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シンガポール/シンガポール特派員ブログ 仲山 今日子

シンガポール・シンガポール特派員が現地からアジア地域に至るまで、旅行・観光・食事などの現地最新情報をお伝えします。

2016年4月 8日

World Gourmet Summit 東北への思いを懐石で「UMU」石井シェフの挑戦


World Gourmet Summit 東北への思いを懐石で「UMU」石井シェフの挑戦

今年20周年を迎える食の祭典、World Gourmet Summit(ワールド・グルメ・サミット)で、東北のおいしい食材を紹介することで復興を支援しようという食のイベントが行われています。

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会場となっているのは、中華のファインダイニングTong Le Private Dining(同楽)。シンガポールの金融街、ラッフルズプレイスで、マリーナベイサンズを一望する場所に位置する展望回転レストランです。

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この場所で腕を振るうのが、シンガポールに初めてやってきたという、ロンドンのミシュラン二つ星レストラン、UMU(生)の石井義典シェフです。

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震災から5年を過ぎた今、東北の食材を多くの人に知ってもらうことで、少しでも復興を後押しすることができれば、という思いで、「東北を忘れない(Remember Tohoku)」というテーマでのスペシャルディナーを企画しました。

World Gourmet Summitの主催者、Peter Knipp氏をはじめ、多くの人の賛同もあり、実現したこの企画。

開催に先立って、石井シェフから、震災から5年、東北についてもっと知ってもらいたい、またシェフにとって初めてのアジアでの挑戦、今回のディナーイベントを楽しんでほしいという挨拶が。
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(隣はUMUのオーナー、Patrick Willis氏)


また、今回スペシャルゲストとして招かれた、宮城県の酒蔵、浦霞の船生通代さんからも、挨拶がありました。

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1724年創業、日本で最も古い蔵の一つである浦霞。宮城県塩釜市、海岸沿いにある酒蔵は震災で1メートルほど浸水し、再び酒の生産を始めるのに2年の歳月がかかったといいます。「震災から5年が経った今もなお、現地では今も仮設住宅で暮らしている人たちがいる。それでも、震災の記憶は薄れ、支援も減ってきている現実がある。そんな中でもこうして支援してもらえることに、感謝している」と、被災地からの声を届けました。

今回、東北の郷土料理、三五八漬けをアレンジした石井シェフの料理に合わせて、1990年代に海外市場をターゲットに開発されたという酒、浦霞・禅をペアリングとして提供しています。

京都の「吉兆」の副料理長として腕を振るった石井シェフ。ニューヨーク、ジュネーブ、そしてロンドンと、15年の海外での経験で、懐石について、このように解釈しているといいます。
「どうしてもその様式、決まりごとが重要視される懐石。最初、海外でもいかに京都で出すのと同じ料理を提供するか、にこだわっていました。しかし、例えばひな祭りの文化を知らない人に、ひな祭りの料理です、と出しても喜ばれない。懐石は、千利休が始めたときは、たった一個の栗を提供することだった。最も重要なのは、もてなしの心だと気付いたのです」
懐石が本来持っていた、もてなしの心とは何か。それを追求した結果が、今のスタイルなのだといいます。「例えば、イギリスには狩猟文化が残っていて、上質のジビエが手に入り、季節になるとそれを楽しみにする人が多い。日本では到底口にできないような、べカス(シギ)などを、炭火焼にして提供したりしています。自分の文化を押し付けるのではなく、相手の文化を知り、食べたいものを提供するのが、僕の考える懐石の形です」

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ただ、ともすると海外での和食は、日本料理としてのアイデンティティーを保つのが難しい場合もあります。
料理は訪れる人たちのニーズや時代に応じて変わっていくもの。「今のところは」という前置きのあと、「僕の料理はフュージョンではないと思います。そして、フュージョン料理で使うような、スパイシーマヨネーズのようなものは使いません。確かに、簡単に多くの人に好まれる味わいになるし、僕もプライベートでは食べたりもする。だけれども、僕が学んできた料理や、理想とする料理のテイストとは違うと思うのです」

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理想とする新鮮な魚を手に入れるために、魚を大切にする文化のある、ケルト民族の漁師を訪ね、神経締め(活〆を進化させた処理方法)を教える。ケルトの人々との出会いも、ヨーロッパの文化を知ることから生まれたのだといいます。

そんな、石井シェフの「懐石」料理と合わせて、浦霞と合わせる一皿以外は、今回はミネラルウォーターのペアリングディナーという面白い試み。炭酸なしのAcqua Panna と、炭酸入りのSaint Pellegrinoが提供されます。

先付けは、くみ上げ湯葉、ウニ、キャビアという組み合わせ。

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大豆の自然な甘みが生きた新鮮なくみ上げ湯葉は、クリーミーな味わいと滑らかさが、北海道産のウニの甘みを強調します。上質なキャビアが濃厚さを後押しし、ポン酢のジュレが優しい酸味で全体を引き締めます。

向付は、アワビの酒蒸し、白アスパラガス、イタリアのからすみ、ボッタルガ。

水とのペアリングなので、酒蒸しの日本酒の芳醇な香りがしっかりと感じられます。

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日本人に出すのなら、旬のウドなどと合わせてもよいのでしょうが、ヨーロッパの人たちが待ち望む春の味わい、優しい味わいの白アスパラガスと組み合わせシャキシャキした食感を、ボッタルガでコクをプラスしています。みょうがとシソが、全体を和食のバランスに引き戻しています。

煮物椀の前に、Acqua Panna がサーブされ、こちらを少し飲んでからお椀をいただいてください、と説明があります。水の味を楽しむお椀。口の中を水でリセットしてから楽しむという演出です。

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お出汁は鰹節がふんわりと香る上品な出汁。竹の子とワカメ、木の芽という春の味の若竹煮の定番に、東北の山の幸の豊かさを伝えるコゴミ、そしてほっくりした質感とシャキシャキした歯ごたえが両方楽しめる山芋と。豊かな香りの竹の子、滑らかな春ワカメ、コゴミの繊細さ、清新な味わいの木の芽。目にも美しい、一流のお椀でした。
 
お造りは、ヒラメの薄造り。器ももてなしの一つである懐石。しかし今回の食器はどうしても中華の食器となるため、石井シェフが考案したのは、自ら刷った木版画の上に薄いガラス板を敷き、薄造りを食べるとシェフからのメッセージが現れるというもの。

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そして、黒い器には桜の花びらが散らされ、ハスの葉のような一本のナスターチウム、という提供方法と相まって、まるで川面の花筏のような表現になっています。

程よく熟成された滑らかなヒラメに、添えられているのはポン酢と醤油。驚いたのは、このポン酢には、ごくわずかにカフィライムの香りが。そして、ナスターチウムの下にあった本わさびには、ホースラディッシュが混ぜられていたこと。
わさびの鋭い辛みが苦手な場合を考えてマイルドにする工夫、より西洋的なナスターチウムの辛味でも食べられるようになっていること、そしてシンガポール人にとってなじみの深いカフィライムの葉をさりげなく取り入れていること。ごくわずかの時間の中にも、シンガポールの人たちに思いを馳せ、その文化を知り、どのようにもてなすか、それに心を砕いた石井シェフのホスピタリティーを感じます。

たった一枝の、早咲きの桜を料理にあしらうために、若い弟子が山に分け入って何時間もかけてそれを取りに行くという逸話のある吉兆。形は違えど、もてなす心の尽くし方には、変わりはないのだな、と感じました。

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出てきたメッセージは、「美味求心 東西皆同 美味一口 萬国皆笑」おいしいものを楽しむのに国境はない、おいしいものを食べると、みんな笑顔になる。

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料理を通して、石井シェフが伝えたい思い。裏には英訳もついていました。同席者の中からは、「本当にその通り、深く共感するわ」という声も上がっていました。

そのあとには、お造りのもう一皿、真鯛とハマチ、イカ、マグロのトロ。どれも完璧な滑らかさとおいしさ。「ヨーロッパでは日本の魚は手に入らない。日本と同じ食材が手に入るシンガポールならではのもてなしを意識しました」と石井シェフ。

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そして、今回石井シェフが一番深い思いを込めたという、東北の郷土料理、三五八(さごはち)漬け。

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麹に漬け込んだメカジキを、白みそで仕立て、東北産の菊芋と合わせ、上にはごぼうと人参の千切りを素揚げしたものをあしらっています。横に添えられているのは、黒七味。唐辛子の辛みが大好きなシンガポール人の志向に合わせて、辛めに作られています。
合わせるのは、浦霞の「禅」。

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シンガポールでは、なかなか蔵元の方からお話を聞く機会がなく、本当に貴重なチャンス。

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(World Gourmet Summitの主催者、Peter Knipp氏(写真左)も登場。共に東北に思いを馳せながら、浦霞を味わいました)

船生さんより、ラベルや味の説明があり、テイスティングした人たちからは、「ベルベットのように滑らかな飲み口」「水のように透き通った味わいで、石井シェフの料理によく合う」などの声が上がっていました。

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三五八漬け、麹に漬け込んでうまみのしみ込んだメカジキの、麹の香りと日本酒の吟醸香がよく合います。北寄貝のうまみ、ほくほくとした菊芋のほのかな苦みを、白みその出汁が優しく包み、東北の海の恵みと山の恵みの豊かさが感じられます。

続いては、お皿の上に、牛の首につける鈴、カウベルが乗っています。サービスの方が、カウベルを鳴らしながら外すと、中からは香ばしい干し草の香りに包まれた上質の和牛が登場します。提供する直前にスモークをかけたという牛肉は、噛むと甘い脂が弾けます。
スモークされた脂は、どこかナッツのような香ばしさがあり、生ハムのような印象です。

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添えられているのは、スダチと塩、ワサビ、ほんのり甘い、柚子胡椒の入った醤油など。一口に切ってあるので、お好みのものに付けて召し上がってください、と言われます。自分のスタイルをしっかり保ちつつ、相手が喜ぶものが一番良い。そんな石井シェフのメッセージが感じられる一皿です。

食事は、ボリュームがあるコースなので、小ぶりのサイズに握られたみえ田の寿司。

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醤油とワサビに漬けたマグロ、ごくわずかに表面をあぶった、柑橘系の香りをまとったカツオなど、ネタとはらりとほどけるすし飯とのバランスの良いお寿司でした。

最後のデザートは、じょうろで日本酒をかけていただく、遊び心満点の「ティラミス」ならぬ「茶ラミス」。Marina bay waterfront gardenという名前がついています。

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ちょうど、部屋から見える景色はマリーナベイサンズ。その前に広がる小さなGardens by the Bayのような、箱庭のようなデザート。凝った意匠に、おどろかされます。

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植木鉢の一番下には抹茶のスポンジが、その上にはマスカルポーネとココアの「土」、エディブルフラワー。まろやかな熟成感のある日本酒の香りでいただく日本らしさのあるデザートです。ちりばめられた塩味のぶぶあられが、良いアクセントになっていました。

「東北の食材や食文化を広める」このスペシャルディナー、参加者からは、東北に素晴らしい日本酒があることを初めて知った、またぜひシンガポールでも飲みたい、という声や、使われていた菊芋やコゴミに、初めて食べたが、とてもおいしいという声が上がっていました。

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石井シェフのもてなしの心が生きたスペシャルディナー。きょうまでの開催となっています。(ミネラルウォーターとのペアリングなし、330シンガポールドル)


<DATA>
■World Gourmet Summit(ワールド・グルメ・サミット)2016
期間:2016年3月28日~4月24日
会場:シンガポール国内各提携レストランにて
■Tong Le Private Dining(トン・レ・プライベート・ダイニング)
イベント:Acqua Panna Pairing Dinner with Yoshinori Ishii(6日) & WGS Epicurean Delights featuring Yoshinori Ishii(7・8日)
住所:OUE Tower, Level 8 & 10, 60 Collyer Quay, Singapore 049322
電話:+65 6634 3233 +65 6634 3233
アクセス:MRTラッフルズプレイス駅から徒歩5分

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カテゴリー イベント・行事・お祭り レストラン・料理・食材
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      仲山 今日子
      元テレビ山梨、テレビ神奈川アナウンサー。現在はフリーアナウンサー、ディレクター、ライターとしてお仕事を受けています。シンガポールのテレビ局J Food & Culture TV 勤務、All Aboutシンガポールガイドブログ。趣味は海外秘境旅行&食べ歩き、現在約40カ国更新中。

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