仏デュフレーヌ監督の映画『暴力をめぐる対話』、デモを通して考える"正義の暴力"とは

公開日 : 2022年08月31日
最終更新 :
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フランスを旅行中に、町中で偶然にデモの現場に遭遇したり、ストの影響を受けて列車などが止まり旅程が狂ってしまった経験を持つ人は多いかもしれません。

フランスは国民の意思表示が大変盛んな国です。それは今のフランス国家が成立した根幹でもありますが、これら意思表示が平和的に終わらず、参加者の一部が偶然にも興奮して(または一部が悪意を持って破壊行動をし始めて)、平和的な活動が混乱し始める時もあります。その際に力をもって治安維持を担うのが警察です。

そこで一つの疑問が生じます。「治安維持に"力"の行使はどこまで必要なのか?」「何が暴力で何が治安維持なのか?」そんな問いを投げかけたデヴィッド・デュフレーヌ監督のドキュメンタリー映画『暴力をめぐる対話』が、9月24日からユーロスペースほか日本全国で順次公開されます。2020年のカンヌ国際映画祭「監督週間」に選出された作品です。

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『暴力をめぐる対話』では、2018年11月から2020年2月の間にフランス各地で撮影されたデモ活動と警察との衝突の映像を提示しつつ、労働者、主婦、警察、憲兵隊、社会学者、歴史学者、弁護士、ジャーナリストなどが、異なる立場の人と二人一組で対話しながら振り返っていきます。

それぞれ個別に意見を述べるのではなく対話にしたのは、デュフレーヌ監督によると「意見は違ってもいいから対話をしよう」ということを意図しているそうです。「歴史家と警察官が向き合うと、どんな会話が生まれるのか」など、それら調査と好奇心からだといいます。これにより紋切り型のテレビで見るような語り中心のドキュメンタリーになるのを避けています。

例えば、穏健的にデモ活動をしてたにもかかわらず警察から暴力を受け頚椎を損傷した女性は、「国だけが暴力を振るっても許される」と諦め顔で語ります。また警察官に銃口を向けられた取材中のジャーナリストの映像に対して、警察関係者は「警察官の暴力の映像ばかりだが、警察が侮辱され殴られ究極の防衛行動に出る前の映像はない」と反論し声を荒げます。これらそれぞれの立場からの意見が、この作品に奥行きを持たせ、また私たちに多面的な立場から考えるきっかけをもたらしてくれます。

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公法の学者は作品内の対話でいくつかの引用を行います。一つはルネサンス期のフィレンツェで起きた暴動に対し政治思想家のマキャベリが説いた言葉。

「"暴動"とは民主主義の生命線で、エリートと市民の意見の相違が暴動。意見の相違は民主主義に生かすべきで制限してはいけない」

もう一つが1789年にフランスで採択された「人間と市民の権利宣言(フランス人権宣言)」の第12条。

「人間と市民の権利の保障は、公的な力を必要とする。この力はすべての人の利益のために設けられるのであって、それを委託された者の特定の利益のために設けられるのではない」

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『暴力をめぐる対話』はフランス社会をテーマにした作品です。しかしこれら言葉はフランスに限らず、現在の日本においてもどこか響いてくる気がしました。ぜひ劇場に足を運んでみてください。

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・監督: ダヴィッド・デュフレーヌ

・制作総指揮: ベルトラン・フェーヴル(LE BUREAU)

・共同製作: JOUR2FETE 

・配給・宣伝: 太秦

© Le Bureau - Jour2Fête - 2020

筆者

フランス特派員

守隨 亨延

パリ在住ジャーナリスト(フランス外務省発行記者証所持)。渡航経験は欧州を中心に約60カ国800都市です。

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