国際イプセン演劇祭2018 現地レポート ノルウェーを理解するならイプセンを知ろう

公開日 : 2018年09月30日
最終更新 :

ノルウェー最大級の演劇祭となる「国際イプセン演劇祭」(Ibsenfestival)が、オスロで開催されました。

ノルウェー出身の劇作家ヘンリック・イプセン(1828-1906)の作品は、今も世界中で上演中。

ibsenfestivalen_asakiabumi_henrikibsen_small-.jpg

『叫び』を描いたエドヴァルド・ムンク、『人形の家』などを書いたヘンリック・イプセンの作品は、「ノルウェーという国やアイデンティティを理解しようとする時に、非常に役立つ資料となる」と、私は思っています。

ノルウェーに交換留学などに来る方であれば、イプセンの作品は、英語やノルウェー語で読むこともあるでしょう。昔の映画作品は、見ていると眠くなることもあり、昔のノルウェー語であるオリジナルの本を読むのは大変です。そういう時は、イプセン演劇祭が役立つ教材となってくれると思います。

各国の劇団がそれぞれの解釈で表現するイプセンの世界。なぜ、ノルウェーは男女平等で有名なのか。イプセンの時代に、女性たちがこのように描かれることが、なぜ画期的だったのか。当時の、そして今も残る、「ノルウェー社会のタブー」とは何なのか。いろいろと深く考えさせられるのがイプセンの世界です。

イプセン演劇祭は、取材をしてすでに3~4回目になります。今年の演劇祭は、今までと比べると、「冒険しすぎている」か、「独特すぎて、わからなかった」作品が特に多い年だったなと感じています。 

途中で服を全部抜いで、裸になるという役者は、今年はいませんでした。「おいおいおい」ということが起こりやすいのも、イプセン演劇祭です。

オスロには、イプセン博物館があり、中心部から徒歩でアクセスできます。ノルウェーの女性の生き方や演劇というテーマに関心が高い方には、おすすめの観光スポットです。

今年の演劇祭は9月8~19日に開催されました。

一部の演目、『ヘッダ・ガーブレル』は今も上演中。

9月28日~10月6日は、全演目のチケット料金が半額になっているそうなので、演劇をあまり見たことがないという方は、この機会にノルウェー国立劇場に足を運んでみるのもいいかもしれません。

さて、私が今回見た演目の一部をご紹介させていただきます。

今年は、自由奔放なペール・ギュントが旅をする、『ペール・ギュント』が、注目プログラムでした。スウェーデンとフランスというふたつの異なる国の劇団が、独自に解釈して創り出した舞台です。

自由奔放、自分勝手なペールの生涯と、それに振り回される女性たち。今のノルウェーの価値観では、「男性を待つ」という受け身の女性の姿は好ましく見られないため、劇団によってはラストのストーリーを大幅に変えることもあります。 

スウェーデンの首都ストックホルム。ノルウェーの隣国、Dramaten劇場から来た『ペール・ギュント』の表現する世界は、私には少々ミニマリズムすぎました。

ibsenfestivalen-1601.jpg

Photo:Ibsenfestival, Nationaltheatret, Sören Vilks

フランスのCDN de Normandie-Rouen劇場による『ペール・ギュント』は、対照的に、派手な舞台演出と音楽に溢れた世界。両方とも、特にフランス版では、妖怪トロルがほとんど人間のように見えたのが印象的でした。

ibsenfestivalen-10.jpg

Photo:Ibsenfestival, Nationaltheatret, Arnaud Bertereau

演劇祭では、イプセンの演目以外の作品も、上演されます。ドイツからのBekannte Gefühle, gemischte GesichterのChristoph Marthaler監督は、今年のイプセン賞を受賞。役者やアーティストに「消費期限」はあるのか?市場と役者の関係性などを、言葉少なく、音楽いっぱいでシュールに描いていました。観客席からは、笑いの渦が何度も巻き起こっていました。今の時代に生きる劇団にとっての、挑戦的な舞台づくりは何かを考えさせます。

ibsenfestivalen-.jpg

Photo:Ibsenfestival, Nationaltheatret

イプセンの『小さなエヨルフ』は、人間の嫉妬、愛情、大人に振り回される子ども、死、というような、人間のうずまく感情が込められた作品です。イプセン演劇祭では何度か見てきたのですが、今回のノルウェー版は独特で、正直意味がわからない再構成でした。確かに、「観客はこの演目を忘れることができないだろう」というのは当たってはいます。見るものを当惑させるから。

ibsenfestivalen-2653.jpg

Photo:Ibsenfestival, Nationaltheatret, Dag Jenssen

「今まで通りに上演しない」、イプセン演劇祭の個性は今でも続いています。

Text:Asaki Abumi

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。