「Whitegrass」ロマンティックな修道院の中にあるモダンオーストラリア料理

公開日 : 2016年06月09日
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元々修道院で、美しいステンドグラスの教会のある、ロマンティックな建物、Chijmes(チャイムス)に、去年オープンしたモダンオーストラリア料理の店、Whitegrass(ホワイトグラス)。シドニー出身で、Tetsuya'sやQuayなど、オーストラリアの名だたるレストランでキャリアを重ねた、Sam Aisbett(サム・アイスベット)シェフがオープンしたお店です。

オーストラリア・シドニーで、精肉店を営む父と、料理好きな専業主婦の母の間に生まれたSamシェフにとって、料理の道を選ぶのはとても自然なことだったそう。故郷の料理で好きなのは、トーストとVegemite(ベジマイト、ビールの酵母エキスでできたスプレッド)などのシンプルな料理。キッチンで何種類もの麹などの発酵食品を作っていて、発酵食品に夢中だというSamシェフの味の原点の一つなのかも。

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世界のベストレストランの常連、和久田哲也シェフの「Tetsuya's(テツヤズ)」でスーシェフを、その後はPeter Gilmoreシェフが率いる「Quay Restaurant(キー・レストラン)」でヘッドシェフというキャリアを経て、満を持してシンガポールにオープンしたレストラン。「世界で最も偉大なシェフといえる2人の下で働けて、本当に良かった。テツヤシェフからは、素材に敬意を払い、その味を最大限に引き出すことを、Peterシェフからは、料理のテクスチャーの重要性と、自然を尊重する考え、そして、世界のトップクラスのレストランをどのように経営していくかを学んだ」のだと言います。

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シンガポール在住の日本人デザイナー、Naoko Takenouchiさんがデザインした店内は、くつろぎいだ雰囲気とアーティスティックな印象が並立しています。内装は多くのシンガポール人アーティストやヨーロッパのアーティストとコラボレーションして生み出されていて、高級ジュエリーブランドのパーティーなどでも使われることがあるとか。

今回は、5コース(170シンガポールドル)で、デザートのみ8コース(265シンガポールドル)のものに変えていただきました。

お酒は、軽くてすっきりした味わいの、オーストラリア・King ValleyのDalz Otto, Proceccoをいただきました。

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まるで木になっている実を摘み取るようなイメージのアミューズ。

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スペインのスナックで、小麦粉の皮の中に、クミンなどのスパイスの効いた温かい肉が詰まっているもの、パルメザンチーズのクッキーの間に山羊のチーズとフェンネルのジャムをはさんだもの、口に入れた瞬間に複雑な香りが広がり、最後にレモンが香ります。炭のクラッカーにスモークして少し酢を効かせたハマチに、イタリアのからすみ、ボッタルガをかけたもの。おすすめされた順番通りに食べると、温かいものから冷たいものへ、温度が変わっていっているのがわかります。

また、こちらで提供される自家製のライ麦天然酵母パンが絶品。温かく、中はふんわり、しっとりとしていて、外はカリカリで香ばしく。Samシェフにお聞きすると、「毎日丁寧に酵母の状態を見ながら、自分の子どものように手間をかけて作っているからね」とにっこり。エシレバターと海塩と共に提供されます。ちなみに、バターと塩を入れる器と花瓶は、シンガポール人の夫婦が生み出す、Studio Asobiというブランドのもの。

Potato jelly, toasted rice and avruga caviar

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ジャガイモのゼリー、香ばしく仕上げたライスパフ、アブルーガ・キャビアの組み合わせ。去年シンガポールにやってきて、ローカルフードのお粥の店で食べたピータンの食感が気に入ったというSamシェフ。料理のテーマは、「旨みとテクスチャー」だといいます。

ちょうどそのピータンのような食感のジャガイモのゼリーにカリカリのライスパフ、韓国海苔のフレーク、そしてキャビアのしっとり、そしてぷちっとはじける食感。様々な食感を、ポテトのクリームの乳製品の旨みが穏やかにまとめる印象です。

Sashimi of yellowtail amberjack, horseradish cream, toasted nori oil, salted egg yolk, red radish, nasturtium, white soy dresssing

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新鮮で臭みも全くない、上質なハマチの刺身のロールの中には、ホースラディッシュのクリームと香ばしい海苔のオイル、そしてピータンの卵黄が使われています。薄く伸ばしてカットした塩漬け卵黄の旨みがたっぷりな濃厚なコクと日本のキュウリの味の対比、そこにナスターチウムの緑の香りが重なり、更にピリリとした印象を与えています。辛みを更にラディッシュが後押しします。クリームに刺身という組み合わせですが、程よい酸味とホースラディッシュの辛みでバランスが取れている印象です。

Salad of slow roasted young beetroots, smoked eel, rosella jam, Australian mountain pepper

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ゆっくりとローストしたビートルートに、スモークしたウナギ、薔薇の実のジャム、オーストラリア・タスマニア産のマウンテンペッパーというベリーのような実を粉にしたもの。上のパリパリしたクラッカーは、赤はビートルート、白はなんと寿司飯とウナギの皮の部分でできています。酸味のあるゆでたビーツに、紫蘇の葉のような香りの薔薇の実のジャムが重なります。寿司飯のチップは、噛むとほのかな酢の酸味と米の旨みが膨らみます。

Smoked trout consomme with night blooming jasmine and scallop velvet, dill oil

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まるで日本のお吸い物のような器の中に、真薯(しんじょ)が入ったような一皿ですが、こちらはなんとスモークした鱒で出汁を取っています。そして、中央にあるのは、SamシェフがScallop velvetと呼ぶ、ふわふわの食感が楽しい、ホタテ貝で作った真薯。クリームが混ぜてあるので、パテやムースのような印象です。そして、night blooming jasmineは、ジャスミンの香りというよりも、中華の百合のつぼみのような、日本の山菜のような、ほのかな苦みと緑の香りがあります。それを、ディルオイルの甘い香りが苦すぎないバランスにしています。日本のお吸い物を西洋風に解釈した一皿です。普通のお吸い物より、とろりとした食感があるのでSamシェフに聞いてみると、日本の葛を使っているのだとか。「クリアなスープだと、味の印象があまり残らないので、濃度をつけることによって、より口の中に印象が残るように工夫した」のだそうです。

Slowed cooked Mangalica pork jowl, jade tigar abalone, fermented cabbage, white turnips, fiddlehead fern, seaweed and pork broth

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マンガリッツァと呼ばれる、ハンガリーの国宝に指定されている豚肉をじっくりと調理し、オーストラリアのヴィクトリア州から来たアワビ、今流行の発酵技術を使ったキャベツ、小さなカブ、日本のコゴミ、表面がシャキシャキしていながらも、内側がふわふわした食感の蓮の茎。普通の豚よりも脂の溶ける温度が低いというマンガリッツァ豚はとてもやわらかでとろけるよう。

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同じ大きさに切られたアワビと、山の幸と海の幸の旨みの対比が楽しめます。常に面白い食材を探しているというSamシェフ、今回は上にSnake gourd flowerという花を乗せています。この花はジャスミンのような香りがあり、南国らしいアクセントを加えていました。シンプルな料理が好きで、日本料理の大ファンだというSamシェフは、実は大好きな豚骨ラーメンからイメージした料理なのだとか。

Roasted breast of Muscovy duck, preserved and dried plum, black quinoa, fresh young almonds, salted cherry blossoms

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とさかのある野鴨、Muscovy duckを、オリジナルにアレンジしています。梅干しと梅酒のピュレ、黒キヌア、そして、日本からのお土産で少しだけ生の実山椒をプレゼントしたら、それもアクセントで加わっていました。バターで少し表面をキャラメリゼさせるようにして、鴨のソースに加えています。そして、少し塩抜きした桜の花の塩漬け。

身にチョコレートのような濃厚さのあるMuscovy duckと、甘酸っぱい梅のピュレの味の相性もよく、梅の香りに桜の花の香り、今が旬のフレッシュなアーモンドの香りが重なります。梅も桜もアーモンドも、植物としての品種が近く、共通した甘い香りがあり、そのグラデーションが楽しめます。生のハイビスカスの葉が酸味とみずみずしさをプラス。また、とても新鮮なアーモンドは、果物のようなサクサクとした食感とほのかな甘みがあり、全体を軽やかに、自然な味わいの鴨のソースに、実山椒の柑橘系の香りがプラスされています。

プチプチしたキヌアは、ブラックキヌアなので、しっかりとした鴨の味に負けていません。

ここでデザート。ヘッドシェフのDiego Cossioさんがペルー出身ということで出会ったのが、Feijoa(フェイジョア)と呼ばれる南米原産の果物を、アイスクリームに仕立てました。

Feijoa ice cream, sour apple, soft maringue, milk crisps

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アイスクリームには、青リンゴを濃くしたような、グリーンマンゴーのような、パイナップルのような独特の甘く南国らしい味を感じます。そして、ミルクのビスケットやミルクスキンと呼ばれるミルクを温めるとできるオブラートを乾燥させたもの、液体窒素で凍らせたリンゴ、リンゴのピュレなどで、このFeijaの濃厚な甘い香りに負けない濃厚なミルク感を加えます。味はしっかりしているのですが、リンゴの酸味で味わいが軽くなっているのに加え、ミルクビスケットもミルクスキンも軽くふわふわの層になっているので、重たく感じません。

生で食べるのも大好きだというSamシェフが、生の実も持ってきてくれました。

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実そのものは、キウイのような、スイートアーモンドのような香りがあり、しゃくしゃくした食感が楽しめます。

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Black gold-featureing Valrhona chocolate

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Valrhona(ヴァローナ)のチョコレートを使って構成したデザート。Manjari(マンジャリ)種のチョコレートは、華やかな香りと酸味がありますが、これはジェル状に。そして、ホワイトチョコレートをセンターに入れ、下にはカカオ70%のダークチョコレート、そして噛むとミルクの香りがはじける、ミルクパウダーを詰めたチョコレートの粒が。重層的に構築された、様々なチョコレートの味が混ざり合うデザートです。

食後のコーヒーと共にいただいたのが、Samシェフの故郷である、オーストラリアの伝統菓子、Lamington(ラミントン)。

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薔薇の香りのついたスポンジケーキに、フレーク状のココナッツがまぶしてあります。伝統的にはチョコレートでコーティングするそうですが、ローズウォーターに浸してあり、どこかエキゾティックな仕上がりになっていました。チョコレートでコーティングする代わりに、ラズベリーの軽いマシュマロにチョコレートをかけたお菓子と一緒にいただきました。

Rose and Coconut Lamington, Raspberry snowball

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現在33歳のSamシェフ、新しい食材や調理法が見つからないか、それをどんな風にアレンジしようか、ワクワクしながら料理を作っている印象です。日本の食材もたくさん登場しますが、既成概念にとらわれない使い方をしているのが印象的。アジアとの距離的な近さもあり、西洋料理に、アジアのアクセントを加えるのが特徴のオーストラリア料理。「テクスチャー(食感)」と「旨み」を軸に生み出すSamシェフの料理は、伝統的な日本料理と違い、クリームなどの動物性の旨みを多く取り入れている印象でした。

優雅で美しい空間で味わう、これまでに見たことのない、新しい料理を、これからも楽しみにしたいと思います。

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営業時間:ランチ 12:00~14:15(LO、木曜・金曜)、ディナー 18:30~21:30(LO、火曜~土曜)、日曜・月曜休

住所:30 Victoria Street, #01-26/27, Chijmes, Singapore 187996

電話: +65 6837 0402

アクセス:MRTシティーホール駅徒歩

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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