[WGS2016]シンガポールのベストシェフは誰?20 Best Chefs Jam Session Day2 レポート

公開日 : 2016年04月27日
最終更新 :

シンガポールで今、最も熱いシェフ20人が集まって、料理のデモンストレーションをするイベント、20 Best Chefs Jam Session。

World Gourmet Summitの20周年ということで、20という数字にこだわり、2日間で20人のシェフがデモンストレーションをするという、大規模な展開。会場のレストラン、Stellar 1-Altitude(ステラ・ワン・アルティテュード)では、会場をKitchen 1と2の二つに分けて開催。午前に3回、午後に2回というスケジュール。間にはDom Perignon(ドン・ペリニョン)のテイスティングが行われるなど、記念すべき年にふさわしい、盛りだくさんの内容になっていました。

th_IMG_0497.jpg

ホストシェフのStellar 1-AltitudeのChristopher Millerシェフのあいさつで、和やかに始まった2日目。

私が参加したKitchen 1では、1日目同様、今回のキュレーターで、シンガポールを代表するフードジャーナリストの、Evelyn Chen(イブリン・チェン)さんの進行のもと、まずは、Restaurant Labyrinth のHan Li Guangシェフからスタート。

テーマは、「Innovation meets tradition, preserving the essence of the Singapore flavours」。

革新と伝統で、シンガポールの味のエッセンスを残す、という内容です。

元々は銀行員だったという異色の経歴ながら、持ち前のクリエイティビティを生かした独創的な料理で知られるHanシェフは、シンガポールの伝統に根差した、「見た目と味のギャップ」が魅力の一つ。

今回も、シンガポールを代表する料理である、チリクラブをHanシェフならではの、新しい解釈で提案しています。元々のアイデアは、チリクラブのソースとアイスクリームの材料が似ていることから生まれたのだとか。そこで、アイスクリームの原料にオリジナルのチリクラブソースを混ぜ合わせて作ったものの、チリクラブソースが多すぎるとアイスクリームらしい滑らかさが失われてざらざらの食感になってしまうし、アイスクリームの成分が多すぎるとチリクラブのソースの味わいが薄くなってしまう、など、6年をかけて開発したものだとか。「もうバージョン20くらいにはなるかな」とHanシェフは笑います。

th_IMG_0518.jpg

チリクラブに欠かせない揚げパン、マントウは砕いて砂のように、カニの形を残したソフトシェルクラブは、天ぷら粉に炭酸水を加えた衣をさらにエスプーマに入れてムース状に。さっくりとした食感に揚げていきます。

お皿の上に表現されるのは、カニの住む海辺の景色。波のしぶきは、地元のフラワークラブというカニから6時間かけて作ったという、クラブビスク。日本の海藻や海ブドウと共に盛り付ければ出来上がりです。アツアツの天ぷらとアイスクリームの対比、そして辛さで口の中が熱くなるのに、冷たいアイスクリームという組み合わせが見事な一品です。

th_IMG_0527.jpg

続いての品は、「見た目と味が違う」代表的な料理、Nasi Lemak Chwee Kueh(ナシレマ・チークエ)。

th_IMG_0495.jpg

Nasi Lemak(元々はマレー系の料理で、パンダンリーフとココナッツミルクで炊いたご飯に、卵、チリ、イカンビリスという小魚を上げたものを添えて食べる)もChwee Kueh(元々は中華系の朝食・軽食で、蕪で作った餅のようなもの)も、いずれもシンガポールの代表的な朝食ですが、こちらは見た目がChwee Kuehなのに、味がNasi Lemak、という意外性にあふれた品。

米粉とトウモロコシの粉、ココナッツクリームなどを混ぜて作った生地を、Chwee Kuehの型に入れて蒸しあげます。そして、シンガポールの料理の基本、Rempahを作ります。「炒めるプロセスが一番大切。まず、全体が泡立ち、それから濃縮してきます。その最後のあたりに、グラメラカ(パームシュガーの一種)を加え、自然にオイルが分離するまで炒めるのがコツ」なのだとか。それに、オイスターソース少々と、トマトペースト、中国酢などを加えて仕上げます。

「ホーカー(屋台)の文化はシンガポールで次第にすたれつつある。だけれど、その味のエッセンスを、洗練された形、また意外性あふれる形で紹介することで、その味を知ってもらい、興味を持ってもらえることになれば」とHanシェフは語ります。

今も、合間の時間にチキンライスやホーフン(きしめんのような麺)など、新しいメニューの開発に余念がないとか。「大変だけれど面白い。意外性にあふれるお皿を、これからもどんどん紹介していきますよ!」とのことでした。

th_IMG_0540.jpg

【関連記事】

*********************************************

続いて、午前の2つめのセッションは、去年11月にオープンして以来、予約の取れないレストランとして有名になった、Odette のJulien Royerシェフ。テーマは、Spring of Province、プロヴァンスの春です。

th_IMG_0552.jpg

フランスの農家の生まれで、Michel Bras(ミッシェル・ブラス)や、ロンドンのThe Greenhouseで修行を積んだのち、St.Regisのフレンチのメインダイニング、Brasserie Les Saveurs、Swissotelのフレンチ、JAANを経て独立したJulienシェフは、JAANよりもさらにクラッシックな方向性をと、店名に祖母の名前をつけたそう「たくさんの思い出のある、祖母の台所の延長線上のレストラン」と語ります。

とはいえ、提供するのは盛り付けや見た目にもこだわった、「優美な美しさ」を持った料理の数々。

フランス直送の野菜は、どれもキラキラと輝いて見えます。

th_IMG_0549.jpg

料理のテクニックは素材を磨くもので、素材のまっすぐな味を受け取ることが、一番大切と語るJulienシェフが紹介するのは、家庭でも簡単に作れる、野菜がたっぷりと使われたタルト。季節によって中身が変わり、味わいも変わるのだそう。ローストした松の実とパルメザンチーズの粉をブレンドし、バターと卵を加えてサブレ状にします。

コツはなるべく生地を薄くすること。特にレストランでは、ナイフで簡単に切ることができる、2mmほどの薄さにするのだとか。そして、コツとしては、焼く前と焼いた後、フィリングが入る部分に、ブラックオリーブオイルとココナッツオイルを混ぜたものを塗ること。ココナッツオイルを使うのは、たんぱく質が多く、しっかりとタルト生地のサクサク感を守ってくれるからなのだそう。

焼き上げた後は、表面を滑らかに削ります。まるで何かの作品を作るかのような丁寧な仕事ひとつひとつが、口当たりのよさなど、ファインダイニングならではの繊細な味を作る、欠かせない部分なのでしょう。

中にチーズクリームを入れ、それぞれ異なった下ごしらえをした様々な野菜をレモンドレッシングで和え、キュウリの花やバジルの葉などを飾れば出来上がり。

th_IMG_0578.jpg

フェンネルの根の甘い香り、噛むたびに、様々な野菜の個性が混ざり合う、新鮮な印象のタルトでした。

th_IMG_0589.jpg

ちなみに、テイスティングサイズの3cmほどのカナッペ風に作られたタルトも、花冠のような繊細な美しさに、思わず息をのみました。

FullSizeRender (4).jpg

フランス・オーベルニュの農家に生まれ、野菜が大好きだというJulienシェフは、幼いころ、自分専用の小さな野菜畑があり、様々な野菜を育てた思い出があるのだとか。日本では、なかなか農業の後継者がいなくて、問題になっていることを伝えると、「フランスでもそれは同じ。でも、オーガニック野菜などで、賢くビジネスをする農家も増えてきている。そういった野菜を使うことで、フランスの生産者たちを支えたい」と話します。

th_IMG_0583.jpg

*********************************************

午前の3つめのセッションは、Bacchanalia(バカナリア)のIvan Brehm(イヴァン・ブレム)シェフと、はし田の橋田建二郎シェフによる「Umami(旨み)」の研究。

th_IMG_0597.jpg

「堅苦しくしたくない」という、橋田シェフのアイデアで、シェフ同士が、ビールで乾杯してスタート、旨みを科学的に解析する専門的な内容ながら、観客を巻きこんで、笑いの絶えないセッションとなりました。

ちなみに、旨みとは、胃と舌がコミュニケーションして脳に伝わるもの。甘みと旨みは、受け取る場所が似ているのだとか。

th_IMG_0590.jpg

トレイに並べられていたのは、Ivanシェフがはし田シェフから教わり、鰹節と同じ作り方で作った、干し貝柱や干した鴨など。香りをかいでみると、確かに鰹節のような、奥行きのあるスモークの香りがします。

th_IMG_0592.jpg

「鰹節のように、実は世界には、いろいろな旨みがある。イタリアのパルメザン、アメリカのビーフジャーキー、韓国のキムチ。これは、人と自然とのコミュニケーション」とIvanシェフは語ります。

IMG_0239 (1).JPG

そんなIvanシェフが作ったのは、旨み成分のグルタミン酸の多い野菜であるカリフラワーを、キムチと同じような製法でトウガラシや生姜、ニンニクとともに36時間発酵させ、オリジナルのピクルスを作ります。カレーリーフやサフランのエマルジョンと共に。

FullSizeRender (6).jpg

一方の橋田シェフは、「Umami」の言葉の由来ともなった、日本の伝統的な出汁の取り方を紹介。

th_IMG_0607.jpg

鰹節の作り方だけでなく、サバ節やマグロ節があること、同じ鰹節でも、脂ののった腹の部分と背の部分では味が違い、自分の好みのブレンドを見つけることが大切と話します。実際にはし田では、鰹節の腹の部分と、ほのかに酸味と甘みのあるマグロ節の背の部分を使っているのだとか。会場では、昆布だしと鰹節だしをそれぞれにテイスティング、橋田シェフに「混ぜてみてください」と言われて混ぜると、奥行きのある味わいに、会場から驚きの声が上がっていました。こういった伝統的な出汁だけでなく、昆布だしと貝柱の出汁を合わせるなど、新しい旨みの組み合わせもいろいろと考えているとか。

テイスティングは、北海道産の上質な昆布に、エビの殻を、じっくりと加熱した海老油、からすみと合わせるという、新しい旨みの重なり方が楽しめるコンビネーションでした。

th_IMG_0617.jpg
FullSizeRender (5).jpg

お店の営業が終わった後、深夜まで打ち合わせを重ねてきたという2人のシェフ。このコラボレーションが、どんな化学変化を起こしていくのか、楽しみです!

*********************************************

お昼をはさみ、午後のセッションは、Les Amis(レザミ)のSebastien Lepinoy(セバスチャン・レペノワ)シェフと、Cheryl Koh(シェリル・コー)ペストリーシェフ。テーマは、「Les Amis Signatures」。

th_IMG_0640.jpg

シンガポールの本格フレンチの先駆け的な代表料理である、キャビアのパスタ。キャビア自体の味を味わってほしいと、パスタは繊細なエンジェルヘアパスタに。フランス産のトリュフをグレープシードオイルに漬け込んで作ったトリュフオイルと合わせて。Les Amisでは、塩を最小限に抑えた特別に注文したキャビアを使っているそう。それに合わせて使われていたのは、日本の減塩タイプの塩昆布。日本の「旨み」が、いろいろなところで使われていると実感します。

th_IMG_0670.jpg

Cherylシェフは、フランス・ボルドーの伝統的なお菓子のカヌレを。

th_IMG_0656.jpg

プロのコツは、金属の型を使うことと、そこに蜜蝋を塗っておくこと。蜜蝋のおかげで、保存がきき、最小の砂糖の量で、カリカリ感を保てるのだとか。Les Amisでは、加熱殺菌していない牛乳と、黒砂糖を使い、香りのよいカヌレを作っているそうです。

th_IMG_0659.jpg

また、牛乳にヴァニラビーンズを一晩つけるそうですが、使っているバニラビーンズが大きくて香りがよいことに驚きました。

th_IMG_0667.jpg

*********************************************

最後は、Ola Cocina del Mare(オラ・クッチーナ・デル・マーレ)のDaniel Chavez(ダニエル・チャベス)シェフと、El Mero Mero(エル・メロ・メロ)のRemy Lefbvre(レミー・レフブレ)シェフ。ペルー出身のDanielシェフの南米のひねりの効いたスペイン料理と、Remyシェフのメキシコ料理。テーマはCeviche from Mexico(メキシコから来たセヴィーチェ)。

th_IMG_0678.jpg

故郷の味で一番好きなのがセビーチェだというDanielシェフ。

唐辛子だけで50種類、ジャガイモに至っては250種類はあるという、バラエティ豊かな南米の食材は今注目されています。

セビーチェの味の決め手は、「タイガーミルク」と呼ばれる独特の漬け汁。

「ペルーの人たちにとって、日本の醤油みたいな、なくてはならない調味料」だという、マイルドな辛みの黄色い唐辛子が欠かせません。

Danielシェフのセビーチェは、セロリと魚の骨からとった出汁に、白ワインを加えたものに、日本のポン酢と、魚の肉を加えるのがコツなんだとか。混ぜたものを30分寝かせてから、ブレンダーにかけますが、かけると温度が上がってしまうので、なるべく早く冷ますのも大切なのだとか。

ペルーの国民食ともいわれるセビーチェ。「庶民的な食事だから、入れたいものを入れるのが一番いいんだ。シンガポールで手に入りやすいレモングラス、ミント、それからパルメザンチーズも合うと思うよ」とDanielシェフ。様々にアレンジされたセビーチェも、映像と共に説明されました。

th_IMG_0698.jpg

今回はこのタイガーミルクに、エスプレットと呼ばれる唐辛子、紫玉ねぎ、そして持続可能な食材を使うこともテーマの一つだということで、日本産のホタテの貝柱のセビーチェでした。程よい酸味とマイルドな辛みがホタテの甘みを引き立てる一皿に仕上がっていました。

th_IMG_0702.jpg

Remyシェフは、チーズを加えたセビーチェを。スペイン産の大きなタコは、真空パックしてから10時間低温調理し、柔らかく仕上がっています。タコは一度冷凍してから使うと、身が柔らかくなるそうですよ。「このほかにも、トマトやターニップを入れても合うよ」とRemyシェフ。

th_IMG_0712.jpg

2日間最後のセッションということで、Stellar 1-AltitudeのChrisシェフとともに、Dom Perignonとペルーのカクテル、ピスコサワーの乾杯で締めくくられました。

th_IMG_0721.jpg

Moet& Chandon "Pink Flamingo"Closing Partyでは、多くのシェフやメディア関係者が集結。夜遅くまで盛り上がりました!

World Gourmet Summitは来年2017年も開催予定です!

th_IMG_0742.jpg

<DATA>

期間:2016年3月28日~4月24日(終了)

会場:シンガポール国内各提携レストランにて

イベント:WGS 20 Gastronomic Jam Sessions(4月16・17日、終了)

住所:1 Raffles Place (Former OUB Center), Singapore 048616

予約・問い合わせ:Email(info@1-altitude.com) または、電話 +65 6438 0410

アクセス:MRTラッフルズプレイス駅から徒歩2分

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。