翼は映画館の民営化、左翼は公設化を推奨

・「映画」という新しいポピュラーエンターテイメントにおける「収益」を、自治体がどのようにコントロールしていくかが、最大の焦点となった。

ノルウェーのシネマシステム第2期

1960~1980年代 映画興行収入の減少と新しい合法化

・1960年テレビの導入により、三分の一の観客が映画館からテレビスクリーンへとうつる。

興行収入の大幅減少。

自治体は、映画は「お金をもたらす存在」ではなく、むしろ「経済的援助が必要」なものと理解する

・ポジティブな変化

映画は「アート」であり、「文化的価値」のあるものとして捉えられるようになる=経済的サポートをするに値する。

・1970年の白書からもわかるように、ノルウェーでは行政やシネマシステムが地方分散されており、その体制を今後も維持し続けていくことが重要とみなされる。

 地方自治の映画館は、ノルウェーの観客に、「アート」と「エンターテイメント」の両タイプの映画を提供することを可能としていた。

ノルウェーのシネマシステム第3期

1980年代~2010年 民営化の脅威

・メディアマーケットの変化

 1981年からのブロードキャスティングメディアの公的規制解除において、自治体化されたシネマ体系も民営化されるべきだと批判が上がる。

・民営化のシェアが地方を中心にこの10年で2倍に拡大

 スウェーデンのメディア企業Svensk Filmindustri(SF)は20%のシネマ市場をコントロール、ほかにノルウェーのSchibstedやデンマークのEgmontなども進出。オスロ市内ではOslo Kinoが30%の市場シェア。

ノルウェーのシネマシステム第4期

ハリウッドに有利な上映デジタル化?

・ノルウェーでは民営公設映画観は全て「Film&Kino」の傘下にある。

 Film&Kinoは、ノルウェーの全劇場(約420スクリーン)での「フィルムからデジタル化への移行」を強く推進することを2009年に発表。

 しかし、デジタル化に伴う設備費をビデオ、DVDレンタル、チケット売り上げ金だけではまかなうことが不可能。

 よって、大手ハリウッド・スタジオとFilm&Kinoは、ノルウェーの配給者側が40%の設備費用をVPFスキームとして払うことに同意。

 しかし、2010年、ノルウェーの配給会社側は、デジタル化におけるVPFシステムがハリウッド主導で、国内の映画関係者にとっては不利であると、契約にサインすることを拒んでいることが表面化される。

1. VPFとは?

「高額なデジタル設備費を劇場だけが負担するのではなく、配給会社も応分の負担をするためにアメリカで始まった金融スキーム」(シネレボ!より抜粋)

2. VPFは、大ヒットが予測されるアメリカのポピュラーエンタテイメント映画にとっては優位だが、必ずしも上映回数やチケットなどの売り上げが約束されないヨーロッパのアートフィルム、ノルウェー国内の小規模作品や子ども向け映画にとっては、損失となる可能性がある。

3.全ての映画館でデジタル化されると、35ミリのアナログフィルムは、小さな映画コミュニティやCinémathèqueでしか上映されなくなる。

4. 上映素材がアナログ化されると大幅な経費削減が予想される。映画だけではなく、オペラやコンサート、生放送映像なども映画館で見ることが可能になる(例:2010年6月にOslo Kinoはサッカーの試合を生放送で上映)。小さい都市でも、「Avatar」などの大ヒット作品を大都市と同時期に上映することができる。

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