11月のお題「あったかエピソード」- 犬とおじいさんの友情物語(実話編)

公開日 : 2014年11月16日
最終更新 :

今月のお題は "あったかエピソード" です。

前回は、"誰の日常の中にも必ずある、小さな愛のかけら(実体験編)" こちら をお届けしました。これらは、筆者が実際に体験したあったかいエピソードでした。

今回ですが、友人のお父さんが体験した実話をお送りしたいと思います。

犬とおじいさんの友情物語 (おじいさんが大好きな犬のお話)

ある所に、一人のおじいさんがいました。場所はローマ近郊です。

おじいさんの名前はジュセッペ(Giuseppe)といいます。(友人のお父さんです)

既に3人の子供達は独立し、その後、妻を亡くしてから年金生活に入って、もう随分経ちました。

ジュセッペは会社を退職してから少しばかりの農地を購入しました。

オリーブの木を自分の手で育てるという長年の夢を叶える為です。

彼が生まれてから幼少の頃までを過ごした、イタリア南部のカラブリア州の美しいオリーブの丘の原風景をもう一度、再現したいと思っていました。

彼は、初めて持つ自分のオリーブの木々を、それはそれは大事にしていました。

オリーブの木を慈しみ、守り、まるで自分の子供の様に育てていました。

毎朝、軽トラックに乗って畑に行きます。

ある日、畑の真ん中にある小屋に到着すると、一匹の野良犬(メス)が建物の影から出て来ました。

「おや、どこから来たのだろう?」と思いましたが、ジュセッペはいつも通り、農作業の準備をすると、畑の方へ向かいました。すると犬も一緒について来ます。

次の日の朝も畑へ行くと、小屋の前で犬は待っていました。農作業の仕度をして畑の方へ行こうとすると、前日と同じ様に犬もついて来ます。

次の日も次の日も、犬は小屋の前で待っていました。

ジュセッペは毎日毎日、自分を待っているこの犬が段々かわいく思えて来ました。

時々パスタなどの残飯を持って行くと、犬は何でも嬉しそうに食べてくれます。

時が経つと、犬はジュセッペのトラックの音を聞き分け、遠くからトラックが来るのが分かるや否や、畑へ入る道の手前までジュセッペを迎えに来てくれる様になりました。

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彼がオリーブ畑で農作業をしている間は、彼のそばにぴったりと張り付き、友人というよりは、まるで恋人の様です。

ある時、外科手術の為、ジュセッペは長い間入院することになりました。

退院すると、以前と同じ様にトラックに乗って、愛しいオリーブ畑へ向かいました。

もうそろそろ畑の入口へ到着するかという頃、道の脇からあの犬が顔を出したのです。

犬はトラックに駆け寄ってきます。

小屋まで到着して車から降りると、犬は尻尾を振りながら、もう嬉しくて嬉しくてたまらないといった様子でジュセッペに体当たり、地面に寝転んでお腹を見せたり、体を思いっきりこすりつけてきます。

犬はひいひい言いながら、それはまるで、「会いたかったよ、寂しかったよ。」と嬉し泣きしているかの様に体をぶるぶると震わせています。

ジュセッペは退院してからここ数ヶ月、足の調子があまり良くないので、杖なしでは足元がおぼつきません。

今日は杖を付きながらゆっくりと、高低差のあるオリーブ畑の端から端まで行ってみることにしました。

途中で何回か休みながら、一番端のオリーブの木まで無事、辿り着くことができました。

あの犬もジュセッペの行く所はどこへでもぴったりと張り付いてきます。

オリーブの木はどれも異常なく、すくすくと健康に育っている様です。

引き返して、畑の中央にある小屋まで戻って来ると、いつも首からかけている眼鏡がないことに気づきました。

ジュセッペは、「おや、これはどうしたらいいものか。もしかして、途中で休憩がてらに腰掛けた場所に置いて来たのかも知れない。」と思っていると、犬がものすごい勢いでオリーブ畑の中へ消えて行きます。

するとあっという間に、口に眼鏡をくわえて戻って来たのでした。

何もいわなくとも、犬はジュセッペが困っていることを表情から察知したのです。

犬は大好きなおじいさんに眼鏡を渡しました。するとジュセッペは嬉しさから涙が後から後から溢れて止まらなくなりました。

すると犬は、「泣かなくていいのよ。」という様に、ぺろぺろと一生懸命舐めて頬の涙をぬぐいます。

ある日、犬は妊娠しました。お父さん犬はごろつき者の野良犬だったのか、一切、姿を見せません。

お乳が大きく張った犬は、少しの間どこかへ消えると、畑に戻って来なくなりました。(この間にどこかで出産していたと思われます)

ジュセッペは心配していると、ある日、犬は子犬達を連れて戻って来ました。

ジュセッペの小屋の前まで来るとぴたりと止まり、子供達を遊ばせます。

そして、この後も何年も、犬が亡くなるまでジュセッペと犬の友情物語は続きます。

ジュセッペさんももう亡くなりましたが、このオリーブ畑はその後、長男さんが引き継いで、今ではすっかり大きくなったオリーブの木々からは年間200リットル程のオリーブオイルがとれるそうです。

犬と人間の友情は成立するの?と思いますが、植物でも、嫌なことをする相手には拒否反応(この人が嫌いだという気持ち)を持つことがあると聞きます。

動物と人間ですから、尚更この二人の様に、心がしっかりと繋がることはあると思います。犬と人間のすてきな友情物語でした。

11月お題"あったかエピソード"

筆者

イタリア特派員

阿部 美寿穂

ローマからイタリアの日常やイタリア旅行に役立つ情報などをお送りしています。

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