「Corner House」植物園の歴史的建造物の中でいただく、"ガストロ・ボタニカ"とは?

公開日 : 2015年01月20日
最終更新 :

シンガポールのボタニカルガーデン内、シンガポール政府より歴史的な建造物に指定され、保存が義務づけられている、「コーナーハウス」。日本ともゆかりの深い植物学者だった、E J H コーナーが住んでいた、コロニアル風の素敵な建物です。

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これまでは、シンガポールの老舗フレンチ、レザミグループのフレンチレストランとして利用されていましたが、この7月に、リノベーションを経て、全く新しく生まれ変わりました。それが、植物学者であったコーナーへのオマージュに満ちたレストラン「Corner House」です。

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なかでも一番大切にしているのは、「我が家のようにくつろげて」「植物への思い」があふれる場所である、と言う事だそう。

入り口に置かれたゲストブックには、E J H コーナーがこの家でくつろいでいる写真がちりばめられ、実際に家を訪れる時と同じように、自由にサインできるようになっています。

その横に飾られている蘭の花は、こちらのオープンの為に特別に開発されたコーナーの名前を冠した新品種。

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また、特にキノコと生姜の研究に力を入れていたコーナーの邸宅らしく、コーナー自身が描いたキノコの細密画が飾られていて、メニューにも、コーナーの研究についての説明が詳しく書かれています。

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窓の外には、豊かな緑。特にお勧めは、2階のテラス風の席。屋外とはちゃんとガラスで仕切られていて、涼しいのが嬉しい所。どうしてもフォーマルな印象になってしまうテーブルクロスをあえてなくし、レザー調の柔らかい表面のテーブルと、座り心地の良い布張りの椅子が、落ち着いた空間を演出しています。

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ここで提供されるのは、「ガストロ・ボタニカ」つまり、植物への特別な思いをもって創る料理。肉や魚と同じように、植物が主役になっています。

オーナーシェフは、レザミグループを始め、マカオのジョエル・ロブションなど、フレンチの世界で研鑽を積んだジェイソン・タン(Jason Tan)シェフ。

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共同オーナーのレニーさんが、ワインの輸入会社をやっているだけあって、ハーフサイズのボトルであっても、常に50種類以上が揃っています。

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最初に出てきたシャンパンは、こだわりのワインを醸造する小規模の造り手、レコルタン・マニピュランの、ギィ・シャルルマーニュのもの。

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さりげなくこう言ったワインが出てくる所に、こだわりを感じます。バランスがよく、飲みやすいシャンパンでした。

一番のお勧めと言う、Discovery Menu Experience(248シンガポールドル)をいただきました。

パンは、特別にコーナーハウスの為に焼いてもらっていると言うフランスパンと全粒粉のパン。そして、無塩のボルディエのバターに、テーブルに置かれている海塩をお好みで混ぜながら頂きます。

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アミューズとして最初に出て来たのは、グリュリエールチーズのスポンジ。下はサクサク、そして上はふんわりという食感の違いが楽しめ、上にのった、細かくすり下ろされたマカデミアナッツの自然な甘みを引き立てます。

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蒸したブリオッシュは、とってもふわふわ。そして、間には卵のフィリングと、自家製のケチャップがほのかな酸味を与えてくれます。

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サーモンのコンフィは、とてもしっとりと滑らかな舌触りの肉厚のサーモンの旨味を堪能できます。

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そして、自家製のフィッシュクラッカーは、上にたっぷりトビッコがのっていて、軽やかなクラッカーと、クリーミーなソース、そしてトビッコのプチプチ感が楽しい一皿です。

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続いては、様々なスタイルに調理されたトマト。

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パプリカとトマトのソルベ、トマトのジュースで作ったマシュマロと、オリーブオイルのキャビア。世界一小さなトマト、トムベリー。それから、全く同じプチトマトを二種類に調理したもの。一つは、タイバジルと蜂蜜に漬け込んだもの、もう一つは台湾でシェフが見た食べ方をアレンジしたと言う、プラムパウダーとミントでマリネしてあります。バジルの香りが深く、とても奥行きのある味わいと、プラムパウダーで引き出されたトマトの華やかで甘酸っぱい味の対比が面白く、元が同じトマトとは思えないほど。キャビアののった海老が、酸味や甘み、フルーツのように多様なトマトとよく合います。「植物、野菜が主役」という言葉も納得、確かに海老と同じくらいの存在感を放っています。

そして、コースの中でも出色だったのは、「Interpretation of My Favorite Vegetables」、4種類の調理法で料理されたタマネギ。

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とはいえ、このタマネギ、ただのタマネギではありません。その甘みで知られる、セヴェンス(Cevennes)というフランス産のタマネギなのです。まず、丸のままのタマネギの容器をぱかっと開くと、ふんわりとトリュフの香り。

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下にはびっくりするほど甘いタマネギのピューレ、その上には温泉卵、そしてタマネギのクリーミーなソースがかかっています。全体を混ぜ合わせていただくと、濃厚なタマネギの甘みとまろやかさに驚かされます。

そして、もう一つは、フィロと呼ばれる薄い皮の上にスライスしたタマネギを乗せ、パルメザンチーズをかけて軽くサラマンダーで焼いたもの。ほのかに感じられるスモークのような炙られた香りと、ごく薄いフィロの繊細なクリスピーさが合わさった、オニオンタルトです。

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そして、スライスしたタマネギをパリパリに乾かしたもの。キャラメルのようなほのかな苦みが感じられます。

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4種類目がスープ。エスプーマでつくられたふわふわでクリーミーなタマネギの泡に、じっくりと甘みと旨味を引き出したキャラメル色のスープが注がれます。

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中国の「陰陽」をイメージしたというこちらは、茶道のようにお茶碗を持って、そのまま器に口をつけて頂くという趣向。ふんわりと滑らかなムース状のスープと、コクと深みのあるスープが、ちょうど「陰陽」のマークのように、口の中で混ざり合います。実は、ジェイソンシェフは、フレンチのキッチンで働き始める24歳の時まで、タマネギが苦手だったとか。しかし、このタマネギを知ってからは、タマネギが大好きになったそうで、メニューに「My favolite vegetable(お気に入りの野菜)」と付けられているのも納得。「植物が主役」という、ガストロ・ボタニカの魅力を堪能できるメニューです。

フォワグラの中国風、Foie Gras a la Chinoise は、ローカルフードの鴨の調理法と同じように、五香粉で煮て、タイのイエローマンゴーのピュレとグリーンマンゴーをあしらっているのが、シンガポールらしいアレンジ。EJHコーナーが研究の対象として多くの時間を割いたトーチジンジャーの花をごく細かく刻んだもの、そして、胡麻のチュイルと共に頂きます。

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合わせるワインは、シャトーグリエのPONTCIN。フランスの外で飲めるレストランとしては、このコーナーハウスが初めてだそう。ヴィオニエ種100%で、華やかな花、そしてほのかな蜂蜜のような香りが、フォワグラとよく合います。

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料理の仕方はフレンチの手法ですが、五香粉のオリエンタルな甘い香りとマンゴーのエスニックな味わいが、フォワグラの濃厚な旨味を引き立て、トーチジンジャーのすっきりとした味が全体を引き締めています。

続いては、メイン産ロブスターのパスタ仕立て。

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米粒のようなサイズのパスタ、Riso Pastaに、同じくらいの大きさに刻んだイカを合わせ、焦がしたリーキ、蕎麦の実のパフを加え、シードルの軽いソースを合わせてあります。

まず、ロブスターの身の火入れ具合が抜群で、ふんわり、しっとりジューシーに仕上がっています。イカの絶妙の歯触りと旨味がパスタにからみ、また蕎麦の実のパフの香ばしさとカリカリ感が絶妙です。上からかけられたカラスミの粉、細かく挽いた黒胡椒をアクセントにしながらいただく、海の幸の魅力が凝縮した一皿です。

続いては、ニュージーランド産の銀鱈(ブルーコッド)の鱗をカリカリに焼き上げた、New Zealand Cod "Crispy Scales"。

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たっぷりと肉厚な銀鱈はとってもジューシー。カリカリに焼き上げられた鱗の食感との対比が楽しい一皿。フランス・ジュラ地方の黄ワイン(Vin Jaunes)のサバイヨンソースが合わせてあります。サバイヨンソースとこっくりとした黄ワインの香りが合い、中には可愛らしい小さな人参などの野菜が入っています。どこかほっとする味わいのソースに、ひねりの利いたパリパリの鱗の銀鱈がよく合います。

そして、A5グレードの近江牛を、まるで絵画のようにアレンジした Japanese A5 Omi beef。

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ビーツと、発酵した黒ニンニクと合わせていただきます。ビーツはスライスした生、ピュレ、コンテチーズを乗せて加熱したものなど、様々な味わいが。更に、黒ニンニクは、松の実と合わせたペーストにしてあり、ナッツのコクと発酵によって引き出されたニンニクの甘みと旨味があいまって、味噌のような濃厚さです。

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フルーティーでタンニンのしっかりしたシラーズの赤ワインとともに頂きましたが、口の中でとろける分厚い霜降りの近江牛に、コクのある黒ニンニク、ビーツの甘みがよく合い、タンニンの多い赤ワインですっきりといただけました。

デザートの一皿目は、パッションフルーツとバナナのゼリーに、リースリングのワインで香りをつけたもの。

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タピオカはカルダモンで香り付け、パイナップルは五香粉に漬け込まれていて、西洋と東洋の食文化がうまく混じり合ったバランスの良いデザート。すっきりしたバジルのソルベが添えられているのも、植物園内のレストランらしく、清々しい草の香りが感じられて好みでした。

メインのデザートは、「ココアの小石」、Cocoa "Pebbles"。

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キノコの研究をしていたEHJコーナーへのオマージュとして、本物のキノコとメレンゲのキノコが添えられています。小石の中にはレモンカードの入ったチョコレートのムース、下にはマンダリンオレンジのソルベが。植物学者の家で食べるのにふさわしい、趣向のこらされたデザートでした。

締めくくりには、フレッシュなミントティーとプチフールを。

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キャラメリゼしたマカデミアナッツのチョコレート掛け、中にサクサクのフレークが入ったピーナッツのチョコ、そして、マカロンには卵の黄身に塩を利かせたもの。

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シンガポールを始め、中華圏では月餅に卵黄の塩漬けを使いますが、その卵黄をもっとクリーミーにした印象でした。

工夫に富んだ料理を生み出しているジェイソンシェフですが、一番の師は、もう閉店してしまったフレンチ、Le Saint Julienの、ジュリアン・ボンパード(Julien Bompard)シェフだそう。料理の基本のすべてを、教わった人でもあり、哲学も彼から学んだそう。「厳しい規律」を学んだ、というマカオのジョエル・ロブションのキッチンで働くように勧めてくれたのもジュリアンシェフだそう。一番印象に残っている言葉は、「タフな(きつい)時間は永遠に続くものではない、タフな人間だけが生き残る」という言葉。それだけハードな日々を過ごしただけあって、ジェイソンシェフは2008年にはポール・ボキューズが設立したフランス料理コンクール、ボキューズ・ドールのシンガポールチャンピオンになるなど、めざましい活躍を見せています。

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フォワグラと五香粉の取り合わせなど、さりげなく、シンガポールならではの味を取り入れているジェイソンシェフ。地元の味を大切にしつつも、世界中から人と物が集まるシンガポールにいるだけあって、その視野はとてもグローバル。

ヨーロッパを中心に、様々な地域を旅しては、その地域の美味しいレストランを食べ歩き、刺激を受けているのだとか。日本にも来た事があり、白海老を使ったタルタルなども、時期によって出しているそうです。

今興味があるのは、南アメリカの料理。シンガポールに、南アメリカの料理はあまりなく、見たことがない食材への興味がある。南アメリカ料理を再解釈して、新しい料理として生み出したいと考えているのだとか。

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自然への尊敬の念が生み出した、植物が主役の料理、「ガストロ・ボタニカ」。更にグローバルに広がるその世界に、注目したいと思います。

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■Corner house

営業時間:ランチ 12:00〜15:00(日曜は11:30〜) 、ディナー 18:30〜23:00、(月曜休) 

住所:1 Cluny Road, Nassim Gate, Singapore Botanic Gardens E J H Corner House Singapore 259569

TEL:+65 6469 1000

URL: http://www.cornerhouse.com.sg/

アクセス:MRTボタニック・ガーデンズ駅からタクシーで5分程

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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