ノーベル平和賞をEUへ?ヤーグラン委員長に批判集中

公開日 : 2012年10月13日
最終更新 :
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 12日、ノルウェーのノーベル委員会が2012年度のノーベル平和賞を欧州連合(EU)へ授与すると発表した。しかし、現地ノルウェーのメディアは、同委員会による正式発表から15時間以上経った今でも、今回の決定に関して批判的な意見を中心に報道を続けている。

 批判の矛先となっているのは、受賞者を発表した、ノルウェーのノーベル委員会の委員長であり、受賞者決定に大きな影響力を持つとされるノルウェー人のトルビョルン・ヤーグラン氏だ。

Photo: Asaki Abumi 授賞式が開催されるオスロ市庁舎

 ノルウェーでは、ノーベル平和賞は大きな意味を持つ。授賞式は、毎年12月10日にノルウェーの首都オスロのオスロ市庁舎で開催。その年の受賞者と授賞式には毎回大きな注目が集まり、オスロ市庁舎前にあるノーベル平和センターは人気の観光スポットとなっている。また、毎年オスロに招待される受賞者は、メイン・ストリートであるカール・ヨハン通り沿いのグランド・ホテルに宿泊し、ホテルのバルコニーから民衆に手を振ることなどが恒例行事となっている。

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「平和賞は孤独から私を救い出してくれた」

 今年の6月にはミャンマーの民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チー氏がノルウェーを訪問。1991年に同賞を授与されていたが、軍事政権に自宅軟禁されていたため授賞式には出席できなかった。2012年、21年経ちようやくオスロ市庁舎での授賞式に参加できたスー・チー氏は、受賞演説で「ノーベル平和賞は孤独から私を救い出してくれた」、「平和賞受賞は、ビルマで民主化と人権問題に取り組む人々に世界の関心を寄せた」などと語った。

Photo: スー・チー氏のノルウェー訪問時、市庁舎広場で開催された一般セレモニーのパンフレット

平和的活動に貢献する人物などに光を当てるべきではないか

 現地メディアで報道されている批判のひとつが、この「ノーベル平和賞は、政治的弾圧などを受けながらも、平和に貢献する活動に取り組む人物などに光を当てるべきではないか」という点だ。スー・チー氏の演説からもわかるように、ノーベル平和賞にはその注目度の高さから、受賞者は精神的な支えを得たり、これまであまり評価されていなかった受賞者の献身的な平和活動が、世界的な感心と理解を得るという効果などがある。

もっとほかに平和賞受賞に値する個人はたくさんいる

 「60年以上、欧州の平和、和解、民主主義の発展に貢献してきた」という理由で、平和賞が授与された欧州連合。欧州連合が和解や平和構築に貢献しようとする組織であることに関しては同意する意見が多い。しかし、経済的不安が漂う2012年のいま、27ヶ国から構成される大規模な欧州連合がなぜ、ほかの個人の活動家を押しのけて平和賞を受賞するのか、疑問を呈する声は後を絶たない。「もっとほかに平和賞受賞に値する個人はたくさんいる。その人たちに光を当てるべきではないのか」と、動揺する者は多い。

驚きを隠せないノルウェーの政治家たち

 ノーベル委員会の正式発表後、ノルウェーの政治家たちは次々と現地メディアにコメントを発表。「平和賞を受賞したからといって、EUの今後の活動に大きな変化はないだろう」と見解を示す者も複数いた。また、800万スウェーデン・クローナ(約9400万円)という平和賞の賞金も、欧州連合にとっては「わずかな金額」だと主張する声もある。

政治的な色調

 2009年、米オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞した際、実績不足などを理由に、ヤーグラン委員長をはじめとするノーベル委員会の決定に批判をする声はノルウェーでも目立った。「ノーベル平和賞が政治的な色調を帯びてきている」との懸念は以前からあったが、今回の欧州連合への授与により、「オバマ大統領の受賞に引き続き、これにはもう呆れてしまう」という空気感が出ているのも否めない。

批判者はまず、EU非加盟国であるノルウェー国民としての個人的見解を切り離すべき

 実は、数少ないEU非加盟国のひとつでもあるノルウェー。「EU非加盟国」であることを誇りに思う国民は多く、国も未だにEU加盟に対しては「NO」という立場を貫いている。今回の数多くのEUの平和賞受賞に対する批判の中で、「批判するノルウェー人は、EU非加盟国の国民である自分たちの個人的な立場と意見がごちゃまぜになってしまっている」と指摘する声も、ノルウェーの現地メディアは報道している。

 現地のアフテンポステン紙は、ノーベル委員会のメンバーのひとりであり、EU非加盟に賛成派の立場をとるÅgot Valle氏が、「病気」を理由に休業中と報道。しかし、病気休暇の理由は、EUの平和賞授与の決定の場に加わりたくなかったからではないか、と憶測されている。Valle氏の親族は、「彼女はEU受賞に票を投じたくなかった」とすでに現地メディアに伝えている。

 本来、ノルウェーがEU加盟に賛成であれ、反対であれ、その国の立場と個人的な見解は、ノーベル平和賞の受賞者に関する選別や評価とは無関係であるべきだ。しかし、今回のEU受賞に関して抵抗感を示すノルウェー国民の中には、「その"ノルウェーのEU加盟に反対"という個人の考えが、無意識の状態で切り離せていない」と注意を促す報道も目立つ。

海外メディアの報道「ノルウェー人にはユーモアのセンスがあるのですね」

 ノルウェー国営放送局NRKは、海外メディアの報道では、イギリスとスウェーデンの新聞報道がEUへ平和賞授与に関して強く批判的であるのに対し、スペインとドイツの新聞報道ではポジティブに書かれていると紹介。イギリスのナイジェル・ファラージュ議員からの「ノルウェー人にはユーモアのセンスがあるのですね」という皮肉的なコメントをはじめとして、「冗談でしょう?」と反応するノルウェー国内・外からの人々の意見を集めた記事も目立つ。

批判の矛先は、委員長のトルビョルン・ヤーグラン氏に

 批判の矛先は、委員長のトルビョルン・ヤーグラン氏に集中している。中央党(Sp)のリーダーであるLars Peder Brekk氏は、ヤーグラン氏とノルウェーノーベル研究機関所長であるゲイル・ルンデスタッド氏に対して、「これはヤーグランとルンデスタッドのエゴである」と強く批判(NRK)。

ヤーグラン氏は委員長の席から退くべきではないか

 ノルウェーの首相であり、労働党(Ap)党首であるイェンス・ストルテンベルグは歓迎の意を表した。次期党首有力候補のひとりとみられている保守党(Høyre)党首のエルナ・ソルベルグ氏は、EUの平和賞受賞という結果に敬意を示す一方で、「タイミング的には、多少驚いている」とコメント(NRK、Dagsavisen紙)。しかし、労働党内でも賛成派と反対派に大きく意見は分かれており、「もうヤーグラン氏は委員長の席から退くべきではないか」というコメントがノルウェー国内の報道では大きく目立っている。

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