ローマの教会に現存する最古のモザイク in サンタ・プデンツィアーナ教会。

公開日 : 2014年03月24日
最終更新 :

ローマには、内部に美しいモザイク装飾を施された教会がたくさんありますが、今日ご紹介する教会の美しくドラマティックなモザイクは現存する最古のモザイクです。

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教会の名前はサンタ・プデンツィアーナ(Basilica di Santa Pudenziana)といい、プデンツィアーナという聖人(女性)に捧げられています。この場所が教会としての機能を持つようになったのは、390年頃です。日本では古墳時代ですね。

モザイクが作られたのは、ローマ教皇のイノケンティウス1世の在位期間だと壁の奉献者の銘から判っているので、おおよそ401~417年頃です。ローマの"教会"に現存するモザイクとしては最も古い時代のものです!

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↑ 教会の入口です。ローマでも、最も古い時代に創建された教会です。

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↑ 教会内で、正面奥に見える後陣(アプシス)以外の部分は、後世に改修なり修復なりで手が入っており、昔の面影を残していません。

中世の時代は、教会といえば普通、真ん中に大きな身廊があって左右に側廊がある3廊式がお約束でしたが、反宗教改革がおこるとだんだんと左右の身廊をつぶして礼拝堂などにして1廊式になっていきます。

その方が、お話をする時に信者の注意を一点に引き寄せやすいからです。

この教会もそのブームを思いっきり受けて、現在この写真で見られるように、1廊式です。

こうして、教会もまた建築上も変遷を遂げるので、"昔のままの姿" でいる方が難しいのです。

ところが、この後陣(アプシス)の水色のモザイクは何と創建当時のオリジナルモザイクです!

これは非常に小さな石を一つ一つ並べて作ったモザイクです。絵ではありません!根気のいる作業です。

モザイクには、イエス・キリストを使徒達が取り囲むようにして描かれています。

キリストの後ろにはゴルゴダの丘があり、十字架がそびえ立っていますね。十字架は、"キリストの犠牲"のシンボルです。ポルティコの後ろにはエルサレム(もしくは教会のある古代のこの通りだという説もあり)が見えます。モザイクが作られたこの時代(4世紀の終わり頃)の町の風景でしょうか!

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↑ 後陣(アプシス)をアップで。

1588年頃にカエターニ枢機卿が内部の改修工事をした時に、彼は彼の時代のフレスコ画の方が良いと思ったのか(!)、古代のモザイクを壊してフレスコ画をかぶせてしまいます。

よって、モザイクの上部に4匹動物がいる所が切り取られてしまいました~。

動物は4人の福音記者をシンボルであらわしているはずなので・・・ということは、一番左は手が見えているので、人をシンボルとするマタイ、その隣はライオンでしょうか?福音記者マルコですね。その右隣は、牛をシンボルとするルカ、一番右はちらっと羽が見えているのでワシをシンボルとする、ヨハネです。

ミニ知識ですが、絵画などを見ていて、もしこれらの動物が出てきたら、4人の福音記者の誰かを表していると読み解いて下さい。例えば、ヴェネツィアでは町のあちこちでライオンのシンボルを見かけます。そうですね、町の守護聖人、聖マルコです。マルコに捧げられたサン・マルコ寺院やサン・マルコ広場はとても有名ですね!

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↑ 使徒の一人をアップで。額のしわや服のひだがとてもリアルです。色彩の濃淡で明暗も分けられています。

このモザイクの素晴らしいところは、まるで写真で "一瞬" を撮ったかの様に、個人のリアクションを驚くほどリアルに、そしてドラマティックに再現しています。

見て下さい、胸に手をあてている者、信じられない!といった表情の者などいろいろいます。(記事の一番最初の写真が分かりやすいです)古代のモザイク師さんすごいです。本当にこの時代は古代ですから!

目に見えるものをそのまま描くということ、これこそ、当時のローマ古典美術が持っていた表現方法だったのです。この表現法が、時代が進むにつれてなくなっていきます。併せてここでご紹介しますので是非ご覧下さい。中世といえばいわゆる、ぺったんこ絵です。

ルネサンスの時代になると、この古代のドラマティックな表現方法に再びスポットライトが当たり始めます。それ故ルネサンス、すなわち再生(古典復興)というのです。

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↑ 時代が進むとだんだんと"のっぺり" とした立体感のない感じのモザイクになって行きます。

これは同じくローマにある、サンタニェーゼ教会(Basilica di Sant'Agnese f.l.m.)の後陣です。

どちらがいいとか悪いとか、美しいとか醜いとかの問題ではなく、中世特有の表現方法なのです。これは、サンタ・プデンツィアーナ教会のあのドラマティックなモザイクから約200年後に作られたモザイクですが、ここにはもうあのドラマティックな表現はありません。登場人物の数も大幅削減!です。

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↑ 顔も体も線で書かれています。もはや3Dではなくなりました。顔に凹凸を持たせるため、頬紅が付けられています。もはや古代のモザイク師のテクニックを失ってしまったのか!(実はそうではありません)

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↑ もう漫画の様な(?)イエス・キリストと聖人が横にずらっと整列しているだけですね。表情も読み取れません。ローマのサン・ロレンツォ教会(Basilica di San Lorenzo f.l.m.)のモザイクで、作られたのは、579~590年の間です。中世の製作者の意図は、人物描写はリアルでない方がより神々さを出せるということにあったのです。

なお、サンタ・プデンツィアーナ教会の近くには彼女の姉妹の教会で、プラッセーデさんに捧げたサンタ・プラッセーデ教会(Chiesa di Santa Prassede)があります。

こちらも、"天上の楽園" といわしめる程、色彩、構図とも素晴らしい豪華絢爛なモザイクで装飾されていますので是非訪れてみて下さいね!(この教会のモザイクが作られたのは、パスカリス1世の教皇下なので時代はもっとずっと後の817~824年頃のことです。)

インフォメーション:

住所  Via Urbana 160, Roma テルミニ駅から徒歩10分。サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂(Basilica di Santa Maria Maggiore)とエスクイリーノ広場(Piazza dell'Esquilino)をはさんですぐ北側。

オープン時間   午前8時30分~午後12時、午後15時~18時。  *ご注意 オープン時間は予告なしに変更になることもあります。

筆者

イタリア特派員

阿部 美寿穂

ローマからイタリアの日常やイタリア旅行に役立つ情報などをお送りしています。

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