「beni」三ツ星育ちの日本人シェフによる極上の正統派フレンチ

公開日 : 2015年12月17日
最終更新 :

今年7月にシンガポールにオープンした知る人ぞ知る隠れ家レストラン、beni。席数15という、こじんまりとした空間で腕を振るうのは、山中賢二シェフ率いる3人の日本人シェフ。山中シェフは、銀座のミシュラン三ツ星フレンチ、「ロオジエ」で、フランス国家最優秀料理人に輝いた、初代シェフのジャック・ボリー氏にその腕を見込まれ、入ってすぐに重要なメインディッシュの担当を任されるなど、頭角を現したシェフ。2004年にロオジエを離れ、リッツカールトン東京のフレンチ、Azure45でキャリアを積んだのち、自身のレストランを開店。

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そのおいしさを知ったシンガポールの起業家から声がかかり、「日本の食材を使って、海外でトップになる」という夢を持って開いたのがこの「beni」。その名前には、シェフの好きな色、「紅色」と、フランス語の「祝福」という意味から来ているのだとか。志を同じくする、ロオジエでの盟友、新海広行スーシェフと、和光で働いていた時代の後輩、田上直幸ペストリーシェフ、そしてリッツカールトン東京の同僚のソムリエ、村岡宏美さんというドリームチームを結成し、シンガポールにやってきました。

「ロオジエ」での、正統派フレンチのスタイルをそのままに、日本で出していたのと同じ味を提供しているという料理の数々をご紹介していきます。

まずは、マッシュルームのブルーテ。

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白マッシュルームの出汁を取ってから、シメジやまいたけ、エノキと共に濃厚なスープ仕立てにしたもの。上にはトリュフの香りのクリームが載っています。伝統的な作り方ですが、手間がかかるためにこのやり方をしているレストランは少ないのだとか。丁寧に引き出されたキノコの香りを、クリームと一緒にいただく、軽やかな前菜です。

続いては、低温調理したサーモン、mi-cuit de saumon Ecossais。

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ロオジエで長年、メインディッシュである肉や魚の火入れ担当だったという山中シェフは、この火入れはまさに腕の見せ所。

フレンチの本場、フランス産の食材も、日本産の食材も同じように手に入るシンガポール。

地元の人には日本食材のほうが喜ばれるのだとか。「日本の食材のほうがフランスの食材より繊細で、例えば魚なら、火を入れすぎるとパサついてしまう。魚というのは、大体42度で火が入る、その加減が大切」と語ります。

ナイフを入れると、しっとりとした身、それでも火は通っていて、滑らかな舌触り。下にはクミンシードが敷かれていますが、アクセントとしての控えめな使い方です。薄いクレソンのピュレで巻いた繊細さは、まさにグランメゾンの一皿です。サイドに添えられたディルに、青リンゴ、セロリ、きゅうりにはほんの少し火を通して、リコッタチーズのソースとアンディーブを添えてあります。添えてあるのは、イクラですが、当然サーモンとの相性も抜群。

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ソムリエの村岡さんが選んだワインは、緑の香りがあるソーヴィニョンブラン。グラスワインはその時のメニューに応じて、20シンガポールドルから、ワインペアリングは2杯で30シンガポールドルから提供されています。

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続いては、前菜の中から、2種類のフォワグラ。

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一つはソテーにして、マンゴーのチャツネ、オレンジスパイスソース、ライムのゼストをあしらったもの。もう一方は、赤ワインとスパイスに漬け込んでコンフィに。サングリアのゼリー、ブルーベリーのピュレ、スパイスの効いた甘さ控えめのクッキークランブルと合わせてあります。

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ソムリエ村岡さんのチョイスは、今パリで大人気という南フランス、カルスのワイン。

「Lais」という名前は、作り手のオリヴィエさんのペットの牛の名前から、という素朴な人柄が伝わるワインです。ブドウ品種はカリニャンとグルナッシュ。しっかりとした果実味があり、スパイスの効いたソースに負けません。

どちらもスパイスの効いたソースですが、あえて言うなら「南」をイメージさせる、躍動感あふれる味付けのソテーに対して、コンフィは静かな、「北」をイメージさせる味わい。同じ食材ながら、その対比が見事です。

「フォワグラはフルーツのソースと合わせるのが定番。僕の料理はクラッシック、特に珍しいものを作ろうとか、そういうものではないんです。流行を追いかけると、後から見てなんであんなもの作っていたんだろう、と思ったりするでしょう?昔ながらの組み合わせには理由があるし、その芯の部分は変えずに料理を作っていきたいんです」と話す山中シェフ。とはいえ、「クラッシック」というのは、昔ながらの重たく古めかしい料理、というわけではありません。

「時代にあわせて進化しつつも、基本の部分を損なわない料理」、とでもいうべき料理。

「シェフは毎日料理を作っているから、たまには違ったものを、と料理をひねりすぎる。だけれども、ファインダイニングに来るお客さんは、毎日この料理を食べるわけではなくて、基本的に一期一会。完全なバランスで作った料理を、シェフのエゴでコロコロ変えてはいけないと思うんです」と話します。

見た目の面白さや意外性ではなく、純粋な味を求めて内側に昇華してゆく料理。ある意味、とても日本的なフレンチという印象を持ちました。

続いては、チョイスの前菜から、北海道のホタテ貝、saint-jacques de Hokkaido。

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こちらは、半生ではなく、フライパンでしっかり火を通してむしろぷりぷりした肉質を楽しむ形です。根セロリのピュレとトリュフとシェリービネガーのピュレが両サイドにあり、それぞれ混ぜていただきます。そして上からはたっぷりとオータムトリュフのスライス。火を通してうまみと甘みがしっかりと出たホタテは、トリュフとシェリービネガー上質な香り漂う、酸味の効いたピュレと、穏やかな香りのある根セロリのピュレで、緩急のあるコントラストに。黒いものは、イカ墨を使った自家製ビスケット。

そして、こちらでは器も日本製。ガラス器やフォークレストは有名な菅原工芸硝子、お店の名前通り紅色が印象的なこのホタテ貝の器は、有田焼の名陶、カマチ陶舗から。器からも日本の美を感じてほしいという思いが込められています。

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ワインは、先ほどのオリヴィエさんの先輩にあたる、カルスの町のワイン造りのパイオニアが作った白ワインを。

南では繊細なワインは作れない、という定説を覆した先人のワインは、クリーム感のあるソースと相性の良い樽のバニラの香りの奥に、深みのある木の香りの余韻が残る、印象深いものでした。

本日の魚poisson du jour origine Mer du Japon は、日本から届いた金目鯛。

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グリルした後に、アンチョビを効かせたローストピーナッツオイルで仕上げています。断面が虹色に脂がのった金目鯛、そしてアンチョビの海の味に、ピーナッツオイルのコク、繊細に刻まれた野菜でできた、ほっこりするラタトゥイユのソース。「海」と、南フランスの風を感じるような一皿です。

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表面に美しい虹色が見て取れます。

そして、何よりもbeniのシグネチャーというべき、尾崎牛。

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宮崎県の有名ブリーダー、尾崎さんが、通常よりもじっくりと時間をかけて育て、ベストのタイミングで出荷させているお肉。ストレスのない環境で育った牛肉は、世界で高い評価を得ていますが、生産量が少ないため、実は日本国内でも幻の牛肉と呼ばれているほど。尾崎牛のヒレやサーロインといった最上級部位を食べられるのはシンガポールではbeniだけで、しかも尾崎さん自らが、尾崎牛の中でも最高の肉を選んで送ってきているのだとか。

最高級の和牛と、山中シェフの火入れの技が生きた、必ず食べておくべき一皿。ヒレとサーロイン、異なった霜降り具合の部位は、火入れの仕方も異なるそう。シンプルなジャガイモのピュレ、そして甘いマディラワインのソース。上からはアルバ産の最上級の白トリュフをたっぷりと。

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(「料理を食べた人が、「おいしい」とうなずくのがうれしくて、料理人になった。一生現場のシェフでいたい」と語る山中シェフ。)

村岡さんのチョイスは、まさにフルボディといった印象の、しっかりとした果実味とコク、切れ味のある赤ワイン。

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世界の星付きレストランで愛用されているという、こだわりのペルスヴァル(Perceval)のナイフを牛肉に入れると、すっと切れ、手前のヒレ肉は、口に入れると牛肉のうまみがしっかりと広がり、繊細な肉質を楽しめます。そして、奥のサーロインは、噛むたびにきめ細かい脂身が口の中ではじけるジューシーな味わい。脂が乗っているのに、まったくもたれないことにも驚きました。

甘く上質なキャラメルのような香ばしさのあるマディラワインのソース、そして薫り高いアルバの白トリュフ。まさに至高の一皿です。

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続いては、プレデザート。洋ナシのコンポートに、赤ワインのグラニテ。シンプルにバニラビーンズと砂糖で煮たコンポートに、赤ワインのどこかシナモンを思わせるような甘い香りが合わさり、口の中をすっきりさせてくれます。

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デザートは、和栗を使ったモンブラン。最高級のモンブランを作る、という思いのもと、薄いケーキ生地の上に、ボルディエのバターをたっぷり使ったクリーム、そしてその下には優しい味わいの蒸した和栗がコロコロと入っています。

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食後は、「ワインのように、料理とのペアリングを楽しんでほしい」と生み出された日本のプレミアムティー、ロイヤルブルーティー(Royal Blue Tea)の玉露のほうじ茶、香焙で締めくくり。

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小菓子はほおずきに少しだけホワイトチョコレートをコーティングしたお菓子、シンガポールのライムのような柑橘類、カラマンシーを使った淡雪のようなマシュマロ、表面のごく薄い層がカリッと、そして中がもっちりと焼き上げられたフィナンシェでした。

ランチコースは128シンガポールドル~、ディナーコースは238シンガポールドル~。メニューには白子などもあり、ああそういえば日本は寒い時期だと思ったりして。山中シェフは、「日本の食材のほうが旬を出しやすい。日本のような四季のないこの国で、季節感のある皿を提供していきたい」といいます。

街中ではクリスマスツリーが目立つようになってきたシンガポール。クリスマスと年末年始の特別メニューは、12月22日~25日、12月31日~1月3日。尾崎牛の塩釜をメインにした料理が食べられるのだとか。食事をしたお客様には、お土産に田上シェフの特製パウンドケーキなども提供される予定だそうです。

将来は日本に「逆輸入」という形で、二号店をオープンしたいと語る山中シェフ。

お客様は現在9割がローカルな方だそうですが、日本人シェフの作るグランメゾンの味は、外れのないおいしさ。「いつまでもおいしいと言ってもらえる永遠のクラッシック」を追い求める山中シェフの味は、どなたにでも、安心しておすすめできます。

王道のフレンチで、大切な方との時間を過ごしたい方、また海外のお客様に和食だけでなく、日本のアイデンティティーを持ったフレンチをご紹介したい、そんな時にもぴったりです。

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営業時間:ランチ 12:00~15:00、ディナー 19:00~23:00 (日曜休)

住所:333A Orchard Road #04-16 Mandarin Gallery Singapore 238897

電話: +65 6235 2285

アクセス:MRTサマセット駅から徒歩6分

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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