「アジアのベストレストラン」に輝き続ける名店"Iggy's"
世界中の美味しい物が食べられる、美食の街・シンガポール。今回は、毎年、サンペリグリノの「アジアのベストレストラン」にランクインしている他、様々な賞を獲得している名店、イギーズをご紹介します。
店名の由来でもある、「イギー」の愛称で知られているオーナーで、世界的に有目なソムリエでもある、Ignatius Chan(イグナシウス・チャン)さんは、大の日本びいき。メニューを見ても、"Sea Urchin(雲丹)"や、"Kinome(木の芽)"などの単語が並びます。
これまでも、京都と丸の内にある、京風イタリアンの店、「ギオットーネ」の笹島シェフを招き、コラボレーションしてフェアを行ったりと、日本の食材を生かした、新しいヨーロピアンキュイジーヌを目指しています。
そして、去年の12月からこのイギーズを率いる事になったのが、磯野将大ヘッドシェフ。香川県出身の磯野シェフは、関わりの深いそのギオットーネで修行を積んだ33歳。2年ほど前からイギーズのメンバーに加わっています。
この日は、235シンガポールドルの、平日限定のディナーコースを基にいくつか食べたい物をお伝えして、アレンジしていただきました。
調理風景を一部見る事ができる、お寿司屋さんをイメージしたカウンターは、ライブ感もたっぷりです。
まず、提供されたのが、レンコンやゴボウ等が、カリカリに揚がった野菜チップと、胡麻を練り込んだグリッシーニ。どちらも軽やかな味わいです。気楽にリラックスして食べて欲しいと言う事でしょうか、野菜チップが、手に持って食べられるような、中華のテイクアウトボックスのようなものに入っているのが、面白い演出です。
続いては、すりガラスでできた、丸い器が登場。開けると、中から白い煙が。同時に、スモークの良い香りが鼻をくすぐります。そして、煙の奥から、真っ黒い何かが登場。その名も、「Burnt Oyster(黒焦げの牡蠣)」。
そっとお皿に取りナイフを入れると、中からジューシーな牡蠣が登場します。牡蠣の下には、小さく切った昆布と藁が。
藁の香りは牡蠣などの海の幸と良く合うと言う事で、使っているそう。炭の入ったカリッとした歯応えの熱々の衣と、中のジューシーで良質の牡蠣は、どこか懐かしい香りのする味わいでした。
それから、溶岩焼きに使うような黒い石のプレートに載って出て来たのは、何と串に刺さった穴子に、木の芽を散らした物と、桜エビをボール上にした天ぷら。 まさか、こんな「和」のムードたっぷりの物が出てくるなんて。
穴子はとろけるような食感で、たっぷりまぶした木の芽の香りが印象的。桜エビも、さくっとした軽い歯応えで、天ぷら屋さんの揚げ物のよう。
続いて出て来たのは、旬の稚鮎をからっと揚げた物。
実は、魚介類や野菜は週に2回、築地から直接空輸しているのだとか。下に敷かれたソースは、稚鮎のワタも使った、ほろ苦いもの。磯野シェフによると、シンガポールの人たちにも、この「苦み」の美味しさと言うのは受け入れられて来ているそう。合わせて出て来たのは、マグロのタルタル。上質でとろけるような、マグロの赤身に、松の実やオリーブオイルを合わせ、花紫蘇が散らされた、目にも美しい一品。
そして、横のトマトのゼリー。トマトの純粋なエッセンスそのものを凝縮したような、クリアなゼリーは、夏の日に生でかじったトマトの味わいの純粋な部分を、極限まで高めて抽出したような味わいでした。
パンは、グルテンフリーのものも選べますが、私は普通のものをいただきました。ちなみに、ベジタリアンのメニューもあり、シンガポールならではの、多様なニーズに対応できるようになっています。バターは有塩の、濃厚な味わいの物でした。続いて出て来たのは、ホタルイカや新鮮なマグロのトロなどの刺身を、ブッラータチーズと合わせたもの。
ネギの香りのするとろりとしたソースや、宇和ゴールドというジューシーな柑橘類と合わせてあり、ホタルイカの「ぬた」を、新しい切り口で提案しているようにも感じられました。
そして、サプライズで出していただいたのは、スライスしたトリュフの上に乗った、丸のままの黒トリュフ!
ではなくて、実はキヌアに包まれた、蟹肉のコロッケ。サービススタッフから、「黒トリュフです、お好きなだけスライスしますが、いかがですか?」と出され、漂うトリュフの香りに、一瞬信じかけてしまいました。「ふふふ、びっくりしました?」と、後でいたずらっ子のように顔をのぞかせた磯野シェフ。カリカリのキヌアの歯応えが楽しく、また、トリュフの香りと蟹の相性は、もちろん最高でした。
ウニ好きの私にとって、今回のハイライトでもあったのは、「ウニのリゾット」!
小さなストウブ鍋に入って熱々で提供されたのは、びっくりするほど甘いスイートコーンの入ったリゾット。そして、その上には濃いオレンジ色のウニと、黒トリュフが。ウニの濃厚な香りと舌触りに、スイートコーンの甘みがよく合います。
続いては、メインの一皿目、お魚料理。
アマダイは鱗の部分がパリパリに仕上げられ、新しい食感を創り出しています。
そして、トマトの自然な酸味を生かしたソースには、なんとジュンサイが。トマトの種のまわりの部分のような、つるっとした面白い食感を与えてくれます。
お肉は、お願いして和牛に変えていただきました。
ホワイトアスパラガスとモリーユ茸、ジロール茸の野の香りで、重すぎない一皿に仕上げられています。
ロゼ色の絶妙の火入れで仕上げられた和牛は、きめ細かい肉質に旨味がぎゅっと詰まっています。
デザートの一皿目は、ビワのコンポート。
甘すぎず、自然な味わいで、すっとお腹に納まります。旬の味覚を取り入れているのも、常に最上のものを提供したいと言う、レストランのポリシーの一つだとか。
二皿目のデザートは、「チェリー」。
真っ赤なチェリーのソルベの下には、すっきりとしたヨーグルトのクリーム、そして緑茶とヘーゼルナッツのクランブルが。チェリーの酸味と緑茶とヨーグルトのさっぱり感、ヘーゼルナッツのおかげでしっかりとコクもあります。
どちらも、「満腹のはずなのに、気づいたらお皿が空になっている」不思議なデザートでした。
更に「Hinoki Box」という、檜の箱に入ったチョコレートが頂けます。
まるで箱庭のようなしつらいです。私は、どれも気になったので一つずつ頂きました。懐かしいパチパチキャンディーが入ったチョコレート、マカロン、ギモーヴ(マシュマロ)やボンボンショコラ等。
私はカルダモンの入ったスパイシーなマカロンと、トリュフ入りのバタークリームを挟んだ、塩気と甘みの対比が楽しいマカロンが特に気に入りました。
最後に、滑らかなフォームのラテを頂いて締めくくり。
ヘッドシェフとして、日々新しいメニューの開発に取り組んでいる磯野シェフは、暑いシンガポールだけに、「酸味」を上手く使う事を常に考えているとか。
日本人の私の目からすると、新しい感覚の物と、正統派の和食がバランス良く出て来ている印象です。創意工夫に満ちた、新しい感覚のお料理も美味しく楽しめましたが、その根底を流れる磯野シェフの考え方の基本は、「シンプルなものにこそ、大切なものが宿っている」と言う事。穴子の骨切り、魚のさばき方にしても、心を込めて、丁寧に行う。またその事を、シンガポールの若いシェフ達にも伝えて行きたいと話していました。「シンプルなものが好き」という磯野シェフ。どうしても「足し算」になりがちなフュージョン料理ですが、繊細な技術に裏打ちされた丁寧な仕事だからこそできる、潔い「引き算」が、コースの満足度と完成度をより高めているように感じました。
繊細な日本料理の息吹を感じる、モダンヨーロピアンキュイジーヌの名店です。
<DATA>
■Iggy's
住所:Hilton Hotel Level 3, 581 Orchard Road, Singapore 238883
電話: +65 6732 2234
営業時間:ランチ12:00~13:30(L.O./平日のみ)、 ディナー19:00〜21:30(L.O.) 日曜・一部祝日休
アクセス:MRTオーチャード駅から徒歩5分ほど
筆者
シンガポール特派員
仲山今日子
趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。
【記載内容について】
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