「The Rising Sons of Japan」気鋭のシェフとアートのコラボレーション
先日記事でもご紹介した、「はし田」の橋田建二郎シェフと、「四川飯店」の陳建太郎シェフ、そして今年400周年を迎えた有田焼という豪華なコラボレーション、「The Rising Sons of Japan」が、ラッフルズプレイスのレストランMe@OUE(ミー・アット・オーユーイー)で行われました。
Me@OUEは、素晴らしい夜景が楽しめるだけでなく、中華・和食・フレンチと3人のエグゼクティブシェフがいるのが魅力のレストラン&バー。ここの中華のエグゼクティブシェフとして、四川飯店の陳建太郎シェフが料理の監修をしていることから、今回のコラボレーションが行われることになったのです。
そして、今回は特別ゲストとして、新進気鋭の有田焼の作家、百田暁生(ももた・あきお)さんがいらしていました。
午後7時からこの特別イベントはスタート。最初に、両シェフと百田さんがあいさつ。
(右から、陳シェフ、橋田シェフ、百田さん)
日本人シェフの2人のコラボレーションですが、日本人の方だけでなく、シンガポール人も大勢来ていて、注目のイベントということがうかがえます。
席には、有田焼について説明したリーフレットも置かれていて、有田焼を知らないシンガポールの人も、歴史などを知ることができるようになっています。
まず出てきたのは、橋田シェフによる、竹でできた美しい宝箱。その名も、「Winter Treasures」。一口ずつ、宝石のような冬の海の幸が詰め込まれています。
右端から、まずはあん肝。中華とのペアリングということで、普段よりやや濃い目の味付けで仕上げているそう。濃厚なあん肝のコクが、このしょうゆや酒の甘辛い風味とよく合います。
そのお隣は、湯がいたボタンエビ。程よい火の入り方は、さすが寿司店のエビです。子持ち昆布は、なんと紹興酒に漬け込んで、中華のエッセンスをプラス。
とはいえ、上に載った菜の花と繊細な鰹節が、しっかりと和食に引き戻してくれます。
日本酒でゆっくりと煮たタコは、ふんわりとゼラチン質の衣をまとい、タコのうまみ、もっちりとした歯ごたえを堪能できます。
続いて、陳シェフによる一皿目、「Sea Urchin Cream Croquet」。
ウニのコクを生かしたクリームコロッケには、日本のジャガイモも使われていて、自然な甘さが楽しめます。そして、下に敷かれているのは陳シェフ特製のチリソース。シンガポールでチリソースというと、どうしてもチリクラブのソースになりますが、こちらは、長ネギの香りが生きた、懐かしい日本風のエビチリの味。コロッケの具には、小さく刻まれたエビが入っていて、エビチリなのだけれど、唐辛子の刺激を、このジャガイモの自然な甘みが包み、コクのあるパルメザンチーズが受け止めることで、和食に寄り添う流れができています。
次の一皿も陳シェフによるもの。「Foie Gras Chawanmushi」
フォワグラのフランを、上海毛蟹の身、卵、味噌で作ったとろみのあるソースで仕上げています。
一口食べると、カニの卵のうまみ、味噌の薫り高さとコク、身の甘さが口の中に広がり、フォワグラの濃厚さとよく合います。
「本場四川でも、最近はフォワグラなど、輸入食材を取り入れた四川料理が生み出されているのです。四川料理は、百味百菜という言葉があり、様々な食材と多彩な調味料が織りなす味の複雑さが身上なんです」との陳シェフの言葉に納得です。
そして、今度は橋田シェフによる「Yuzu Gama」(柚子釜)。
大きな柚子の器の中には、新鮮な牡蠣や白子などが白みそ仕立てになって詰まっています。表面をちょっと焦がして、白みその香ばしい香りを引き出していて、柚子釜というと、冷たいなますが入っているイメージでしたが、こういった温かい柚子釜になっているのが、鍋や関西風のお雑煮など、冬の温かさを思いおこさせてくれます。
ここまでも有田焼の様々な器で供されましたが、この柚子釜で私がいただいたのは、百田さんによる波をイメージした器。
会場に展示されていた作品の前でお話をお伺いしたのですが、百田さんは、実は鍋島藩の御用窯だったという窯元の生まれ。「祖父の代で満州(当時)に渡るなど、一度伝統は途切れているのですが、数えてみると15代目ということになりますね」と百田さん。
ユネスコ世界遺産に登録が期待されている、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」のひとつ、黒島の黒島天主堂には、百田さんの祖先が作ったタイルが使われているのだとか。そんな伝統を受け継ぐ百田さんですが、作風はあっと驚くような斬新なもの。真っ白な白磁がそのベースになっています。「白磁は、ごまかしがきかないのが難しくも面白い」と話します。
そして、その白磁の上に、限りなく透明に近いブルー、というのはこういう色ではないかと思う、美しいオリジナルの釉薬がかけられています。まんべんなく釉薬をかけるのが普通の白磁ですが、百田さんの作品は、まるで前衛芸術のように、不規則に飛び散ったような形でかかっています。
いったんは東京で就職した百田さんですが、忙しく過ぎていく東京暮らしで、ふるさと有田の美しい空と水を思ったといいます。陶芸をするために有田に戻った百田さんは、いつしか有田の自然をテーマにした作品を生み出すようになり、海外にもファンが多いのだとか。
不揃いな釉薬、とともに、特徴的なのは、自然をモチーフにした独特の形。
「例えば、これは水面に水滴が落ちた瞬間の形を表しているんです」と紹介してくれたオブジェには、一筋の赤い線。「これは、夕日なんです。季節は秋。川に錦織のように紅葉が散っていて、それに夕日がぴかりと当たる、そこにしずくがぽとりと落ちてくる。そんな瞬間を表しているつもりです」
そんな話を聞くと、遠く離れた日本の美しい風景が浮かんできます。
まるで、日本の美しさを閉じ込めたような百田さんの白磁は、先日陶器で有名な台湾で行われたフェアでも、「こんな形は見たことがない」と、地元の人から高い評価を得たのだとか。
そんな百田さんの器でいただくなんて、まさに目でも日本の美しさを感じる構成でした。
その他にも、美しいお皿が様々にそろっていて、お皿に合わせた盛り付けも見どころの一つ。
続いては、陳シェフによる「Wagyu Beef Striploin "Sichuan style" 」
意外と知られていませんが、青椒肉絲は四川の伝統的な料理。「幻の調味料」と呼ばれることもある、四川のもち米を発酵させた調味料、「酒醸」が使われています。それに合わせるのは極上のサーロイン。真空調理して旨みを閉じ込めた牛肉は素材の良さを活かした薄味に、一緒に食べる野菜にしっかりと味付けし、牛肉本来の甘みやうまみを味わえ、口の中で完全なバランスになるよう計算されていました。上からは、今が旬の黒トリュフをたっぷりとスライスしています。一口食べると、酒醸のまろやかな味が、和牛の甘みと溶け合います。そして、シャキシャキしたパプリカの清々しさと、豊かなトリュフの香りが広がる、印象的なお料理でした。
まるで小さな宇宙のような、そんな印象のお皿に、美しく盛り付けられていました。
そして、はし田といえば寿司。冬の味をたっぷりと詰め込んだ「Omakase Winter Sushi」。
右から、ごく薄くスライスしたカブの酢漬けで包んだ、今が旬の鰤。山椒の実とゴマが香るウナギ。生のボタンエビと大トロ。
どれも極上の味わい。個人的には、ボタンエビのなめらかで濃厚な食感、大トロの自然な脂の乗りと甘みが特に気に入りました。
そして、陳シェフの、イチゴの乗った濃厚な杏仁豆腐と、橋田シェフの麩饅頭、そしてマーライオン最中。エバミルクの入った杏仁豆腐はとても柔らかくミルキーなコクがあり、麩饅頭は日本のスイーツらしい自然な甘み、そしてマーライオン最中は、香ばしい最中の皮の中に、カヤとバターがベースの濃厚なフィリングが詰まっていました。
オープンキッチンなので、ライブ感たっぷりに、2人のシェフのコラボレーションが楽しめるのも、魅力の一つ。
今回一夜限定のイベントでしたが、お客さんたちのリアクションも最高。
同い年の橋田シェフと陳シェフは、冗談を飛ばしたりと、どこか友達のような気安さがありつつも、
「プロとして認め合っている」お互いへの信頼感が感じられます。今回の初めてのコラボレーションで、その絆はさらに深まったよう。
「今回も好評だったので、近々、また同じようなイベントをやりたいと考えているんです」と口をそろえます。今回は、お互いの料理をそれぞれにアレンジして、1つのコースとして成立させていましたが、次回は二人で一つのお皿を作る、さらに深いコラボレーションをしたいと考えているそう。
「中国の花山椒なども使ってみてもいいですね、そうするとまた今度は、お酒とのペアリングまで考えたくなっちゃうんですよね」と、橋田シェフの頭の中では、新しい企画に向けたアイデアがすでに動き出している模様。日本が誇る二人の若手シェフの更なる挑戦が楽しみです!
<DATA>
■ The Rising Sons of Japan(ザ・ライジング・サンズ・オブ・ジャパン)
会場:ME@OUE(ミー・アット・オーユーイー)
住所:The Rooftop Level, 50 Collyer Quay, OUE Bayfront, Singapore 049321
日時:1月28日(木)19:00~(終了)
電話: +65 6634 4555
アクセス:MRTラッフルズプレイス駅から徒歩3分
筆者
シンガポール特派員
仲山今日子
趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。
【記載内容について】
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