ブラジルに渡った日本人移民が題材のNHKドラマ「ハルとナツ」の撮影地へ

公開日 : 2014年06月09日
最終更新 :

いよいよワールドカップが始まりますね。開会式とブラジル戦のある日本時間の6月13日の早朝は、ブラジルでは6月12日木曜日の午後。学校も会社も早じまいになります。どこで見るの?とブラジル人に尋ねると「家族と家でテレビ観戦する」という人が多く、結構フツーです。

時差もぴったり12時間という地球の反対側のブラジルですが、日本とは戦前より深い関係がある国です。

『ハルとナツ ~届かなかった手紙~』というドラマ、ご覧になったことがありますか?

2005年にNHKの放送80周年を記念して放送された橋田壽賀子さん原作・脚本のドラマです。およそ80年前に、3年の出稼ぎのつもりでブラジルのコーヒー農場に渡った日本人家族が、日本に帰りたくても帰れなかったという物語。

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私はブラジルに来てから初めて見ました。ブラジルで生活し始めて、近所に日系2世・3世の近しい友人ができたことから「日系人」の存在をとても身近に感じ、一時帰国した際にDVDを購入したのです。

こちらでは戦後移民の方に移住当時のご苦労を聞かせていただいたこともあります。「3年ブラジルで働けば、故郷に錦を飾れる」と募集した移民。「こんなはずじゃなかった...」と皆が思ったと。

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移民の方々の忍耐、またそのご子息たちである日系人がブラジルで示した勤勉さや誠実さ、ブラジル社会への貢献。そのおかけでブラジル人の持つ日本人に対するイメージがとても良く、私達のように後から来た日本人にとっては大きな助けになっているんですよね。

そんな日々の中で「ハルとナツ」のドラマを見たものですから、すっかり入り込んでしまいました。5回に分けて放送されたドラマですが途中でやめることができず、全部で6時間半、一気に見ました。

ブラジルと日本の戦前から平成の時代まで70年間を描いていて、主人公姉妹の姉「ハル」を斉藤奈々さん(少女時代)→米倉涼子さん→森光子さんが演じ、日本に1人残された妹の「ナツ」を志田未来さん(少女時代)→中間由紀恵さん→野際陽子さんが演じています。

ドラマの中で姉の「ハル」はブラジルのコーヒー農場に家族と共に配属され、奴隷のごとく働きます。見渡す限りのコーヒー畑、そして奴隷小屋と大差ない粗末な住まいの映像がとても印象的でした。

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「ハルとナツ」ドラマ撮影地

それで、その広大なコーヒー畑と粗末な住まい、実際に見て来ました!上の写真は「ハルとナツ」の撮影地で撮ったものです。

「ハル」の家族が働くコーヒー農場の中のシーンは、サンパウロから車で約1時間半の東山(とうざん)農場で撮影されました。

ブラジルにあるのに東山農場という名前ですからお分かりかと思いますが、日本人が経営する農場です。農場についての詳しい話は次回にしますが、実際にコーヒー豆を栽培し、日本やヨーロッパなどに輸出している大きな農場です。

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池の向こうに見える黄色い壁の家々は、東山農場に現在住み込みで働いている30家族、約50人のブラジル人の住まい。使われていなかった端の方の家が、撮影用に改装され「ハル」の家族の住まいとして使われました。

ドラマを見た方はお分かりになるかと思いますが、この池にかかる橋を渡って移民たちは割り当てられた農地まで歩きます。

ドラマに描かれた約80年前の農場での生活は、日本人だけでなくイタリアなどからの移民もいて、農場が町であり、社会であり、すべてだったようです。農場内で自分が食べる野菜を作り、足りないものは農場内の売店で買っていました。農場内の売店は割高ですが、町までは遠いし、収入はコーヒー収穫後の10月、11月頃に年に1回のみ支払われる出来高制の報酬のみでしたので、そこで買うしかありませんでした。

そのため、ドラマの中での「ハル」の家族の様に、割り当てられたコーヒー畑の収穫量が少ない場合には、売店への借金が多くなってしまい、結果的にいつまでも農場を出られず、祖国にも帰れないという現象が起きてしまうのです。

現在の使用人の方々の住まいは、もちろんきれいに改修されていて、「ハルとナツ」のドラマに出てくるような部屋ではないはずです。パラボナアンテナなども建っていて生活感もありますし、黄色い壁の平屋が並ぶ姿がかわいらしくもあります。

ですが、今でも大規模農場で労働者の方々が家族単位で住み込みで働いているというのは、ちょっと意外でした。ちなみに現在の住み込み労働者の方々もコーヒー農場敷地内で家庭菜園をしていましたよ。

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「ハル」の父親が浸かるシーンがあったドラム缶風呂。母親が食事の支度をしたかまどなど、撮影時のまま保存されています。

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東山農場は2012年に公開された『汚れた心』という映画(主演は伊原剛志さん、常盤貴子さん)の撮影にも使われました。

第二次世界大戦直後、ブラジルにいた日本人移民の中には「日本は戦争に勝利した」と信じる人達が少なからずいました。勝ったと信じる人を「勝ち組」、負けたという事実を正確に把握していた人を「認識派」あるいは「負け組」といったそうです。当時は「負け組」と見なされた人々に対して「国賊」という言葉すらもが投げつけられていました。

「勝ち組」と「負け組」の間に度々起こったいさかいについて、ブラジル人ジャーナリストのフェルナンド・モライスさんがノンフィクション「Corações Sujos‏(汚れた心)」に書き、ベストセラーになりました。それがこの映画の原作です。「勝ち組」「負け組」の抗争は約10年間続き、日本人移民史の中で唯一の汚点ともいわれています。それまで助け合っていた日本人同士がいがみあった、悲しい時期ですね。

私はまだ見ていないので、日本に帰った時にはレンタルしてみようと思います。

『ハルとナツ』は、東山農場見学から帰ったその日にもう一度見ました。私が今ブラジルに身を置いているからではありますが、何度見てもグッときます。ブラジルについて知るにも、ドラマだと入りやすいし、わかりやすい。さらにブラジルを知りたくなります。皆さんも機会があればご覧くださいね。

次回は、日本人経営の大規模農場というところが興味深い、東山農場のコーヒー栽培についてお伝えします。

■東山(とうざん)農場

Tel. ( 019) 3257-2269

E-mai ; osamu@tozan.com.br

Rod. Dr. Gov. Ademar Pereira de Barros, km 121,5 - Campinas - SP

見学部担当者: 新垣 修(あらかき おさむ)さん

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